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瀬戸の御朱印物語  作者: ざこぴぃ
第二章
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12/26

第十一話・伊豫稲荷神社

 

 ――愛媛県松山市三津浜港。

『ボォォォォォ――』

 フェリーの汽笛と共に、お昼前に港に着いた。

「色々あり過ぎて、すごく長い間地元から離れていた気がするな」

「そうね……。でも春くん、ゆっくりする暇もないわ。伊豫稲荷神社に行って、夕方には葬祭場に行かないといけないし、途中で着替えもしなきゃだし、ギリギリやね」

「ほんまやな」

 三津浜港に到着し、フェリーを降りると二十歳前後の一人の男性が声をかけてきた。

「なぁ君、春臣君やないか?」

「ん? あぁ、そうですけど?」

「おぉ! 時間ぴったしやな。さすが凛や」

「え? 凛さんの友達?」

「あぁ、俺は有馬(ありま)言うねん、よろしくな」

「は、はぁ」

「いやな。実はかくかくしかじかでな」

「かくかくしかじかでは分からないので説明してもらえませんか?」

「あちゃぁ! おっかしいなぁ! 凛達にはこれでウケんねん!」

「もう行ってもいいですか?」

「ちょ! 待てや! ほんで、ちょっと待てや!」

「なんなんこの人……。道子、行こ」

「う、うん」

 道子が哀れんだ目で有馬を見つめ、僕の袖を掴んで着いてくる。

「にいちゃん達! 凛の友達やろ!? 今日の千鶴のお通夜で一緒に来てんねん! ほんで、お通夜まで時間あるから、君達の様子を見てこい言うて、頼まれたんよ! ちょ! 待てって!」

「あっ、そういう事ですか。お通夜には顔を出します。急いどるんで、これで失礼します」

「くぅ! 冷たっ! 南極より冷たいで!」

「お兄さん、南極行った事あるんですか?」

「そりゃ……ないけどもやなぁ……」

「失礼します」

「ごめんって! 堪忍やって! 冗談やって!」

 鬱陶しい。話には聞いていたが、確かに鬱陶しい。

 そして僕達は三津浜駅まで歩き、そこから予讃線で松山駅へ。松山駅で乗り換え、伊予市へと向かうルートになる。


 ――JR松山駅。

「で?」

「あんな。目上のもんに向かって『で?』て、一文字は無い思うねん。いいか兄ちゃん? 人生って言うのはな――」

「有馬さん『着いて来なくて大丈夫です』て、言いませんでしたっけ?」

「せやけど、君。何かと二人旅は大変やろ? 人生経験豊富なこの俺が――」

「地元なんで全然大丈夫です」

「くぅ! 冷たっ! 北極より冷たいで!」

「有馬さん、北極行った事あるんですか?」

「そりゃ……ないけどもやなぁ……」

「失礼します」

「それさっきも言うたやん! お兄ちゃん、おもろいなぁ! 俺とコンビ組んで、吉――」

「嫌です」

「そりゃあきまへん、通りません! て、分かる? 西宮のおばちゃんやで」

 千鶴がおかしな関西弁を喋る様になってたのは、この人の影響か。影響され過ぎやろ……。

『トルゥゥゥゥ――間もなく電車がホームへ入ります――』

「あのぉ、失礼ですが有馬さんはどこまで着いて来られるんですか――」

 電車がホームに入ってくるタイミングで、道子が一番聞きにくい質問を投げかけた。

「え……? 嬢ちゃん、まさか俺……二人の邪魔してる?」

 黙って頷く道子。膝から大げさに崩れ落ちるイケメン有馬。もういい、帰ってくれ。

「有馬さん。邪魔とか迷惑とか帰れとかは思ってないんです。ですが、ちょっと大事な用事があって、集中したいんです」

「御朱印帳巡りやろ?」

「え? 何でそれを!」

「俺も白石島に行ったからな」

「あの日、いたんですか……?」

「あぁ、午前中にな。せやけど、あれは二人やないと成立せん御朱印帳らしいな。それを知らんかったんや。そんで凛を誘ってもう一回行こうと思って連絡してん。そしたら何て言われた思う?」

「……何て?」

「『私が先に誘ったのを断っておいてどの面下げて連絡してきたんですの? このゴミ虫め』と、まぁ、こんな風に――」

「私はそんな事言った記憶は御座いませんことよ」

「ほらな。すぐそうやって、上から目線でものを……? ん?」

「有馬さん? ちょっと良いかしら?」

「凛!!」

「凛さんっ!!」

「春臣さん、ご機嫌よう。有馬を少しお借り致しますわね。おほほ」

「あっ、はい。ご自由にどうぞ」

「いやぁぁぁぁぁ!! 兄ちゃん、助け――」

「わっ……すごい美人さん……」

 僕と道子は凛に手を振り、電車へと乗り込む。黒ずくめの男に囲まれ、どこかへ連れて行かれる有馬を、哀れんだ目で見ながら……。

 そして電車は一路、伊予市の伊豫稲荷神社へと向かう。


 電車の揺れと、流れていく見慣れた街並みのせいか、いつの間にか舟を漕ぎ始め、うとうとと眠りについた。

『――ひきかえせ』

「ん?」

 気が付くとアナウンスが流れ、もうすぐ目的地の郡中港駅に着く様だ。

「春くん、おはよう。眠れた?」

「あれ? 道子……。ごめん、寝てたみたいや」

「うぅん、疲れてたのよ。もうすぐ着くわ」

「あぁ……道子、さっき何か言ってた?」

「うん」

「ひきかえせとか何とかって、聞こえたんだけど」

「ひきかえせ? 私は春くんの寝顔見て、小憎たらしい顔だなぁ、でもそこが昔からかわいいんよなぁ。春くんとの子供産まれたら、きっとこんな顔なんだろうなぁ。早く産まれないかなぁ。あっ! まだ妊娠してなかった! うかつ! テヘペロ。て言った」

「なげぇわ」

「じゃぁ、私じゃない」

「やろね」

 夢にしてはやけにはっきり聞こえた気がする。『――ひきかえせ』か……なぜだか嫌な予感がする。

「春くん。大丈夫よ、そんな顔をしないで?」

「道子……。そうやな、進むしかないもんな」

「うんっ!」

 何度この笑顔に助けられてきたことか。この旅が終わったら、お礼をしないとな……。そんな事を思いながら、電車を降り伊豫稲荷神社へと向かう。郡中駅からは二キロ弱である。

 昨日とは打って変わって今日は日差しが強い。道子は雨傘を日傘代わりに使い、僕の後をついてくる。


 三十分程歩き、民家を抜けると赤い鳥居が見えて来た。

「あそこや。初めて来たわ」

「私も。近くだと、いつでも行けるから案外行かないものね」

「言えてる」

「そうだ! 春くん、時々こうやって神社やお寺を周って御朱印集めしようよ!」

「あぁ、それ僕も考えてた。目的がある訳でもないけど、神社やお寺に行くと心洗われるっていうか……うまく言えないけど」

「分かる! あれでしょ! お風呂でリンスしたけど、流すの忘れてそのまま上がっちゃった! 的な!」

「それは違う」

「……春くんのばか。そこは話を合わせなさいよ」

「なんでやねん」

「むう! こいつこいつ!」

「こら! 傘を人に向けるもんじゃありません!」

「うるさい! こいつこいつ!」

「道子!」

「やめぬか! 痛いではないか!」

「貴様ら! ねぇさまを傷付けるとは言語道断! ここで死ねっ!」

「なっ! アリス様にプリン様!」

「え? アリス様とプリン様?」

 鳥居の石段に二人は座って僕達を待っていた。昼を過ぎ、鳥居の柱の影はほとんどなく、暑そうに腕まくりをしている。

「さっさと試練を済ませてこぬか。暑すぎて溶けてしまうわ」

「そうですわ! ねぇさまが溶けたら、冷凍庫で冷やして元に戻しますわ!」

「それは溶けた状態で固まるのでは……」

「千家……私のねぇさまを侮辱致しましたわね……!! 死になさい!!」

「ちょ! プリン様! 刀を抜くな!」

「えぇい! 黙れ! 今日という今日は許さない!」

「うむ。プリンよ、そこまでじゃ」

「はい! ねぇさま!」

 アリス様になだめられ、プリン様はすぐに大人しくなった。

 なぜこの子供の神様達が監視役なのだろう? もっと適任な神様はいなかったのだろうか? もしかしてアルバイトで監視役をしているのだろうか?

「千家のこせがれよ、安心せい。わしはこう見えて二千年以上生きておる」

「はいはい。道子、御朱印帳見てみようか」

「おい、無視するでない。わしはこう見えて――」

 言い分さえ、子供の発想に思えてしまう。その設定に付き合ってあげるのが、大人の対応なのだろうか。

「そうでちゅねぇ、アリスちゃんは二千歳でちゅよねぇ」

 この返答で合ってるのかすら分からない。

「貴様、ねぇさまを愚弄すると叩き斬るぞっ!」

「プリンさん、やっておしまいなさい」

「はい! ねぇさま!」

「やるな! やるな! 刀をしまえっ!」

 調子に乗って危うく斬られる所だった。大人の対応とは難しいものだ。

「春くん! 四つ目の御朱印と文字が浮かんでくるわ!」

「出てきたな。次はどんな試練なんだろ」

「オラ、わくわ――」

「はい、道子ちゃんもそれ以上は心の中で言いまちょうねぇ」

「ちっ。プリン様、やっておしまいなさい」

「道子の許可が出たわ。春虫、覚悟なさい!」

「やるな! それに道子はこっち側やろがい!」

『ちっ!』

 三人がなぜか意気投合し、舌打ちをしてくる。マジで面倒くさい子供達だ。


『――ひきかえせ』

「え?」

 御朱印帳の試練が浮かび上がり、そこにはまた『――ひきかえせ』の文字が浮かぶ。

「またこの言葉……」

 これでは入り口の鳥居から動けない。

「春くん、これはどういう意味? 帰れっていう事?」

「分からない……」

 さっきまできゃっきゃっと言っていた三人も、真面目な顔で僕の方を向く。

 なぞなぞなのか、本当に引き返すべきなのか。僕は御朱印帳を見つめたまま動きが止まってしまったのだった。

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