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-12月31日-
何かが触れている感触に目が覚めると椅子に座らされていて、更に顔の見た事のない女性に化粧の様な物をされていた。あの散らばっていたはずの料理も無くなっていた。
「あっ。起きたみたいです」
周一が起きた事に気付いたのか周りに声をかける。
するとその声に開いていたドアから白衣を着た女性が近付いてくる。
「周一君。おはよう。それとはじめまして、かな?私の事知ってる?」
白衣の女性はそう聞いてきた。
「社長。テレビ局の方が進行についてお話があるとの連絡が」
「そんなの待たせておきなさい。今はこの子と話しているのよ」
そう言って秘書の様な女性を部屋から外させた。
そうだ。この人はニュースで出ていたあの機械を作った会社の社長だ。
「ごめんなさい。自己紹介するわね。私は桜アリア。サクラコーポレーション社長をしてます」
そう自己紹介した、大人びた外人女性。いや、日本語の発音の上手さからきっとハーフなのだろう。髪は茶髪で肌はとても白いが目の色は黒い。
「円道周一君。先に謝らせてくれるかな」
そう言うと。桜社長は床に正座で座り始めてそのまま頭を下げた。
「しゃっ、社長!!?何してるんですかっ!!!?」
側にいた周一に化粧をしていた女性も周りにいた何かを準備していた者達も声を荒げて言う。当然だ。有名会社の社長が土下座を、しかも子供相手にしたからだ。その姿に周りが桜社長に近付いて立ち上がらせようと体に触れる。
「止めなさい!!これは償い、周一君だけに対しての償いなの。私がしたいからしてるだけ。だから邪魔しないで!!」
「でっ、ですがっ!?」
確かに周りにとっては気が気ではないだろう。社長が土下座をしている。これが世間にでも広まったら一大事だからだ。それでも土下座を続ける社長に、部屋にいた1人が誰かを呼びに行くかのように慌てて部屋から出て行く。
「周一君。君の今の気持ち、私には解らない。私だけじゃない。世界中の人、誰ひとり解らないと思う。もし私に償える事が、出来る事があるならさせて欲しい。私がした事は、あなたにとって最悪の結果を与えてしまったから。・・・だから君にこれを」
そう言って、土下座を止めた社長は周一の右腕に何かを付ける。それに視線を向けるとそこにはゲームのデザインで良くある腕輪の様なサイズの銀色のブレスレットが嵌められていた。
「これの使い方はその内解ると思う。もし使い方が解る頃になったらそれを使って私に連絡して。私は、今の君の支えになりたいから。・・・ごめんなさい。自分勝手なのは解っているの。でも今の私にはこれぐらいしか思いつかないから・・・」
そしてそのブレスレットを隠す様に周一の袖の中へと入れる社長。だがここまで話しかけ。触れたりもしたのに何一つ反応を示さない周一に悔しさが表情に出てしまった社長はそれを隠す様に周一に背を向けて部屋を去って行った。
そしてしばらくしてその後、社長と入れ替わる様にあのスーツの男、副社長がテレビ局のスタッフ達と共に部屋に現れた。
「おやおや、綺麗さっぱり無くなっているではないか」
煽る様に言う副社長。テレビ局のスタッフ達は今日初めてこの部屋に入ったため何の事か解らないので疑問にも思う事無く自分達の作業を始める。
「まあ、それはさておき。・・・どうだ?」
「・・・予想通りです」
「ふん。だろうな」
連絡を取っていた黒服と何かを話しているが何一つ意欲が湧かない周一にとってはどうでも良かった。
「一応、君にもこれからのスケジュールを伝えよう。今から少ししたら君のための番組が始まる。とは言っても君の出番はクライマックス、年明けの少し前からだ。番組では君の過去から現在に至るまでの話をする。そして合間に芸能人達が君の境遇に感想を述べて行く物だ。ちなみに、あのテレビでその番組を君の出番まで見る事が出来るがどうする?見たいかい?」
顔を近付け、耳打ちをするようにこれからの事を伝える副社長。だがそれにも反応しない周一。
「・・・まぁ、家族にあった時に顔が解らないじゃ番組的にも盛り上がらないから事前に家族が出る所は少しだけ見せておいた方がいいか。・・・ああ君、すまないが小型で良いからテレビを用意してくれないか?番組を見たいと言うのでね」
小声でそう呟いた後、スタッフに呼びかける副社長。
「え、はいっ!・・・えっ、でもそこにテレビありますよね?」
「ああ。これは使えないんだ。業者の嫌がらせで電源が入らないよう細工されてしまったやつでね」
「あー・・・解りました。上に言って急いで用意してもらいますね」
「頼むよ」
スタッフは周一をチラッと見た後に納得し、副社長に言われた通りにするため外へ出て行く。
「さて、これで今年にやる事は終わったな。君の件も片付いてとても気分が良い。さて、これから私は自室でこの番組を肴に残りの年を過ごすとしよう。あとは任せる。万が一何かあった時は連絡しろ」
「解りました」
そう言って副社長は部屋を後にした。
しばらくして先程のスタッフが持って来た小型のテレビ、ではなくノートパソコンを周一の見やすい位置、角度に置かれそのノートパソコンに搭載されているテレビアプリケーションを使って、番組の途中から放映された。
その内容は余りにも事実とはかけ離れていた。
番組で放送されているあの時の作業員が言っていた仮映像。そこにはスケジュール通りに真面目に動く周一役の少年が映されていた。そして、真実のスケジュールには無かった時間。自由時間が存在した。その時間に楽しそうにゲームをする少年の姿。更に食事も毎食豪華で栄養満点な料理が出され、欲しい物をタブレットに連絡すると数日後には用意された。だが後々、精神的に不安定になり始めた少年。絶叫したり自分の持ち物であった充電していたゲーム機を地面に叩きつけた映像。そして現物による壊れたゲーム機の証拠写真。食事を取る事を拒否して大量のカロリーメイクを要求した事を映像と共にナレーションが語る。
・・・この映像もナレーションも嘘だらけだ。何1つ真実が・・・いや、1つだけ真実があった。
番組を途中から見る視聴者のためにも解る様に設置されている物。映像に感想を言う芸能人達が映るワイプ映像の傍に置かれたタイトルのテロップ。[変態と呼ばれた少年 円道周一君の真実 SC社員の3年半の努力によって天才少年と判明した]などと書かれていた。
変態。へんたい。・・・へ ん た い?
その文字だけに引っかかった周一。そして思い出す。あのスーツの男。副社長が口にした言葉。
変態のガキ。
あの時の副社長の言葉が番組のタイトルと噛みあった時、周一の精神が覚醒した。タブレットで勉強していたころに偶々あったワード。様々な言葉の意味を知るために辞書機能で調べた時に知ったワード。
(・・・そうか。だから父さんも母さんも。病院の人も。このビルの奴らも。業者の奴らも。あの黒服の奴らも。あの副社長も。あの社長も。この世界の奴ら全員・・・)
すると番組の企画が進行したのか別の映像に切り替わる。どこかの部屋でスタンバイしていた人達が映り始めた。
『円道さん、約4年ぶりに周一君との再会が出来る事になった訳ですが今の心境はどうですか?』
女性アイドルの様な人にマイクを向けられた父さんがそこに映っていた。そしてその傍には母さんと母さんに抱えられた子供がいた。4年もたったが顔も余り変わっていなかったためにすぐに家族だと解った。
『もう今は嬉しいとしか表現出来ないですね。テレビにあの社長が映るだけで怒りがこみ上げてきましたが、今はそんなことよりも1秒でも早く周一に会いたいです』
そう言った父さんにワイプではゲスト用の椅子に座りながら申し訳なさそうに頭を下げるあの桜社長の姿があった。
『奥さんはどうですか?』
今度は男性アイドルが母さんに聞く。
『はい、周一とまた会える事が出来る様にしてくれた副社長とその社員さんには感謝してもし尽くせないぐらいです』
『そうですね。優一君はどうですか。これから初めて会うお兄ちゃんに何か言いたい事はあるかな?』
『・・・・・・』
優一と呼ばれた子供。俺の弟はコメントも無く顔をサッと母さんの肩で隠す。
『あらら、照れちゃったみたいですね』
そのアイドルのコメントと共に笑い声が流される。
そして今度はスタジオ側がメインになり、家族がワイプへと切り替わる。
「さて。円道さん」
『はい』
スタジオの進行役である有名芸能人が父さんに声をかける。
「今、ここにいる桜社長を監禁などの容疑で逮捕する事が可能です。現在特別措置として逮捕を保留状態にしていますがどうされますか?」
『・・・・・・』
その言葉に真顔で黙り込む父さんと母さん。メインの映像がコロコロと切り替わる。
そして。その間も芸能人達は色々な感想を言い続け、逮捕をした方が良いとか。反省してるから周一君本人に決めさせても良いと思うとか。様々な意見が飛び交う中父さんが口を開いた。
『確かに、私達としてはそうなって欲しいです。でも・・・逮捕はしなくていいです』
「ええっ!!では、罪には問わないと?」
『はい。副社長さんとの約束ですので』
「副社長ですか?」
『はい。副社長から、妻を許して欲しいと頭を下げてお願いされましたので。それに、周一の待遇も健康管理も全て副社長と社員達が対応していたと聞きましたから。そんな人のお願いを断る事は私達には出来ません』
そう述べて行く父さんと母さん。そしてそれを見ていたであろう、映像に少しだけ映った桜社長はすごく青ざめた表情をして、感情に任せて椅子が倒れてしまう程に勢いよく立ち上がったが側にいた警官に動きを止められた瞬間に映像がまた切り替わる。
『ですので、私達は罪には問いません。あとは周一に決めさせたいと思っています』
「すごい決断ですね。私だったら許せませんよ」
『いえ、人として当然の事をしているだけです。これで社長も更生して世のため人のために頑張って頂ければと思います。それにもし被害者である周一が逮捕を望むのであれば私達もそれを望みます』
「そうですね。私達としても日本中、いや世界中がそう思うでしょう・・・ん?」
すると、進行役の人がスタジオのスタッフから何かの紙を受け取り、それを開くと驚いた表情をする。
「円道さん」
『はい』
「残念なお知らせです」
『えっ!?』
「桜社長はこうなる事を想定して周一君に事前に謝罪をしていたそうです」
『何だってっ!?』
『何ですって!?』
その知らせに驚く父さんと母さん。そしてスタジオにいる人達。
「その映像があるようです。・・・準備が出来たみたいですね。では証拠映像をどうぞっ」
画面がまた切り替わると映し出された映像は桜社長が秘書を部屋から外させた後、土下座をする桜社長の映像。だがあの時とは違うと周一にはすぐに解った。
映像には俺に化粧をしていた女性と何かをしていた人達が映っていなければいけないはずなのにその姿が無い。映っているのは椅子に座る無反応な俺と土下座をしている桜社長の姿だけ。そしてあのブレスレットを付けて隠すまでの映像が放送された。
「何かアクセサリーの様な物を付けさせてますね」
「まさか、あれって爆弾っ!?」
芸能人の1人がそうコメントするとスタジオ中がざわつき始める。
「急いで確認をお願いします。周一君の身の安全が第一です!」
スタジオ内がざわつく中、映像が桜社長の居る部屋の映像に切り替わる。
「どういう事か説明して頂けますか、桜社長」
『・・・・・・今の私が何を言っても無駄なのはあなた達が一番解っているでしょう?』
警官に取り押さえられている桜社長がカメラに顔を向けてそう答えた。その顔はあの時一瞬だけ見えた悔しそうな表情と目。それだけで周一にはすぐに解った。あの副社長に嵌められたんだなと。
『ふざけるなっ!!!』
その映像に割り込むように響く怒鳴り声。父さんだ。
『何処までうちの子を傷付ければ気が済むんだお前はあああああああ!!!』
『早く!今すぐそいつを捕まえてっ!!周一を助けて!!』
と、その時、連絡を受けたであろう人物。部屋に入って来たスタッフと黒服が近付いてくる。
スタッフは黒服に指示され、テレビ代用品であったのノートパソコンを回収して部屋を出て行った。
そして黒服が周一の右腕に着けられたブレスレットを確認するために袖を捲った。
「・・・ありました。見た所、ただの銀色の腕輪の様です。どうしますか?」
黒服は左耳のイヤホンマイクを使って誰かに連絡しているようだが、あの副社長で間違いないだろう。
「・・・解りました。ではその様に。はい。失礼致します」
しばらくして通話を切るセリフを言った黒服は銀の腕輪に手をかけて、腕輪を引っ張って周一の右腕から外す。腕輪をポケットにしまった後、部屋から出て行った。
(・・・あと1時間)
テレビを持って行かれる前に見た時刻表示。23:06の表記。それからしばらくしてドア側がざわつき始め、部屋のドアが閉められた。どうやら面会の準備が始まったみたいだ。
そしから20分程あと、またあのドアが開かれた。
「「・・ゼロ~!周一君と家族の再会です!!」」
アイドル2人に導かれる様に部屋に入ってきた家族3人。その後に続くテレビのスタッフ達。
「「周一!!」」
家族が椅子に座った俺に抱きつく。それと同時に何か固い物が当たった。
「いや~、先程はどうなるかと思いました。副社長さんの秘書さんが爆弾解除をしてくれたのは不幸中の幸いでしたね。視聴者達やスタジオにいる皆さんに代わってお礼をもう一度言わせていただきます。ありがとうございます!」
「いえいえ。構造が単純だったおかげですよ。私は副社長の指示に従って解除しただけなので、お礼でしたら副社長へお願いします」
「そうなんですね!では新・桜社長にもお礼を。ありがとうございます!」
そんなアイドル達と黒服のコメントの中小さく声が聞こえた。
「ねぇ、まだぁ~?」
聞いた事の無い弟の声だ。
「まだよ。パパが止めるまっ」
「え~」
母さんの言葉に嫌がる弟。
「さて、そろそろ家族にもお話を伺いましょう。年明けまでもう時間はありませんからね。円道家と一緒に新年のあいさつを・・・えっ」
異変に気付いた女性アイドル。その異変に男性アイドルも言葉を無くした。
「円道さん!!」
「きゃああああああああああああああ!!!」
そこには円道家、父さんと母さん。そして弟が床を血で汚してゆく光景があった。
「な。何が」
と、突如男性アイドルに首の激痛が襲う。
「ががあああああ・・・」
その男性アイドルの消え行く視界には共に仕事をしていた女性アイドルの首が自分と同じ状況になっている光景。そして手にカッターナイフを握った、この世のモノとは思えない顔をした痩せ細った存在を。
「なっ!?」
その出来事にようやく正気に戻れた黒服は一目散に部屋から出ようとする。
「がぁ!!?あしがあああああああああああああ!!!」
が、時すでに遅く片足を切りつけられた痛みで床に倒れてしまう。そして次々に倒れて行くスタッフ達を目に焼き付けてしまう。
「やめっ・・・やめろおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
そして逃げる事の出来なくなった黒服が自分が最後だと理解した時、ゆっくりと迫って来るその存在に恐怖し、失禁し、絶叫した。
赤く染まり、異物が転がる部屋の中に1人。いや1匹。1頭。1体。どの単位で呼ぶ事が正しいのか解らない存在はカメラマンの背負っていたカメラを両手で持ち上げて机の上に置き、黒服のポケットに入っていた血が少し付いたあの銀の腕輪を取って右腕に嵌め戻し、床に落ちていた血塗れになっている誰かのスマートフォンで時間を確認しながらそのカメラに顔が映る様に距離を取った。
そして時刻0:00を刻むと約4年ぶりにその口を開けて、その存在は言葉を発した。
「 はっぴぃー にゅーいやー 」と。




