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-8日目-
気付けばここに閉じ込められてから一週間。この日、変化が起きた。
(・・・カップ麺)
朝。いつもより30分遅れて朝食用に用意されたのは醤油味のカップラーメン。だけでは無い。シーフード味とカレー味。3つのカップラーメンが置かれていた。
とりあえずその3つを机に移し、今日の日付を確認するために教材タブレットを起動する。
(12月31日・・・そうか。大晦日か)
だが、大晦日だからと言って普通の人は納得出来る訳が無い。食事は生物が生きる為に必要な事。命を管理する者が絶対に怠ってはいけないはずだ。
(これ、どうすんだよ?)
醤油味のカップラーメンを開けたがかやくなどの袋分けをされていないタイプ。お湯を入れるだけで完成するタイプの物だった。お湯が無ければカップラーメンは食べられない。そのまま麺だけを齧っても美味しくは無いだろう。そもそも箸が用意されていない。食事時間も限られている。つまり周一が取れる選択は二つ。
(どうにかして食べるか、食べ無い・・・か)
次のスケジュール。勉強開始の時間まで約25分。それを怠れば両親に危害が及ぶ可能性がある。だがカップラーメンを朝から3つも用意され、更に大晦日と言う情報。そこから導き出される答えは今日のご飯はこの3つで済ませなければならない。と言う事だ。現状の周一に食べ無いと言う選択肢は無い。
(水でも食えないかな?)
周一はそう思いすぐにトイレにある洗面台ヘと急ぎ、カップに水を注ぐ。だが、粉末のスープと具が水に多少浮かび上がっただけでとても食べれる状態では無い。だが周一は諦めず、指で粉末スープが水に溶けるまでかき混ぜ、蓋を完全に取って、机に置き、あとは麺がほぐれる事を期待して待ち続けた。
そして残り時間10分を切ったと言う所で食べても良さそうなぐらいには麺がほぐれた事を確認した周一はカップに口を付けてゆっくりと流しこみ、噛みながらカップラーメンを食べた。もちろん味はお湯に比べて何段も落ちている。だがそんな事は気にしていられない。今はとにかく腹を満たす事が重要だった。
スープも残さず食べ終わり、片付けようの箱へと入れ、多少こぼれて手や口に付いたスープを洗い流し、なんとか勉強時間ギリギリに間にあった。
今日の昼食も夕食もまた同じ様に食したが、変化はこれだけでは無かった。夕食後の片付けの時、朝と昼のカップが未だに片付け用の箱の中に残っていたのだ。勿論臭いもそれ相応の異臭になっている。いつもなら勉強を始めてからしばらくして多少の物音がしていたが今日は何一つ無かった。つまりは今日カップ麺を持って来た人物、管理者がサボりをしたと言う事だ。
-9日目-
教材タブレットの目覚ましアラーム音で目が覚めた周一。いつものようにスケジュール通りに動いて朝食を待つ。だが、勉強時間まで残り5分になっても食事が届かない。あの機械音が鳴らない。もしやと思い片付け用の箱を開けるとそこには昨日食べたカップが3つ置かれていた。臭いの所為で顔を逸らしてすぐに箱を閉じた周一。
(・・・嘘、だろ?)
嫌な予感は的中する。急ぎ水を少し多めに飲み、腹を満たす周一。昼もまた同じ様に水を飲み。夜もまた水を飲んだ。さすがに水だけでは勉強に集中する事が出来なかった。
そう。新年最初の日。周一の食事は水だけで終わった。
-10日目-
栄養が不足しているためか体が重い。ベットから体が離れない。だがスケジュール通りに動かなければと必死にその重い体を動かす。そして朝食の時間・・・だがあの壁の枠が開く事は無かった。つまりは隣のあの枠の中も変わりないと言う事だ。さすがに苛立ち、壁を叩こうとしたがルール上それが出来ないため踏みとどまる。
この日もまた、周一の食事は水だけだった。
-11日目-
昨日よりも体が重く感じる。だが目覚ましのアラーム音よりも早くに目が覚めている周一。つまりは体が今すぐ栄養になるものを。腹に溜まる物を欲しがっているということだ。そんな体を無理矢理動かし、スケジュール通りと思いながら。
-12日目-
体が動かない。動くのは指ぐらいだ。と言うか、いつの間にベットで寝ていたのだろう。あ・・・スケジュール通りに動かないと・・・。
そんな中、うぃ~んと機械音が鳴り始める。その音に動かせないはずだった周一の体が無意識に動き出す。ベットから転がり落ち、もう頭痛以外の痛みも感じない体で必死にその場所へと向かう。
そしてなんとか辿りついた周一はそのトレイの上に乗っているご飯と味噌汁、コンビニにありそうな容器に入ったドレッシング付きのサラダに目を奪われ、無我夢中にそれらを口の中に流し込んだ。味も感じない。香りも解らない。行儀など気にしていられない。そんなトレイの上は食べ散らかして行く跡で汚れていった。
朝食を食べ終わってその場に横になると体に感覚が戻り始め、少しずつだが頭痛が引いて行くのがわかった。体が急速にようやく手に入れられた栄養を身体中に送っているのだろう。そして体を幾分かマシに動かせるようになった周一は体を起こしてトレイを片付けの箱に入れようとするがそこにはすでに先客達がいた。いや、まだ居座っていた。この箱からはすごい異臭が出ているだろうがまだ臭いが解らないおかげで気にせず先客達をトレイで押し退けて箱を閉じる。
さて、今まで通りならスケジュール通り次は勉強時間になる。だが現状そんな体力など無い。集中出来る程の気力も無い。そもそも今日は起床後の行動すら出来ていない。昨日なんて途中から記憶が無い。なのにそれについての反応が無いと言う事はどういう事なのだろう。
(・・・試しにフリでもしてみようか?)
そう思い、椅子に座って教材タブレットの小学3年生用の項目を開き、テキトーに眺めてる様に机に肘を乗せ、その手に頭を乗せて目を瞑った。
そしてしばらくしてまたあの機械音が鳴る。その音に目が覚めた周一は自分が寝ていた事に気付く。食事に一度視線を向けた後にタブレットを確認するが通知は無い。つまりはあのカメラ越しに見ているはずであろう管理者はしっかりと監視している訳では無い。よってルールを無視した周一の判断によって新たな情報を手に入れる事が出来た。
(もしかして、あのカップ麺の時も、今までも。ちゃんと監視はしていなかったって事か?)
そう予想を付けた周一はまたバレたら両親に危険が及ぶかも知れない行動を取る事に決めた。
午後の勉強時間。周一は現状理解出来ないレベルの教材。中学の項目を選択して午前同じ様にして見た。眠る事は無かったが周一の予想通りの結果。何も通知が届かないまま勉強時間が終了し、夕食が届いた。。つまりはタブレットの開いている項目についても管理者は見ていない。ただ、なんとなくで開いた中学1年生項目の大体は理解できてしまった。小学1年が中学1年の内容を多少なりとも理解できた時点でかなりの才能があるのだが・・・今の周一にその点を気にする余裕は無かった。




