6-2
「クーラ様。こちら、商業区からの報告です」
「ええ。・・・やはり港区と同様に、商業区もひどいですね」
ヴァンが持ってきた書類の束を大臣と共に仕分けして確認をしているクーラ。
「はい。ですが港区に関しては今朝から居住区の半数の民が廃材の片付けと死者の弔いを共に行っているので、そう日数はかからないかと。商業区も冒険者達の協力もあります。なのでそれらを終えてからが我々の本格的な仕事になりますな。それにあれからまだ時間があまり経っていないと言うのにみなのこの行動力。彼女の言葉が民達にも響いたのでしょうな」
「・・・そう、ですね」
リンネがこの場を去る前に言ったあの言葉。それは本来、自分が言うべき言葉だったはずだった。なのに自分はこの事件の責任、民の不安。民に殺人に加担させてしまった事。そんな事ばかりを考えていた。それらは全て自分が決断に迷っていたという事実が起こした結果だ。
・・・彼女はいずれこの場に来るだろう。彼女の傍にいるあの子にそれをお願いしたから。そして彼女が現れたらこう言おう。彼女のように。何一つ迷うことなく自分のしたい事を行動出来る彼女に。
そんな思いでふと扉を見たクーラはその扉がゆっくり開いていくのを視認した。
「ようっ、クーラ。なんか用か?」
「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
そして悲鳴を上げた。大臣は口を開けたまま状況が理解できない表情に。そしてヴァンは腹を抱えて爆笑していた。
「おいおい、呼んどいて朝の第一声がそれか?ってかヴァンも何笑ってんだ?」
「近づかないで変態っ!!」
クーラに近づこうとするとクーラは顔をそらし、手で顔を覆いながら叫ぶ。
変態とはこれ如何に?
『ぷくく・・ますたー。面白いから言わなかったけど。さすがに着替えてからここに来ようよ。あの服でもいいからさぁ』
「・・・ほう?」
自分の姿を確認してみる。腹筋は割れていないが程よい筋肉のある腕と足の男の体。そしてそれに見合わない白の女性下着。のみ。寝起きの所為か、まだアレも元気にパンツから顔を出している・・・なるほど。そして腕を組んで仁王立ちを決める周一。「早く隠しなさい」とか大臣が言っているが、俺のはそんな粗末なモノではないっ!
「・・・だがなイリス。男の方の服は侍女さんが預かってんだろ?そして朝手元にあったあの血の染みた女性服。あれで城内を闊歩するのはどうか思うぞ」
『でも今よりはマシなんじゃない?』
「いやいや。考えても見ろ。そんな服を着た男が城の中歩いてたらさすがに何か言われるだろう?だったら逆転の発想だ。声を掛けたくない状況を作ればいい。つまりコレだ!!」
『あ!確かに実証してたねっ。なるほどっ!!』
幾人かの侍女や兵士達とすれ違っていたが誰も話しかけようとは思いもしなかったのだろう。道を譲るかのように壁際に寄っていった、ほんの数分前の出来事だ。
「なるほどではないですっ!!いいから早く着替えてきて下さい!!!」
「はぁ・・・じゃあやっぱリンネになって着替えに戻るか?」
『そうだね。今よりはマシになるんじゃない?』
「駄目に決まってるでしょ!!」
後ろからアイリスの声が聞こえた。振り向くと顔を真っ赤にしたアイリスが立っていた。そしてその両腕で胸の下に抱えられている物は侍女さんが預かってたはずの俺の男の服だった。後で聞いたが、先ほどの俺の姿を見た侍女さんが急いで俺の服を取りに行き、持って行く途中でアイリスに出会ってお願いされたらしい。その侍女さんの顔は救世主でも現れたかの様な顔していたとか、していないとか。
「何でそんな格好しっ!?こっち向かないでっ!!!」
下半身に視線を向けてしまったアイリスはとっさに眼を力強く瞑って叫ぶ。どうやら女性用のパンツからコンニチハしているアレを視界に入れてしまったようだ。
「んじゃ」
「こっちも向かないで下さいっ!!!」
こちらも拒否されてしまった。ならば仕方ない。
「んじゃ間を取って、この向きで」
「「いいから早く着替えて!!!」」
両者からコンニチハ出来る向きをした途端にクーラはテーブルに置いてあったペンを、アイリスは持っていた周一の服を、共に周一へと投げ付けた。
「ったくよー」
「ん?なにかな、変態さん?」
「いえ。何でも無いです」
渋々。その場で着替え終えた周一は文句を言おうかと思いながら椅子へ座ると、椅子1つ分空けて座ったアイリスが笑顔を向けてきたので言うのを止めようとすぐに決断した。
『それでクーラ。ますたーを呼んだんだから。何か話があるんでしょ?』
「・・・はい」
クーラは最初に言おうと思っていた事は胸にしまう事にして本題を話す事にした。
「シューイチさん。私もあなたについて行く事にします」
『え?』
「は?」
その発言に思わず声が出る2人。大臣も初耳だったのか驚いている。
「あっ、変態さん。私も行くからね」
『は?』
「え?」
そしてそれに続くアイリス。
「構いませんよね?」
あなたが言った事なんだからと訴えるかの様にクーラは問いかけた。
「・・・まあ。俺らとしては別に構わねーけど。ヴァンと大臣さんはそれで良いのか?」
その顔を見た周一は一応と言った形で2人に確認を取る。
「話は昨日聞いたからね。クーラがそう決めたなら、その意向の助けになるのが私の役目だ。クーラがフォレフォスに行っている間は残った私達で何とかするよ」
「むぅ・・・・・・」
ヴァンは知っていたからすぐに答えられたが、大臣のパルマーは悩んだ顔をし続けている。
『いいの?大臣さんの顔を見る限り、一時的だとしても国から王がいなくなるって大問題じゃないの?』
「俺は政治事には疎いから詳しくないが、その辺どーなの?」
2人の当然の質問。
「そうだね。確かに他の国との問題が起きた時は不味いね。でも今起きてる国の問題はライネスだけ。他の国もそうなんだ。ライネスが各国の宝珠を狙っているから警戒するべきはライネスだけ。実際、水の国イシュエールは盗られてしまったからね。その所為でライネスやライネスの勇者に対する警戒心は物凄い。だから今この場にミユさんやヴォルグさん達がいないのはそのためだよ。シューイチ達が言っていた件も含めると尚更ね」
俺達の言っていたライネスの勇者がスパイ説。始めは可能性だけだったが、カルドの店にすぐに召集が掛けられた事。スパイ発言の時は確実と呼べる証拠があった訳ではないが憶測よるハッタリをかましてみた。結果、本当にブリズにヴォルグ達が兵士を引き連れて現れた。そもそも移動時間を考えれば俺達が、いや美遊が。ライネスからブリズへと移動すると決めた情報を黒幕へと垂れ流していたからこそあそこまで早く刺客が来たと考えていいだろう。つまり、ライネスの勇者がいるだけでその場の情報は全て黒幕へ筒抜けになる。女王がこんな状況の時にお忍びで他国へ行くなんて情報を手にした時は確実にブリズは狙われ、宝珠を盗られる危険が高い。指揮官のいない軍なんて落とすのは容易だ。
「へぇ。んで、その美遊達は?」
「・・あれ?イリス。昨日の事伝えてないの?」
『・・・・・・』
・・・おい。なんだぁ、その顔はぁ?どっかのマスコットみたいに舌をペロッと出しやがって。
「イリス。報告しろ」
『はぁ~い♡ますたぁ♡』
そう言うとイリスは周一の周りにウィンドウを幾つか出現させる。これらにはあの時この場にいた者達の行動方針が箇条書きで記載されていた。周りの者は日本語、というか日本で使用されている文字を読めないのでそんな文字を黙読している周一を不思議そうに見つめる。
そして美遊の項目。
・商業区・港区での手伝い。
・ライネスへの帰還、またはアイリスと同行の検討
と、書かれていた。カルド達やヴォルグ達も似た内容が書かれている。
「・・・なるほどね。大体わかった。ちなみにここの宝珠はどれだけ安全なんだ?」
「どれだけ、とは?」
「守りの程度だ。クーラ。お前がいるといないとでどれだけ違うかとかな」
大臣が周一達の呼び捨てやお前発言に度々反応していたが、クーラがそれに気付いてそっと視線を送って抑える。きっと大臣にとっては感に障る事なのだろう。いやむしろ、感に障るという事はそれだけクーラに忠義があるという事に他ならない。
「・・・そうですね。私の力なんて大した事はありません。いてもいなくても変わらないでしょう」
「クーラ様!!」
さすがにクーラからの自虐する発言に黙っていられなかった大臣。
「パルマー。・・・本当の事。自分を卑下にしてる訳ではないの。勇者のヴァン。兵士達に侍女達。民達も。時にはアイリスにも。そしてパルマー。大臣である貴方にも。私は今まで周りの助けが在ったからこそ今の私がいるの」
「・・・ですが」
「それに私がしていた事なんて殆どが椅子に座って報告を受け、貴方の案に是非を告げるだけ。民の意見ですら貴方任せ。そんな周りに、貴方に!頼ってばかりの私が初めてこの国に、家臣達に、民達に。・・・いいえ。私がしたい事のために動きたいと言っているのっ!」
「・・・姫様」
大臣がクーラではなく姫様と思わず声に出す。それはクーラの口調が女王としてのものでは無くなったからかもしれない。
「パルマー。これは私の我が儘かも知れない。でも私がしたいって決めたことなのっ!!・・・っ!何か文句があるなら言ってみなさいっ!パルマー!!」
駄々を捏ねている少女にしか見えないクーラは勢いに任せて立ち上がり、パルマーに向かって指をさした。
少しの静寂の後、パルマーは安堵するように息を吐いて椅子から立ち上がる。
「・・・やっと。やっと、そう言えるようになったのですね。姫様」
「えっ!?パル、マー?」
優しい顔をするパルマーはクーラに近づいてそっと抱きしめ、頭を撫で始めた。
「あの日、戴冠を決意したあの日から1度も言わなくなった姫様の我が儘。私は今。それを聞いてどれだけ嬉しいか。言葉に出来ません。なので、こんな無礼な形でしか伝えられない事をお許しください」
「・・・うん。いいよ」
パルマーの気持ちを聞いたクーラは涙を隠すようにあの頃と同じ様にパルマーの胸に顔を埋めた。
「・・・んじゃ、大臣さん。クーラがフォレフォスに行くことについては止めないって事でいいんだな?」
そんな光景に水を差すかの様に発言する周一。
「・・・はい。もう私からは何もいう事はありません。姫さ・・クーラ様が決断された事に意義は唱えません」
「パルマー」
「む?」
「その呼び方ヤダ。さっきみたいに呼んで」
「ク、クーラさ」
「むぅううううううううううっ!!」
「・・・はぁ。我が儘の程度も考えてくださいね。姫様」
「うん!考えるだけにしとく!」
無邪気に笑うクーラにパルマーは嬉しそうに苦笑いをした。
そんな2人の姿を周りは微笑ましく思うのであった。




