4-3
-1日目-
男と病院を出た周一は出入り口で止まっていた高そうな車に一緒に乗る。移動し始めて1時間程経った頃に車が止まるとどこかの街のビルの前に降りた。そこにはテレビで最近見た事のあるあの会社のシンボルマークがあった。テレビで映っていた本社では無かったが、サクラコーポレーションが所有するビルと言う証がそこにはあった。
そしてそのままビルの中に入ると男と共に受付の所まで行く。
「用意は出来ているな」
「あっ、はい。今確認を・・・あ。丁度終わったみたいですね」
エレベーターから工具を持った数人の作業服の男達が出て来た。その中に居た受付の女性と同じ格好をした女性が首をコクリと縦に振って合図を送るとそれを見た受付の女性はそう男に報告する。
「よし。では行こうか周一君」
「え?うん」
会話の内容を理解出来ない周一は男に連れられてエレベーターに乗る。そしてしばらくしてエレベーターが止まり、降りた場所は通路の廊下。そして男に少し引っ張られる様にしてしばらく歩くと休憩所と書かれた場所に着く。側にあったカードを通す機械に男がカードを通すとドアが横にスライドして開いた。中を軽く確認した後に男が手を部屋の中に差し出して口を開く。
「さぁ。今日から此処がきみの部屋だ」
そう言われ周一は部屋の中に入る。そこは広さがある部屋。高そうな机とリクライニングの出来る椅子。その机には教材に使われるタブレットが充電コードと共に置いてあった。部屋の角には高そうなベット。そして個室のトイレに鏡のあるシャワールーム。水洗いだけで匂いと汚れが落ちるとCMでもやっていた乾燥機能付き洗濯機。周一は部屋を探索しているとある物が無い事に気付く。
「・・・あれ?テレビは?」
部屋の中にあって欲しい大画面でゲームをやるためのテレビがこの部屋には無かった。その事に気付いて入り口に居る男に聞く周一。
「・・・おじさん?」
だがそこに男の姿は無く。周一の目に映るのは閉じられたドアだけだった。
「おじさんっ!!?」
周一は不安になりすぐさまドアに駆け寄ってドアを開けようとするが、そのドアには取っ手どころか指を引っかける事も出来ない。ドアに手の平を張り付けてスライドさせようとするがピクリとも動かない。つまりこのドアは内側からは開ける事が出来ないドアだったのだ。
「ねぇ!開けて!!おじさん開けてよ!!」
しばらくドンドンとドアを叩くが外から誰かが応答する事は無かった。誰もいないと諦めた周一は不安が高まって泣きそうになるが、他に出られる所があるかも知れないと涙を堪えた。そしてRPGゲームで閉じ込められた時の定番、抜け道が無いかを探し始める。
「無い・・・無いっ!・・・」
部屋中を探し回った。あらゆる物の裏。壁が薄い場所は無いか。通気口の様な穴は無いか。
・・・だが。何処にも出られる場所が無い。それどころか建物にあるはずの窓がこの部屋には無かった。この部屋にもトイレやシャワールームにも空調が天井にあるので空気については問題無いだろう。だがそれよりも探し回っていて気になった物が2点あった。それは部屋の天井角。ケースで保護、固定された監視カメラが複数。トイレにも、シャワールームにもあった。そしてドアの横にある壁に付いているカウンター。高さは自分の肩ぐらいの所。その部分にドアと同じ様な作りの小さくて浅い窪みの壁が2つあった。そしてドアから離れている方にその壁を持ち上げて開けられる取っ手が付いていたが中は何もない窪みと同じ大きさの箱の様な空間しか無かった。
「助けてよ・・・お父さん。お母さん・・・」
監禁状態に不安に押しつぶされ絶望していく周一。もう後はただひたすら自分の泊まり支度を取りに行った両親が助けに来るのをただ待つ事しか出来なかった。ドアに腰掛け、膝を抱え、顔を伏せ。そして我慢出来ずに涙が流れだした。
あれからどのくらい時間が経ったのだろう。流す涙も疲れて枯れた。今は何もする気が起きない。もうお父さんとお母さんが迎えに、助けに来てくれてもいいころだ。もし自分がこんな状態になってる事を知らないとしても荷物が此処に届けられてもいいはずだ。・・・あのおじさんの話が嘘じゃないならだ。
そんな事を考えていると近くで何かの機械音が聞こえた。壁に付いていたあのカウンターからだ。気力も無くふらっと立ち上がってカウンターに近付くとドアよりの窪んだ壁が閉じていく少し隙間からコンベアの様な物と何かの影がチラッと見え。微かだが足音が聞こえた。そして閉じた窪みの壁の前、そのカウンターにはまるで給食の様な食事が盛られた食器がトレイの上に置かれていた。
「ご、はん、とハンバーグ?」
それを認識した周一は自分が不意に持って来ていた携帯ゲーム機を起動させて、時間が確認出来る画面を表示させる。
「・・・20時」
20:10と表示された画面をみてそう呟いた周一。休憩するためにゲームを一時止めたあの時。あの病院からすでに4時間以上は経過していた。ここに着いてからはまだそんなに長い時間は経っていないはずなのに周一には半日近い時間が過ぎていた様に思えた。
「・・・ははっ。こんなのより早く此処から出してよ。んーん。出してくれなくてもいいから・・・せめて誰か来て説明してよ・・・」
だがその願いは誰も聞き届けてはくれなかった。なので仕方なくそのトレイに手をかけようとするとある事に気付く。箸とスープ用のスプーンとボールペンが置いてある下に折りたたまれた紙があった。先にそれを手にとって開くと、そこにはひらがなと数字が手書きで書かれていた。
「安全になるまで出る事が出来ない・・・。ご飯は8時。14時。20時。何か欲しい物があればこの紙の空いている所。食器は1時間以内に取っ手のある方に入れる。紙も全部。・・・安全になるまで出る事が出来ない・・・」
書いてある内容を要略して読む周一。誰が聞いてる訳でもないのに声に出していた。似た内容は男から聞いていたはずなのに何故か紙の最初に書かれていた部分を2度読んだ。そして監禁されている理由についてはその部分だけ。
紙をトレイに置き、そしてトレイを持って机に置き、椅子に座って黙々と食べ始めた。そしてしばらくして、お腹が空いているはずなのに食欲が湧かないためか半分程残した周一は指示通りにあの箱に全部入れた。紙には欲しい物。ではなく願いを書いた。ここからでたい。いえにかえりたい。と。
そんな願いはきっと叶う事は無い。今はただ。次にあのドアが開く時にはお父さんとお母さんがそこに立っているはずだ。そう思いながら灯りを消す事の出来ない部屋のベットに入り寝る事にした。




