愛は、性紀を超えられるか!
(主人公)
片山 博 / 30歳
県立尾道高校の英語教諭。大学卒業後、すぐに同校へ赴任。大学時代から交際している彼女・田山真弓から結婚を迫られているが、いまだ踏ん切りがつかない。30歳を迎えた真弓は周囲の結婚ラッシュに焦りを見せているが、博は「自分の英語力を活かした海外での仕事」などへの憧れがあり、なかなか踏み出せずにいる。真弓との同棲生活や毎夜の営みには十二分に満足しており、彼女のことも大好きだ。しかし「公立高校の教諭として勤め上げ、ささやかな幸せに収まる人生で本当にいいのか?」という煮え切らない思いと、「自分はもっと社会の役に立つ大きなことができるはずだ」というプライドが邪魔をしていた。
斎藤 夢佳 / 15歳
県立尾道高校に通う、負けん気が強い高校1年生。小学生の頃は男の子のようなショートカットと半ズボンで過ごし、男の子たちとサッカーや野球に明け暮れていた。男子と喧嘩した際の決め技は急所への蹴り上げで、男子からは「金蹴りの夢佳」「このオトコオンナ」と揶揄されるほど激しい気性だった。
中学に入って二次成長を迎え、ふくよかな体つきと初潮を経験。見た目はすっかり可愛らしい少女へと変化したが、勝気な性格は相変わらず。中学から始めた水泳では県大会で優勝するほどの実力をつけ、高校進学後も目覚ましい成果を上げていたが、インターハイではあと一歩のところで優勝を逃す。大学受験を控えた時期になり、「このまま水泳を続けるのか?」「将来何がしたいのか?」と、はっきりとした答えを見出せないままモヤモヤした日々を送っていた。
第1話:交錯する「それ」
尾道に吹き抜ける風が、まだほんのり夏の名残を帯びていた放課後。
夢佳は一人、学校のプールで無心に水面を割っていた。モヤモヤとした将来への不安や悔しさを打ち消すように、彼女は悩みがあるとひたすら泳いで気持ちを切り替えるのが癖だった。
その頃、プールサイドではちょっとしたトラブルが起きていた。
水泳部の顧問教師と、英語教師の博が激しい口論になっていたのだ。しかし、水中に潜りターンの練習に集中していた夢佳は、その喧騒にまったく気づいていなかった。
――ガツン! ザブン!!
「痛っ!?」
頭部に激しい衝撃が走り、夢佳は思わず叫んだ。
顧問にプールへと突き飛ばされた博の頭が、ちょうど水中にいた夢佳の頭と激突したのだ。
水面に浮かんできた博は意識こそあるものの、呆然としている。
「夢佳、ごめん!」と叫んだ顧問は、慌てて博をプールサイドへ引き上げると、そのまま彼を抱え込むようにして保健室へと連れて去っていった。
「ったく、なんなのよもう……」
夢佳は痛む頭をさすりながら、「さあ、もうひと泳ぎ」と壁を蹴った。
だが、その瞬間――股間に強烈な「違和感」が走った。
水着が食い込んでいるような、何かをグッと押しつけられているような感覚。今まで生きてきて一度も感じたことのない感触だった。
そのままバタ足をしてみると、太ももの付け根に「何か」がボコボコと当たる。水着の股間あたりに窮屈な違和感を抱えたまま、夢佳は泳ぐのをやめてハシゴを登った。
ふと下を見ると、水着の股間から、毛の生えた変なものがはみ出している。
(え……ヘアーがはみ出ただけ……?)
指で押し込もうと触れた瞬間――
ゴリッ。
(……ええっ!? なにこれ!?)
手から伝わる、硬くて丸い物体。そして水着の前面には、まるでソーセージをそのまま挟み込んだかのような、謎の膨らみができていた。
夢佳は絶句した。
とにかく人目につかないよう更衣室へ駆け込み、他の部員がいないことを確認してシャワーブースへと飛び込んだ。勢いよく水着を脱ぎ捨てた夢佳は、自分の股間を目にして完全に愕然とした。
女の子であるはずの自分の体に――グロテスクなスティックと、毛むくじゃらの変な物体がぶら下がっていたのだ。
「えええっ!? なにこれ! マジキモいんだけど!?」
恐る恐るシャワーのお湯をかけると、その毛むくじゃらの袋はだんだんと緩み、中に丸いものが入った袋へと変わった。それを見た瞬間、夢佳は幼い頃に父親とお風呂に入った時の記憶がフラッシュバックした。
(え、嘘でしょ……なんで私に、男の人の『これ』がついてるの……!?)
ショックで頭がパニックになりながらも、着替えを済ませる。だが、女性用の小さなパンツを履こうとすると「それ」がはみ出てしまい、ものすごく邪魔で気持ち悪い。
「キモい、キモすぎる……!」
夢佳は濡れた髪を乾かす余裕すらないまま、半泣きで保健室へと走った。
一方その頃。
顧問に抱えられて保健室に連れてこられた博は、濡れた服を着替えるようタオルと体操着を渡されていた。
顧問が謝罪しながら部屋を出て行ったあと、博はため息をつきながら濡れた服を脱ぎ始めた。上着を脱ぎ、濡れたズボンを脱ぐ際、なぜか「スルッ」と脱げたことに違和感を覚える。
(プールの水が冷たかったから、小さく縮こまってるのかな……)
自分の股間を思い浮かべて自嘲気味にほくそ笑みながらトランクスを脱いだ瞬間、博は息をのんだ。
そこに――あるはずのものが、ない。
ぺったんこで、ただ毛が生えているだけだった。
「え……? なにが起きたんだ……!?」
博は焦って自分の股間をまさぐった。しかし、彼の手は虚しく空を切るだけだった。
「ない……! なくなってる!?」
ガバッと体を起こして覗き込む。そこにあったのは、毎夜、彼女の真弓と愛し合う際に見慣れている――真弓と同じ「女性の割れ目」だった。
「えええっ!? 俺、女になってる!?」
その時、ガラガラッと音を立てて保健室のドアが開いた。
「まずい!」と思った博は、大慌てでトランクスを穿いた。男の時と違って引っかかりがないためスルッと穿けたが、男性用のトランクスが割れ目に直接喰い込み、未体験の激痛が走る。
「痛っ……!」と股間を押さえる博の耳に、半ベソをかいた女子生徒の声が飛び込んできた。
「山田先生! 大変なことになったよ! 私に変なものが生えた! 山田先生いないの!? どこ行ったのよぉ!」
ジャージ姿の夢佳が、保健医の山田先生を探して叫んでいた。
「山田先生ぇ……こんな気持ち悪いのいらないよう……!」
カーテンの閉まったベッドの中でその声を聞いた博は、そっとカーテンを開けて夢佳を見た。
(あ……さっきプールで頭がぶつかった子だ。『変なものが生えた』って泣いてたよな……もしかして……)
博の頭にひとつの仮説が浮かんだ。
彼女のジャージの股間あたりを見ると、明らかに女子高生にはあるはずのない「謎の膨らみ」が存在していた。
博は彼女を驚かせないよう、軽く咳払いをしてカーテンを大きく開けた。
「あ! さっき溺れかけてた片山先生じゃん! もしかして……さっきの聞いてたの!?」
「うん……まあ、聞こえてたよ。ところで……『なに』が生えたって?」
博は焦りから、思わず核心を突いた。
「……お父さんと同じものが……っ」
夢佳はポロポロと涙を流しながら答えた。
これで博は確信した。さっきの衝撃で、自分の「あれ」と彼女の「あれ」が入れ替わってしまったのだと。
博は夢佳を信用させるため、意を決して打ち明けた。
「……実はね。僕の『あれ』がなくなって、女の子の『あれ』になっちゃってるんだ」
さすがに見せるわけにはいかないため、博はズボンを引っ張り上げて、股間に何もない平らな状態を夢佳に見せた。
「ええっ!? マジで!?」
夢佳は恥じらいもなく、博の股間をガバッと触った。
「ほんとに無い……! え、じゃあこれって……先生の!?」
夢佳は自分の股間を指さした。
「先生、嫌だよこれ返すから! 私のを返してよ!」
「いや、そう言われたって……僕だってどうしたらいいのか分からなくて困ってるんだよ!」
パニックになる二人の間で、ふと夢佳がもじもじと身体をゆすり始めた。
「……どうしたの?」
「おしっこ……したい……」
「行ってきたらいいじゃないか」
「変なものがついてて、おしっこできないよぉ!」
「便器に向かってボロンと出したらできるよ。何も難しいことなんてないから」
「ええっ!? 女子トイレで!? それとも男子トイレ!?」
「君は女の子だろ、もちろん女子トイレだよ。立ってもできるけど、便座に座って飛び出さないように手で『あれ』を便器の中に押し込んでしてくればいい」
「……」
「早くしないと、大きくなったらもっとやりにくくなるからね」
博は親切心のつもりで、ちょっと余計なアドバイスを付け加えた。
「えええっ!? あのキモいの触らないとダメなの!? ムッチャ嫌なんだけど!!」
「我慢してるとマジでヤバいことになるから! 早く行ってきなさい!」
夢佳は嫌そうに渋々トイレに向かったが、保健室の出口で振り返った。
「……先生、トイレまでついてきてやってよ!」
「バカ言うな! そんな変態なことできるわけないだろ!」
「こんなのつけてるだけで、十分変態だよ!!」
「男はみんなついてるんだよ! みんなを変態みたいに言うな!」
怒鳴り合いのようなやり取りを交わした末、夢佳は股間を押さえながら猛ダッシュでトイレへと向かっていった――。




