2-11
「それってどういう事!!?ライネスの勇者なら円道さんだってそうでしょう!?」
理由を求めてくる美遊にイリスがため息を吐く。
『それはますたーがちゃんと同じ様に召喚されて、同じ待遇を受けてる場合でしょ』
「それにお前がスパイをやってるとは言ってねーだろ。された可能性って言ったろ」
「っ~~!!・・・もう言ってる事がめちゃくちゃっ!!アイリスっ!!」
「あ。うん、えっとね」
美遊は理解出来ない事に痺れを切らしたのかアイリスに説明を求める。
「ミユ。あなたとシュウイチさんとの違いって何だと思う?」
「えっ?それはさっき言ってたちゃんと召喚されてるかどうかじゃないの?」
「うん。それもそうなんだけどね。決定的な違いはインテリングがあるか無いかなの」
「インテリング?」
アイリスの言葉に自分のインテリングを見る美遊。
「うん。異世界から召喚された勇者がこの世界で言葉を交わすために作られたそれはライネスの勇者限定の魔道具なのは知ってるよね。その条件が限られている事も」
「うん。それは知ってるけど・・・」
「んじゃ、おかしいと思わなかったのか?」
「・・・何が、ですか?」
話に入る周一に少し言葉に詰まる美遊だったが今度はちゃんと顔を見て聞けている。
「確かに、効果を聞く限りじゃ凄いもんだと思う。でもさ、それって勇者に必要か?」
「当たり前じゃないですか。これがなきゃこの世界で会話なんて出来ないでしょっ!?」
「んじゃ、ついでにもう1個確認だ。それを嵌めるまで誰かと会話したか?」
「しましたよっ!でも言葉が通じなくて・・・これを受け取るまで私怖かったんですよっ!」
「なるほどな。・・・えっとクーラ・・・さま」
「ふふっ。呼び捨てで構いませんよ。その代わり私も同じようにシューイチと呼ばせて貰いますから。ヴァンもそう呼んでますし・・・それで、何でしょう?」
敬称に慣れていない周一を見てクスリと笑うクーラ。
「ああ、悪いな。クーラのとこの勇者ってライネスのようにたくさんいるのか?」
「いいえ、ヴァンだけです。同じ様にライネス以外の国は1人しかいません。召喚の条件は精霊と契約し、精霊を呼べる者です。契約相手は精霊が決めて、その人のみ勇者召喚を1度だけ出来る権利が与えられます。なので契約者が死ぬまでは別の勇者が召喚される事はありません。例え勇者が死んだとしても再召喚は出来ませんよ」
「まぁ、良くある物語に良くある有りがち設定だな。ちなみに昔からライネスは勇者をたくさん呼べたのか?」
「いえ。あの方が魔王をしていた頃は同じ様に1人だけだったはずですよ」
あの方?魔王をしていた頃?あれ、なんか引っかかる発言だな。
「・・・ま、いっか」
「はい?」
「いやこっちの話。んでインテリングってのはそん時からあった?」
「そこまでは・・・。ですが、魔王の封印が解かれたとライネスからの報告があってからは独自の召喚術で勇者を多く呼べる様になったと言う話を聞いた頃からはあったと思います。その時から続々に召喚されたライネスの勇者達にはインテリングが嵌められていましたので・・・ああっ!」
クーラも自分で話しているうちに何かに勘付いた様だ。ヴァンも気付いたクーラに合わせたかのように「そういう事か」と小さく呟く。
「そういう事だ。俺はヴァンと話した事で気付けたが、美遊と同じ状況だったらありがたく思っちまって少しも疑問に思わないだろうな」
「あの~・・・気付けたって?話を聞いている限りだとそのインテリングが怪しいって事だけしか解らないんですが・・・」
テルフィアが申し訳なさそうに手を上げて発言する。カルドとリアンも同じ考えだと言う顔をしている。
「ああ。俺とヴァンがインテリングの事で話した事を覚えてるか?」
「えっと、確か凄い魔道具って」
「あはは。確かに言いましたね。でもそこではないですよ」
「えっ!え、えとっ・・・あとはっ」
ヴァンのイケメンスマイルに慌てて他を思い出そうとするテルフィア。
「重要なのは、ブリズで召喚された勇者はこの世界の言葉が話せるようになっている。付け足すならライネス以外の国もです。そうだろう?シューイチ」
「はい?」
ヴァンの説明に理解が追いついていないテルフィアだった。
「ああ。イリス、頼む」
『あいあいさーっ!』
イリスが掛け声を言うとこの部屋に居る人達全員に見せる様に個々にウィンドウ画面を表示させる。
そこにはデフォルメ化されたイリスの絵が描かれていた。
「こっ、これはっ!?」
「イリスに聞いてくれ。俺は疲れたから休む」
「は、はあ?」
『私だってお休みとか癒しとか欲しいんだよ、ますたー』
「イリス。頑張れ」
『っ~!!!うん!頑張る!!』
驚いた様子で画面を見るクーラの質問に簡単に答える周一。クーラだけでなく兵士達、カルド達もその画面に手で触れようとするが何度やってもすり抜ける為、イリス本体の画面と交互に見ながら不思議そうな顔をする。そのイリスは周一に応援されたためか目に見えるやる気のオーラを出している。
ああ、やっぱずっとこいつの事気になってたのね。・・・アイリスもか。
イリスが喋っている時の全員の反応が不思議な物を見ている様な顔をしていたのは理由はそういうことだった。イリスの事をちゃんと説明していないので不思議がるのも無理は無い。ただ説明するのは面倒なのですごい存在とでもこのまま思っていて貰おう。
『はーいっ!それじゃあっ、解らない人達のために説明するよ~』
任されたイリスが返事をしてから画面の中のデフォルメイリスを動かし始める。
『まずは美遊の疑問を晴らしてあげるね』
「えっ?」
『ますたーが言ってた美遊がスパイにされた可能性ついてだよ』
説明のために美遊に向くイリスの顔を見て、美遊は思わず周一を見てしまう。だがその周一は壁に腰を掛けてくつろいでいた。
『簡単に言うとスパイの元はそれ。インテリングとか言うその指輪なんだよ。もしそれじゃなかったら美遊には見えない魔物とかでもがくっついてる事になるけど、それはさっきますたーがお願いしたやつで確認したから、その候補は消えるんだよ。まあ、それでも無かったら幽霊的な物がライネスの勇者ほぼ全員にとり憑いている事になるんだろうけどね』
「えっ・・・ちょっ、ちょっとちょっと待って!さっきのって飛び回ってた事を言ってるの?それで何でこれだって解るのっ?」
まだ理解出来ない美遊はイリスに指輪を見せる様に言う。
「イリス。あれを見せてあげないと解らないんじゃない?」
『わかってるよ、アイリス。その理由はこれ、[せいたいかんちぃ~]』
画面の背景が先程アイリスと見ていた生体感知の画面になる。
なんかポケットから秘密道具出す時みたいな声で言うなよ。と思った周一。
『これはねぇ~あらゆる生体を最大半径100メートルまで感知出来る優れ物なんだぁ~。機能としては指定した種を選んだり省いたりしてこの平面座標に表示されるよ』
声を戻すくらいなら始めから普通に喋れよ。
「・・・それで?」
『一応言っとくけどこれはますたーを中心にしてるからね?今ますたーがあそこにいるからほんの少しずれてるけど。ちなみに美遊はこれね』
画面背景の説明をしたイリスは美遊の位置を指し棒で教える。
「これが私?・・・なんでみんなと違うのよ」
他に映っている白い点達はきっと自分以外の人達なのだろうと察した美遊は自分だけ違う事に不安を覚える。
『んーん違わないよ。美遊はちゃんとみんなと同じ白い点。ただこの赤い点に隠れているだけ。なんならその指輪の位置を動かしたりでもして確認すればいいと思うよ』
「えっ・・・・・・・・・あっ!?」
美遊は言われた通り指輪を嵌めている側の左手を横へと伸ばし、体の中心から遠ざけると微かだが赤い点がずれて白い部分が見えた。
『解った?美遊は箒で空を飛ぶ時、跨るんじゃ無くて横に座って飛ぶから自然に指輪の位置が微妙にずれるんだよね。それで移動する時、何かがいたりしたら多少ぶれる筈なのにこの状態をずっと保ってるんだもん。そしたら美遊の身に着けてる物で動いて無い物をが怪しいけど、服は着替えて変わるから除外、箒はさっき美遊が降りた時に消してたしそれも除外』
「・・・」
美遊はイリスの説明を聞いてつい、自分のインテリングに目を送ってしまう。
確かに服は寝る時などで脱いでいるし、この世界に来た時からの学校の制服や持ち物はもしも帰れた時のために残してあるがそれは能力によって今は収納されている。あの箒も最初っから持っていた訳ではない。もし盗聴器みたいな物を誰かの所有物に付けるなら常に持ち歩く物、身に着けている物に付けておきたいだろう。そう、つまり・・・
『そしたら後はそのインテリングだけ。まぁ本人に、というかライネスの勇者達にはスパイとしての自覚が無いし、そもそもしてるなんて考えてもみないだろうしね。だってライネスの勇者にとってはこの世界で生きて行くためにはほぼ必須の重要アイテムなんだもん。まず疑う事すらしないし、肌身離さず身につけておくだろうし。仕込むには打ってつけだよね』
美遊はイリスの説明が終わると自分の所為で情報が漏れていたのかもしれないと理解し、唾を飲み込まずにはいられなかった。
「状況からすれば今のが常に相手の有利な状況になっていた理由なんだろうね。毎回警備が手薄な所ばかり狙われていたのは」
「そうね。それに警備だけじゃない。レヴォルの情報の全てが、メンバーの中にいるライネスの勇者達から本人達も知らない内に漏れていたとなると・・・」
ヴァンとクーラの会話からして思い当たる点があるのだろう。
カルドの店で美遊が話してくれた情報から察すると敵側のライネスの勇者が毎回脆い所を突いて、国の力の源でもある妖精王の宝珠を狙い続けてきた、と。まぁ、こんなところだろう。だがこうやって話し合いをしているぐらいだ。きっと宝珠は守れているんだろう。・・・あれ?精霊王の宝珠だっけ?
「じゃあよ・・・いったいそんな事、誰がどうやったんだ?」
カルドがもっともな疑問を口にする。
『生体感知に反応したって事は生命のある存在。私が知らないカテゴリーだからまず魔物類である事は間違いないけど・・・でもそれって聞いて意味ある?』
「なっ!?当たり前だろっ!」
そのイリスの発言にカルドは驚き、当然と言った顔をする。周りも同じような反応をするが、その中で周一が軽口を挟んだ。
「意味なんて無い。というかそもそも、スパイがバレたって黒幕には関係ないんだよ」
「なんでだっ!?」
カルドの当然の疑問が返って来る。
「じゃあ、聞くけど。スパイされてる事を今知って、おっちゃんは何をする事から始めるんだ?」
「そんなのは決まってるだろ。とにかく・・・まずはだな・・・そうっ!ライネスの勇者達からインテリングを回収して・・・それからはその黒幕探しを・・・」
「まぁ、そうなるわなぁ。他の奴らもそんな感じか?」
周一が周りに声をかける様に聞くとリアンとテルフィア。クーラとヴァン。兵士達がそれぞれ少しの間があったが徐々に頷いていった。だがその中でアイリスと、インテリングを両手で隠す様に握る美遊は頷かなかった。
「アイリス様?ミユさんも・・・どうしたんですか?」
「理由は個々に違うかもしれないが、まあそれが関係無いって言う理由だ。この辺まで黒幕が考えてたらかなり頭の切れる奴って事になるな」
「それってどういう・・・」
「アイリスはそれをしたら現状が悪化する事が解っているから。ミユはインテリングを回収されたくないから。って事まで言えば解るか?」
「えっ?ミユさん何でっ!?だってそれじゃあミユさんがスパイのままですよっ!?」
『いや、スパイしてるのは指輪の方だからね』
テルフィアがそう思うのも無理は無い。インテリングの回収を拒否すると言う事はライネスにいる黒幕の片棒を担ぐ事を解っていてなお、それを身に着け続けると言う事になるのだ。
「テルフィア。だからなんだよ、黒幕にとってバレた所で関係ないんだ」
「だからって何なのっ!?」
「止めてっ!!」
2人に対して声をあげる美遊。
「わ、私が・・・今から我慢すればいいだけの事なんだから。私、少しだけどこの世界の文字を覚えたし・・・ね、テルフィア?」
「ミユさん・・・」
指輪に手をかけ、外そうとする美優に思わず名前を呼んでしまうテルフィア。
『あ、それ外さなくていいよ』
「「・・・えっ!?」」
『そんな事したって無意味だもん。もうレヴォルの存在だって色んな秘密だって、ましてその事がバレた事だって。仮説通りならもうその黒幕に伝わってるんだから。もし仮説が位置情報だけ伝わってるって場合ならまだラッキーな方だと思うけど?って言ってもクーラ達を見るとその線は無いだろうけどね』
「「・・・・・・」」
余りの脳無し発言に言葉を失う2人。
「いやいやいやいやっ!!仮説だろうが事実だろうがこれからの情報は相手に伝わらないでしょっ!!?」
「アイリスもリアンも無意味って解ってんだろ」
「うん」
「そうね・・・テルフィア」
「おかーさん?」
「まずその策の大前提。レヴォルにいるライネスの勇者達全員からインテリングを回収できると思う?」
「そんな事、説明して納得してもらうしかないでしょ?」
当然の答えだ。だが問題はそこじゃない。
「その時間はどれくらいかかるの?それに美遊の様に我慢して渡す意思を示してくれる人はいいわ。でもそれを回収されてしまった人は会話が出来なくなるのよ。その先どうやって作戦や指示を伝えられるのかしら?」
「ああっ!!?・・・ごめんなさいミユさんっ!!」
「別に謝らなくてもいいって。・・・仕方ない事だから」
リアンに気付かされ、テルフィアは美遊の方を向いてすぐに謝る。
『無意味ってのはそこなんだよ。回収されたらライネスの勇者達にとって、というか人として重要な言葉を奪われたら何も出来なくなっちゃうからね。美遊は文字を少しでも覚えたから我慢するとか言ったんだろうけど、他がそうとは限らないしね。もしその場合は全力で拒否するだろうね』
「うん・・・だから無理矢理でも回収しようとしたらみんな怒っちゃうかもしれないんだよ」
イリスとアイリスの説明に俯くテルフィア達。
黒幕がここまで策を練ってのスパイ行為なら本当に凄い事だ。放って置けばそのままスパイを続行出来る。インテリングの回収を強行したり、この事を話す離さないに関わらず勇者達を除外した会議などを行っても、不信・不安が抱き始めた者達が募り始めたら最終的には内乱・寝返りに繋がる。まさに八方塞と言うやつだ。
「じゃあ・・・どうしたら・・・」
テルフィアの言葉に誰もが考え込む。だが2人だけは違った。
『簡単だよ。と言うかそれを解決するきっかけを相手が作ってくれるわけだしね』
「えっ!?ど、どうやってっ・・・」
『アイリスもニブチンだなぁ~。ますたーっ!』
「はいはい・・・っと」
イリスに呼ばれ周一は立ちあがると、イリスの所ではなく美遊の方へと近づいた。
「っ!?・・・えっ!?なっ、何っ!!?」
目の前で立ち止まられた美遊は少し顔を赤くし目線を逸らす。が、周一はインテリングをじっと見つめ、そして手首を掴んで美遊のインテリングが自分の顔の前に持ち上げる。美遊は突然手首を掴まれた事に理解が追いつかなかった。
「んじゃ。えーと、これ使って聞いてる?見てる?もし位置情報だけだったらメッチャ恥ずいな・・・んまぁその辺はどうでもいいんだけどな。城に居た時、あーやってアイリスを閉じ込めたり血眼になって捜すぐらいだ。よっぽどあんたらはアイリスが欲しい訳だ。つーことはもうとっくに此処に刺客でも送ってんだろうけど・・・それがどんな奴かはしらねーがその刺客、死ぬからな」
周一の突然の演説に全員が黙り込む。
「だから全戦力を持って俺を殺しに来た方がそっちの計画、上手く行くと思うぜ。まっ、どんな計画はしらねーけどなぁ。宝珠を狙おうがアイリスを狙おうが、俺の目的の邪魔だと思ったら容赦なく殺す。ああ。あとあの模擬戦で見せた魔法な。アレ同時に何発でも打てるし連射できるし威力も上げられるんで。ってその事はそっちも知ってるか。んじゃ、くれぐれも俺の邪魔とか目障りな行動すんなよ?」
淡々と軽口で言う周一に全員が喋っていいのか解らなくなってしまい目線を送り合う。
「よっ・・・と。はい、終わり。こんなもんでいいだろイリス」
『んんー・・・ますたー。私達2人の目的、なんだよ』
「ん?ああ。わりぃ」
『それにもっと悪っぽく言わないと抑制にならないよ?』
「悪って、お前なぁ・・・」
「よく・・・せい?」
疑問を口に出したのは美遊だった。
「そっ。簡単な解決法だろ?ライネスの計画の内容にもよるけどな、俺の目的の邪魔だと思ったら消すって脅しときゃ下手に手出しできないだろ?だって俺の目的なんてライネスにも美遊にも言って無い。知ってる奴なんていないんだ。何が俺の邪魔になるかなんてあっちは解らないんだからな」
「・・・ぷっ。なるほどっ」
突如クーラが笑い、納得する。
「確かにそれならシューイチの目的はこの世界の誰も知らない事になりますね。でもそれはシューイチが憶測で言っていた刺客とやらが来ないと始まりませんし、ましてその刺客を圧倒的な力で対処しないと抑制にもならないと思いますが?」
『刺客は来るよ』
クーラの問いにイリスが答える。
「根拠は?」
『アイリス。さっきますたーが言ったでしょ?理由は私もわからないけど』
「わからねーのかよ・・・ってお前は知らないんだったな。俺と出会った後のアイリスがいた場所・・・ってかその辺はアイリスの方が詳しいだろ」
「ふぇっ!?わ、わたしっ!?」
「そりゃな」
「・・・って言われても、私がいた場所ってシュウイチさんが居た牢屋の奥の部屋だよ?魔法が使えない部屋に閉じ込められた後はルーちゃんから聞いてた美遊が作った抜け穴を探して、ネズミになって、それからシュウイチさんの所に・・・~~~~~~~っ!!?」
「ん、どした?」
「・・・もしアイリスが扉を見て無いんだったら知らないと思うよ、円道さん」
悶え始めてしまったアイリスに代わり、美遊が答えた。あの時からは見違えたと思える程、美遊が周一を呼びかける姿は平然としていた。
「アイリスが居たあの部屋は元々は囚人達の所持品の保管庫なんです。その保管庫を改装していた兵士達に聞いたらアイリスの客間用にすると言っていたので。それで上手く理由を付けて中に入って、家具の裏に土魔法で小さな抜け穴を作ったんです。その少し前にあの人がもしもの時のためにそうしておけって書かれた紙を渡されていたので」
アイリスの客間用ねぇ・・・事前に準備してる時点で何かはあるよな。
「・・・んまぁとにかく、誰にも渡したくないって言う風にそこに入れられたアイリスは多分あいつらにとっては余程重要らしいんだが、何か知ってるか?」
「それは・・・話からして私達よりもあの方に聞いた方が詳しいかと」
「そうだね。シューイチ。その事はルシファーさんに聞いた方が早いと思う」
「・・・ルシファー、さん?」
アイリス言ってたルーちゃん。それにヴァンが言うルシファーさん。その名前って確か・・・。
『それって、ライネスの王様が言ってた』
その時、突如謁見の間の扉が激しく開かれた音が部屋中に響き渡り、全員が音につられる様に扉の方を向く。
「陛下!!ヴァン殿!!港区からの報告ですっ!ライネスの勇者数名、及び兵士達が早急にアイリス姫を引き取りたいとの要求がっ!応じなければブリズに戦を仕掛けるのも止む負えないとの事ですっ!いかが致しますかっ!!?・・・・・・陛下?」
扉から現れたブリズの兵士の報告に謁見の間に居た一同はみな周一に視線を集めていた。
「・・・アイリスっ!」
「は、はいっ!?」
「俺もなんとなく1度ルーちゃんって奴に話を聞きたくなった。そしてそいつを殴らせてくれ」
「え?う、うんっ!もちろんだよっ!・・・えっ?殴る?」
何故周一がここでそう言ったのか。アイリスは理由が解らなかったがとりあえず話を合わせた。
「よしっ。姫様の許可貰えたところで、っと。軽く蹴散らしてくるか。俺の話はそれからだ」
そう言い、周一は報告に来た兵士に近付き、「道案内よろしくっ」と軽く声をかけた後に扉から出て行く。
「・・・あの」
「ええ。お願いします。フォイ騎士長。彼を港区まで案内してあげて下さい。私達も後に続きますので」
「はっ!承知致しましたっ!」
フォイ騎士長と呼ばれた兵士はクーラの命を受け、周一の後を追う様に謁見の間を後にした。
「クーラ、警備の方は大丈夫なの?」
ヴァンの手を借りて王座の椅子から立ち上がり、王妃のドレスが擦れる音と共に扉へと向かうクーラに声をかけたアイリス。
「ふふっ。私の国を甘く見ちゃだめって前にも言ったよ、アイリス」
すれ違いざまにアイリスの耳元でそう言ったクーラ。その言葉を傍で聞いていたヴァンはアイリスに向けて声には出さないが笑顔で同意の意思を示す。クーラ達はそのまま歩き出すとアイリスはクスリと笑い「すごいなぁ」と小さく呟いた。




