保健室での秘密の約束
トイレから帰ってきた夢佳は、ため息をついてこう言った。
「男の人って、あの便器で座ってするのしんどいよね。だって、あれを便器の中に押し込もうとしたらなかなか収まらないんだもん。わからないまま座っていたら、形がだんだんと……あ! でもね、面白いものを見つけたんだよ。先生のあれの根元の方にね、大きなほくろが3つあるの、知ってた?と話をはぐらかした。なんとなく彼女のことを察した僕は、
「どおりでなかなか帰って来ないと思ったら……『キモい』とか言いながらそれで遊んでたんだろ」
「遊んでないよ! おしっこがすんで、ペーパーで先を拭いたら勝手に形がどんどん変わるから、収まるのを待ってたんだよ!」
夢佳はそうやって文句を言っていた。
そういえば昭和の時代の男は威厳があり、家でも立って用を足していたものだ。けれど最近の男性はすっかり威厳がなくなり、「お家では座って用を足しなさい!」。立って用を足すと妻に怒られる受難の時代である。そういう僕も、同棲している真弓から「トイレが汚れるから」と言われて座ってするようになった口なので、夢佳が愚痴る気持ちもよくわかった。夢佳も立って用を足したら、あの爽快感がわかるんだろうな……とふと思った。
話がそれたが、夢佳が見つけた僕の根元の「三ツ星ほくろ」のことは、僕自身もよく知っていた。彼女との夜の営みの際、彼女が僕の根元を触りながら「私の三ツ星ホテルのマーク」と呟いていたことを思い出す。
「三ツ星ホテルって中級ホテルじゃん。褒められてるのかけなされてるのかわからないよ」
僕がそう言うと、彼女は笑って答えたものだ。
「4つ星の高級ホテルみたいに入りにくくなくて、2つ星より高級。だから私にとって博のあれは、安心して癒やしをくれる最適なグレードのホテルなのよ」
大学時代に真弓と出会ってから12年、相変わらず夜の営みは衰えることなくほぼ毎日続いている。真弓は心身ともに“ミドルグレード”な僕を愛してくれているのだ。けれど僕の中には「いつまでも真弓のミドルグレードに甘んじたくない、彼女のためにもっと上のランクに行きたい」という葛藤もあった。
ともかく、夢佳が僕の根元にある3つのほくろを見つけたということは――夢佳にくっついている“あれ”は、間違いなく僕のものだという証明になってしまった。愕然とした。
あそこの入れ替わりに間違いない。
昔観た大林監督の尾道三部作『転校生』は、体ごと入れ替わる甘酸っぱい青春物語だったから胸がキュンとする話だったけれど、アラフォー手前の成人男性と女子高生の“あそこ”だけが入れ替わるなんて……。「なんて日だ!」という古いギャグすら出てこない。
とにかく今の状況を整理しないと――。
そこでふと、「僕にくっついているこの女性のものは、本当に夢佳のものなのか?」という疑問が湧いた。思わず夢佳に何か特徴はないのかと尋ねてみた。
「女の子が自分ものをじっくり見るわけないじゃん、特徴なんてないよ! わかるとすれば、1週間後に『あれ』が来るから、来たらそれで間違いないんじゃないかなぁ?」
「え! あれ……? 俺にあれが来るの!?」
「当たり前じゃん! 女の子のあれがついてるんだから、あれが来て当然でしょ!」
「あれ」「あれ」ばかりの会話が続き、部分だけが入れ替わってしまったという恐ろしい現実を改めて突きつけられた。
とにかく、お互いに“使用上の注意”(まるで薬の説明書だ)を共有しなければいけないと思い、僕は自分のものの取扱説明を始めることにした。
【・博のアレの使用上の注意】
> * やたら触らないでください。(形が変わってしまうからです)
> * 大きくなるような刺激を与えないでください。(一度大きくなると、元のサイズに戻るまで少し時間がかかるからです)
> * お風呂に入るときは、皮をむいて洗ってください。(カスが溜まると臭くなるからです)
> * どこかにぶつけないでください。(何とも言えない激痛がお腹の奥まで達します。非常にツラいです)
> * おしっこの後は紙で拭かなくてよいです。(プルプルと振るだけで雫が切れるからです)
>
夢佳の気持ちを少しでも和らげようと、田吾作構文風に少しふざけて伝えてみたものの、彼女は小さく笑い、さっきトイレでペーパーを使って先端を拭いたときに形が変わった理由を理解して、深くうなずいていた。そして唐突に「小学生のとき、男の子に金蹴りしたことがあるんだよね」と暴露してきた。やられた男の子の冥福を祈るばかりだ。
続いて夢佳からは、毎月のサイクルのこと処理の方法などを教えてもらった。やはり女の子側も同様に、お風呂の際は衛生のために丁寧に洗うこと、そしておしっこのときは必ず紙で拭くことを念押しされた。
だが夢佳は、自分の体の一部だった部分を僕に触られるのをひどく恥ずかしがった。恥ずかしがる彼女を「今は僕についてるんだから仕方がないでしょ」となだめつつ、「変な触り方はしない(触らないと拭けないけれど!)」と約束した。そうしてようやく、女の子の用の足し方と、「あれの日」の対処法を伝授してもらうことができた。
いつまでも保健室に居居座るわけにはいかない。
僕と夢佳は連絡先を交換し、以下の**【絶対ルール】**を取り決めた。
* 他の誰にも絶対に口外しないこと。
* 他の生徒や先生、保護者の目があるため、連絡はすべてLINEで行うこと。
* お互いに入れ替わった部分は必要以上に触らないこと。
* 絶対に性的な目的で使わないこと。
ガッチリと固い約束を交わし、僕たちはそれぞれの帰路についた。
しかし、本当の試練はここからだった。家には、僕の帰りを待つ同棲相手の真弓がいるのだから――。
(第二部 おしまい)




