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悪役令嬢は物語に支配された世界を、文明で解放する  作者: 南蛇井


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第76話 勇者到着

グレイウッド。


外縁街道。


馬車が止まる。


車輪の音が消える。


静寂。


勇者はカーテンを開ける。


外を見る。


そして。


止まる。


言葉が出ない。


目の前。


都市。


広がっている。


整然とした区画。


まっすぐな道。


石畳。


左右に並ぶ建物。


どれも新しい。


どれも機能的。


無駄がない。


そして。


人。


多い。


だが。


混乱はない。


流れている。


自然に。


秩序を持って。


勇者が馬車を降りる。


足が地面に触れる。


現実。


近くで見る。


さらに分かる。


“違う”。


王都とは。


まるで。


空気が違う。


軽い。


明るい。


人々の表情。


笑っている。


普通に。


自然に。


作られた笑顔じゃない。


安心している顔。


子供が走る。


笑い声。


親が見ている。


止めない。


危険がないから。


露店。


並ぶ。


食べ物。


大量。


新鮮。


誰も飢えていない。


争いもない。


値段交渉の声。


楽しそうに。


仕事が。


生活の一部として回っている。


勇者の足が止まる。


完全に。


予想と違う。


「……これが」


小さく呟く。


喉が乾く。


王国で聞いた話。


“悪役令嬢が支配する都市”。


“均衡を崩す危険な場所”。


だが。


目の前は。


そのどれでもない。


むしろ。


理想に近い。


隣にいた護衛の兵が言う。


少し戸惑いながら。


「……話と違いますね」


当然の感想。


勇者は頷く。


「全然違う」


即答。


迷いなく。


さらに歩く。


中へ。


都市の中心へ向かう。


視線が集まる。


勇者の装備。


目立つ。


だが。


警戒されない。


興味はある。


だが。


恐れはない。


敵意もない。


ただの来訪者として見られている。


それが。


異常。


普通なら。


武装した人間が来れば。


警戒される。


だが。


ここでは違う。


それだけ。


治安が良い。


勇者の胸の中で。


違和感が大きくなる。


“悪役”。


その言葉が。


どんどん浮いていく。


やがて。


広場に出る。


中央。


都市の中心。


人が集まっている。


復旧作業の名残。


だが。


秩序はある。


そして。


その中に。


一人。


立っている。


少女。


金髪。


落ち着いた目。


動きが少ない。


だが。


周囲が自然と距離を取っている。


中心。


無意識に。


そこにいる。


勇者の視線が止まる。


分かる。


直感。


あれだ。


あれが。


レオナ。


理由はない。


だが。


確信できる。


その隣。


聖女。


リリア。


そして。


もう一人。


セラ。


三人。


揃っている。


勇者がゆっくりと歩く。


近づく。


距離が縮まる。


周囲の空気が少し変わる。


ざわめき。


だが。


誰も止めない。


止める必要がないと分かっている。


勇者は数歩手前で止まる。


向き合う。


レオナと。


初めて。


真正面から。


視線が合う。


静か。


時間が止まったように。


勇者が口を開く。


「……あなたが」


言葉が詰まる。


続かない。


“悪役令嬢”。


その言葉が。


どうしても。


目の前の存在と一致しない。


だから。


言えない。


代わりに。


別の言葉を選ぶ。


「……レオナ?」


確認。


レオナは頷く。


「そうよ」


短く。


それだけ。


否定も。


肯定も。


余計なことは言わない。


勇者は数秒黙る。


整理する。


だが。


無理。


目の前の現実と。


与えられた情報が。


一致しない。


完全に。


ズレている。


その中で。


一つだけ。


はっきりしている。


この都市は。


悪ではない。


その中心にいるこの少女も。


少なくとも。


そうは見えない。


勇者は深く息を吸う。


そして。


決める。


戦わない。


まず。


話す。


それしかない。


「……少し、話がしたい」


静かに言う。


武器には触れない。


敵意は見せない。


レオナは一瞬だけ考える。


そして。


頷く。


「いいわ」


即答。


当然のように。


戦う理由がないから。


セラがそのやり取りを見る。


小さく息を吐く。


予想通り。


衝突にはならない。


まだ。


この時点では。


リリアも勇者を見る。


表情が少し緩む。


完全ではない。


だが。


敵ではないと分かる。


三人と一人。


対面。


ここから。


物語は大きく動く。


戦いではなく。


理解へ。


そして。


その先にある。


世界の真実へ。

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