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瀬戸の御朱印物語  作者: ざこぴぃ
第一章
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第四話・瀬戸内海横断ウルトラ御朱印巡り

 ――白石島、四神神社。

 少女は両手を広げ答える。聞いてもいないのに……。

「我が名はアリス・ウメ・コリータ! 創造神の一人であるっ!」

『ゴロゴロゴロゴロッ――』

 演出をするかの様に、少女の背後で雷が鳴る。

「神様なんですか!? ……それでウメコ様達はなぜこの様な場所におられたのですか?」

 質問に答えてくれないので再度問う。

「うむ、プリンよ。答えてやるがよい……おい、ちょっと待て。わしはウメコではな――」

「私達はこの神社で雨宿りをしていたのですわ! そしたら雷が鳴って慌てて外へ出たら、貴様らがおったなんて、口が裂けても言えないですわ! 小僧! ねぇさまに無礼な質問をするではないわ!」

 アリス様の言葉を遮る様に、金髪のプリン様が答える。

 なるほど。境内にいた理由はわからないが、雷と共に召喚された訳ではなく、最初から境内にいて、雷に驚いて出てきたのか。

「――というわけじゃ。お主らを取って食おうとは思わぬ。あの狐に頼まれてボランチアをしておるだけじゃしな」

「あの狐……」

「そうじゃ。お主らは伏見狐に願いを聞いてもらう為にここに来たのじゃろ?」

「それはそうですが、本当にそんな事があるのですか?」

 皆がアリス様の返事を待つ。返事次第ではすぐにでも宿へと行き、お風呂に入りたい。

「うむ、本当じゃ。これからお主らにこの試練のルールを説明するとしよう――」

「本当なんや!?」

「ほんまなんか……」

「こほん。よく聞くが良い。この試練はろうにゃくにゃんにょ……」

(噛んだな……)

(噛みましたわ……)

(噛んどるやん……)

「こほん。よく聞くが良い。この試練は老若男女――」

(言い直した……)

(何事も無かった様ですわ……)

(ほんまに神様なんか……?)

 その後、僕達は少女の話に耳を傾け、一様にメモを取る。

 話が終わる頃には、いつの間にか雨も上がり夕焼けの空が顔を出していた。

 そしてどこからともなく、鐘が鳴り響く……。

『ゴーン……ゴーン……ゴーン……』

「――それでは、瀬戸内海横断ウルトラ御朱印巡りの開始じゃ。御朱印帳を各ペアに渡そう……お主ら精進致せ――」


………

……


 帰りのフェリーでそれぞれが別の場所に座り、メモを読み返している。

 今回この『瀬戸内海横断ウルトラ御朱印巡り』と呼ばれる試練に参加するのは、登録順に……。


一、山口福、山口泰子

二、広島紅葉、岡山桃太

三、千家春臣、瀬戸千鶴

四、香川凛、淡路島之介


 今日の午前に来た二人と、午後に来た僕達の合計八人。これは御朱印帳の裏表紙に名前が記載されている。もし仮に不参加、脱落した場合には名前が消えるそうだ。

 そしてこの試練は、古文書のキーワード『願望成就』を知っている者で男女一組のペアにて参加資格が出来るそうだ。僕は偶然、千鶴と来た事でこの参加資格を得た。他にも数十人、一人で来た人もいたそうだが、この時点で参加資格がなく、お参りだけし、何事も起こらず帰ったらしい。

 ルールは今日から三日間のうちに五つの御朱印を集める事。

 これは神社仏閣を問わず、御朱印帳に記載された場所に行く事になる。ペアによって行き先が違い、それぞれの場所に用意された試練を合格する事で御朱印が貰える。

 最初の試練はペアでいる事で達成し、既に御朱印が押してあった。

 開始の場所は四神神社。そこから別の三つの場所で御朱印を集め、最後は岡山県にある最上稲荷山妙教寺にて五つ目の御朱印を貰って終了だ。


 この試練は元々、ある男が狐の娘に恋をし、狐から五つの試練を出されたという。その試練に合格したら結婚を許す、というのが始まりだそうだ。

 それがいつしか五十年に一度、神社仏閣を巡り御朱印を集めた者には、伏見狐が何でも願いを聞いてくれる様になったそうな。そうそう、御朱印を全て集めれば順位に関係なく、全てのペアに願いを聞いてもらう権利は与えられるという。

 そしてそれぞれのペアには、監視役が同行する事になる……という様な内容だった。


「――千鶴ねぇ、凛さん達は……?」

「デッキや。まさか凛が爺さんと組んで参加するとは思わへんかったわ……」

「でもそれは分かる気もする。神様が目の前に現れて、非現実的な事を言われたら、ちょっとやりたくなってしまうかもしれん」

「それはそうやけど……腑に落ちんのや」

「どういう事?」

「凛は古文書には興味ない……と、はっきり言ってたやん? 地位や名誉、お金すらたぶん欲しがってはない……」

「そやね……でも他に欲しいもんがあるんやろ?」

「そこや。他ってなんなん?」

「……分かった! 婿養子とか!」

「それはうちも思ったんよ……。でもそれってつまり、春臣の事やないん?」

「は? 僕?」

 景品感覚で自分の名前が出るとは思いもしなかったが、そう言われたら凛はそんな事も言っていた。

「千家の血族……が凛の欲しいものだとしたら?」

「ちょ! 千鶴ねぇ! 馬鹿な事言わんでや!」

「いや、そう考えると爺さんが協力したのもうなずけるんよな……」

「……」

「……まぁ、考えてもしゃあない。うちらはうちらのルートを行くで」

「うん……」

 僕達の御朱印の一ページ目は四神神社。これは皆同じだ。既に朱色の印字が押されている。そしてページをめくると、次の行き先が書かれていた。その次の行き先は白紙で、二つ目の御朱印をもらわないと分からないらしい。

「とりあえず次の行き先が草戸稲荷神社と……。千鶴ねぇ、次は福山市みたいやね」

「ほんまやな。ちょうど今日泊まる宿も福山市にしてたわ」

「あぁ、そんな事言っとったね」

「凛と紅葉達の行き先も気になるけど、とりあえずうちらは福山市へ向かうで」

「分かった! ちょっと父さんに電話してくる。さすがに三日も空けるとなったら心配するし。それにお金も……」

「せやな。お金の事はあんまり心配せんでええよ。うちと春臣が安い宿探して泊まれば節約出来るし、そんくらいは持っとる」

「分かった、ありがとう。千鶴ねぇ」

 僕は父さんに電話する為にデッキへと出た。外は暗くなり始め、風で濡れた服がまとわりついて冷たい。

「――あ、もしもし? 父さん? 実は……」


 電話を終え、席に戻ると千鶴が凛と話をしていた。気難しそうな顔をしていた為、千鶴の後ろの席に座る。

「春臣さん……」

「あっ、凛さん。すみません。僕の事は気にせず話を続けて下さい」

「いえ、春臣さんにも聞いてもらいたいのですわ」

「え?」

 少し身構え、凛の話に耳を傾ける。

「私も爺も今回の件は話半分と言うか、あまりにも非現実的な話だったので、気分転換に遊びに来ただけだったんですの」

「は、はぁ……」

「それが神様の話を聞いていると、本当に願いを聞いてくれる可能性があるのかもと思いまして……。実は私には兄がいたのですけど、父との口論で数年前から行方不明なんです。それがあり、私が家業をいずれ継ぐ事になるかもしれません……。私の夢は看護師になり、怪我をした人を救いたいのです。家業の貿易業にはあまり興味がないのですわ……」

「それが今回の件とどう関係があるのですか?」

「兄の……。兄の居場所を知りたいのです。千鶴さん達が言いたい事は分かっています。既に警察にも行方不明者の捜索願いは出してますし、もう数年経つので亡くなっている可能性もあります。ですが諦めきれなくて……」

 とても重い話だった。貿易業者であれば古文書を解くのに相応しい人を知っていてもおかしくはない……か。この古文書の解読を凛に頼んだ時点で、既に恩が出来てしまっている。しかし僕にも母の病気を治したいという思いがあり、協力する余裕はない。どうすればいいものか……。

「駄目や、凛。親友として言うわ。古文書を解読してくれた事には感謝してる。だけど今回の件は凛にも譲れへん。正々堂々と勝負や! それにな! 諦めんのはやってからにしいや!」

 小さい頃から口癖の様に言っている千鶴の名言が出た。これが出る時は大概、イライラしている。

「千鶴さん……」

「千鶴様、それではあまりに凛お嬢様が不憫です……」

「ううん。爺、ごめんね。千鶴さんの言う通りだわ」

「それにな? 私らだって試練に合格出来るとは限らへん。でもな? もしも意味がない結果になっても、その過程が大事なんやないか」

「過程……」

「せや。頑張ったで! せやけど駄目だったわ……は、しゃあないねん。それは後悔やなくて、次に繋がんねん」

「千鶴さん……」

「お互いがんばろや! そんで、最上稲荷でまた会おうや!」

「分かりましたわ! 負けませんわよ!」

「その意気や! うちらも負けへんで!」

「あのちょっと良いですか?」

「なんや、春臣。真面目な顔して」

「確かに協力する余裕はありませんが、この試練は説明があった通り、順位に関係なく、御朱印を五つ集めればどのペアにも権利があるって言ってましたが……」

「え?」

「そうなん?なら、えっか」

『ボオォォォォォ――』

 話のオチがついた所でフェリーの汽笛が鳴り、何だか気分が晴れた。

「日本の夜明けぜよ……」

「千鶴ねぇ、これから夜やけん……」

「春臣! お姉ちゃんがええこと言いおる時になんやねん! どりゃ!」

「っちょ! やめぇや! 誰がお姉ちゃんやねん!」

「あははっ! 二人共! やめて下さい! 他のお客様にご迷惑ですわよ!」

 笑った凛の姿を見て、千鶴は凛にもちょっかいをかける。

「凛もこうしちゃる! こちょこちょこちょこちょ!」

「あははっ! もう! 千鶴さん! やめて下さい! いい加減にしないと! ……瀬戸内海に捨てますわよ?」

「え? ごめんなさい……」

 そしてフェリーは伏越港へと着岸した。

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