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悪役令嬢は物語に支配された世界を、文明で解放する  作者: 南蛇井


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第75話 勇者出発

王国。


神殿の外。


朝。


空は曇っている。


光は弱い。


どこか重い空気。


石畳の広場。


人が集まっている。


神官。


兵士。


貴族。


全員が見ている。


その中心。


一人。


勇者。


昨夜と同じ服ではない。


装備を与えられている。


剣。


軽鎧。


マント。


いかにも。


“勇者”。


だが。


まだ馴染んでいない。


少しだけぎこちない。


剣に触れる。


重さを確かめる。


現実。


夢ではない。


改めて理解する。


隣に神官が立つ。


穏やかな声。


「準備は整いました」


確認。


勇者は小さく頷く。


完全ではない。


だが。


進むしかない。


王が現れる。


ゆっくりと。


威厳を保ちながら。


だが。


余裕はない。


顔に出ている。


「勇者よ」


呼びかけ。


全員が頭を下げる。


勇者も一瞬迷う。


だが。


軽く頭を下げる。


王は満足そうに頷く。


「すぐに出発してもらう」


本題。


時間がない。


それは明らか。


「目的は二つ」


指を二本立てる。


「聖女の救出」


一つ。


勇者の目が少し動く。


「……救出」


繰り返す。


その言葉に。


わずかな安心。


誰かを助ける。


それは。


分かりやすい。


受け入れやすい。


王は続ける。


「そして――」


間。


わざと。


重く。


「悪役令嬢の討伐」


二つ目。


言葉が落ちる。


広場が静まる。


当然のように。


誰も疑わない。


だが。


勇者の中で。


何かが引っかかる。


小さな違和感。


昨夜から続いているもの。


消えない。


勇者はゆっくりと口を開く。


「……その人、本当に“悪”なんですか?」


静かに。


だが。


はっきりと。


問い。


空気が止まる。


一瞬で。


周囲の視線が集まる。


神官たちがざわつく。


貴族が眉をひそめる。


王は動かない。


数秒の沈黙。


そして。


答える。


「神がそう定めた」


短く。


絶対的な理由。


それ以上はない。


だが。


それは。


説明になっていない。


勇者の中の違和感が。


少しだけ大きくなる。


「……そう、ですか」


納得はしていない。


だが。


否定もしない。


まだ。


情報が足りない。


判断できない。


それだけ。


王は一歩前に出る。


声に力を込める。


「迷う必要はない」


断言。


「勇者とは、正しき道を示す者」


定義。


押し付けるように。


「お前が討つべきものは、すでに決まっている」


命令。


役割。


はっきりと。


勇者の中で。


その言葉が引っかかる。


“決まっている”。


それは。


自分で選ぶものではない。


だが。


反論はしない。


今は。


まだ。


理解できていない。


だけど。


完全に信じてもいない。


その曖昧な状態。


それが。


今の勇者。


神官が合図を出す。


馬車が用意される。


護衛もいる。


準備は万全。


逃げ道も。


後戻りもない。


勇者は一歩踏み出す。


石畳に足音が響く。


ゆっくりと。


だが。


確実に。


前へ。


門の方向。


王国の外。


世界へ。


立ち止まる。


一度だけ。


振り返る。


神殿。


人々。


王。


全員が見ている。


期待。


確信。


「これで救われる」


その空気。


重い。


勇者は小さく息を吐く。


そして。


前を見る。


進む。


門を抜ける。


王国の外へ。


旅が始まる。


グレイウッドへ。


知らない都市。


知らない人物。


レオナ。


“悪役令嬢”。


その言葉。


やはり。


どこかおかしい。


勇者は空を見る。


曇り空。


光は弱い。


ぼんやりと呟く。


「……本当に、討つべき相手なのか?」


誰にも聞こえない声。


だが。


確かな疑問。


その違和感が。


やがて。


答えへと繋がる。


馬車が動き出す。


ゆっくりと。


だが。


止まらない。


目的地は一つ。


グレイウッド。


理想都市。


そして。


“悪役”がいる場所。


物語が交差する。


その時が近づく。

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