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悪役令嬢は物語に支配された世界を、文明で解放する  作者: 南蛇井


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第64話 聖女困惑

グレイウッド。


中心区画へ続く通路。


リリアは歩いている。


ゆっくりと。


だが。


足は止まらない。


止められない。


体が動く。


意思とは関係なく。


前へ。


ただ前へ。


「……」


声が出ない。


喉が固まる。


頭の中。


ぐちゃぐちゃだ。


神託。


『悪を討て』


何度も。


何度も。


繰り返される。


消えない。


消えないどころか。


強くなる。


押し込まれるように。


思考の奥へ。


だが。


それに対して。


もう一つの声。


自分の記憶。


見たもの。


グレイウッドの光景。


子供たちの笑顔。


市場の活気。


争いのない空気。


あれは。


悪ではない。


断言できる。


なのに。


神は言う。


「悪を討て」


矛盾。


完全な矛盾。


リリアの呼吸が乱れる。


苦しい。


どちらも。


“正しい”と感じてしまう。


それが一番の問題。


信仰。


これまで信じてきたもの。


絶対の基準。


それが揺らぐ。


初めて。


こんなことは。


一度もなかった。


「……どうして」


絞り出す。


問い。


だが。


返答はない。


神は答えない。


命令だけを与える。


理由は示さない。


それが。


今までは当然だった。


疑問を持つことすら。


なかった。


だが。


今は違う。


疑問が消えない。


むしろ。


増えていく。


足が止まる。


ようやく。


止まる。


リリアはその場に立ち尽くす。


肩で息をする。


騎士たちが距離を保ったまま見守る。


近づけない。


力が強すぎる。


触れられない。


リリアは顔を上げる。


都市を見る。


グレイウッド。


変わらない。


さっきと同じ。


穏やか。


活気。


理想的な光景。


それが。


揺らぐことなく。


そこにある。


「……悪じゃない」


再び。


口に出る。


確認するように。


だが。


その瞬間。


頭の奥で。


強い衝撃。


『悪を討て』


打ち込まれる。


強制的に。


リリアがよろめく。


膝が崩れる。


地面に手をつく。


痛み。


だが。


それすら遠い。


内側の方が。


もっと激しい。


「……違う……」


震える声。


否定する。


だが。


弱い。


神託は強い。


圧倒的に。


思考が押し潰される。


価値観が引き裂かれる。


信じてきたもの。


今見ているもの。


どちらを選ぶのか。


選べない。


選びたくない。


両方を信じたい。


だが。


それは許されない。


神は。


一つしか認めない。


『悪を討て』


繰り返し。


繰り返し。


リリアの体が震える。


涙が滲む。


初めて。


信仰が怖いと感じる。


絶対だったものが。


自分を壊そうとしている。


「……やめて」


小さく。


懇願のように。


だが。


止まらない。


むしろ。


強まる。


光が溢れる。


リリアの体から。


制御を超えて。


騎士たちが後ずさる。


「危険だ……」


誰かが呟く。


明らかに異常。


暴走寸前。


リリアの視界が白く染まる。


思考が薄れる。


自分が分からなくなる。


何を信じるべきか。


何を選ぶべきか。


すべてが崩れる。


だが。


その中で。


最後に残るもの。


命令。


神の言葉。


『悪を討て』


それだけが。


はっきりと残る。


リリアの呼吸が整う。


不自然に。


静かになる。


震えが止まる。


涙も止まる。


感情が。


消えていく。


塗り潰される。


神託に。


リリアはゆっくりと立ち上がる。


動きは安定している。


先ほどの混乱が嘘のように。


だが。


その瞳。


光っている。


感情がない。


空白。


騎士たちが息を呑む。


理解する。


危険だ。


完全に。


リリアは前を見る。


都市の奥。


レオナのいる場所。


対象。


それだけが残っている。


唇が動く。


機械的に。


「……排除」


言葉が変わる。


意思ではない。


命令。


そのまま。


リリアは一歩踏み出す。


迷いはない。


疑問もない。


葛藤もない。


すべて消えた。


ただ。


進む。


討つために。


その存在を。


この都市を。


そして。


この瞬間。


信仰と現実のズレは。


修正される。


強制的に。


片方を消すことで。


だが。


それは。


本当に正しいのか。


誰にも分からない。


ただ一つ。


確かなこと。


衝突は。


もう避けられない。

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