おまけ【狐メ二嫁入リ】古文書
【狐メ二嫁入リ】
――瀬戸内海のある神社には古くからの言い伝えがある。
瀬戸の伏見狐。それは何でも願いを聞いてくれる神様だそうだ。しかし簡単にはお会い出来ない。決められた順路を辿る事で、その神様は現れるという。それは何とも奇妙な狐の神様で、いつも伏し目がちなその狐の名は『伏見狐』と言うそうだ。
『そのまんまの意味』じゃないか、と思われがちだが、伏見狐を見た者がそう言うので仕方がない。
私としてはもう一捻りして欲しいところだがこれを見たという与一の話は毎回同じなのでこれ以上は記載しないでおこう。
そもそも与一がこの話をする時は大抵酒が入っており、その話自体が本当かどうかも疑わしいところだ。しかも順路については与一も覚えていない、そして他の書物にも順路については見当たらない。ただ言えるのは正しい順路を巡る先には伏見狐が現れ、何でも願いを聞いてくれるという。これは嘘か真か。
異国の行商人に聞いた話では、世界には七つの玉を集めるとどんな願いでも叶える龍が現れるという。やれやれ、世界はまだまだ広い。おっと、少し話が逸れてしまった様だ。
瀬戸内海に浮かぶ島々の中には、始まりの鐘を鳴らす場所があるという。これは五十年に一度、伏見狐が現れる周期に鳴らされる。その島をようやく探し出した。それは岡山県小田郡白石島だと思われる。
しかし一つ気がかりな事がある。一度だけ与一が言っていたのが、試練に失敗するとその代償として五感を失うと。与一も失った事があると言っていた。ではなぜ今、目の前で元気な姿の与一と酒を飲み交わしているのか。やはり酒の席での世迷い言なのではないだろうか。ここまで書いてきたが、この日記を書いた私はいずれ嘘つき呼ばわりされるのかもしれない。間違いであれば、この記を見た者が良識者である事を祈るばかりだ。
待て待て。狐の嫁入りと思っていたが、狐の世界では狐に嫁入りと言うらしい。それはそうか。おなごが狐に嫁入りすればそうなるのか。しかし今日の与一はいつになく上機嫌だ。何か良い事でもあったのか。
まさか与一が結婚すると言い出すとは夢にも思わなかった。友人としては素直に喜ぶべきだろう。しかし話を聞いていると、違和感を覚える。毎度の事ながら、酒を飲んだ上でのホラ話なのか?
相手の親狐に会いに行ったそうだが、簡単には許してもらえず、五つの試練を与えられたとか何とか……結婚をするのに試練があるとは驚いた。これも時代の流れなのだろうか。そして願望成就、願望成就とまた言い出した。この台詞を言い出したら既に酔っている。今日はこの辺までにしておこう。
それよりもその話自体は大変興味深い。狐に嫁入りならぬ、狐に婿入りとでも言うべきだろうか。いつかそれを絵図にでもしてみるべきか?今度、与一にもう一度詳しく聞いてみよう。
白石島へ行けば、何か分かるかもしれない。私もまた妖狐との出会いをきっかけにこれを探してみようと思う。願望成就……与一は確かにそう言っていた。
明治十一年四月二日、黒木文雄




