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瀬戸の御朱印物語  作者: ざこぴぃ
第二章
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第六話・草戸稲荷神社

 

 ――三月三十一日午前十時、福山駅。

道子(みちこ)! こっちや!」

「もう! 春くん! 急にこんな所まで呼び出すだなんて、どんな神経しとるん! んもう! 大好き!」

「なんでやねん。くっつくな、離れろ!」

「無理!」

「やっぱりうぜぇ!」

「すりすり」

 道子は小さい頃からの幼馴染で、同じ島に住んでいる。千鶴の事も姉と慕う、心優しい眼鏡オタク女子だ。ただ愛情表現が少々……個性的だ。

「春くん! 春くん! 見て! 待受は春くんなの! ふぇへへ……」

「いつ撮ったんだそれ……」

「内緒!」

「はぁ……今日は怒らない怒らない……」

 千鶴の代役……今はそう割り切る事にする。

「で、道子。昨日電話で話した通り、今回はすまないが……」

「いいよ、気にしてない。私に内緒で千鶴ねぇと旅行してたとか気にしてない。藁人形は打ってきたからもう大丈夫。五歳の時に目の前から急にいなくなったトラウマに比べたら全然平気。むしろ私の一人勝ちまである。だから気にしないで」

 千鶴が倒れたのはその藁人形が原因なのでは? と思ったが、藁人形が時間的に後の様なので安心した。

 何度も言うが、道子は千鶴の事も姉と慕う、心優しい眼鏡オタク女子だ。ただ愛情表現が少々……個性的だ。


 昨夜あれから、千鶴の両親にお願いし、凛の連絡先を教えてもらい、千鶴の事を伝えた。その後、凛のお付きの爺から折り返し連絡が入り、病院からほど近いホテルを借りる手配までしてくれた。

 凛のアドバイスで千鶴の事を良く知る女の子をパートナーにした方が良いと言われ、千鶴が妹の様に可愛がっていた道子に連絡をしたのだ。

 道子に連絡を入れると、二つ返事でオーケーしてくれ、両親を叩き起こして説得すると言ったまま……昨夜は連絡がなくなった。そして今朝早くに、福山市へと向かう高速バスに乗ったと連絡が入る。

 千鶴には千鶴の両親が付き添っている……何も心配はいらない。凛も今日、病院まで様子を見に行くと言ってくれた。大丈夫、すべてうまくいく……!

 そう自分に言い聞かせて、福山駅で道子と合流する。

 連絡はほとんどSNSだったが、僕が笠岡駅から福山駅への移動中に、一から瀬戸内海横断ウルトラ御朱印巡りを説明すると、すんなり納得してくれた。道子は漫画、アニメのオタクなのだ。たぶんファンタジー要素がある話には目がない……。

 高校三年になる今年、彼女の夢は、『月に代わってお仕置きをする』事だそうだ。何とも素敵なお話じゃないか。ただただ相手が僕ではない事を祈る。


 福山駅で道子と合流した後、僕達は目的地の草戸(くさど)稲荷神社を目指す。

「ふふん♪」

 この緊迫した状況で、ご機嫌な道子が正直羨ましい。

「道子、昨日おじさんとおばさんにはちゃんと話をしたんか? 知ってる仲とはいえ、僕と二泊する事になるんやぞ?」

「え? 何を今さらなの? 『結婚する相手と一緒にいたら駄目なん? はい、そうですか。じゃあ、お元気でサヨオナラ』て言ったら、許してくれたんよ。何よ、春くんまで狐が豆鉄砲食らった様な顔して」

「いや、ハトな……。いや、そこやなくて……はぁ、帰ったらおじさんとおばさんに説明しに行くよ」

「え!? 結納に来るの! すぐにママに連絡いれとくね!」

「入れるんじゃねぇ! 結納でもねぇ!」

「ぶぅ! なんなん! その気にさせておいて、落とすとかありえないから! 春くんの……そういう所も大好き!」

「なんでやねん……」

 この娘をどうしてやろうかと悩みながら駅から徒歩で草戸稲荷神社まで向かう。三キロの道のりで、三十分程、地図とにらめっこしながら辿り着いた。


 実は今朝、ホテルを出る際に、フロントでゴールデンキラキラクレジットカードを預かった。フロントの方が、凛から渡す様に言われたそうだ。さすがに受け取れないと断ったが、強引に持たされた。凛と結婚したらお金に困らないのでは? などという下心は決してない……と思うが、自信はない。しかしそうは言えど、人様のクレジットカードをほいほいと使えるほど心臓に毛は生えていないので、結局徒歩で節約しながら移動する。腕を組もうとする道子の手を外す作業が少々……。

「ねぇ、春くん、独り言多くない? こっち向きなさい!」

「え? あぁ……ちょっと考え事してた。ここが草戸稲荷神社か。圧倒されるな……」

 華やかな赤い社に圧倒されながらも鳥居をくぐると、持っていた御朱印帳が光って見えた。

「道子、御朱印帳が薄っすら光ってる……」

「春くんと私の赤い糸も薄っすら光ってる……」

「……へぇ」

「……もう、春くんたら照れちゃって! かわいい!」

「……へぇ」

 御朱印帳を開くと、二つ目の御朱印に朱色の印が薄っすらと浮かび上がっていた。

「春くん、これが例の御朱印なの? 七つ集めると、どんな願いでも――」

「はい、そこまで! 道子、色々と大人の事情があるから滅多な事は言わないように」

「はぁい! ご主人様! かしこまり! ぺこり」

「誰だよ……」

「はっはっは! 馬鹿め! 気を抜きおったな! いでよ! シェン――」

「やめんかっ!」

「やかましいのぉ……誰じゃ、わしを呼ぶのは……」

「で、出たぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 道子は驚きの余り尻もちをつき、後頭部を鳥居にぶつけ、そのまま地面を転がり回り、ぶつけた頭を押さえたまま、しくしく泣いた……。

「アリス様! 昨夜はありがとうございました。おかげでここまで来られました」

「うむ、礼なぞ不要じゃ。ところで千家のこせがれよ、そやつが交代者じゃな。名を何と申す?」

「いてててぇ……。オラの名か? オラは道子だ。おぉ、いてぇぇぇ……」

 まだ、漫画ごっこが続いていた。

 御朱印帳の裏表紙にある千鶴の名前に、アリス様が二本線を引き、隣に道子の名前が記される。

「神様ってあんまり字が上手くな――」

「千家のこせがれ、何か言ったかえ……?」

「え? いや! 何でもないです! はは……は……」

「ちょっと! 春くん! この巫女装束のコスプレした子は誰なんよ! びっくりしたやんか!」

「小娘はピーピーうるさいのぉ。プリンよ、少し懲らしめてやりなさい」

「ちょ! 道子! 謝れ! 神様やぞ! プリン様に切られるやんか!」

「え? プリンって誰なん? そもそもこの子は神様なん? ほへぇ……」

「プリン……? おい、プリン! ……あっ! 忘れておったわ。プリンには野暮用を頼んだのじゃった」

「神様! そのコスプレ似合ってて、可愛いわね! どこで売ってるか教えてよ!」

「ぽっ」

「ぽっ! じゃねぇわ! アリス様! もっと堂々としてくれないと、僕が馬鹿みたいじゃないか!」

「わしに意見しようなぞ、甚だしいのう……! プリン! やっておしまいなさい!」

「いや、いないんでしょ……? プリン様……」

「そうじゃった! わしとした事がうかつ!」

「ねぇ、神様。そろそろ漫才飽きたんやけど、春くんともう行ってもいい?」

「きぃぃぃ! この小娘は二度ならず三度までもわしを愚弄しおってからに! きぃぃぃ!」

 そんなやり取りをしながら、ふと思う。参拝者の方々がずっと冷たい目で見ている……と。


「それはそうとアリス様。御朱印の色が前のと比べて薄い気がするんですけど?」

「そうじゃ。それは目的地に辿り着いたという、いわば合図みたいなもんじゃ。試練に合格すればはっきりと出てくるぞよ。そして試練の課題はそこに浮き出てくるのじゃ」

「浮き出る?」

 御朱印帳を見ていると、印の上に文字が浮かび上がる。

「おっ! 本当だ。何か出てきた!」

「見せて見せて!」

「えぇと……おみくじで大吉を引け……チャンスは一人一回……」

「それだけ? 春くん、それだけ? 楽勝やん! 行ってみよう! ぶーん!」

「道子、ちょ! ちょっと待って! まだ続きがありそう!」

 文字がゆっくりと浮かび上がってくる。

「……ただし失敗すれば五感の一つを失う? は? アリス様、これはどういう……? 五感を失う……?」

「五感とは視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の事じゃ」

「いや、それは分かるんですけど。失うって……そんな危険な試練なのですか?」

「今さらなんじゃ。古文書をきちんと読んだのかえ?」

「翻訳した物だったので、原文はわからないのですけど……」

「試練を受けるという事は、それ相応の代償を支払うのじゃ。それが出来ぬならやめてしまえ」

「そんなっ! ……でもそんな危険な事に道子を巻き込むわけにはいかな――」

 そんな話をしていると、神社の授与所の方から叫び声が聞こえた……。

「きゃぁぁぁぁぁ!!」

「道子の声!? まさかあいつ、おみくじを!」

 急いで授与所へと走る。おみくじを引いてしまい、大吉以外を引いた道子の五感が失われた可能性がある。試練とかそういう話ではない……。もうやめよう。僕一人ならまだしも、道子まで巻き込むわけにはいかない!

「道子! 道子! しっかりしろ! 大丈夫か! 道子!」

「ふぇん……春くん……!」

「どこか痛くないか! 僕が見えるか!」

 涙目の道子はおみくじを握ったまま僕を見上げる。目は見えている様だ。声も聞こえている。後は何だ? 匂いか? 味か?

「大丈夫……おみくじ引いたら、スズメバチが手に止まって……ふぇん……」

「え? さ、刺されたのか?」

「すぐ振り払ったら大丈夫だったけど……怖かった……」

 道子の手元を見ると、持っているおみくじには『大吉』の文字が見えた!

「大吉! はぁぁぁぁ……良かった……。なんだ、蜂に驚いたのか……。はぁぁぁ……びっくりした……」

「え! もっと心配しても良いと思うんですけど! スズメバチ! ス・ズ・メ・バ・チ! 刺されたら死ぬかもしれないんですけど! もう! 春くんなんか! 春くんなんか! 大っ……」

「あっ! ごめんごめん。道子が無事で良かったよ。後で詳しく説明するから、一緒にお参りしよう」

「……大好き」

「……う、うん」

 最初の試練はあっけなく合格出来た。しかし、この試練の代償をちゃんと道子に説明して、この試練はもう終わりにしようと思った……。

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