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瀬戸の御朱印物語  作者: ざこぴぃ
第三章
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17/26

第十六話・いつかまた

 ――最上稲荷山妙教寺、十一時五十九分。

 最後の試練で道子が運命のルーレットを回し、体の一部が呪われてしまった……。それはそれは世にも恐ろしい呪いだった。道子の、む――。


 ――僕は巨乳になった伏見狐を見上げ……ルーレットを回す。

「ゴーン……ゴーン……ゴーン……」

 どこからともなく、零時を知らせるであろう鐘が鳴り始める。

『クルクルクルクル――』

 ルーレットはゆっくりゆっくりと回り、そして静かに止まる。

『願・死・死……』

「春くんっ!!」

「ふぅ……道子、大丈夫だ。死の部分は越える!」

「でも!まだ呪いが残ってる!」

「あぁ……」

『死・死・呪・呪……』

「ルーレットが止まるわ……」

『呪・呪――』

 ルーレットの針が『呪』から『願』に進もうとするが、仕切りに引っかかり『呪』で止まりそうになる。

「動け!もう少しだ!」

「お願い!!動いて!」

「グルルル……」

 伏見狐が牙を剥き、結果を待つ。しかし僕の願いも虚しく、針は『願』の表示の一ミリ手前の『呪』で止まった。

「グルルル……」

「結果が出た様じゃな。と言うておる」

「くそっ……!!」

「春くん!いやぁぁぁ!」

 その時だった!


『チリーン!』


 バッグにぶら下げていた狐のキーホルダーの紐が切れ、地面に落ちると同時に鈴の音が聞こえた。

『ガタンッ!!』

「え……!?」

 なぜそうなったかは分からない。ルーレットの台が小石一個分、ほんの少しではあるが沈んだのだ。

『……カタン』

 針は仕切りを越え、『願』の表示で止まる。

「や、やった!!」

「え……! すごい! 春くん!!」

「伏見狐様! これで試練は合格ですよね!」

「グルルル……」

 伏見狐は牙をむき出し、唸り声を上げる。

「……あい、分かった。と言うておる」

 ここで御朱印帳が光り出し、最後の御朱印が押されると、零時の鐘が試練の終わりを告げた。

『――ゴーン……ゴーン』


「出来た……! 道子! 御朱印帳が完成したぞ!」

「うんっ! うん! 良かった……」

『小僧、ようやった。お主の願いを聞きとどけようぞ』

「ん? 誰?」

『わしじゃ。伏見狐じゃ』

「……しゃべれるんかいっ!」

『わしはしゃべれぬとは一言も言うてはおらぬ』

「だってアリス様が通訳ぽい事をしてたじゃないか!」

『アリス様? それは誰ぞ?』

「え? この人――」

 アリス様がいた場所を指で差すと、そこには別の白い狐が座っている。

「あれ? 今までそこにいたのにどこに行ったんだ?」

『さぁ小僧、願いを言うが良い。どんな願いでもひとつだけ聞いてやろうぞ』

「あぁ……そうか。そうだな」

「春くん、これで願いがようやく叶うのね……良かった……ぐすっ」

「道子、今までありがとう。そうだ、これで母さんの病気を治せる……」

 そう思っていた。母さんの病気を治し、この旅はハッピーエンドを迎える……それで終わりだと思っていた。でも本当に願いが何でも叶うのなら……。

「伏見狐様! 母さ……いや、瀬戸千鶴を生き返らせる事は出来ないだろうか!」

「なっ!? 春くんっ!」

『詳しく話してみよ』

「はい、伏見狐様……。道子、ごめん……」

「……ううん。春くんがそれでいいのなら……」

「あぁ……ありがとう」

 僕は順を追って説明する。

 千鶴と幼い頃から遊んで育った事、二人で古文書を見つけ、今回の旅支度をした事、そしてこの御朱印を集める旅の途中で、夢半ばにて命を落としてしまった事……。

 途中、涙が溢れ、言葉には詰まったが最後まで話をした。伏見狐は目を閉じ、黙って話を聞き、話が終わると同時に目を開けた。

『なるほどの……。その者は一生懸命生き抜いたのだな』

「はい、そうです……だから! だから彼女に会いたい……! 瀬戸千鶴を生き返らせて下さい!」

『それは出来ぬ』

「なっ……なぜですか! 試練を全て終わらせたら願いを聞いてくれるって――!」

『あぁ、そうじゃ。わしは言ったはずじゃ。お主の願いを何でも聞いてやると』

「じゃあ! どうして!」

『今、聞いてやったではないか? 心の中の誰にも言えぬ思いを全て……』

「何だって……? まさか……願いを聞くだけ……なのか?」

『最初からそう言っておる。勘違いするな、愚か者め』

「ふ……ふざけるなっ! どんな思いでここまで来たと思ってるんだ!!」

『――去れ、小僧。願いは聞きとどけた』

「くそぉ!」

 僕は力いっぱい握り拳を作り、伏見狐へと振りかぶる!!

「ふざけるなっ!!」

「春くん! やめてっ!」

 すると、伏見狐の前に隣にいた狐が立ちはだかった。背丈は僕と変わらないだろう。その狐が真っ直ぐ僕を見つめると、なぜだか分からないが拳を振り上げたまま、体が硬直し動けなくなってしまった。

 そして最後に見たのは、その狐の首から狐のキーホルダーがぶら下がっている光景だった……。

 

『――チリーン』


 鈴の音が聞こえた瞬間、僕と道子は暗闇の中へとすごい力で放り出される。

 そして振りかぶった拳は硬い壁に阻まれ、腕が折れるくらいの衝撃が全身に走った……。

「くそぉぉ……いてぇ……!」

「春くんっ!!」

 そこは最上稲荷山妙教寺の入り口にある大鳥居。大鳥居に向かい、僕は拳を打ちつけ、そのままその場へと座り込む。

「はぁはぁはぁ……くそぉ!」

「春くん……」

 終わったのだ。何もかも……。最初は期待などしていなかった。何でも願いが叶うなど、そんな事はありえない。頭では理解していた……それなのに、千鶴の死を見て考えが変わっていた。可能ならば、もう一度千鶴に会いたい。会って伝えたい事がたくさんあった……。

「……春くん。お疲れ様。春くんが無事で、私はそれだけで十分だよ」

「道子……」

 道子が、座っている僕を抱きしめ、僕も道子の体を抱きしめる。

「そういえば、紅葉さん達も来る時ここにいたわよね?」

「あぁ、そうだったな」

「あの様子だと、もしかして同じ結果だったのかも……」

「あの子たちも……か。明日にでも連絡してみるよ。桃太と連絡先を交換してるから……」

「うん……一人で悩んでいると思うから……」

「道子は優しいな」

「えぇ!? 惚れ直したのか?」

「ははは……はいはい。ん? 道子、お前……」

「何?」

「胸が……」

「はぁ? もう! しょうがないじゃん! 伏見狐様に取られ……え?」

「どういう事だ?」

「分かんない……分かんないけど、元に戻ってる? って、いつまで見てるのかな? 春くん……」

「あっ……ごめん」

「この巨乳好きめぇ!」

「ちょ! 痛い! 胸で抑えるな! く、苦しい!」

「あははっ! この胸の中で全て忘れてしまえぇ!」

「むぐぐ……」

「春くん大好き……」

「何? 何か言った? うっ……っと! ちょ! 苦しい……!」

「何でもないっ!」

「むぐぐ……ギブギブ……」

 こうして僕達の短く、そして忘れられない旅が終わりを告げた……。


………

……



 ――最上稲荷山妙教寺境内。

「ふぅ、スッキリしたわい。寒すぎてよもやお腹を下すとはな。しっしっし……」

「もう、ねぇさま! 心配しましたわ!」

「さて、千家のこせが……ん? 誰もおらぬではないか。伏見狐よ、あやつらはどこじゃ」

「おかえりなさいませ。先程、帰らせました」

「うむ、そうであったか。ご苦労じゃったの。して、あやつの願いは聞いてやれたのかの?」

「はい。生きている者を蘇らせる事は出来ませんので、こうして会わせてやりました。千鶴、これで良かったのか?」

「はい、伏見狐様。十分で御座います。わがままを聞いて頂きありがとうございました……うぅ……」

 伏見狐の隣に座っていた一匹の狐が涙を流す。

「うむ、素性を言わぬと言う約束を守れたのじゃな。今回の件は大目に見てやろうかのぉ」

「ありがとうございます。千鶴もそれで良いな?」

「はい……伏見狐様……うぅ……」

「ところで、かの者が口走ったアリス様とはどちら様でしょうや?」

「ん? わしの事じゃ」

「えぇ!! 何ですと!」

「伏見狐には言っておらんかったのかの」

「はい……聞いておりません」

「しっしっし! それはすまなんだ。わしの今の名はアリス・ウメ・コリータじゃ」

天照大御神(アマテラス)様がお名前を変えておられたとは、露知らず……」

「かまわん。この名前が気に入っておるのじゃ。のぉ、プリン」

「さすがねぇさまですわ! 狐を化かしたのですね!」

「あっははは! これは一本取られましたなぁ!」

「狐……ねぇさまを笑うと殺しますわよ」

「えっ……。すみません、天探女(アメノサグメ)様……」

「プリンよ。そう、むきになるでない。わしは怒ったりはせん」

「時に天照大御神様。試練はまた夢話にされるので御座いますか?」

「おぉ、そうであった。プリンよ、頼んだぞぇ」

「はいっ! ねぇさま!」

 そう言うと、プリンは何やら唱えながら指を鳴らす。


『――パチンッ!』


「これで昨日までの試練は夢物語になり、いずれ忘れてしまうじゃろう。エープリルフルーリー……じゃしな」

「ねぇさま! 噛み噛みです! 素敵ですわ!」

「うむ。横文字は苦手じゃ。さて、わしらもそろそろ行くとするかの」

「はい! ねぇさま!」

「はっ! お疲れ様でした! 天照大御神様、天探女様!」

「うむ、伏見狐よ。今回も楽しませてもらったぞぇ。五十年後にまた会おうぞ」

「ははっ!」

 ちょうどそこへ監視に行っていた他の神達も帰って来る。

「ねぇさま! プリン様! お待ち下さいませ! 私達も帰ります!」

「マテテクダサイ! コンチクショー!」

「おぉ、セリにメノウ。遅かったのぉ。首尾の方はどうじゃ?」

「聞いて下さいませ! ねぇさま!実は――」

「――ジツワ、オカヤマエキデ、ナマケテマシタ。モモクッテタ」

「……は? おい、二人共に首を差し出せ。ねぇさま、今、こいつらをたたっ斬ります」

「えぇっ!? 違います! メノウ! 嘘言わないで下さいませ!」

「へへ、ザマアミロ」

「天照大御神様、賑やかですなぁ」

「すまぬすまぬ。伏見狐よ、わしらは帰るでの。ここで失礼するでよ」

「はっ! お気を付けてお帰り下さいませ!」

「うむ、さらばじゃ」

 そう言うと、天照大御神達の姿が光の柱に吸い込まれる様に天へと昇って行った。


 ――境内に残された二匹の狐が夜空を見上げる。

「伏見狐様、賑やかでしたね……」

「そうじゃな。皆が待っておる、そろそろわしらも行くかの、千鶴」

「はい。ところでセリさんとメノウさんも神様なのですか?」

「そうじゃ。須勢理毘売命(スセリヒメ)様と、天宇受売命(アメノウズメ)様じゃよ」

「へぇ。皆、楽しい方達でしたね。また会いたいです」

「そうじゃな。いずれ、神々の住む出雲の社へも案内してやろうぞ」

「ありがとうございます」

「うむ、その子狐の体でおればあと数十年は生きられるであろう。その間にゆっくりとそなたの行く道を考えるが良い……」

「はい……」

「しかし懐かしいのぉ……。わしも昔は人間の男と恋に落ちての」

「伏見狐様! その恋話を詳しく聞かせて下さい! 大好物です!」

「はっはっは! そうじゃな、ゆっくり教えてやろうぞ――」

 こうして五十年に一度行われるという伏見狐の試練が終わった。

 

 その昔、伏見狐の娘に人間の男が惚れ込み、伏見狐が五つの試練を与え、「見事試練を乗り越えたら結婚させてやろう」と言ったのが発端とか何とか……。男の名は与一。しかし今はそんな昔話、誰も覚えてはいない………。


(春臣、いつかまた……いつかまた、会おうや。その時まで……さようなら――)

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