おまけ【狐の婿入り】絵本
【狐の婿入り】
昔々あるところに、親子の狐がおりました。
母親の狐には五匹の可愛らしい子狐がおり、中でも末っ子の子狐、シロがたいそうお気に入りでした。
しかしシロが二十歳になった頃です。
「母上、好きな男の子が出来まして……」
母狐は驚きましたが、可愛らしい我が子の事です。二つ返事で会う約束をしました。
ところが、シロが連れて来た男の子は……人間でした。シロも人間の姿になり、母狐に会いに来たのです。
母狐はため息をつきました。
「シロ、人間は駄目です。寿命も狐より遥かに短い。すぐに別れなさい」
「嫌です! 母上! どうかこの者と夫婦にならせて下さいませ」
母狐は人間の男を見下ろし、牙を剥きます。男は母親が狐と知り、逃げ出すかと思いきや、
「母上様、僕はシロさんの事を愛しています! お願いです! 夫婦にならせて下さい!」
牙を剥いていた母狐は諦めた様に、言いました。
「分かりました。そこまで言うのでしたら、そなたに覚悟があるのかを試します」
母狐は他の四匹の子共を呼びました。
「この子達がそれぞれ考えた試練に合格し、再び私の前に立つ事が出来れば、認めましょう。その時は人間をやめる覚悟で来なさい」
そう母狐が言うと、辺りが暗くなり二人は眠りました。
気が付くと、見たことのない森の中にいました。
「シロさん、大丈夫ですか」
「えぇ、与一さんこそ」
「僕は大丈夫です。さ、手を取って」
「はい」
それから二人は力を合わせて兄弟狐の試練を受けていきます。
そして三日三晩かけ、四匹の兄弟狐の試練を終え、母親狐のもとに着く頃には与一は視力を失い、耳が聞こえない状態になっていたのです。これは試練の代償といい、試練を失敗した時に五感の一部を奪われるという過酷なものでした。それでも与一は諦めずに最後まで諦めず頑張りました。
母親狐の所へ戻った二人に待っていたのは最後の試練でした。
「よくぞここまで戻ってきましたね。しかし既に目も見えず、耳も聞こえない……。これから最後の試練を行います」
耳の聞こえない与一の為に、シロは与一の背中に指で文字を書きます。
『お酒』
与一は頷きました。
母親狐は兄弟狐達を並べ、シロを当てろと言うのです。しかし背丈も姿も同じ狐。そう簡単にはわかりません。
それなのに与一は真っ直ぐ、シロのもとへ地面を這って行きます。目が見えない為、立って歩くこともならず、耳が聞こえないのでシロの声もわかりません。それでも見事、シロのもとへ辿り着きました。
シロを見つけられたのは、シロの体から与一の大好きなお酒の匂いがしたからだそうです。
「あっぱれ! 人間の子よ。そなたとシロの結婚を認めましょう! とその前に、目と耳は治して差し上げます」
こうしてめでたく二人は結ばれました。その後、二人の間にはたくさんの子宝に恵まれました。
時が経ち、与一は早々に亡くなりました。母親狐が言った様に、人間の寿命とは短いものだとシロは思い知らされました。
シロはその後、母親狐から『伏見狐』の座を譲り受けました。そしてシロは伏見狐として、今もどこかで生きているそうです。
おしまい
著・くろきふみお
参考文献・狐メ二嫁入リ/黒木文雄




