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永遠の約束 永遠の旅 -とわのやくそく とわのたび-  作者: 風翔 響
第1部:エレメンタニア
56/109

5-4

 リンネが街へと降り立つと、行動の結果がアイリス達と共に待っていた。


「・・・さてさて。これ言っちゃうとアレだけど。今どんな気持ちかな?」


 その問いの先、アルトは激痛による言葉に出来ない悲痛な叫びを出し続けている。


「・・・何言ってるかわからないんだけどなぁ~。あ、ルーちゃん。頼んだ事してくれる?」

「あ、ああ。とは言っても・・・」

「いいから」

「・・・わかった。ここ一帯の音でいいな」


 言っている言葉が解らないのに本当にやるのか。そう言いたいのだろうがリンネにとっては関係のない事だった。

 そしてルシファーの力によりここ一帯を除いてブリズ全体にアルトの声にならない叫びが響き渡せ、完了した事をリンネに頷いて伝えた。


「さてさて、えーっと。ブリズの皆さん。この事態の元凶の捕縛に・・成功しましたので。今から元凶さんにインタビューでも・・・うるさいなぁ」


 そう言い始めたリンネに遮る様にアルトの叫び声が混ざる。


「そんな状態でも[はい]か[いいえ]ぐらいは答えられるでしょ。ってまあ、普通なら死んでるけどね」


 そう。普通なら死んでいる。陥没した地面に杭の様に刺さる街灯から流れ続ける血液。その街灯に口から足先までを抉りながら貫かれ、足先には街灯だったと思われる形が浮き出ている。その地面を陥没させる程の衝撃の余り、辺りはまるで隕石でも落ちたかの様に吹き飛ばされ、その一帯の火災は鎮火していた。


「それでライネスの勇者。アルト様?だったっけ?ブリズのみんなの判断で決める事になると思うけど一応希望は聞いとくね。生きたい?それともそのまま死にたい?」


 笑顔で聞くリンネ。その問いに美遊は狂っていると思ったが、何故か体が震えていない事に違和感を覚えた。


「・・・そっか。そりゃ当然だよね。出来る事なら生きたいよね~。うんうん。私だってそうだし、ここにいるアイリス達も。ブリズのみんなも。そして、あなたに殺された人達もね。あれれ?何でそんなに怖がってるの?だってこれはあなたが選択した結果だよ?なのに何でこの結果を受け入れられないのかな?」

「円道さん・・・その・・・」

「ん?どうしたの美遊?」


 気まずそうに小さな声で名を呼ぶ美遊。


「その、アルト君はもう・・・何も出来ないと思うし・・・助け」

「それは美遊が決める事じゃないでしょ」

「っ!?」


 美遊がアルトの事を、生死を決める権利は無い。


「美遊が決めていいなら私が今すぐに殺してるよ。でも別に、美遊が助けたいなら・・・どうぞ」


 そう言い、リンネは美遊にアルトへの道を譲るかのように動く。アルトはチャンスが来たと思い必死に美遊に訴えかける様に叫ぶ。


「・・・・・・」


 だが、美遊は動こうとはしなかった。いや、動けなかったのだ。リンネの言う自分が決める事ではないと言う言葉の所為で。もし助けられる命があるならば助けに行かなければならない。それが例え悪だとしても。それが勇者としてのあり方のはずだ。なのに動けない。


「はぁ・・・。ちなみに、ルーちゃんには聞く必要が無いとして」


 その言葉に反応して頷くルシファー。


「アイリスはどうしたい?」

「私は・・・」


 周りの視線がアイリスに集まる。


「私は、このまま死なせた方が良いと思う」

「アイリスっ!!?」


 その答えに美遊は思わず名を声に出してしまう。


「そんな事、私達が許しません」


 その声に振り向くとクーラとアルトが軽く息を切らしながら立っていた。


「無闇に人の命を奪えば、その恨みによってまた新たな命が奪われます」

「クーラ。それはクーラの立場的に悪くなるかもよ?」

「私の立場など関係ありません。人の命を奪うと言う事がどれだ・・・え、ええと。あなたは?」


 ああ、そうだった。クーラとヴァンも写真の私しか知らないんだっけ。


「私はリンネ。あの写真の・・・って言えば解るかな?」

『うん、たぶん。それに私が居れば言わなくても状況で解るんじゃないかな』

「イリスさん?・・・ってもしかして」


 辺りを見渡す2人。どうやらこの場に居る筈の男を探しているようだ。そして口を揃え、


「「シュ」」

「リ・ン・ネ。だよ☆」


 名前を言いかけたところを強調して被せるリンネ。そう言われて戸惑う2人だが理由があると察してこの場では触れない事を決めて頷く。


「・・・で、その。リンネさん。状況からしてあなたのしてくれた事には感謝しています。ですがこれは我が国で起きた事。対処は我が国でさせては頂けませんか?」

「それってあの人が反省してるって。更生出来るって。そう判断した場合は助けるって事?」

「はい。例えその可能性が限りなく無かったとしても、」

「それじゃあ手遅れだよ」


 即答したクーラがまだ何かを続けて言おうと口を開こうとしていたがその言葉を出しきる前にリンネが遮る。


「・・・何故?」


 ヴァンの当然の問い。


「今この人。この状態が続けばいずれは死ぬんだけどさ」


 ガンッ。

 話の途中で街灯に近付いたリンネは途端に街灯を蹴った。するとその振動でか、少し落ち着き始めていたアルトに再び激痛が全身を走り、叫びのトーンが元に戻る。


「こうやって、どんな非力な人でもこうやって振動を与えればこの人に死ぬまで絶えず激痛を与える事だって出来るんだけど」

「それが一体」


 見るに堪えないのか目を逸らしながら答えるヴァン。


「どう言う事かはあなた達の守る民達の方が理解が早いと思うけど。まあ簡単に言えばこの人を殺せるチャンスが無くなるって事。それでもクーラとヴァンはこの人を一度助けてから捕らえて、そして場をちゃんと設けて裁くべき、って言いたいの?」

「ええ。それが人として当然の振る舞いだと私もヴァンも。勿論、民達もそう思うはずです・・・えっ?」


 そう口にしたクーラの視界に1人の少女が街灯へと向かって行く姿があった。そして「返して」と口にし続ける少女は先程のリンネの様な力は無かったが何度も何度も街灯を蹴り続けた。弱い振動と言えど今のアルトにとっては激痛に代わる衝撃。街灯を蹴られる度に叫びの強弱が変わる。


「・・・言ったでしょ。民達の方が理解が早いって」

「そんな・・・」


 そんな少女。マリーを見ながら虚しそうにそう呟いたリンネ。その光景に絶望したクーラの膝が地へと落ちた。そしてそれを支える様に寄り添うヴァン。その絶望は少女だけでは終わらなかった。役所の方からゾロゾロと向かって来る集団。きっと役所に避難していた港区の住人たちだろう。そしてその目的はもちろん・・・。それを目にした街灯の男は焦り、激痛が続く中でもクーラや美遊に視線を送り、叫ぶ。


「どう、して・・・」

「これが[人間の現実]だからだよ」


 両手で顔を隠しながら呟いたクーラにそう答えたリンネ。

 その言葉はイリスの言っていた言葉。この場に居るリンネとルシファー以外は聞き覚えのある言葉。いや元々は彼、今は彼女の言葉だったのだろう。


「・・・本当にこれが、そう・・なの?」

『それに、答えて欲しいの?』

「いや、だって・・・」

『聞いてきたのは美遊でしょ』

「そうじゃ・・・そうだけど、そうじゃなくて・・・」


 自分でも言っている事が無茶苦茶なのを理解している美遊。 

 そう。答えるまでも無い。今現実に起こっている事が答えだと言う事。これが人間の現実だと言われれば誰も否定は出来ないだろう。


「・・・私もね。小さい頃、似た様な事があったんだ」

「アイリス?」


 そんな中。ふとアイリスが口を開く。


「ダンジョンで出会った小さくて可愛い。フワフワの毛並みのホワイトドラゴンの子供。その子と一緒に遊んだりしてたの。でもね、ある日。その子を見つけた冒険者の集団が居たの。・・・もしかしたらあの子、私と同じ様に遊んでくれると思ったのかな」


 空を見上げるアイリス。


「私がその日、いつもの場所に会いに行ったらね。死んでたの。毛も皮も、翼も骨もあの綺麗な瞳も色んな部分が無くなって。あったのはあの子の死を確証出来る程の血の跡ぐらいだった」


 そんな話をするアイリスに黙って聞く事だけしか出来ない美遊。


「その後私。気付いたら違う場所で、血が少し滲んでる大きな袋を持ってたの。周りには同じな袋を持ってる人達が大勢倒れてて。足元にも1人、その人から奪った袋なんだなって」

「アレらを人と呼べるかどうかも解らなかったがな」


 それを補足するかのように言うルシファー。


「・・・それって!?」

「うん。ミユ。私ね、あなたやみんなが思ってる様な英雄姫なんかじゃないの」


 美遊が数歩後ずさりながら首を横に振る。まるでその話を信じたくないかの様に。だがルシファーが話を補足した所為でそれが真実だと裏付けてしまっている。


「私も」

「止めて!!それ以上言わないで!!!」


 アイリスの言葉を拒絶する美遊。


「ミユさんの言う通りだ。それは言わない方が良い」


 賛同するヴァン。今の美遊の叫びに反応したブリズの民達。街灯蹴りの順番待ちをしていた所に大声がすれば誰しも視線を向けるだろう。その順番待ち。もう何人もの民があの行為に及んでしまったのだろうか。終えた何人かの者はそんな美遊の声にも反応せずに泣きながらその場を去って行っている。だがあの少女だけはもう叫ぶ事のない男の姿をずっと憎しみの表情で見つめて立っていた。


「・・・そうだね。これ以上クーラにも負担をかけたくないし・・・っ!ルーちゃん。声ってまだ」

「ああ。今の話もな」

「・・・そっか」


 寂しそうな顔をするアイリス。


「アイリス」

「ん?」

「アイリスの色んな話を私達が最後まで聞いたとしても、私達はアイリスをアイリスとしてしか見ないよ」

『うんうん。私達を甘く見ないでよねっ』

「・・・ありがとう。シュ」

「リ!・ン!・ネ!!」

「あっ!ふふっ。ありがとう。リンネ。イリス」


 リンネにそう言われたアイリスはまるでその言葉に救われたかの様に笑顔でお礼を言った。そしてその顔を見たルシファーは安堵していた。


「さてさて、そろそろ収拾つけないと」


 そう言って順番待ちも最後尾が終える所でリンネが声を出す。


「んんっ、えーっとブリズの皆さん。すみませんけど港区に、と言うか先程のを理解した人達はもう来る意味が無いので今、皆さんがすべきだと思う事をして下さい。休むなら休んで明日から。怪我をしている人は治療に。まだ元気な人は出来る範囲で復興に助力して下さい。あっ!あと。女王様が泣いちゃったので、後々謝った方がいいと思う人は謝ってあげてね」


 そう言い終わると、ルシファーにもういいよと視線を送った後にリンネは街灯へと近づく。


「マリー。これ。海に沈めるけど、いいかな?」

「シュ・・おねえちゃん。・・・私のお母さんとお父さん。本当に死んじゃったの?この人の、この人の所為で・・・」


 アルトに捕まっていた時、マリーは気を失っていた訳ではない。つまりあの時からの周りの音や声は聞こえていたであろう。


「・・・そうだね。物語みたいにもっと早く駆け付けていれば。なんてセリフを言ったら、それは助けられたのに助けなかった。まるで起こる事が解っていたのに助けなかった。そう言っている様なものだから。実際こうなる結構前に私はこの人を殺せる機会が1度あったの。でもしなかった。だからこうなったとあなたに言われても私は否定しない」


 リンネはマリーに話しながら消していた剣を出して街灯の根元を切断する。そして再び剣を消し、倒れそうになる街灯を両手で持つ。血で滴っている街灯をあまり持ちたくないとは思いつつも。


「だからマリー。これからのあなたに言える事は1つだけっ!」


 持っていた街灯をやり投げの様に投げて海まで飛んで行ったのを見届けた後、マリーの方へと向き直る。


「これからどんな選択をするか、しないか。人が出来る事なんてどんな時でもそれしか無いんだよ」

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