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-2日目-
周一が目を覚ますと普段見慣れない光景。この見られない光景に昨日の事を思い出し現実である事を再確認する。
「・・・時計は?」
今の時間を確認するため部屋を見渡したが時計が無い。仕方なく寝る前に枕側に置いた携帯ゲーム機を点けて確認すると5:12と表示されていた。その時間よりも気になる点に視線を向けた。
「・・・バッテリーが無い」
周一は昨日の朝から此処に来るまで、目疲れの休憩意外はほぼ遊び続けていたためにバッテリーの残量が29%になっていた。このゲーム機のバッテリーは100%で約30時間。スタンバイ状態では40時間程の可動が可能だ。周一の感覚から可動させ続けてあと2~3時間程。スタンバイ状態や点けていなくても大して長くは無い。今日中にはバッテリーが尽きる事がその表示だけで理解出来た。
「充電機は・・・そっか。無いんだっけ」
周一の持ち物はこの携帯ゲーム機だけ。自分の家にある充電器がここにある訳が無い。
携帯ゲーム機を持ちながらベットから起き上がり、高そうな机に近付くと教材タブレットとその充電器に目が向く。
「これが使えればいいのに・・・」
教材タブレット。学習のためだけに作られた物のためゲームとの互換性は無い。もし互換性があれば、それを知った子供は学校でも平然と携帯ゲーム機を持ち込んで充電しながらゲームで遊んでしまう事になる。充電コードを統一にしてコストの削減や消費者達の混乱を少なくするため、コードの種類が少なくなってきている。だがこの教材タブレットだけは全ての携帯ゲーム機・スマートフォン・タブレット・その他。全ての充電を必要とする機械との互換性が無い。
大人からすれば当然の事なのだが、子供の周一にはそれが理解出来なかった。
「どうせ無くなるなら無くなるまでやるかな」
バッテリーは持って2~3時間。バッテリーが長く持てば朝食の時間になる頃まで遊べる。そう思った周一はベットに寝転がってスタンバイ状態にしていたゲームを再開する事にした。
そしてしばらくして、机の上に置いてあったタブレットがピピピと音を繰り返し鳴らし始める。その音にゲーム機で時間を確かめると7:30と残り4%のバッテリーの表示。それを見た周一はゲームのセーブをすぐに行ってからゲーム機の電源を切った。もうこれ以降、充電が出来る様になるまでは遊ぶ事が出来ない事に少し名残惜しかったがその現実を受け入れ、ゲーム機が壊れない様に、邪魔にならないように部屋の角に置いた。
「・・・それで」
周一はセーブ中すでに音が鳴りやんでいたタブレットへと近づく。
音が鳴った。つまりはスタンバイ状態だった教材タブレット。それを解除するため電源ボタンを1回押してホーム画面の項目を確かめると連絡ボックスに1件の新規受信がされていた。これは本来、学校での行事やクラス内連絡。親への連絡事項のためのアイコンだ。だが今ここには周一ただ1人。つまりは周一宛に送られた知らせだ。
「・・・・・・は?」
連絡ボックスのアイコンに触れ、その届いたタイトル欄に[あさにやること]と書かれた物があった。それに触れると「馬鹿にしてんの?」と無意識に口からこぼれていた。
そこには周一も1度は見た事ある物。園児時代に母が見せてくれた絵。起きたら顔を洗う。うがいをする。朝ご飯を食べたら歯を磨く。着替える。それらの手順が絵で説明されていた。
そして周一がタブレットを確認した事を知ったかの様に更にタブレットから音が何度も鳴り続ける。タイトル欄に表示を戻すと今度は複数件表示されていた。
[おひるごはんをたべたあと]
[よるごはんをたべたあと]
[ねるまえに]
[といれのしかた]
[おふろのはいりかた]
[せんたくのしかた]
明らかに馬鹿にしているタイトルの数々。全てひらがなで書かれている所が余計に腹立たしい。そして最後に音が鳴り終わり、そこに出たタイトル。
[えんどうしゅういち くんのすけじゅーる]
そのタイトルに指を当てると出て来たのは昨日手書きで書かれていた紙の内容に似た文字達が表示される。
「7時半、起きる。顔を洗い、うがい・・・」
読み上げるのを途中で止めた周一。読み上げる意味が無いからと思った訳ではない。7時半から決められた就寝時間である22時まで書かれたスケジュール表。これを見続けて声に出したくないと思ったのだ。
そしてそのスケジュール表の下、最後の方に書かれてあった文が周一をより絶望へと堕とさせた。
≪しゅういちくんのあんぜんとけんこうのためにこのるーるをまもってね≫
①すけじゅーるのとおりにうごく
②わがままをいわない
③かえりたいといわない
④へやからでようとしない
⑤よふかしはしない
⑥あばれたりしない
そして最後に。
≪るーるをまもれなかったら、しゅういちくんもおとうさんとおかあさんもあぶないことになるから。ぜったいにまもろうね≫
≪メリークリスマス!≫
「・・・危ない?俺だけじゃなくてお父さんとお母さんまで?それにわがままを言わない?じゃああの紙はなんだよっ!?」
言ってしまえば脅迫だ。今年7歳になった小学1年生に。クリスマスと言う子供にとって楽しいイベントの日に。サンタからのプレゼントは貰えず。あのおじさんかどうかも解らない人からの脅迫というプレゼントによる絶望。
うぃ~ん・・・。
周一が絶望にタブレットを机に置いて立ち尽くしているとあの壁の方から機械音がなる。
音源に顔を向けると朝食が置かれていた。ご飯に味噌汁。焼鮭に目玉焼き。ごく一般的な朝食。
「・・・無い」
周一は朝食に近付くとある事に気付く。昨日にはあったあの折りたたまれた紙とペンが無い事に。つまり何か要求はもう出来ない。あれはきっとあの時限りだったのか。それとも誰か気にかけての物だったのか。それは今の周一に知るすべは無い。
朝ご飯を食べ終わって片付けた後、それ以降周一は言葉を発する事無くスケジュール通りに行動を開始した。




