2-6
「シュウイチさん。あの時何をしたんですか?」
「ん?本気出しただけ」
「本気って!?じゃあ模擬戦の時は何だったんですかっ!?」
問い詰めてくる美遊に周一は面倒臭そうに空いている左手で後頭部を掻きながら口を開く。
「あれは試し・・・ってか質問攻めされて俺のHPすり減ってるわ」
『異世界チート主人公はそーなる運命なんだよ』
「確かにこりゃ世界最強とかハーレムとか、何か特典でもなきゃやってらんねーわ」
異世界チート主人公達の本音を感じる事が出来た周一。イリスは腕を前で組み、うんうんと首を縦に振った。
「え、えっと?いったい何の話なのかな?」
「・・・さあね」
頭上に[?]を浮かべている人達に美遊は苛立った顔で周一を見ながら答えた。
「そんな事より、やったのか?」
カルドの問いにみんなが我に返ったかの様に表情が切り替わった。2人を除いて。
『あああああーーっ!!?それ、言っちゃいけないセリフランキング上位に入るやつっ!!』
「なっ!?・・・何か不味いのか?」
イリスの発言に周一はため息を吐き、それを見たカルドは美遊に確認するかのように聞いた。
「それは、それを誰かが言ってしまうと絶対やってないって言う私達の世界ではお話の常識で禁句みたいなものなんですよ」
「お・・・すまん・・・」
カルドは周一に謝ると、「気にすんなおっちゃん」と周一は軽く流す。だがその反応からリザードマンはまだ生きているとカルド達は察してしまったようだ。
「まあ確かに、あれでくたばってたら苦労しないんだけどな。あ~、チートが羨ましいぜ」
『だよね~。[パラメーターがカンストしている]とか、[この世界に合わせないと]とか言ってる主人公はあんなの瞬殺だもんね~」
「そんな話してないで、これからどうするつもりなの?」
『そんな言い方しなくてもいーじゃん。それにこれからなんて出来てこの2つでしょ』
美遊に現実的な事言われ、イリスは周一の頭の左右に[戦う][逃げる]のコマンドワードみたいなウィンドウ画面を表示する。
「えっと、これってなんて読むの?」
テルフィアがごく自然に聞いてくる。
『えっ、読めないのっ!?もしかしてここの文字って英語だった?それとも別の?』
イリスは周一に聞きながらウィンドウの文字を次々に変え続けてゆく。
「俺に聞かれてもな。俺的にはお前が普通に会話してる時点でも不思議なんだけどな」
『だってますたーが普通に話してるんだよ?私も話せて当然でしょっ!?』
何その謎理論。
とりあえずイリスにはウィンドウを消させてこの世界の言葉、周一が青い剣を手にするまで会話が出来ていなかった事についてを簡単に説明した。
『ふむふむ、あの青い剣の効果が私にも出てるって考えればいいのかな・・・はっ!?ますたーっ!!』
「どした?」
周一の頭から肩に降りたイリスは耳打ちをするように周一に話しかけた。
「・・・・・・。ん、ちっと聞いてみるわ。(・・・で、どーなの?出来るの?)」
周一は目を瞑り、周一の中の者達に話しかける。
【んーわかんないけど。その子に私達の力を送れば出来るんじゃないかなー?】
「(てきとーだな、おい)」
【だってそんな事私達に聞かれたってー、ねー?】
【・・・。俺達はただお前に使われるだけだ】
「(だからそうゆう・・・ま、ありがとな)」
【・・・ふんっ】
【はいはーい。どういたしまして~。それとクイックゥ~。それカッコよくないよ】
【うぐうっっ!!?】
人の中でイチャイチャも大概にして欲しいと思う周一は少し考え、ウィングの言葉に思考を集中させる。
力を送る・・・そういや確かそんな話を・・・。
「アイリス。さっき武器に魔力・・・とか言ってたよな?」
「う、うん。武器に魔力を込める事でその武器の能力を上げる事が出来るの。ただ、武器の許容量を越える魔力を込め過ぎると、武器の方が形を保てなくなって壊れちゃうから注意が必要なんですけど・・・それがどうか・・・シュウイチさん?」
またしばし考え、周一は答えを出す。
「イリス。マジでそれ出来るかもな」
『ふふんっ!あったり前だよますたーっ!私に不可能な事なんてあんまり無いんだよっ!!』
「はいはい、すげーなすごいです」
『っ!?ぶぅううううううう~~~っ!!』
イリスの考えに目途がついた所で、威張るイリスを軽くあしらうとイリスは頬を膨らませながら頭に登ってペタンと座り、周一の髪の毛を毟り始めた。
やっぱりこいつがいないと、な。と周一はそう思いながら顔をニヤつかせる。
でも害は無いとはいえ・・・イリスが抜いている毛がいくら立体映像で作られた物だと解っていても気分的には止めて欲しい。その辺も解ってやってるんだろうけどな。
「アイリス。ちょっとでいいからそのやり方見せてくれないか?」
「・・・うん、わかった。私のは今はルーちゃんが持ってるから・・・テルフィア。ちょっとだけその銃貸して」
アイリスは周一の笑った表情を見てすぐに返事をしてテルフィアに声をかける。
「えっ!?あっ、はい。ど、どうぞっ!」
「ありがと。すぅ~~・・・んっ・・・こんな感じかな」
テルフィアから銃を受け取ったアイリスは両手でその銃を握り、息を軽く吸う。そして少し力んだ声を出すと銃に魔力が送られたのか、少しの間だけ虹色のオーラの様な物が銃を纏っていた。
「へぇ・・・なるほどな。サンキューアイリス」
「うん。お役に立てたなら。テルフィアもありがと」
お礼を言いながらアイリスはテルフィアに銃を返す。
「は、はい・・・でも」
「おいおい、そうゆうのはかなり練習して慣れさせないとすぐにばてちまうぞっ?」
「そうよ。それに見ただけで出来る訳・・・とにかく今はここから離れないと」
何かを言いたそうに貸した銃を腰のホルダーに納めたテルフィア。それを代弁するかのようにカルドとリアンが答えた。
「『「それは無い」よ』」
だが周一、イリス、そしてアイリスもがリアンの意見を否定した。何故なら3人はすでにそれの存在に気付いていたからだ。
「悠長ニオ喋リトハ雑魚過ギルゾ人間ドモッ!!」
突如別の浮遊島に飛ばした筈のリザードマンが上空まで来ていた。
「ご丁寧に声をかけてくれるなんてな。むしろ悠長にお喋り出来ちまった訳だが・・・そんなにさっきのが効いたか?」
リザードマンを挑発するように言い返す周一。
「フンッ、少シ治癒ノ時間ガカカッタダケダ。マサカレベルガ一番低カッタ、勇者デスラナイオ前がアタリダッタトワナ。レベルヲ誤魔化ス能力ヲ持ッテイルトハ聞イテナカッタガナ」
それってつまり効いてますよね?っとツッコミを言いたくなる返しが来たが可哀そうなので流しておく。それよりも。
「俺が当たり?レベルを誤魔化す?何の事だ?」
「トボケルナッ!!ソノレベルッ!チカラガッ!!能力以外ノナンダトイウノダッ!!?」
質問を質問で返したのが惚けたように見えたためかリザードマンは激昂する。
「まー何だっていいんだけどさ。で、まだやるの?」
「アタリマエダッ!!!私ヨリレベルノ低イオ前ニヤラレタママ引キ下ガレルハズガナイッ!!」
「そりゃそっか。ひゃく・・・うんちゃらのお前が23の俺に治癒する程の傷を負いましたなんて世間にバレたら恥ずかし・・・ん、どした?」
テルフィアがツンツンと周一の背中を突いてきたので話を止めて理由を聞く。
「今のシューイチさんのレベル、123だそうですよ?」
「『・・・マジでっ!!?』」
アイリスに確認をとるために顔を向けると首を縦に振った。どうやら本当の事らしい。そのせいなのかおかげなのか、カルド達は先程の様な表情はしておらず、落ち着いていた。
「・・・やっぱこれ、パワーアップしてたたんだな」
『むしろして無かったらますたーそもそもあの時勝てて無いよ』
「そうだな。俺的にはあいつらのレベルも気になるけど」
現在レベル123の周一に対しリザードマンは138。未だ15の差でリザードマンが勝っている事になる。レベルが強さの判断基準。これがこのリザードマンの、この世界の常識ならそれは間違っている。
過去の戦いを振り返った後、リザードマンへと視線を向ける。
「・・・ただ、こいつに負ける要素は見当たらねーな!」
『だねっ!ますたーっ!!』
勝利宣言をした周一とイリス。それに驚きを隠せない一同。
「ホザケッ!!!雑魚ガッッッ!!!!」
リザードマンはブレスを吐く構えをする。が、いつの間にか上空にいる筈の自分の目の前に現れた青い剣を振りかざす周一から身を守るためにブレスを止め、咄嗟に赤いオーラを右腕に纏い、その腕で剣を受け止め、剣を弾く。
「クッ!ココマデ跳ンデ来ルチカラガッ!!?・・・ダガ愚策ダッタナッ!!」
剣を弾かれた周一はその反動で地上へと落下し始める。それを結果を解っていたリザードマンはニヤリと笑い、先程剣を弾いた赤いオーラを纏った右腕をそのまま振りかざす構えをとる。
「アイリスッ!!全力で守っとけ!!」
「っ!?うんっ!!!」
それと同時に周一はアイリスに指示をする。
「死ネエエエエエエエェェェッッッ!!!!!!」
リザードマンが右腕を振り、爪からカマイタチが放たれる。
「ナニッ!!?」
だがリザードマンはすぐに異変に気付く。目の前の光景に映るのは美遊達を守るためのアイリスの防御魔法、ドーム状の光のバリアと辺りに広がったカマイタチの痕だけ。カマイタチを放った先にいる筈の周一はもうそこにはいなかった。
「奴ハドォ・・・グゥォオオオアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!??」
リザードマンが周一を探そうと辺りを見ようとすると突如バランスを崩し、飛ぶ事が維持できなくなって落下し始めると共に先程とは比べ物にならない程の激痛が声となって響き渡る。
リザードマンはその激痛の要因を視界に入れた事でようやく何をされたかを理解出来た。
「私ノォ・・・ウデ・・・ジュバシャガァアアアアアアアッッ!!??」
そう。切断された自分の左腕と左翼が血を出しながら地上へと落ちて行く様を。なんとか振り返り自分より上に居る存在を睨みつける。白い魔力を纏った銀色の腕輪を嵌めた青い剣を握る人間を。
「そっかぁー。じゃあバランス良くしてやらないとな。イリス」
『は~い!ますたーっ!』
周一の意図を汲み取ったかのように返事をしたイリス。その返事と共に周一の周りに3つの大きな白の魔法陣が出現する。
『【クイック・ウィンドスラッシュ】!!』
そしてその呪文が唱えられると3つの魔法陣から白い風の斬撃が放たれる。対処するためか咄嗟にリザードマンの胸の辺りから体を硬化させるための赤いオーラを出し始める。
『遅いよ』
だがオーラを出し始めた頃から既に斬撃はリザードマン後方に見えている別の浮遊島へと向かっており、斬撃の1つがその島を2つに切り裂いた。
「グガァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!???」
もはやリザードマンは激痛のあまり、まともに状況を判断する事も出来なかった。両翼が無いため飛ぶ事が出来ずに落下していくリザードマン。先に地へと落ちていった自分の体の部位を目に焼きつけながら。
「いやぁ、マジで出来たな」
『う~~~~んっっ!!魔法ってキィィモチィイイイイイ!!!』
(うわぁ・・・)
意図以上の事を仕出かしたイリスが頭の上で激しく興奮しているため、何かに目覚めなければいいがと少し心配になった周一。
そして、頭と胴体だけとなったリザードマンは自分の血が流れて落ちていっているアイリスの防御魔法のバリアの上に落ち、地面へと転がり落ちたのだった。




