2-7
「よっと」
リザードマンとの戦いに勝利し、ゆっくりと空から地上へと降りた。それと同時にアイリスは魔法を解除する。彼女の守った以外の場所はリザードマンの血で染められている程に辺りは赤黒かった。
「ありがとうアイリス。咄嗟とはいえ対応してくれてよ」
「んーん。むしろシュウイチさんの足手まといにならなくてよかったよ」
「俺よりレベル高いってのに謙遜すんなっての。あー、一応っと」
そう言いながら周一はバラバラになったリザードマンの胴体に近付き、胸に白色のオーラを纏った青い剣を突き刺してから青い剣を光の粒へと変え、自分の体の中へと戻して行く。
俺の世界を襲ったあの化物共には一撃で仕留められる箇所、急所があった。つまり可能性としてゲームと同様。魔物だろうが、人間だろうが、機械だろうが。脆い部分、弱点が存在すると言う事。それは情報が無ければ解らないが、このリザードマンは結構解りやすい。なんせあの時のデカブツと同じタイプだったからだ。
そんなリザードマンへ対する周一の行動にアイリスやカルド達も正しいと判断したのか軽く頷いていた。
そんな中、1人納得していない人物がいた。
「円道さん・・・あなた一体何なんですか?」
「美遊?」
美遊はぶら下げている手で震える拳を作っていた。
「化物に殺されかけたとか・・・魔法の無い世界から来たとか・・・どれも嘘ばっかじゃないっ!!!」
「ミ、ミユッ!!?」
美遊はとうとう自分の中の鬱憤を大声にして出した。
「・・・・・・」
『ますたーは嘘ついて無いって私が』
「そもそもあなたも何なのっ!?マクスト?訳わかんない事言わないでっ!!?」
周一は美遊の怒りを黙って聞いていた。喋ろうとしたイリスにまで怒りをぶつける程に溜まっていたのだろう。
「チュートリアル?レベル138を相手にぃっ!!?そんなのあるわけないでしょっ!!これがゲームのゴブリンやスライムみたいなのと同じな訳ないでしょっ!!?」
「ミ、ミユさん。おち・・・」
怒りをぶつけ続ける美遊を抑えようとテルフィアが間に入ろうとするが、肩にカルドの手が触れる。テルフィアが振り返るとカルドが首を横に振る。リアンの方を見て本当にそれでいいのと聞く様に見るとリアンも同じように首を振った。カルドとリアンは美遊の気持ちを理解していた。テルフィアも勿論理解はしていたがここで言ってもしょうがないと思っていたために間に入ろうとしていたのだ。
「・・・わかった」
テルフィアは小さく返事をして3人を見守る事にした。
「それにっ!!」
「要は何もかも俺のせいにしたいんだろ?」
「っ!!?」
周一の発言は美遊の怒りの声を止めるに十分な言葉だった。
「シュ、シュウイチさんまで・・・」
「いいんだよアイリス。こうやって言わせてやらねーと。勢いでも何でも、言える時に言わないとな。それで、そういう事でいいんだよな?」
心配そうに見るアイリスを横目に、再度問いかける様に美遊に聞く。
「わっ、私はそんな事ひと言もっ!!」
「言って無くても解るんだよ。俺は・・・そういう環境で生きてきたからな」
周一は空を見上げながら小さくそう呟いた。
「は?環境?改造でもされったって言うんですか?随分とフィクションな人生ですねっ!!!」
「ミ、ミユ。いい加減に」
「アイリスは黙っててっ!!!」
「は、はい」
支離滅裂な事を言う美遊の怖い顔に一歩後ろに下がってしまったアイリスは間に入れなくなってしまった。
「それにこの人が最初から戦ってれば私達が死にそうな思いをする事も無かったのにっ!!そうでしょう!!?」
美遊はカルド達に同意を求める様に呼びかける。その呼びかけにカルド達はどう答えていいか解らず困った表情をする。美遊はその顔を見ると、答える気が無いと判断したのか周一にすぐに向き直り、一呼吸を入れると先程とは違い冷静な表情をしていた。
「円道さん。あなたにアイリスの勇者になる資格はありません」
「ミユッ!!?」
「黙ってて。・・・あなたはそんなチカラを持っているのに私達を守ろうともしなかった。むしろ勝手に私達を囮として利用した。そんなに人に背中を預ける事なんて出来ないし、そんな事をした人をアイリスの隣に立たせるなんてこの世界の人が許す訳が無い」
美遊は資格が無いと言う理由を淡々と述べていく。
「資格ねぇ・・・つまり、俺にどうして欲しいの?」
「私達と別れて、好き勝手にして下さい。あの魔物はどうやらあなたが目的みたいでしたので」
その美遊の言葉に周一は頭と胴だけになっているリザードマンを見る。
(ああ。あれが言っていた[当たり]って言葉の意味か。確かに俺と別れればそういったリスクは限りなく減るだろうな)
「ミユっ!!勝手に決めないでっっ!!!」
美遊の発言に待ったをかける様にアイリスが大声で間に入った。
「私の事を何でミユが決めるのっ!!みんなだってっ!!」
(アイリス?)
「親友のパートナーを見定めて何が駄目なの?あなたは英雄姫、この世界の英雄の娘なんだよ。誰だってアイリスを命に代えても絶対に守ってくれるような人じゃなきゃ許すわけ無いでしょ?」
「だから・・・何でっ・・・わた、しっ・・・」
(・・・そうか。お前)
美遊の説明にアイリスは俯いて、反論しようとする声がどんどん小さくなっていった。
「それに実際この人、元の世界で親友を守れなかったみたいですから」
『「っ!!?」』
「そうですよね円道さん?しーなさん。妹みたいな親友でしたっけ?」
今まで大きな反応を見せていなかった周一が誰でも解る程の大きな動揺を見せた。それをたたみかける様に美遊はその親友の名前を言う。
「シーナ、さん?」
テルフィアが聞き返す様に声に出してしまう。
「ええ。円道さんの親友だった人だそうですよ」
「だった・・・って」
「死んじゃったみたいですよ?詳しくは知らないけど、話を聞いた限りではそうみたいですよ」
「っ!?それって・・・」
話から察したテルフィア達。
シーナの事は確かに美遊には簡単だが話した。そして今の美遊は憤怒の勢いに任せて言い続けているのも解っている。だがもうこの流れは・・・。
「円道さん。そう、なんでしょう?」
美遊の強調した[そう]という言葉に周一は答えられなかった。答えたくないから答えられなかったのでは無い。美遊の言いたい事はほぼ間違っていなかったから声に出せなかったのだ。あの時。あの戦いの中。一瞬でも心のどこかにあったリスクを減らしたいと言う気持ちがどこかに、微かに。絶対に無いとは言えなかったからだ。
「シュウ・・・イチ、さん」
周一からの答えを待つ静寂の中、アイリスは弱弱しい声を出しながらも心配そうにその名を呼ぶ。
『・・・って』
「はい?私は円道さんに聞いてるのにそっちが答えるの?」
イリスが何か言っている事に気付いた美遊は煽るように言う。
『あやまってっっっ!!!!!!!』
イリスが大声で美優に謝罪を求めた。その声に全員が動揺する。
『・・・何も知らないくせにっ・・・ますたーのことっ!何も知らないくせにっっ!!!』
「し、知らないのは当然じゃないっ。話してくれなっ!?」
涙を堪えているイリスの表情を見て美遊は自分がしていた事に気付かされる。周一に対して言っていた事は全部自分の憶測で、真実ではない。そしてあの時何も出来なかったという自分の怒りを全部周一にぶつけていた事に。
「イリス」
『・・・ましゅたぁ?」
そして今まで黙っていた周一が口を開いた。
「美遊。お前の言ってた事は間違いじゃねーよ」
「っ!?じゃあ」
「だとしてもな」
「っ!!??」
肯定した周一に何かを言おうとした美遊は口を止めざる負えなかった。なぜなら。
「俺の相棒。泣かせんな」
その優しさがこもった言葉に反するような凄まじい殺気。そして人とは思えないその笑顔に。些細な行動、瞬きすらしてしまったら死ぬと本能に警告を出し続けてしまう程のものだったからだ。
『・・グスッ・・ないて、ないもんっ・・・』
「そっか」
そして周一の表情が戻ると、美遊は足腰に力が入らなくなったのかその場にペタンと座り込む。そして急に噎せ返るような吐き気が襲いかかったために口元を手で押さえて出しそうになった物を飲み込み、噴き出したかのように全身に汗が大量に流れ出ているのを感じ、呼吸が出来た事を認識すると生きている事を再び実感する事がようやく出来た。そうなったのは美遊だけでは無い。テルフィア、リアンも同様。カルドも尻もちをついていた。その場に立っているのは周一とアイリスだけだった。
「きみたちっ!!!大丈夫かっ!!!!?」
そんな時、男の声が遠くから聞こえてくる。その声の方向に全員が向くと鎧を着た兵士のような姿が5人、ローブを来た魔法使いのような姿が4人。そして、声をかけたであろう黒髪の男。戦闘向きには到底向いていないような青色の服に太ももに巻かれたケースに入っているダガ―の様な短剣。というかあの服。あれはどう見てもジャージだ。あのメンツの中にジャージ。あまりにも目立ち、異様だった。
「ヴァンさん!!」
アイリスはその声の主、ジャージ男の名を呼んだ。
「アイリス様っ!!ご無事ですかっ!!?みなさんもっ!!」
こちらに駆け寄って来るジャージ男、ヴァンはアイリスの存在に気付き、そして気付けば兵士達を置いて、というよりすでに1人だけアイリスの目の前まで来ていた。
「うん。大丈夫だよ。ヴァンさん、相変わらず速いね」
「勿論です。このくらい風の勇者として当然・・・って私もクーラも心配しましたよっ!リアンさんから連絡を頂いてからかなり時間が経っているに中々転移陣に来られないものですから」
(今、勇者って言ったか?青ジャージなのに?それに・・・証が無いな)
周一は風の勇者と名乗ったヴァンの手に視線を少し送って見ると、そこには美遊のような勇者の証であるインテリングが無かった。
「クーラが?・・・うん。あとで謝っておくね」
アイリスが申し訳なさそうな顔をしながら言う。
「はい。そうして頂けるとクーラも安心します。・・・それにしても先程の凄まじい殺気といい、この惨状といい・・・一体何があったのですか?」
辺りの光景を見たヴァンは状況を知るためにアイリスに聞いた。
「それは・・・シュウイチさん。何から話せばいいのかなぁ?」
「俺に聞くなよ」
『私にも聞かないでね』
「何で!?2人が一番関わってるのに!!?」
困った顔をしているアイリスが周一に助けを求めたが呆気なくかわされ、その頭の上にいるイリスにも視線を送る前に先手を打たれてかわされた。
「だって俺達、美遊に別れるように言われたんだぜ?だったらここにいる理由も話す理由も特に無いだろ?」
『そうだーそうだー』
「・・・ミィ~~ユゥ~~~~ッ!!!」
アイリスは頬を膨らませて美遊に対して怒りを表した。
「だっ、て・・・ひっ!!?・・・その・・・」
引け目があるのか、先程の殺気の恐怖が残っているのか。美遊はアイリスと周一を見ようとするがどちらもまともに、と言うより周一を視界に入れる事を本能が拒否しているのか目を合わせる事が出来なかった。
「・・・すまないが俺達に肩借しちゃあくれねーか?ちょっと腰が抜けちまってな」
カルドが話に割って入るようにヴァンに声をかける。
「あっ、はい。みなさん、お願いします。それで怪我とかは?」
ヴァンはカルドに言われた通りにするため、後から駆け付けて来た兵士達にその役目を頼んだ。カルドは大柄なので2人。魔法使いに女性が3人いたのでそれぞれ美遊とリアン、テルフィアに駆け寄った。
「それは大丈夫だ・・・っと。アイリスと・・・シューイチのお陰でな」
「ええ。あとイリスちゃんもよ。ありがとう」
『えっへへ~』
「そうだったな」
「・・・はっ!?み、みんな凄かったとしか言えないぐらいですよっ!」
周一達に対するカルド達の称賛の声。少し遅れて何かに気付いたテルフィアは合わせる様に称賛する。
「それは・・・なるほどっ。それはあなたからも是非、話を聞きたいですね。私達としても異例の勇者がどんな人物なのかを知っておきたいですから。行く宛てが無いのでしたらどうでしょうか?シューイチさん」
ヴァンはテルフィアの様に察したのかクスリと笑い、話を聞きたいと周一に誘いを設けた。その誘いに周一はカルド達に視線を送ると、肩を借りながらも目を咄嗟に逸らす3人の姿に意図を理解する。
「ああ・・・そういう事か」
「はい!そうゆう事ですよっ」
いい返事しやがって。イケメンなのが余計に腹立つ。ジャージなのに。
そう思っていると左手を誰かに握られる。
「シュウイチさん」
真顔のアイリスが周一の左手を両手で握りながら見つめていた。
「・・・わーったよ!」
「ありがとうっ!」
了承するとアイリスはパァっと明るくなった笑顔でお礼を言う。カルド達も「グッジョブ、私達」と聞こえて来そうな表情をしながら握った拳に親指を立てていた。美遊は先程の事があるのかこちらを見ようともしなかった。
「この状況で断ったら俺、マジで嫌な奴なっちまうだろうしな」
『ますたーはえっちじゃなきゃ、いい人だよ?』
「それ、フォローなのか?」
「・・・・・・っ~~~~~~!!??」
惚けたように言うイリスに苦笑いを浮かべる周一。だがイリスの[えっち]という言葉にアイリスは顔を真っ赤にしていた。
「アイリス?」
「ぷぇええええええっっっ!!!???なっ、何かなっ!!??」
突如その真っ赤になった元凶に呼ばれたアイリスは握っていた手を離して、変な声を出しながら周一から距離をとった。
「いや、急に握る力が強くなったから・・・まぁ離してくれたからいいけど、どうした?」
「なっ!?なんでもないんだよぉおおっ!!?」
裏返った声で言うアイリス。
『ますたーはとんでもない事をしました』
「何かしたか?」
『いやいやますたー。あれは女の子にとって、すんごぉ~い!とんでもない事だよ』
「は?何だそれ?」
イリスは察しているようだったが、周一は特に思い当たる節も無いので意図が読めなかった。
「い、いいい、いいかぁら行きましょう!!クーラに謝らなきゃいけないしぃ!!?」
「そう?・・・ですね。みなさんもいいですか?手の空いている者は周囲の警戒を怠らないように!」
「「「「はいっ!」」」」
「ってアイリス様!!先に行かないでくださ・・・ってなんで速くなるんですか!!?」
ヴァンが兵士達に指示をしている間にアイリスが早歩きで先行して移動していたのでヴァンが声をかけて引き留めようとするが聞こえていないのか更に歩く速度が上がっていった。
その後、他の魔物に出会う事もなくアイリスに追いついた。ではなくアイリスがしゃがんで丸まっているのを見つけたのは、レヴォルの証が無ければ存在すら認識する事が出来ない島に入ってすぐの所だった。




