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瀬戸の御朱印物語  作者: ざこぴぃ
第二章
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第十話・瀬戸内海横断

 ――四月一日(御朱印集め三日目)。

 山口県柳井市。

「春くん、おはよう」

「あぁ……おはよう、道子。ん? ここはどこだ……?」

「春くん、何寝ぼけてるの」

 壁には金魚の形をした提灯がぶら下がっている。

「……あっ、柳井のホテルか。そうや、昨夜は千鶴ねぇの……」

「うん……。思い出した? 起きて支度しよ。モーニング食べたら、出発するわよ」

「あぁ、分かった。フェリーの時間調べたんだっけ?」

「うん、柳井港から三津浜までの九時のフェリーを予約したから、八時半には出なきゃ」

「そうか、ありがとう。助かる」

 そして支度を済ませ、ホテル一階のレストランで、バイキング形式のモーニングを食べていると、アリス様達もやって来た。

「うむ、おはようぞ」

「アリス様、プリン様、おはようございます」

「して、お主らの答えは出たかの?お主らがリタイアするのならわしらは、監視役を外れ帰る事になるのじゃが?」

「はい、アリス様。僕達は……」

「春くん……」

「僕達は……この試練を続けます」

「ほぅ……」

「春くんっ!!」

「これから伊豫稲荷神社へ向かい、夕方、千鶴ねぇのお通夜に出席して……そこから最上稲荷山妙教寺へ向かいます。これなら全て周れる。試練に合格出来ればの話だけど……」

「うんっ! 分かった! それで予定立ててみるよ!」

「道子、頼んだ」

「そちたちの答えはよう分かった。プリンよ、わしらも伊豫稲荷神社へと向かおうぞ」

「はひ! ねぇさま。ずるずるずる――」

 プリン様は、口いっぱいにスパゲッティを頬張りながら、両手でデザートのプリンを持っている。どのタイミングであのプリンを食べるのだろうかと、アリス様の話も半分にプリン様の食べっぷりが気になった。

「――ずるずるずる……ちゅるん。ずるずるずる――」

 プリンをおかず代わりにスパゲッティを食べている。知り合いでご飯の時は炭酸ジュースと決めている人がいたが、ご飯の時にプリンをおかずにする神様は初めて見た。お行儀が悪いと、注意した方がいいのか悩む。

「プリンよ。その食べ方は――」

「はひ! ねぇさま! ずるずるずる――ちゅるん」

「――欲張りさんじゃのぉ。わしもしてみるかの」

「はい! ねぇさま! すぐにご用意致しますわ!」

「注意せんのかいっ!」

「ん?」

 思わずツッコミをいれてしまう自分が悲しい。


 ――御朱印集め『瀬戸内横断ウルトラ御朱印巡り』三日目。

 ホテルでチェックアウトを済ませ、柳井駅から柳井港までの一区間だけ電車で移動すると、フェリー乗り場へと向かう。

『ボォォォォォ――』

 フェリーの汽笛を聞くと、白石島行きのフェリーで隣に座っていた千鶴の事を思い出す。数日前なのに、すごく時間が経った気がした。

「春くん、ちょうどフェリーが着いたみたい。あれに乗るんよ。春くん?」

「……ん。あぁ」

「……千鶴ねぇの事思い出してたんやろ」

「え! あぁ……うん」

「大丈夫や、大丈夫……」

 そう言いながら背中をさすってくれる道子の手は小さく、そして冷たかった。

「さんきゅ。ちょっとコーヒー買ってくるわ」

「うん、分かった」

 僕は待合室の自動販売機で温かいコーヒーとミルクティーを買い、道子にミルクティーを渡す。

「春くん、ありがとう。私がミルクティー好きなの知ってたんだ!」

「え? そうなん?」

「うん! 何でも分かるんだなぁ、春くんは――」

 ごめんなさい。完全にミスりました。東京にいた頃、中学二年の学級委員長がミルクティーが好きで帰りに買って飲んでました。道子さんごめんなさい。

「おおおおおんなのきょはミルクティー好きかな? って思っただけだひょ」

「なぜ、噛み噛みなのだ」

「へ?」

「おい、春くん。誰かと間違えたな」

「そそそそそんな事はにゃひ!!」

「あやしいのだ」

「ほ、ほら、道子。フェリー着いたぞ!」

「じぃぃぃぃぃぃ」

「さ、行こう行こう」

「じぃぃぃぃぃぃ」

『ボォォォォォ――』

 フェリーの汽笛に助けられ、フェリーに乗り込むとそこでまさかの再会があった。


「――じゃけえ! 言うとるでしょ! 桃太はもうちぃと男らしゅうしたほうがええ!」

「そんなこと言われても、元からこねぇな性格じゃし……」

「あぁ! もう! ぐずぐず言わんの!」

「……」

 フェリーの船内には、座席とカーペット敷きの床がある。二時間半の移動となる為、雑魚寝出来るスペースでは数人の人が横になり、仮眠を取ったりしている。

 そこから紅葉と桃太の仲睦まじい会話が聞こえてきたのだ。

「あれ? 紅葉さんと桃太君やん」

「春くん、知り合い?」

「あぁ、そうか。道子は初日いなかったから二人を見てないか。あの二人も伏見狐の御朱印帳を集めとる」

「あれ? 春臣さん?」

「桃太君、おはよう。紅葉さんもおはよう」

「おはようございます。やっぱり千鶴さんは一緒じゃないんですね。御朱印帳から名前が消えてたから心配してました」

「何しに来たんや? 違うおなご連れて……きしょ」

「ちょっと! 紅葉! 春臣さんすんません」

「ははは、桃太君も大変やな。こっちは道子。千鶴ねぇの代わりで一緒に周ってるんよ」

「初めまして、道子って言い――」

「あのおなごはどしたんよ。まだ勝負はついとらんじゃろうに。うちが怖うなって逃げたんじゃなかろうね」

「千鶴ねぇは……。あぁ、ちょっと風邪を引いて、熱が出たんで急遽交代したんよ。紅葉さんごめんな」

「しょうもな!あんだけの雨で風邪ひくなんて、うちの相手にもならん。うちの勝ちじゃ」

「ちょっと! 春くん! 千鶴ねぇは――」

「そやな。紅葉さんの勝ちや。千鶴ねぇには僕から伝えとくわ。道子、向こうに行こ」

「うん……」

「ふんっ!」

「ちょっと! 紅葉! 春臣さん、道子さんすんません!」

「桃太君達も頑張ってや。僕らも……頑張るけん」

「はい。いつもすんません」

 僕達は雑魚寝スペースを後に、船内を移動し、空いている椅子へと座る。

「ねぇ、春くん。あれで良かったん?」

「あぁ……言うても何も変わらんし、僕らは僕らのやれる事をしよ。今は他のチームの事を考えてやれるほど、余裕もないし……」

「そやね……。でも、ちょっと変わった子やったね」

「最初は千鶴ねぇが喧嘩を吹っかけたんよ……はぁ」

「そうやったん……何か目に見えて分かる気がするわ……」

「そやろ……」

 ため息交じりの些細な喧嘩など、フェリーのエンジン音にかき消され、そして波に消えていく。





 ――千鶴は死んだんだ。





 その一言は言えなかった。言ったら駄目な気がした……。僕の中ではまだ千鶴はあの病院で眠っている……。そして僕が行ったら、いつもの調子で笑って馬鹿にするんだ。そうであって欲しいから、今は口にはしない。

「春くん、泣いてるの? これ、ハンカチ使って……」

「う、うん……ごめん……」

「よしよし……」

「うぅぅ……」

「大丈夫、大丈夫……」

 フェリーは順調に進み、僕は疲れからかいつの間にか眠ってしまっていた。小一時間程寝ただろうか。誰かの声が聞こえ、目が覚める。

「道子……どしたん?」

「あ、春くんおはよう。ゆっくり眠れた?」

「あぁ……ちょっと首が痛いかも……あいたた……」

「ふふ。今ね、桃太君が来てさっきの謝罪とコーヒーを持って来てくれたんよ」

「そうやったん……気付かんかったわ」

「少し話をしたんだけど、紅葉さんがあんな態度取るには理由があるんやって」

「理由?」

「うん。彼女のお姉さんが交通事故で、そのまま目覚めないまま入院してて……それで今回の御朱印帳巡りに参加したらしいのよ」

「あぁ、それで参加したんか。お姉さんを元気にしてあげたいんやな」

「うん、そうみたい。それで千鶴ねぇがね……お姉さんにそっくりなんやって」

「千鶴ねぇが?」

「見た目じゃないよ。性格がね……。元気な時はいつも喧嘩ばかりだったらしくて、急に喧嘩相手がいなくなって……寂しかったんじゃないんかな……」

「そうやったんか。それであんな態度を……」

「うん、千鶴ねぇの事、言わなくて正解だったかも」

「そやな。……ちょっとデッキで風に当たりに行くよ」

「あっ、私も行く」

 フェリーは色んな人の思いを乗せて、波しぶきを上げ、瀬戸内海を突っ切っていく。楽しい思い出も悲しい思い出も……瀬戸内海を眺めていたら少し心が安らいだ気がした。


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