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神殿の前の庭園。その中央で距離を取り、向かい合う1人の男と板に映る1人の少女。
『いくよっ、ますたー!』
「来いっ、イリス!」
声を掛け合い、同時に白い魔方陣を展開し、白い風の刃を互いに打ち出した。その威力はどちらも凄まじく、神殿前で見ていた4人の所にまで相殺した風圧が強く届いていた。
「・・・っく。さすが上級魔法同士。相殺の反動もすごいな」
『くっくっくっ。上級魔法同士?何を言っている。私が今放ったのはただのエアロだ』
「なん、だとっ!?お前の下級魔法は上級魔法と同等の威力だと言うのかっ!?」
『そうだっ!そしてこれが本当の上級魔法だ!!喰らえっ!!』
何か茶番らしきものが始まっているが、そう言いながらイリスが先ほどより大きい魔方陣を展開し、風の刃を放つ。だがそれに対抗するように周一も同じように風の刃を放つ。そしてまた同じように相殺した。
『なん、だとっ!?私の上級魔法を打ち消した!?いったい何処にそんな力がっ!?』
「おいおい。今のが本当の上級魔法だって?俺の下級魔法と同等だったぞ?」
『馬鹿なっ!?』
「仕方ない。俺が本当の、真の上級魔法ってやつを・・・なにぃっ!!?」
『私が真の完璧なる上級魔法・・・ありえないっ!!?』
「俺が」
『私が』
「俺が」
『私が』
と、繰り返し前口上だけがすごくなっていくだけの同じ魔法を打ち合う2人を眺めている4人。
「どう?シルフィー?」
「そうだな。ルーナの言った通り、あの2人から。と言うよりシューイチの魔力からは属性を感じない」
周一と、言い直した理由は簡単だ。イリスが使っている魔法は周一から魔力を貰い、使っているものだからだ。
「・・・だが。ルーナ、それだけではないな」
シルフィーは何かを確信したかのように先程アイリスが預かったルーナちゃんに向けて問う。そのルーナは周一に可愛がられていた余韻が名残惜しいのか、体をうずうずさせ、何かが足りないのかアイリスの手を掴んで頭上へと持って行き、手を乗せると少し満足した顔してから答えた。
「・・・ふむっ。だから言ったであろう。シルも見て感じればわかると」
「何かあるのですか?シルフィー様」
「ああ。あれはアイリス。お前の父と同じ魔力の波長に限りなく近い」
「「えっ!?」」
想像もしなかった答えに2人は驚く。
「それってどういう事なのですか?」
「さあ?そこまでは私もわからないさ」
「ルーちゃん!!」
「ああもう、うるさいっ。そんな大声で呼ばんでも聞こえる。・・・シルの言っていた通り限りなく近いと言うだけだ。同一人物と言う訳ではない。ただ、あやつ。ウィルが関わってる可能性が高いのは確かだろうな」
「おとうさん・・・」
アイリスの父、ウィル・トリガーはこの世界をルーナ、魔王ルシファーから救った英雄だと言われている。だがアイリスは父の声も、そして同じ英雄の母、ミリィの声も知らない。物心付いたときにはルーナが母親代わりとして育ってきたからだ。アイリスが知っている両親の情報はルーナから託された手記1冊と赤子を抱えた両親の写真のみだ。
「でしたら本人から聞いた方が」
「もう聞いておる。女になっている時にな」
ルーナは聞いていた。「お前の魔力に似ている者がいる。その魔力を手に入れた心当たりはあるか?」と。そしてそれにリンネは「ないよ☆」と即答していた。
「本人が無いと言っておったのだ。だからあと調べられるのは」
「あの手記・・・だね」
アイリスにはそれが思い当たった。両親の残したあの手記。始めの内容はアイリスに向けての言葉。そして、[いせかい]と言う発声方法と異世界からの漂流者に会えという文字が書かれていた。それはこのエレメンタニアの言葉を話す事が出来ない者を探せと言う意味だ。そしてアイリスの読めない文字が書かれたページの後は全て真っ白なページが最後まで続いていたあの手記。
ルーちゃんやシルフィー達。それにクーラや美遊にも見せてはいるがみんなが一様に始めすら真っ白で何も書かれていないと答えていた。
「ああ。アイリスだけが読める手記。仕掛けたのには何か意味があるはずだ」
「・・・うん。そうだと、いいかな」
「とは言っても、シューイチが読めると言う保障は何処にも無いのだがな」
「アイリス。あの手記は今持ってるの?」
「持ってるよ。でも今は止めとく」
「どうして?」
「今見せて、シュウイチさんの気持ちが変化しちゃったらブリズが困っちゃうでしょ?」
「あっ・・・うん。ごめんね。アイリス」
「謝らないで。私だって優先したい事ぐらい選べるんだから。・・・事が済んだらちゃんと機会作ってもらうつもり。だから気にしないで」
「うん。・・・ありがとう、アイリス」
そんなクーラとアイリスのやり取りの中。
「さて、話がまとまった所で。あれはこの後どうするつもりなのだ?」
シルフィーがそう言うのであの2人を見てみると・・・。
『バッテリーが尽きそうです。充電してください。充電してください』
「・・・・・・・・・。」
『返事がない。ただの屍のようだ』
「「なにしてるのぉおおおおっ!?」」
そんな満身創痍状態の周一が倒れていた。
「魔力切れじゃにゃっ!?」
そしてアイリスはすぐに周一に駆け寄るためにルーナをポイ捨てする。
「魔力切れになるまで何でやってるのっ!?」
アイリスは周一に魔力を少し流し込むと、周一は意識を取り戻したかのように体を起こす。
「・・・そりゃ」
『止めてくれないんだもん』
そしてイリスと共にアイリスをジト目で見た。
「あっ、うん。ごめん・・・ってそれって私がやることなのかなっ!?」
「にしても、魔力切れってきついな。体がめっさ重くなってやばい」
『私の分も含めて倍消費してたもんね。その辺りの節約も考えないとだね』
「無視っ!?」
そんなアイリスの声を流しつつ視線をシルフィーに向ける。
「んでシルフィー。もう十分だよな?」
「ああ。ありがとう」
「んで、結局俺って風属性なの?無属性なの?」
「効力は風魔法と同じだが質は無属性と言った所だろう。この世界で不便になると言うわけでもないから安心して使うが良い」
「そっか」
そんな話をしてる中、アイリスの傍に近づくイリス。
『アイリス。こっそり聞いてたけど、今じゃなくていいの?』
「あっ・・・うん。フォレフォスの件が済んだら私から話すよ」
『そう?アイリスがそれで良いならますたーには伝えないでおくね』
「うん。ありがとうっ」
そんなヒソヒソ話の後、イリスは周一のもとへと戻っていく。
「んじゃ、用は済んだって事で。シルフィー、フォレフォスまで送ってくれ」
「・・・なんだ?急に何を言うかと思えば、飛んで行けば良いだろうに」
虚を突かれた様な反応をしたシルフィーは当然の返しをする。
「アイリスがそれが楽な方法だって言うからさ。ってかさっきまで魔力が底寸前まで打たせておいて飛んで行けとかひどくね?」
勝手にそうなるまでやっていたのに責任転嫁とかそれこそひどい。
「・・・はぁ。まあいいだろう。確かクーラも行くのであったな」
「あっ。はいっ!」
「ならあやつらの所に立て」
「はいっ。わかりまし、た?」
言われるがままに返事をするが要領を得ないクーラはとりあえず周一とアイリスがいる所まで移動する。
「・・・よし。では」
シルフィーが手の平を周一達に向けると緑色の風が球体の様に周一達を包み込み始めた。
「あっ!み」
「いってらっしゃい」
そして周一達を包んだその風の玉は超高速大空旅行を開始した。
なお、ポイ捨てされた魔王ちゃんは誰にも気にかけて貰えなかった事にしばらくイジけていた。それを知っているのはシルフィーのみだった。




