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ヴァンに泣き縋るクーラに、1人の手が挙がる。
「クーラ。私が交渉に行くよ」
そんなアイリスの発言に誰もが困惑する。
「アイリス姫。我が国のための申し出はありがたいのですが、いくら貴女様と言えども・・・」
大臣の言うことはもっともだ。
「フォレフォスとの関係は悪いの?」
「んー・・・半々、かな。私の事を知ってる人は普通に対応するか距離を置くって感じ」
つまりは人族ではあるがアイリスの名声があるため、フォレフォスはどう対応したらいいかまだ完全には決まっていないという事だ。
『・・・いや、それでよく名乗り出たね』
「だって、そうしなきゃクーラが・・・」
「そっ。だったら私達2人は別行動させてもらうね」
「え?」
そう言ってリンネは椅子から立ち上がり、部屋を出て行こうとする。
「ちょっと!?遠藤さん!!」
リンネを呼び止める美遊の声に3人を除いた、その名を知る者達が驚いて口を開けている。
「なに?」
「なにって、手伝ってあげようとか思わないんですかっ!?」
美遊は人としてのあり方について言っているのだろう。
「別に。だってそれって私がしなきゃいけない事なの?」
「っ!?」
その発言にアイリスは青ざめる。何故ならその発言は
「誰の所為だと思っているんですかっ!!!」
クーラの逆鱗に触れるものなのだから。その声にリンネはクーラの方へ体を向ける。
「・・・そうだね。結果で言えば私の所為でもあるね」
「だったら!!」
「でもそれは私がやるべき事じゃない」
「どうしてっ!!」
『それくらい自分で考えなよ。女王様、なんでしょ』
「そんなの関係ないっ!!」
クーラはヴァンの傍から離れ、その勢いのままリンネのもとまで足音を立てながら歩き、そして胸ぐらを掴んだ。
「あなたには人の心が無いのですかっ!!」
「うん。無いよ」
たじろぐ事も無く即答をするリンネはクーラの掴んだ手を跳ね除ける。
「クーラが言う人の心っての。クーラの考えてる[人]からしたら手伝うのは当然だよね。でもさ、クーラ。貴女、甘えたでしょ」
「あま、えた?」
「アイリスが行くって言った時。ホッとしたでしょ」
その言葉にクーラは思わずチラッとアイリスの顔を見てしまう。
「そうそれ」
「っ!!」
「頭では考えてないだろうけどさ、クーラの言う心とやらの何処かにあったでしょ。アイリスがこの状況を何とかしてくれるって」
「そんな・・・私、そんなことっ」
リンネから距離を置くように、クーラは一歩また一歩と無意識に後ろに下がる。そしていつの間にか後ろで立っていたヴァンに体をぶつけるが、それをヴァンはしっかりと受け止めた。
「はぁ・・・。アイリスも、というかここにいるみんなもだね。これって何のための場なの?国のためだとか、民のためだとか、誰かのためだとか。そんな事ばっか考えてるから何も話が進まないんでしょ。これならマリーの方がよっぽどいい子だよ」
港区の役所、そこでアンジュと合流した時の事。それまでリンネの服をずっと掴んで離さなかった店の娘、マリー。だが地区の状況を把握、後始末をした後に城での会議をすると決めた時にマリーは手を離してこう言った。
「シューイチさん。私、ここに残るよ。このままついて行っても迷惑かけちゃうし。それに早くお父さんとお母さんを見つけたいから」
「・・・うん。マリーが決めた事なら私は止めないよ。私も探そうか?」
「んーん」
その申し出をすぐに首を横に振って断ったマリー。シューイチと呼んでいるが、そこに触れるほど空気が読めない女ではない。
「シューイチさんにはシューイチさんのする事があるんでしょ?だったら私だって、私のしたい事をするだけ。それに誰かに頼りっぱなしじゃお父さんとお母さんに怒られちゃうもん。それにお店だって建て直さなきゃだしっ!」
辛いのを堪えながら見栄を張るマリー。
「・・・だから。シューイチ、さん。お願い、いいかな?」
だが、我慢の限界か。顔を下に向けるマリー。
「お願い?」
「うん。私の、お願い。もし、店を・・建て直し、たらさ・・・1度でもいいからっ。私が立派にお店出来てるか、見にきてくれ・・」
自分のスカートを両の手とも力強く掴みながら振り絞って声を出しているマリー。
『「もちろんっ!」』
そんなマリーに即答し、小指を立ててマリーの顔の前に出す。
それを見たマリーはお礼も言わず、涙の笑顔をしながら小指同士を交わした。そして交わし終えた後、すぐさま振り返らず街へと駆けていった。
「・・・なら貴女はいったい、この場は何のためにあると?」
マリーの事を思い出していたリンネ達に対する当然の質問を大臣が一同の代弁をするかのように聞く。
「はぁ・・・。そんなの1つだけでしょ」
『「自分が今から何をするか、しないか。それをここで全員に伝えてすぐに行動する」』
2人の声が重なり、この場の全員の耳に届く。
「誰も過程と言う努力なんて興味も無いの」
『この国の人だって、いや。知能があると称してる生物みんな、誰かがどんな努力をしても。最初も最後も、見てくれるのは結果だけなんだよ』
「誰かのためにしなきゃとか。それで喜ぶのって誰だと思う?それをした自分だけ、ただの自己満足なんだよ。行動の理由に使われた人なんて迷惑をかけたって、借りを作ってしまった。そう感じるだけ。今度はその悩みが出来るだけ。アイリスはそうしたかったの?」
「わ、私。そんなつもりじゃ・・・」
『つもりじゃなくてもそうなっちゃうんだよ。クーラ。んーん。ここは大臣さんかな。もしアイリスが交渉を成功させたらアイリスにどんな対応するつもりなの?』
「そう、ですな・・・。妥協はあるとは思いますがアイリス姫のどんなに無茶なお願いをなされたとしても無下にすることは無いでしょうな」
大臣の回答にフォイ騎士長とギルド長は頷く。
「で、それを言われたアイリスを見ればわかるでしょ」
そういわれて一同がアイリスを見ると目を瞑りながら両手の平を見せて首を横に振っていた。
「あっ」
それを無意識にしていたアイリスは自分のしていた行為とリンネ達が言っていた言葉が合致することに気づく。そして他の者達も同じように気付いた。
「その場で済むような軽いものなら大して気にはならないだろうけど、事の大きさによってはどっちも引きずっちゃうからね」
「でしたら・・・でしたら私たちはどうしたらいいのですっ!?」
思わず口にしてしまうクーラ。
『言ったでしょ。自分で考えなよって』
冷たく言うイリスに思わず唇を噛むクーラ。
「・・・女王の立場なんてどうでもいいです。今はクーラ・ブリズとして、個人として聞いているのです!」
「クーラ!?」
「クーラ様!?」
「陛下!?」
何かを決意しての発言に驚きを隠せない者の名を呼ぶ声が部屋に響く。
「・・・だとしても、答えは変わらないかな」
「どうしても・・・教えて下さらないのですか?」
辛い表情を見せるクーラ。
「教えるも何も。クーラは私に、これから何をするべきかを明確に伝えられるの?」
「そ、それは・・・」
「みんなだってそう。自分には出来ないからって他人に押し付け合って。誰かが手を挙げてくれるのを待って。自分は先の事しか考えない。そんな今に向き合えない人が先に進めるわけ無いでしょ」
この場の誰もが息を呑んだ。
「そう言う責任ってのは誰かに言われて背負うものでも背負わされるものでもない。誰のためにもならないかも知れない。それでも自分がしたいと思った事。失敗しても後悔しないと言い切れる選択。自分で決めた事を自分だけで背負うものなんだよ。そんな中でも共に、同じ目的のために同じ責任を背負う覚悟があるなら共に動けばいい。だからさっき言った通り、今ここで私が伝えられる事は1つだけ」
『私達2人がこれからする事っ。だね、リンリン!』
「そういうことっ」
リンネ達はそう言いながら部屋のドアを開ける。
「私達は寝た後にそのフォレフォスってとこに行って仲良くなれるか試してみるね。あっ!クーラ。ベットがある所、テキトーに借りるね。じゃ、おやすみっ!」
『おやすみ~!』
バタンッ。
扉が閉じた後、困惑した複数の声が聞こえたのは言うまでも無かった。




