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漆黒の禍々しい翼に黒い魔力を纏わせながら登場したかなり露出度の高い恰好をした黒髪の女性、魔王ルシファーの登場に誰もが息を飲む。だが、そんな中。
「・・・よいしょっと」
アイリスが立ちあがり、建物の屋根辺りの高さに居る魔王の元へと宙に浮いてゆっくりと近付き始める。
「どうした英雄姫?我の予想外の登場に言葉も・・・ん?」
アイリスは右腕をゆっくりと魔王の前で上げると。
「ふぎゃっ!!??」
握り拳を作ったその右腕を魔王の頭めがけて振り降ろした。さすがにその光景にはヴォルグ達は驚かざる負えなかった。
「ルーちゃん!!なんでもっと早く出て来ないの!!!」
「うぐぐ・・・ル、ルーちゃんとは馴れ馴れしいっ!!我とお前はそんな親しい関係などでわぎゃっ!!???」
そして魔王の発言を無視してもう一発入れるアイリス。その表情は明らかに怒っていた。
「ルーちゃん」
「だからそんな・・・」
ニコッ。
その怒りに満ちた笑顔はこの魔王を黙らせるには十分な物だった。
「魔王ルシファー。そんでルーちゃんねぇ・・・」
「小僧っ!お間にその呼び方を許した覚えは無いぞ!!」
って事はアイリスには許してる訳か。
「ルーちゃん。そんな事より私とのお話が先だよ?」
「は、はいぃっ!!?」
そしていつの間にか暗くなっていたはずの辺りは元に戻り、宙に浮く魔王はアイリスと共に地上へ降り、自ら正座をした。
この世界の反省スタイルは日本式だった。魔王のイメージ的に土下座までしない事を心から願いたい。
「まず薬の事だけどっ!なんで・・・」
そして魔王相手に説教を始める英雄姫アイリス。さすがにその中に割って入ろうと思う物は誰もいないのか、2人を居ない事にして話を再開しようとクーラ達もヴォルグ達も。そして周一とイリスも顔を合わせてそう頷く。
「とりあえず、あなた達の身柄を私に預けてくださいますか?」
「そ、そりゃ・・・一体何でだ?」
「その理由については城でお話します。まずはその方。カイツさんでしたか?彼を癒すための場を用意する事が先決です。それにこの事態に一時的だとしても収拾が付いた事を民に伝え無ければ混乱が収まりませんので」
「だ、だからって!!こいつが居る状況でそれを信用しろだなんて!」
ステルス女は恐怖を押し殺しながら周一を指さして抗議する。
「いえ。彼にも関係がある話です。なので彼にはいて貰わなければなりません」
「だったら私達はすぐにライネスに帰らせてもらうわ!!この件についても報告しなければいけませんから!!」
「そうでござるな。女王には悪いとは思うでござるが。我らにも任務を遂行しなければならないでござる」
「それは君達がブリズとライネス。どちらの民も傷付ける事になったとしてもかい?」
「「!?」」
「それはどういう事かしら。ヴァンさん」
「言った通りだよ。君達は任務の失敗を報告しようがしまいが、既にもうこの結果はライネスには届いているはずだからね。周一の言っていた事が正しければ、いや。きっと正しいだろうからこう言えるんだろうね。君達が戻ればどちらも被害を受けるって事さ」
「あの、話が良く解らないのですが?」
「むぅ・・・シューイチ。あの事は彼等に伝えても問題無いと思うかい?」
説明に困ったヴァンがクーラとのアイコンタクトの後、確認するかのように周一に聞く。
あの事。クーラが俺に関わってると言っていたのでまず間違い無くスパイの話だろう。その論を出したのは俺だからな。そして、それをした場合のあいつらの反応は3つ。信じられずに反抗的な対応をする。美遊と似た様な対応をする。レヴォルの傘下になる。まあこの辺りだろう。結果、一番面倒事になりそうなのは最初のやつだよな。
「別に。それを美遊に話した時に何の反応も無かったって事は黒幕にとっては問題無いって事だろ。だったらこっちだって好きにすりゃいい。俺達2人としては目的の邪魔さえされなきゃそれでいい」
「・・・解った。まずは彼を休ませるために城へ移動しよう。そこで君達に僕達がシューイチから聞いた話をする。シューイチにはアイリス様に見張ってて貰う。そうすれば少しは安心出来るだろう?」
「何を勝手に!」
「君達は彼が起きて動ける様になるまでは何も出来ないはずだ。もし仲間を見棄てるなら君達の好きにすればいい」
そう言いながらヴァンはカイツを背中に担ぎ、役所への坂道を歩き始める。
「ちょっと待って!!」
ステルス女の声に耳も傾けずに歩き出すと周一の傍で止まった。
「シューイチは彼女達を頼めるかい?」
「ん?」
「少し掛かりそうだからね。それにアイリス様はシューイチを信頼しているみたいだからね」
ヴァンはアイリスとルシファーに視線を向けた後、周一に笑いながらそう言った。
「まあ。いいけど。信頼される要素どっかにあったか?」
「・・・正直、今の僕は君を信頼出来るかと言われたら答えられないと思うからね」
ヴァンはその問いに先程の周一の殺気が蘇るがなんとかその恐怖を押し殺してそう告げた後、クーラと共に役所へ向かって歩き出した。
ヴァンはダンジョンで感じた凄まじい殺気が周一の物だった事にあの瞬間気付いた。つまりアイリスは少なくともその殺気を2度は感じ取っている。あの場にいたもう2人。美遊とテルフィアの反応から見てそれは明確だった。だがあの殺気で平然としていられたのは周一の傍にいる板に映る少女イリス。そして英雄姫アイリスのみ。他の誰もが彼を敵にしてはいけないと本能が訴えたはずだ。と、ヴァン自身がその恐怖に打ち勝つために冷静に今やるべき事を考えているだけで精一杯だった。
「ミ、ミユ・・さん。私達も・・・」
未だ体の震えが収まっていないテルフィアは自分より震えている美遊になんとか声をかけると美遊もその声にコクリと頭を縦に振ってなんとか受け答えをし、覚束ない足でヴァンとクーラの後を追って行く。
そしてどうする事も出来ないヴォルグ達は言われるがままその後を追って行くが、誰もが周一の姿を視界に入れたくないのか、目線を下に向けていた。そんな光景を無表情で眺めてる周一は自分の世界での似た出来事が少しだけ過ぎった。
「まあ・・・こうなるよな」
『ますたー。私がいるって!』
「そうだな」
あの時からの出来事。誰もが俺を認めなかったあの顔の数々を。だからこそ。たとえ元の世界に戻れなくてもいい。笑えて過ごせる場所を。探して。見つけて。そして・・・
「んで。そっちのお二人さん。話は終わりそうか?」
「・・・・・・・・・あっ!えっ!?あれっ!!?」
急に声をかけられたアイリスは辺りを見渡し困惑している。
「奴等ならもうとっくに城に向かっておるわ」
それに対し、正座中の魔王が状況説明する。
「ええっ!なんで言わないのルーちゃん!!!」
「・・・言わせてくれなかったではないか・・・」
「あっ・・・」
教えたのに怒られたルーちゃん事、涙目の魔王は少し拗ねていた。
そんな2人を背に歩き出す周一。
「まあ、終わったんなら早く城に戻ろうぜ。じゃないとクーラがあいつ等に説明出来ないんだとさ」
『と言うかますたー。きっと話の流れで私が説明する事になるんだと思うよ』
「待て小僧」
歩き出した周一を魔王が呼び止める。
『「ん?」』
「まださっきの問いに答えて貰って無いぞ」
「ああ。さっきのか」
振り返ると足をプルプルさせながら立ち上がり、プルプルしながら仁王立ちする魔王の姿。
魔王ルシファー:正座耐性なし、と。
「足、大丈夫か?」
「何の事だ?我の足」
「つんっ」
「はにゃぁぁぁぁぁぁぁ////////」
アイリスの悪戯心によって足を指でつつかれ、可愛い声で喘ぎながらぺたりと座る。
「にゃ!?にゃにおすりゅアイリしゅ!!!」
「いやぁ・・・つい」
「つい、では無い!!まったく!いつまでも子供気分でいるで無い!!」
満足そうにそう答えるアイリスにさすがのふにゃふにゃ魔王もおこのようだ。
「あー、んで聞きたいのか?アイリスも?」
『一応言っとくとお勧めはしないよ』
「ん・・・シュウイチさんの事を少しでも知れるなら私は聞きたいかな」
「俺の事聞いたっていい事ねーんだけどな。まあいいならいっか」
アイリスの言葉に話す事を決意する周一。
「ちなみにこの世界には【人間に似た人種】。俺達の世界では空想上の人種で【亜人】って呼ばれてんだけど。そういう人種っているのか?」
「私はその呼び方は嫌いだけど・・・うん、いるよ。この世界、光と闇の国ライネスと風の国ブリズは人族。土の国フォレフォスのエルフ族とドワーフ族。火の国イグニーシャと水の国イシュエールの竜族。この4種族がこの世界の国々で暮らしている4種族だよ」
「ん?さっきあいつらが言ってた魔人ってのは魔族、みたいなのに分けないのか?」
「小僧。魔人は魔物の一種だ。人の形をしているからと言って人種と同類にはしない。と言うのがこの世界の地上のやつらが勝手に作った常識だ。ま、我としては知能と言葉を発せられるなら地上にいるやつらも魔空間にいるやつらもたいして変わらんがな」
魔空間。きっとダンジョンの事を言っているのだろう。その補足説明を言った魔王は気付けば足がどこかに触れないようにするためか宙に浮いていた。
「そう言うもんか」
「そう言うものだ。で、それがお前に何の関係がある?」
魔王は先程の問いの答えと今の話の繋がりがあまり見えて来ないのだろう。それを含め、再度聞き直す。
「俺は[変態]」
「えっ?」」
突如予想外の発言に驚くアイリス。だが周一の口はまだ続いた。
「[人殺し]。[人間じゃない]。[怪物]、[化物]。[死ななければいけない生物]。[認識してはいけない存在]。色んな呼ばれ方はしてきたが、自然に終着したのが」
そう答えていく周一はどこか虚しそうな姿だった。
「[ 無属 ]。人でも無く、人間でも無く。まして怪物や化物。そういった他の生物でも無い。何ものにも属さない存在。いつの間にか俺の世界の自称[人]が俺の事を勝手にそう呼んでいた」




