3-4
ヴォルグとその仲間達は各々移動を始めて陣形を取り、武器を構えて戦闘態勢を取る。大斧のヴォルグは前衛。大盾のカイツは中衛。ローブのヴィオラは後衛。ニンジャとステルス女はカイツの左右に陣取った。見た目通りの戦闘スタイルなら悪くは無い陣形だ。だが、だとしても大盾の存在だけが余りに異様だと感じてしまう。普通、敵の攻撃を受ける、ゲームで言うタンクの役目をするのならばヴォルグと同じ前衛に位置しなければ対応に遅れてしまうはずだ。なのに位置はヴォルグの後ろ。警戒するに越した事は無い。
「巻き込まれたく無かったらあなた達は下がってなさい」
ヴィオラが後ろの兵士達にそう伝えると兵士達はすぐさま距離を取るため、大型船の方まで向かって行った。
「あいつらはいいのか?」
「あぁん?ああ。俺達はこのパーティーでダンジョンに潜っていてな。連携の獲れない奴らが居たって邪魔なだけだろぉーが」
当然だと思える返答が返ってくる。
「そうだな。んじゃ俺からも少しだけ待って貰えるか?」
「何だ?気が変わって命乞いでもするってのか?」
「いいや。イリス。他に住民は居るか?」
「うん。さすがますたー。この広場だとあの建物とあそこ。あとここに来る通りにも何人か反応はあったよ」
「って訳だ。テルフィア。美遊。大声かけてでもいいから避難誘導しといてくれ。アイリスは此処にいて貰わないとあっちが困るだろうから頼めないしな」
イリスは生体感知の画面をテルフィアと美遊に見せて周一の指示を受けると黙って頷き、まずはイリスが指定していた広場の建物に入って行った。
「・・・いかれた奴かと思ったが案外優しいじゃねーかよ」
「ってかあんたも気付いてたなら待ってる間に避難させとけよ。勇者、なんだろ?」
テルフィアと美遊の行動を横目に見ながら称賛するヴォルグ。
周一はヴォルグと話している間、建物の窓から覗く2人の女性の姿を見つけていた。そこから察するに避難し遅れたか、誰かに待っていろとでも言われたのか。大方この2つだろう。
「こっちにはそもそも戦う意思なんて無かったからな。聞きに来たやつらにはそう伝えてある。非があるとは思わんが?」
「・・・さいですか」
確かに。そう言いだしたのはアイリスだ。
しばらくすると美遊とテルフィアが建物中から住民と共に出て来た。次々と2人が建物内にいる人達を避難先の役所へと誘導する中、先程美遊が避難させた見た目30代後半の女性と10代の少女。先程窓から覗いていた2人が周一の傍で立ち止まった。
「あのっ!どうかせめて別の所でしてもらえませんか!?あそこは主人の店なんです!!」
俺がライネスの勇者達と戦う事を美遊から聞いたのだろう。アイリス側に付いているためか俺が味方側だと判断したのだろう。戦いになるとなったら規模に関わらず周辺に被害が出る。巻き込まれたくないと誰もが思う当然の要求だ。
「・・・って言ってるけど?」
「・・・すまない。こっちも早急にと頼まれてるんでな。悪いが場所を移動してる時間なんて無いんだ」
「そんな・・・」
「おかーさん・・・」
ニンジャが懐中時計の様なものを取り出し、首を横に振ったのを確認するとヴォルグはその要求を断った。さすがに引け目を感じているのか親子を見ながらその表情が浮かび出ていた。
「俺としてはどっちでも構わないんだけどな。そんなに時間が無いのか?」
「ああ。どうしてもうちの王様はアイリス姫をあのいけ好かない無敵野郎のパートナーにさせたいらしい。他の勇者の情報でな。ライネスのダンジョンからヤバい奴が上って来ているって情報があってな。言っちまえば国のピンチって奴だ」
ヤバい奴って・・・
「それって翼がある赤いリザードマンの事か?」
「リザードマン?いいや。話じゃレベル130はある魔人らしい」
レベル130は大体あのリザードマン並みの強さだろう。まあそんな事、あのリザードマンみたいに俺達狙いじゃなきゃ俺としてはどうでもいい。
「それでアイリスとあいつでって事か?」
「ええ。クラーク大臣が見つけた書物の中にかなり急速にレベルを上昇させる秘儀があったらしいのよ。ただ体への代償が大きいみたいでね。王はあの無敵馬鹿の能力に期待して今頃その秘儀を行っていると思うわ。そして2人で迎え撃たせるつもりなのでしょうね。当の本人は喜んですぐに了承したそうよ」
それは予想が付く。あいつ、見た目通りっぽいしな。
「まあそんな事どうでもいい。とりあえずあんたら」
周一は落ち込んでいた親子に話しかける。
「もしあんたらの店に被害を出させないで事を済ませたらさ、あんたら何かしてくれんのか?」
「・・・え?」
「勿論、他の建物含めてもいいけどさ。増やせば増やす程、完全に守れってのは無理だからな。ちゃんとその分の報酬も貰うけどな」
「守って・・・くださるんですか?」
まるで希望を見つけたかの表情をする親子。
「でしたら」
「何でもは無しな」
「っ!!?」
まるで言おうとした事が解っていたかのように言う周一に驚く母親。
「・・・やっぱりな。報酬や代価に[何でも]ってのはあんたらの人生全てを捨てたとしても達成出来ない事すら要求出来ちまうんだ。言っちまえばあんたの意思に関係なくあんたの末裔に対してまで何でも出来ちまう程にな」
「・・・で、ですが」
「だから無闇に[何でも]って言葉は使うな。あんたの娘をそんな目には会わせたくないだろ?」
「っ・・・おかーさん」
周一にそう言われた母親は咄嗟に娘を強く抱き寄せる。
「って事で報酬が思いつか無いなら別に壊れちまっても文句はねーよな」
「・・・」
「シュウイチさん・・・」
何も言い返せない母親を見てさすがに酷いと思ったのか名前を呼ぶアイリス。
そんな顔すんなよ。ってか、そもそも戦えって言ったのお前だからね。
「やはりいかれてるでござるな。勇者じゃないとお主は言っていたが、そもそも勇者以前にそれは人としてどうなのだ?」
「悪いな。お前等が考える様な[人]ってやつ。物心ついた時にはとっくに辞めてんだ」
「「「「「なっ!!?」」」」」
ニンジャの問いにそう答えた周一。その言葉に重みを感じたのか、無意識に5人は体中に力を入れる。
「ごはん・・・」
「ん?」
突如、横槍を入れたかのように声が聞こえた。
「お店のご飯をお腹いっぱい食べさせてあげるからっ!!」
「はぁ?」
「だからお願い!!おとーさんとおかーさんのお店を守ってよっ!!」
母親にしがみ付く娘が泣きそうなのを堪え、真っ直ぐな目をしながら周一に懇願する。
『だって。ますたー』
「・・・そうだな。報酬があるならやってやるか。そもそも出来ない事はやらない主義だ」
「えっ?・・・いい、の?」
まるで予想外な反応に驚く娘。
「いいも何も、俺が出来る事を頼まれてそれに見合う見返りがある。後は俺の気分次第だろ?他に理由が欲しいか?」
「い、いえ!!どうかお願いいたします勇者様!!」
「お願いします、勇者様!!」
余程嬉しかったのか親子はすぐに立ちあがり、お礼を言うと美遊達が指示していた役所の方へと駆けて行った。
「あ、うん。勇者じゃないけどな」と口にはしたが、その頃にはもう親子には聞こえていなかった。それを聞いたアイリスは思わずクスリと笑った。
「ねえシュウイチさん」
「ん?」
「私もお願いしちゃおっかなっ」
「断る」
「まだ何も言って無いよおっ!!?」
『はぁ~。流れで行けるとか思っちゃ駄目だよアイリス』
「ううっ・・・」
しょんぼりするアイリスに呆れるイリス。
「アイリス。ちなみに聞いとくけどリアン達の反応からして空を飛べる奴って滅多にいないのか?」
「え?・・・うん。この世界で飛べる人は私とクーラにヴァンさん。美遊はあの箒の魔道具のおかげで飛べる様になったけど、他に飛べるって人は聞いた事無いよ」
「そっかなら安心した」
「おいおい黙って聞いてりゃ・・・まさか本当に勝てるとかほざくつもりかぁ?」
ヴォルグが周一の発言や態度にとうとう痺れを切らしたのか表情に怒りが出ている。
「ああ。しかも俺達に都合がいい。建物への被害は欠陥でも無い限りは最悪、窓かドアがぶっ壊れるくらいだからな」
「なん、だと?」
「つーことでイリス。頼むわ」
『はーい。あ、でもますたー。ちゃんとその分の魔力は送ってよね』
「ああ。解ってるって。俺じゃ城の時みたいに調整ミスっちまうからな」
そう言いながらあのリザードマンとの戦いでアイリスに教えて貰った魔力を武器に纏わせる方法で銀のブレスレットへと魔力を送る周一。感覚としては自分の体の内にある何かモヤモヤした湯気の様な物を体の表面に纏わせ、それを右腕の銀のブレスレットへと送っている。だがこれは体に力を入れてこのモヤモヤを操作している訳では無く、脳内でモヤモヤを動かすイメージをそのまま現実に置換しているのだ。
『うみゅ~きたきたぁ~・・・でも私だってあの時が初めてなんだよ?失敗しても文句言わないでね、ますたー』
「んじゃそれを考慮して、アイリス。建物にあのバリアをしといてくれないか?」
「バリア?」
「あの時の壁みたいな魔法で防いでたろ」
「ああ!それって魔力障壁の事かな?魔力操作が出来るならシュウイチさんでも出来ると思うけど?」
あれはバリアでは無く魔力障壁と言う物らしい・・・ま、そんなのどうでもいいって。
「魔力操作ってのは今俺がしたやつだとして、つまりは自分の魔力を使って壁を作る感じでいいのか?」
「うん。それであってるよ・・・ってあれ?」
「・・・上手く形が出来ないな」
周一はアイリスに聞きながら試しに、あの時アイリスが出していたバリアをイメージしながら左手を出し、その先に小さい壁の様なバリアの魔力障壁作ろうとしたが形状がぐにゃぐにゃして上手く形を作れなかったので魔力操作を止めた。
【その子と同じのを作ろうとしても駄目だよぉ~】
突如として声が聞こえる。この抜けた感じの声はウィングだ。
(そうなのか?)
【うんうん♪君は魔法について詳しく理解して無いでしょ?】
(理解って、火とか水。何も無い所からそう言ったのを出すのが魔法だろ?クイック・エアブラストもそうだろ?)
【そうだねぇ~。でもあれは私達がいたから出来たよぉ~な物だけどぉ~。でもその魔法ってそもそも人間達が勝手に付けた概念なんだよねぇ~】
勝手に付けた概念?
(・・・言ってる事が良くわかんねーんだが)
【うーん。私もただなんとなく力として風を操ってたから上手くは言えないんだけどねぇ~。ましてクイックなんてぇ~、もっと知らないだろうしぃ~】
(なんとなくって・・・)
【とりあえずぅ~。私の力だけを使ってを盾っぽいのでも作ってみれば解ると思うよぉ?ちょうど使い時みたいだしぃ~】
(は?)
そのウィングの言葉を聞いた途端、まるであの勇者達の動きを読んでいたかのようにニンジャとステルス女が同時に駆け出し、左右から撹乱させるかのように迫って来ていた。
「おいっ!まだこっちの準備が」
「何処に敵が万全になるまで待つ奴がいるっ!!」
「で、ござるっ!!」
今まで待ってたじゃんっ!!という心のツッコミをする周一。
『ますたー!』
「ったく、ぶっつけだがやるっきゃねぇっ!!」
そして左から来るニンジャは蹴りを、右から来るステルス女は右拳を仕掛ける態勢を取る。
「エア・シールド!!」
周一はそう叫ぶと両者に対して突き出した左右の手の少し先に白い盾の様な形をした物が出現する。先程とは違って盾の形は保っている。
「すごいっ!シュウイチさん!」
『さっすがますたー!』
「「くっ!?」」
ニンジャもステルス女も少し動揺するが攻撃を止めるつもりも無くそのままの勢いで攻撃を仕掛ける。
「・・・よしっ、と」
「確か、今の人が最後ですよね」
美遊とテルフィアはイリスに見せて貰った画面に表示されていた点付近の建物に入ったり、窓から覗いていた人には声をかけ、非難誘導を促し、そして最後の人を役所へと移動するように声をかけ終わったところだ。
「さて、戻りましょう!」
「・・・そうだね」
「私達も一緒に行きますよ」
「「!!?」」
その声に驚き、声の方へと振り向くと少し冷汗をかいていたクーラとヴァンがいた。
「・・・あ、あの。陛下?私のお母さんとお父さんは?」
「アンジュから逃げるた・・・こほん。くっ!リアンさんとカルドさんは、私達を逃がすためにっ!・・・うぅ、ごめんなさい・・・」
「そ、そんなっ!?・・・ヴァン様!!」
咳払いで何かを誤魔化した後、突如ドサッっと音を立てて腰を落とし、両手を地につける。そしてまるで悲劇があったかの様な素振りを見せる。その言葉が信じられないのか咄嗟にヴァンを見るが、そのヴァンはテルフィアの顔を見ようとはしなかった。
「・・・いや2人とも、アンジュさんから逃げて来ただけよ。テルフィア」
「うっ!!?」
「ぐっ!!?」
「ふぇ?そう、なんですか?」
純粋なテルフィアの心を傷つけた2人には美遊の呆れた言葉が痛いほど突き刺さった。
「なんで言っちゃうんですかミユさん!こうゆうのは物語的にも後で[実は生きていた]風にすれば今後の展開的にもいいでしょうにっ!」
「そうよっ!女王から告げられた名誉の死を遂げる両親。それを乗り越え、強くなって行く娘。ヴァンから聞いたお話の様にすれば色々と面白くなったのにっ!!ミユ!勇者ならそれぐらい察しなさい!!」
「えっ、ええええー・・・」
この開きなおり、何故か美遊の所為にしようと責任転化するブリズの勇者と女王に唖然とする美遊。
「あの・・・」
「え、ええ。2人なら平気よ。・・・多分」
「からかってゴメンね。・・・それよりもシューイチ達は?」
「あ、はいっ!話の流れで交戦中になってると思いますです」
それを聞き、広場の方を見る。この広場と役所の中腹辺りからでも広場の様子は良く見える。
「「「ええっ!!?」」」
「・・・うそ」
4人がそこに見えたものは・・・。




