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瀬戸の御朱印物語  作者: ざこぴぃ
第三章
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第十五話・最上稲荷山妙教寺

 ――四月一日、二十三時四十分。

 もうすぐ今日が終わる。

 普段なら、布団に入りスマホゲームをしSNSを見て、そして眠る……。その繰り返しの毎日。のはずが、こんな時間にお寺の境内で、ましてや女子と二人でいるなんて想像もしていなかった。

 ここは岡山市にある最上稲荷山妙教寺……。


「春臣様、道子様。それではここで私共は帰らせて頂きます。くれぐれもお気を付けて下さい。それと、今夜泊まる宿も近くにご用意しております。こちらが宿の住所です」

「淡路さん……本当にありがとうございます。いつか、必ず恩返しします」

「いえいえ滅相もない。お礼なら凛様にお伝え下さい。ではこれにて失礼致します」

 僕と道子は妙教寺の駐車場でワンボックスカーを見送り、本殿へと向かう。

「いよいよ……やな」

「うん……」

「寒くないか?」

「少し……」

 僕は着ていたパーカーを脱ぎ、道子に着せると、道子は僕の腕を掴み体を寄せてくる。

「道子、ありがとうな。一人じゃここまで来れなかったと思う」

「皆のおかげよ。私は春くんに付いてきただけ……。それで頭の中は整理ついたの?」

「……願いごとか? 正直分からない。その話自体が本当かもまだ疑ってるし、ここまでの旅というか、僕の中では大冒険だった訳で……そこに満足をしている自分もいる」

「ふふ……私も。何だろうね。ここがゴールかもしれないし、ゴールじゃないのかもしれない。でもその過程が……すごく貴重な体験だったわ……」

 白い息を吐きながら、石段を上がって行く。

「……着いたな」

「えぇ、これで最後よ」

 御朱印帳を取り出すと、薄っすらと光っている。

「やっぱり……最後だけ何もないわけないよな」

「最後の試練は何て書いてあるの?」

 本殿の街灯の前で御朱印帳を開き、試練の文字が出てくるのを待つ。裏表紙の参加者の欄は、僕と道子の名前だけになっていた。リタイアした者、クリアした者、それぞれの想いで御朱印を集めたのだろう。ここでそれが終わりになるのが、少し寂しい気がした。

「出てきたな……。課題は『ルーレットを回し、己の運命を決めよ』……」

「運命? どういう事?」

 その時だった! 辺りの街灯が全て消え、本殿のあった場所に真っ赤な鳥居が現れる! 夜よりもさらに暗く、足元すら見えない。そして街灯の代わりに松明が灯り始め、鳥居までの道を作り始める。

「へへ……いよいよラスボスね。春くん準備はいい?」

「全然良くないけど、もう行くしかないだろう」

「セーブはした?」

「そんなセーブポイントねぇよ、笑わせる……な……道子?」

 そう言って道子を見ると、道子が足元からガクガク震えているのが分かった。

「だよな。僕もちびりそうや」

「やめてよ。私、まだ春くんのおむつを替える心の準備は出来てないわ」

「介護かよ……。さぁ、行くぞ」

「う、うん」


 ――二十三時五十分。

 僕と道子は最後の鳥居をくぐる。

「よう来たな、待っておったぞ」

「遅いですわ! この寒空の下、ねぇさまをどれだけ待たせるのですか! 死んで詫びなさい!」

「よいよい。プリンよ、そう息巻くでない」

 鼻水を垂らし毛布に包まったアリス様が、鳥居の奥の社から降りて来る。

「アリス様にプリン様……」

「うむ。千家のこせがれよ。早速じゃが、ここにルーレットがある。一人一回しか回せん」

「ルーレットを回すだけなの? ……春くんどっちから回す?」

「これを回すのか……?」

 目の前には腰ほどの高さの木製の台に、直径三十センチ程のルーレットが置いてある。真ん中の回転軸を回し、針が指す方向で決まるという一般的なルーレットだ。しかしその内容に驚愕した。

「死、死……呪、呪……願、願……」

 枠は十二枠に区切ってあり、十二時から四時の間が死、四時から八時の間が呪、八時から零時の間が願……。

 ルーレットが設置してある台には、色褪せた紙が貼ってあり、ルーレットの表記内容が墨で書かれている。

『死……死ぬ。呪……肉体の一部に呪いを受ける。願……願いを聞きとどける』

「さぁ、回すが良い。三分の一の煩悩の裁量で願いが叶うぞよ? ほれほれ、もう時間がないぞよ」

「無理だ。これは回せない……。道子、もういい。ここまで――」

「ぐぬぬぬっ! 春くん! それは駄目や! 諦めんのはやってからにしいや! やろっ! ほえいっ!!」

「はい?」

 目の前で何が起きたか分からないが、ルーレットが回っている。回っているというか、僕の静止を聞かず、躊躇する事なく、道子がルーレットを回してしまった。

「たんま! たんま! アリス様! これはなし!」

「ならぬ」

「くっ! 何してるんだ! 道子! 死ぬかもしれないんだぞ!」

「分かってる。でももう時間がないの、それに願いが叶う可能性もあるんよね」

「そういう事じゃない! これはゲームじゃないんだ! 死んだらコンティニューは出来ないぞ!」

「私は……千鶴ねぇを信じる」

「道子……お前……」

 腰が抜けそうだった。数々の現実離れした現象を目の当たりにしてきたからだろうか? このルーレットの止まった先の『死』の文字が、本当に起こりそうな気がしてならない。

 ルーレットはゆっくりゆっくりと回り、静かに止まる……。

『願・死・死……』

「ル、ルーレットは……!!」

『――死・死……呪』

「いやぁぁぁぁぁぁ!!」

「道子ぉぉぉ!!」

 死は外れたものの、隣の『呪』の文字で止まった。それは体の一部が呪いを受けるという表示。ルーレットが止まった瞬間、道子の叫び声が境内にこだました。

「道子! 道子! どこだ! 腕か! 足か!? どこが痛い!」

「うぅ……」

 痛みからなのか、その場へと座り込んでしまう道子。

「道子っ! 大丈夫か!」

 腕はある! 足も見える! 耳もある!

 僕は道子の顔を両手で掴み、上へと持ち上げる!

「道子……」

 泣きじゃくる道子の顔に……目はある。鼻も……ある。口も……ある。

「アリス様!! どこに呪いを受けたんだ! まさか……内臓でも呪いがあるのか!」

「内臓ではない。かの者を見ればわかるじゃろう」

「かの者?」

 アリス様の後ろにいつの間にか、三メートルを越えるであろう白い狐が座っていた。

「き、狐……!?」

「かの者がこの試練の主催者、伏見狐じゃ」

 真っ白な巨大な体にするどい眼光、口は耳まで裂け、牙をむき出し、今にも噛みついてきそうな狐が僕を見下ろしている。

「……グルルル」

「ふむ。こやつが言うには、小娘には既に呪いをかけた。次はお前の番だと言うておる」

「どこなんだ! おい! 道子の……!」

 言いかけて気付いてしまった。たぶん、たぶんだが、それは狐にしては違和感のある代物だった。

「……何で狐が巨乳なんだ?」

「ひゃぁぁぁぁぁ!!」

 僕の後ろで道子が悲鳴を上げる。確かに道子の胸はそこそこ大きい。でもそれは描写してはいけない決まりでもある。

「ごめんね! 春くん! ごめんね!」

「え? 何で道子が謝るんだ?」

「だって! 春くん巨乳が好きなんでしょ!」

「は?」

「胸がね! 胸が……小さくなったみたいなの……! ごめんね……!!」

「へへッ」

「おい、狐! 今、笑っただろ!」

「グルルル……」

「うむ。笑ってはないそうじゃ」

「嘘つけ!!」

 道子は向こうを向き、胸を確認している。

「春くん……小さくはなったけど、大丈夫かも……しれない?」

「健康面で支障がないのなら……明日、病院で診てもらおうか」

「うん……痛みはない……と思う」

「違和感があったら言えよ」

「うん、ありがとう。ひとつだけ言わせて? 下着のサイズが合わな――」

「アリス様! 次は僕の番だ!」

「春くん……無視は良くないよ、春くん」

「ほう、千家のこせがれよ。ようやくやる気を出しおったか」

「春くん、聞いて。下着がズレ――」

「あぁ、こんな茶番終わらせてやる!」

「あい、分かった。さっさとルーレットを回すが良い。時はもう残り少ない……」

「あぁ……」

「ねぇ、春くん?おーい」

 僕はルーレット台の前に立ち、顔を上げ、大きな狐を睨みつけたのだった。

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