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瀬戸の御朱印物語  作者: ざこぴぃ
第三章
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第十九話・旅の終わりに

 ――松山駅へ到着した僕と道子を待っていたのは、凛の手配した車だった。

「春臣様、道子様、長旅お疲れ様でした。葬儀の方はいかがなさいますか?」

「淡路さん! ありがとうございます。またお会い出来て良かったです!」

「こちらこそ、そう言って頂けると有難いです」

「せっかく来て頂いたのに、申し訳ないですが葬儀には行きません……」

「左様ですか。その場合、双海(ふたみ)までお連れする様に申し遣っております」

「双海? 僕達は構わないけど」

「ありがとうございます。それではこちらの車にお乗り下さい。葬儀が終わり次第、凛様も来られます」

 ――その後、僕達は一足先に双海へと向かい、レストランで遅めの昼食を取る。そしてしばらくしてから凛と有馬もやって来た。

「春臣さん、お疲れ様。葬儀には顔出さなかったのですね」

「はい、凛さん。詳しくは後でお話します」

「そう、分かったわ」

「凛さん、どうしてここに?」

「ここはね……。千鶴さんが前に教えてくれてたの。恋人と来ると永遠に結ばれるって――」

「それって……」

「えぇ……。色々考えて、私は有馬さんとお付き合いをする事にしました。そして君達も……そうなのでしょう? ふふっ」

「はい! 凛さん! 私達は明日にでも結婚します!」

「ちょっと! 道子! まだ結婚はしないけど! それより有馬さんが嬉しすぎてか、泣いてますけど?」

「うぅっ……」

「海が綺麗ね……」

「あっ! そうだ、凛さんこれお返しします」

 僕は財布から、キンキラゴールドカードを取り出し凛へと返した。

「ホテルから連絡はきてたわ。一応話を聞こうかしら? 怒ってはないから安心してね」

「は、はい……。それとこれを。LINEしても良かったのだけど、葬儀が終わってからと思って……」

「何かしら? 兵庫県神戸市三宮……? 誰かのマンションの部屋ですの?」

「うぅ……って! それは俺の住んどるマンションやないかいっ! どこで仕入れてきたん! びっくりするわ!」

「え! 有馬さんそこに住んでるんですか! じゃあ何で!」

「あっ! ……しもた。あははのは……海が綺麗やなぁ……」

「どういう事ですの?」

「そこに……凛さんのお兄さんがいるそうです」

「えっ!?」

「凛さん達にも監視役の神様が付いて来られてたと思うんですけど、その神様が教えてくれました。御朱印巡りに参加したご褒美かもしれません」

「春臣さん、ありがとう! そんな近くにいたなんて……。それと有馬さん、どういう事か説明しなさい」

「いや、そのお兄さんには口止めというか、そのあの……」

「凛様、良かったですね。灯台下暗し……とはよく言ったものです」

「爺、宿の手配を。春臣さん達を送ったらそのまま向かいますわ。道中でゆっくりと有馬さんから話を聞きませんとね」

 僕達は夕陽が沈むまで、缶コーヒーを片手に話し込んだ。試練の事や、ホテルでの出来事、それに千鶴は生きているのだと……。

「そう……それは見間違いではないと思いますわ。千鶴さんはきっと狐さんに嫁入りしたのですわ。あの古文書の表題の様に……」

「表題? 確か『キツネメ二ヨメイリ』でしたよね。狐めに嫁入り……何だか狐を嫌っている様な書き方でしたが……」

「ふふっ。あれは『メ』を☓に見立てて、『キツネ二ヨメイリ』と読むそうよ」

「ふぁっ!? 狐に嫁入り!?」

 思わず声が裏返った。

「想像でしかありませんが、千鶴さんは表題の意味も、そしてこうなる事も全部知ってたのかもしれませんね……」

 夕陽が傾き始め、潮風が凛の長い髪をなびかせる。それはどこか寂しげな表情と、どこかスッキリした表情を覗かせた。

「むぅ! 春くん、今、凛さんの顔に見とれてたでしょ!」

「みみ見てないって!」

「ほんまかいな!! 兄ちゃん! ワイの女に手出したら承知せんぞ!」

「……有馬さん、そこへお座りなさい」

「え?」

「私はあなたの女になったつもりはありませんわ。あなたは自分の立場を理解するところから始めませんといけませんね」

「す、すんまへん……」

『LINELINE』

「ん?」

 僕のスマホにLINEの通知が届く。

「春くん、どした? お父さんから?」

「いや、桃太君みたい……そうか、良かったやん」

「そう言えば連絡先交換してたもんね」

「あぁ。バタバタしてて連絡するん忘れとったけど……どうやら紅葉さんのお姉さんの意識が戻ったみたいやね」

「ほんと! 良かったね!」

「セリ様からもらった薬をあげたみたい……たぶんこれもアリス様が用意したんやろな」

「そうかもね。御朱印巡りは、アリス様の采配で参加者はもれなく願いが叶うのかもしれないね」

「かもな……」

「ちょっと待ちぃな! 俺は参加してへんけど、淡路のじっちゃんは参加して視力を失ってだな――」

「申し遅れました。凛様にはご報告したのですが、今朝方、起きた時から視力が徐々に回復してきております。完全にはまだ戻ってはおりませんが、これも春臣様、道子様のお陰だと思われます。凛様の件も合わせてお礼を申し上げます。ありがとうございます」

「淡路さん!! 本当!? 良かった!」

「じっちゃん視力戻ったんかいな! それは良かったやんか! せやけど、そうなると何にも無いのは俺だけかいな。とほほ」

「兵庫有馬さんは試練に参加すらしていませんもんね」

「春の字の兄ぃちゃん! そんな他人行儀なフルネーム呼びやめてや!」

「兵庫有馬さんはそれでいいんじゃないですか? だって凛さんが、兵庫有馬さんの欲しいものを全て持っているわけだから……」

「ふふっ。有馬さんの欲しいものって何かしら? まさかお金や地位や名誉とか、私のお父様の財産を当てにされてたりしませんわよね?」

「とととととんでもないでっ! 凛、そないな事あるわけないやろ! 俺は一途に凛の事を考えてやな!」

「お兄様の居場所も隠していらしたみたいですし、一度島流しにして差し上げましょうか?」

「なんでやねん! あれは律さんに口止め料をもらってやな――あっ」

「ふふっ、春臣さん。瀬戸内海の無人島をどこかご存知ないかしら? 有馬さんには一年程、無人島で暮らして頂く事に致しますわ」

「あぁ……そういう事なら、鶴島から見える無人島がちょうどあって――」

「ちょ! ちょっと! 堪忍してや! 俺が一人でサバイバル出来るわけないやろ! スマホと煙草が無かったら生きていかれへんねん!」

「ふふっ! 冗談ですわ……半分」

「半分かいな! で、残りの半分は優しさかいな! ……て、ここでどかーん! やろ? な?」

「兵庫有馬さん、島流しの日時をお伝えします」

「NOOOOOO! 春臣ちゃん! 勘弁や、な! 今のは、なしや! もっぺん! もっぺんやらせて! な!」

「ぷっ……あはははっ!」

「道子! 先に笑うなや! 我慢しおったのに! あはははっ!!」

「だって! 有馬さん泣きそうなんだもん! あはははっ!」

「ふふっ。有馬さんらしいですわ」

「ごもっとも」

「もう、皆してなんや! 千鶴! カムバァァァァック!!」

 夕日に向かって叫ぶ有馬を見て、また腹を抱えて笑った。ここにいる全員、千鶴がいて集まった友達なんだ。

(どこかで見てるんだろ?千鶴ねぇ……)


 そして凛が立ち上がり、皆に声をかける。

「皆さん、そろそろ行きましょうか?」

「そうですね……凛さん、本当にありがとうございました」

「凛さん! 結婚式には呼んで下さいね! 私も近々お呼びします!」

『うちも行くで』

「凛様、車を回します」

「兄ちゃん、お嬢ちゃん、また会おうな」

 こうして、伏見狐の不思議な試練は幕を閉じた。あの古文書を千鶴と一緒に、実家の床下で見つけてから、はや三年が経っていた。……ようやく、ようやく全てが終わったのだ。


 ――そしてこの数カ月後に、母は眠る様に息を引き取った。

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