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「っと・・・にしても。おっさんとこの転送陣といい、ここといい・・・便利だな、それ」
「えっ。ああ、これですね。レヴォルの証はこういった裏道を通るための通行証ですからね。むしろ今回みたいな時はこれが無いと不便に感じてしまう程ですね」
風の勇者と名乗っていたイケメンジャージのヴァンは一度ポケットの中にしまったメダルを周一に見せ、そして苦笑いをしながらまたポケットの中へとしまう。レヴォルの証を持っている。つまりはヴァンもライネスに対抗する組織のメンバーという事だ。
周一達の目的地であった第9層、平坦な大地の浮遊島エリア。今いる場所は先程リザードマンと戦っている時にイリスが風の斬撃魔法で真っ二つに切った島の傍にある島に来ていた。だが、ここに来るまでここは・・・ここには島も何も無かったはずだった。だが、周一と一緒に先頭を歩いていたヴァンが島の端に立ち、ジャージのポケットから出した美遊と同じペンダント。では無く、六角形の星の模様が刻まれたメダルを取り出し、何も無い雲の先に翳すとこの島への光る道が突如として現れたのだ。そしてその光る道は全員が渡り終わるとすぐに消えてしまった。
「っていや・・・それよりも」
「ええっとその・・・シューイチさん?」
「なんだ?」
ヴァン歩くペースに合わせなが並んで歩いているとテルフィアが気まずそうに話しかけてきた。
「アイリス様の扱い、雑過ぎません?」
「んー?配慮した持ち方だと思うけどな」
「いやっ!どう見ても荷物扱いじゃないですかっ!!?」
先程、この島に入った時に丸まってしゃがんでいるアイリスを見つけた一行。周一はしゃがんでいるアイリスのお腹の部分に左手を入れ、荷物を抱える様な持ち方をしていた。テルフィアの指摘も当然である。こんな抱かれ方、年頃の乙女は絶対にされたくないだろう。ヴァンもその事について聞きたかったのあろう。イリスも同じ事を思っていたのか周一の頭の上で頷いていた。
「・・・・・・」
「特に何も言わないし・・・いいんじゃね?」
周一は抱えているアイリスを見たが何も言わなかったため問題無いと捉えた。
しかし、アイリスにとっては問題しか無かった。
アイリスは生まれて初めて親以外に、しかも男の人に抱かれて移動するというトキメキ☆ドッキドキシチュエーション。乙女なら誰しも前だろうが背中だろうが、抱っこに憧れている。
だがっ!アイリスは横!!アイリスの初抱っこは横なのだっ!!!
アイリスは何も言わないのではない。現状を理解したくないと乙女の防衛本能が思考停止という手段を取り、放心状態に陥っていたのだ。ただ、放心状態でも手足が地面にこすれない様にするため、無意識に肘と膝を曲げていた。
「良くないですよっ!!もっとこう、背中とか・・・お、お姫様抱っことかっ!!」
少し恥ずかしがりながらもテルフィアがその乙女ワードを声に出すと、アイリスが反応したかのように少し体をピクッとさせる。
「まぁ・・・それは俺も考えたんだが、現実的に考えるとちょっとな」
「現実的?そんなの抱っこにあります?」
「気にならないって人なら問題無いんだろうけどな。んじゃ背中に抱っこしたとするだろう?」
「はい」
「テルフィアは知りあって間もない男に足を触られたり、背中に胸を当て」
「ないですねっ」
例え話を言い切る前にいい笑顔で答えるテルフィア。その話を聞いていたリアンも、肩を貸している3人の若い女性達も同意見なのか頷いていた。
「・・・まぁその反応からして、お姫様抱っこも同じだろうな」
「当然ですっ!むしろもっとあり得ないですっ!」
俺としてはどっちも大して変わらない気がするが・・・女にとっては重要なんだろうな。
「じゃあ、ヴァンのようなイケメンが同じ行為をするとしたら?」
「「「「っっっ!!!???」」」」
その言葉に肩を貸しているテルフィアと3人の魔法使い達が一斉に期待に満ちた熱い視線をヴァンへと送る。その反応に話の内容を理解したイケメンは女性陣の方に向き「機会があれば」と笑顔で軽く流す。
その顔とセリフに歓喜の声を上げる女性陣。
ほらなっ。結局顔なんだよ。
「・・・まぁ、許されるか許されないか。そういった意味での現実的だ。世間が何と言おうと俺は自分の事をそうだと思って無いからな。だからもし、するとしても頼まれた時ぐらいだろうな」
咄嗟に思いついた言い訳を言ったが、抱っこをしようとして嫌がられたら辛いという周一の勝手な思い込みである。実際どうなるかは解らないがリスクは減らしたいという周一の思考がその言い訳を思いつかせた。
「・・・ほしぃ」
「はっ!?・・・ゴホン。なるほど。でも私的にはシューイチさんもかなりイケメンだと思いますよ」
『そうだよっ。私だっていつも言ってるじゃん!』
「ははっ。あんがとよ」
『ほらぁ~。すぐそうやって流すぅ~』
軽くあしらう周一に不貞腐れるイリス。
ん?ってかさっきなんか聞こえたような?
「あははははっ。この世界に来て間もないはずなのに凄いですね」
「凄い?」
「っ!?」
ヴァンのセリフにあれからずっと黙っていた美遊が反応する。
「そうですよ。普通は慣れるまで結構時間がかかりますから。私もそうでしたから」
「なんか聞いた事ある気が・・・デジャブ?」
本人は覚えていないが美遊ははっきりと覚えていた。周一と初めて会って会話した時の内容を。
「まあその話はクーラと一緒に・・・あっ。クーラは風の国、[ブリズ]の女王です」
「へぇ~。んでお前がその勇者と」
「はい」
「ライネスとは違って指輪とか無いんだな」
「ああ、インテリングの事ですね。ライネスと他の国では召喚方法が違うみたいなんですよ。インテリングは無いですけど。それでもこの世界の言葉を話す事は出来るようになりますからね。でも確かに、聞いた話だと凄い魔道具ですよね」
「そうなのか?」
「そうですよ。あの魔道具は言語という壁を超えるすごい物なんですよ。文字も楽に読めるそうですし。私も欲しいと思ったぐらいです。ただ、ライネスの勇者だったらの話ですが」
「・・・確かにな」
周一もあの青い剣を手にするまでは全く言葉が理解出来なかった。そして美遊が来るまで、インテリングが手に入らないと解ってから、この世界の言葉を理解する事が出来ないだろうとまで考えていたのだ。
「それにシューイチさんだってインテリングを身に着けて無いじゃないですか」
「周一でいい。男にさん付けされんのはなんか気持ち悪い。ましてイケメンの敬語はムカつく」
カルドにも言った事をヴァンにも言う。本音のオマケ付きで。
「はははっ。君は正直だな。じゃあシューイチ。むしろ君と普通に会話出来てる事に疑問を持つべきなんだろうけど・・・」
「そうだな。その辺の事も、そのクーラってお前の女王様と一緒に話しておくか」
「ああ。頼むよ。じゃあ、行こうか」
会話をしているうちにいつの間にか大きな祭壇の前へと来ていた。祭壇の大きさはかなりの物だろう。少なくともここに居る人の3倍ぐらいの人数は祭壇に立てるだろう。
祭壇の上に全員が立つとヴァンのポケットのレヴォルの証、六角形の星が刻まれたメダルが光り出す。ヴァンだけではなく周一とアイリス以外の人がそれぞれのレヴォルのが光り出す。それに共鳴するかのように祭壇に大きな魔法陣が展開された。
「ああ。そう言えばシューイチは・・・って無くても問題無いか」
「ん?」
「いや、証が無くても大丈夫って意味さ。本来は要るんだけど・・・そうしてるからね」
周一を見て証を持っていない事に気付いたヴァン。だが問題無いと言うその言葉の理由を周一の抱えている人物に視線を送った。
「ああ、証を持っている人に触れてればって意味な。俺、アイリスのそれ。見た事無いけどな」
「アイリスは持って無いわよ」
「ん?」
ヴァンの視線と同じ所を見た周一は納得するが、リアンが補足するように答える。
「アイリスの存在自体が証として認証されてるからよ」
「はぁ?」
「あの方がそういう風にレヴォルの証を作ったの。証はアイリスの魔力が込められた魔石を使ってるの。そしてそれが色々な裏道に反応する様にね」
「誰だよあの方って」
「そのうち解るわよ」
「だね」
「だな」
・・・だからそのうちって何だよっ!!
「それじゃあ行きましょう。【テレポート・ブリズ】っ!」
その答えが解る事も無く、ヴァンがそう唱えると転移の魔法陣が起動する。そして一瞬で転移先に着くとそこも浮遊島だらけだったが先程とは明らかに違った。木々や街、中には滝のように流れ落ちていく水がある島と様々な浮遊島。そして今いるこの場所。目の前には城。その城に続く様に作られた道。あの祭壇を更にひとまわり大きくした広さがあるテラスの島。他の島と比べればかなり小さい。
だがそれよりも、だ。
周一は転移した先の城へと続く道に立っている者達。鎧を身に着けている者達の最前にいる濃いめの緑色のドレスを来たアイリスと同い年くらいの明るい緑髪の少女に視線を向ける。
「おかえりなさい。ヴァン」
「ただいま、クーラ。アイリス様は無事だったよ」
挨拶を交わすヴァンとクーラと呼ばれた少女。どうやら彼女が風の国ブリズの女王らしい。
「そう。よかった。・・・それでアイリスは?」
「ああ。えっと・・・」
ヴァンの影に居た、というより抱えられていたのでクーラには見えていなかったらしい。だがアイリスの現状を知っているヴァンは気まずそうにクーラに見えるようにするため一歩、横へとずれた。
「なああああっっ!!??」
それを見たクーラは凄く驚いた表情をして、
「アイリスウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!????」
と大声で叫んだ。
驚いたのも無理も無い。アイリスは乙女として、人として何か大切な物を無くしてしまった。しかもそれを見られてしまった事に絶望を通り越し、涙を流しながらも無という感情を顔で表していたからだ。
駆け寄ってきたクーラに「本当に無事なのっ!?」と問い詰められるヴァンと「あなたっ!早く離してっ!!」と命令される周一に美遊以外、ため息を吐かざる負えない状況の一行だった。




