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-12月1日-
突如、今まで開かれる事の無かった扉が開いた。そして黒服の男2人が腰かけていた周一に駆け寄る様に走って近付き、身動きが取れない様に両腕を拘束しながら無理矢理立ち上がらせる。だが周一に抵抗する意欲も無く、そもそも何故拘束する必要があるのかが理解出来なかった。
そして辺りに散らばったカロリーメイクのゴミを片付け始める人や物や家具をを入れ始める人が次々とあの開かずのドアを行き来する。そんな中で周一に近付く男がいた。
「周一君。今までよく頑張ったね」
聞き覚えのある声。俺をここに閉じ込めた存在。あのスーツの男だった。
「・・・意識はあるのか?」
その問いに黒服の1人が何処からか取り出したライトを周一の目に当てる。
「・・・はい。瞑りましたのであると思われます」
眩しいから目を瞑るではなく生きているから目を瞑る。それで生きているかを判断されるのはまるで本当にあの深夜に放送していたあのアニメの少女の様に、実験動物に対する扱いだ。
「周一君。君はあと30日後、大晦日になれば外に出られるようになる。君の検査結果が良い結果に変わったおかげ、と言うより君のために3年半の間ずっと調査を続けてくれた我が社の社員のおかげと言うべきなのだろうな。君は天才的な学者になれる才能があると解ったのだよ。すぐに出れないのは今の君の健康状態が優れないからだ。体調を整えた後、様子を見て、大晦日に迎えに来る家族と共に新年を迎える事が出来るぞ!おめでとう」
オメデトウ??
視線はずっと床に向いている周一にそう告げたスーツの男。
「・・・では、私は打ち合わせがあるので後は手筈通りに頼む」
「「はい」」
「君達も後はよろしく頼むよ」
『はい!』
挨拶を済ませたスーツの男はその場を後にする。
その後、様々な人が行き来し続けた。
「こいつ、本当に動かないな」
「そりゃあそうだろwこいつの飯、カロリーメイクだけだぞ?むしろ生きてるだけでも奇跡だろーが」
ボソボソと話し始めた黒服の2人。
「確かに。だったらこいつ放っておいても問題無いんじゃないか?俺、煙草吸いに行きたいんだが」
「ああ。俺も。仕事とは言えこんな気持ち悪いの触れたくねーし。そうだな・・・あっ、そこの」
「はい。何でしょうか?」
黒服の1人が男性に声をかけたようだ。
「これを見ててくれないか?」
「えっ?ですが・・・」
「俺達それぞれ今すぐに連絡入れなきゃいけない所があるんだ。だから少し外したいんだ」
「大丈夫大丈夫。こいつ指1本動かす気力も残って無いから。もし動いたとしても大声でもあげて呼んでくればすぐに駆け付けるからさ」
「・・・はい。作業しながらで良いのでしたら」
「ああ。それで構わないよ。あと作業はどれくらいだ?」
「私はあと20分程です」
「解った。ではそれまでには戻ってくる」
「解りました」
その声の後、周一はベットへと放り投げられた。
そして去って行く黒服達。そのあと、多少嫌な視線を感じたがそんなのどうでもいい。
「すまない、ちょっとこっちを手伝ってくれ」
「あ、はいっ!」
その声に何人かが駆け寄って行く足跡が聞こえる。さっきの監視を頼まれた男の声もした。
「よっと・・・なんでこんなでかいテレビを入れるんですかね?」
「聞いた話じゃ、大晦日にやる番組のためらしいぞ。何でもテレビ局が作った仮映像に色々家具があったらしくてな・・・っと、あったあった」
話の途中、テレビの梱包を開ける為に辺りを軽く探し、ベット近くにあったカッターナイフを手に取って作業を進める。
「それで、映像に差異が余り出ない様にするためにこうして俺達が駆りだされたって訳だ」
「はぁ~・・・迷惑ですね。そんな事のために・・・」
「まぁそう言うな。仕事として金を貰うからにはやらなきゃいけないからな」
「・・・ですね」
どうやら大晦日の番組企画のためにこの作業員達は雇われたようだ。大晦日と言えばよく歌合戦だったり、お笑いだったりとやっていたが・・・それに関係あるのか?いや、そう言ったのを放送するテレビ局はこんな事はしない。つまりそれら以外のテレビ局が企画した番組と言う事だ。
大晦日に迎えに来る家族と共に新年を迎える事が出来るぞ!おめでとう!
あのスーツの男の言葉が頭を過ぎった。
(つまり、俺はそのための道具・・・)
リアルな映像を撮るならあのドアが開いた瞬間に両親が飛びこんでくる様な映像の方がお涙物の番組には美味しいはずだ。それが無いと言う事は、これは大晦日に行う企画としてかなり前から決められた事。テレビ局の仮映像の話からしてそれは確実だ。
それにあのスーツの男が言っていた才能の事。あれが本当なら両親達にも伝わっているはずだ。会いたいと願えば会えたはずなのに来なかった。つまり両親、お父さんとお母さんは・・・俺に会いたく無い理由がある。それはきっと俺の才能が原因だろう。つまりあのスーツの男の話は嘘だと言う事だ。
しばらくして、黒服達が戻って来てから入れ変わる様に次々と作業員が挨拶をして去って行く。どうやらあの作業員達の話は本当の様だ。見た事の無い最新ゲーム機にゲーム用のテレビ。新しい服。靴。クローゼット。冷蔵庫。ジュース。お菓子。クッション。入浴用の洗剤類。掃除用具。数え切れない家具や雑貨、食糧・飲料が運び込まれ、ドア付近にいつの間にか貼られていた配置図を見ながら決められた位置に設置していく作業員達。掛かった時間としては物にもよるが、設置し終わればすぐに挨拶をして部屋を出て行き、また違う作業員が入って来る。まるで順番待ちでもしているかのような入れ変わり具合だ。
そして全ての作業員がいなくなると今度は女性が入って来る。あの女性の格好に微かに見覚えがあった。あの時見た女の人ではないがあれは受付にいた女の人の格好と同じだ。
「全ての業者が報告を済ませました。あとはこちらで対応致します」
「ああ解った。報告感謝する」
「ふぅ~っ!終わった終わった!!」
「おいおい。人前で気を緩め過ぎだぞ」
「何も起こらなかったんだ。気を緩めたくもなるって。あ、今の事は上には内緒ね」
「ふふっ。わかりました」
人前とはどうやらあの女性の事らしい。子供の前だとか言わない辺り、やはり俺はもう人として扱われている存在では無いらしい。
3人の声が遠ざかって行くと急にその声が途絶える。どうやらまたあのドアが閉まった様だ。
・・・それなら、もう動いても良いだろう。
周一はベットからゆっくりと起き上がりって辺りを見渡すと今までとは見違えるほどの光景だった。
(なんだ、これ?)
余りの部屋の変わり用に頭の中に出た感想がこれだけだった。
一応、気になってはいるのであの大きなテレビに近付くが電源が入っている様子は無い。テレビの裏側を覗くとコンセントケーブルが繋がっていない。それどころかそもそもケーブル自体が無かった。勿論あの見た事のないゲーム機にもだ。
じゃあ何のために置いたんだ?と問いたくなるがそれに答えてくるれる者は此処にはいない。
そう思いながらも辺りの光景を見ていると周一にとって最大の変化に気付いた。
しばらくして、いつもの場所からいつもの機械音が聞こえる。
またいつものようにドアから一番離れた壁に腰掛けていた周一がそちらに視線を送るとどうやら今までで一番まともな食べ物だとすぐに解った。何故なら此処からでもうっすらと湯気が見えたからだ。またほのかに匂いが鼻に付く。懐かしい。これはカレーのようだ。
だが周一はすぐには動かなかった。もはや定時で食べなければいけないと言う事は無い。そもそも急にカレーなんてものを出してくる奴らを信じていいのか?カレーに毒の様な物が入っていてもおかしくは無い。そう思い、立ち上がってシャワールームの水を飲み、ついでに洗剤を使わずにシャワーを済ませ、トイレを済ませてからベットに潜った。




