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第百十一話:天使国国境前のひと時

―― ゼロ撃破から、残り8日 ――


行きは三日だった山越えも、復路は四日を要した。その原因の全ては、一人の男の圧倒的な体力不足にあった。


「や、やっと。……山越え終了ですか。……二度と、山なんて登らないぞぉ……」


はじめが杖代わりの棒を投げ出し、その場にへたり込む。

だが、墨花は労わるどころか、冷静にはじめの人形化を提案した。


「天使国の国境が見えてまいりましたわ。さ、はじめ様。人形になりましょうね」


「???」


「はじめ様は指名手配されているのですから、人形にならないと入れないでしょう?」


墨花が少し呆れた表情を見せる。はじめの顔が、驚愕と後悔で歪む。


「な、なら、最初から人形にしてくださいよぉ! こんな山越えしなくても、良かったじゃないですかぁ!」


「はじめ。……みんなが苦労して山を越えているのに、お前は人形で楽をしたかった。そう言いたいんだな?」


レイラが、鞘に収まった剣の柄をカチリと鳴らす。

その瞳に宿る静かな怒りに、はじめは一瞬で震え上がった。


「あ、いやその。……その方が効率的かな? と。提案です。ただの提案ですからぁ!」


「そんなことだから、いつまでたっても体力がつかないんですわ」


ベアトの冷ややかな一言が突き刺さり、はじめは肩を落とす。


「はじめ様。とりあえず、ヒール!」


りりの温かな光が、ボロボロになったおじさんの筋肉を癒していく。


「そろそろ、お腹空いたよぉ」


「で、これからどうすんの? 僕、初めてなんだけど」


琥珀の空腹アピールと、新メンバーまおの淡々とした問いかけ。

墨花は地図を広げると、冷静に一同を見渡した。


「はじめ様を人形にする前に、簡単に今後の方針を決めましょうか」


「その方がいいと思いますわ」


アイの同意を得て、一行は街道から少し外れた森の中で、軽めの昼食を摂りながら打ち合わせをすることになった。


「では、どんな方針で今後進めますか。まずは、まおさんもいるので現状を説明しますね」


墨花が、森の木陰で軽食を並べながら、これまでの経緯を淡々と話し出した。


「まず、ミラーという性悪な相手のゲームというのに巻き込まれています。現在、第四ステージ。……クリア条件はわかっていません」


「はじめ様は、偽の元妻にはめられ、教皇誘拐または殺人の罪で指名手配されています」


「どうやったら、そんな悲惨なことになるんだい? いいや、続けて」


まおが、眼鏡の奥で呆れたような光を宿すが、アイが申し訳なさそうに言葉を継いだ。


「それで、私の妹、ペインターが偽の元妻の振りをして近づき、はじめ様を刺して毒を与えたという感じです」


「で、解毒の方法を知っているワイの導きで、まおに会いに行ったちゅうわけや」


ケルちゃんが自分のおかげだ。と、自慢げに話した。その時、レイラの右のピアスが光り、淡い水滴が集まり、人型を作り出した。


「ふぅ。やっと実体化できました。魔人国では、世界樹から離れすぎていて、実体化が出来ませんでした。ケルベロス様。まおさんの事は、しらなかったでしょう?」


水の上位精霊。ウィンディーネが、久々に顔を出した。左のピアスにいる、イフリートは相変わらず、沈黙を守っている。


「ふーん。なんとなく状況はわかったよ。で、どうするの?」


まおの『興味ないことは、徹底スルー』の態度は、一貫してるようだ。はじめはパンを齧りながら遠い目をした。


(こ、この子。……理解しているのか。興味がないのか。……僕、今、大変なんですよぉ……精霊すら、スルーだし……)


はじめの、悲痛な心の叫びは、そよ風にかき消され、会議は 具体的な作戦。へと移っていく。


「あのう。……ちょっといいですか?」


ランチの合間、はじめが恐る恐る手を挙げた。


「はじめは人形になるんだから、黙って聞いてな」


「そ、それなんですけど……」


レイラに一蹴されかけ、はじめは冷や汗を拭いながら言葉を紡ぐ。


「はじめ様。どうしたの? 人形になりたくないの?」


墨花が首を傾げると、はじめは意を決したように指を立てた。


「ではなくて……門兵全て、アイさんが人形にすれば通れませんかねぇ?」


「?!」


一瞬、森の中に沈黙が流れた。

一座の面々は、目から鱗が落ちたような表情で顔を見合わせる。


「これよ! はじめ様の知恵が必要なのは!」


墨花が、膝を打って相好を崩した。

わざわざはじめ一人を人形にしてコソコソ隠れて通るより、障害となる「門」そのものを機能停止させる方が、遥かに確実で合理的だ。


「で、通った後はどうするんですの?」


アイが、期待に満ちた眼差しを向ける。


「そうね。そこも今、決めてしまいましょう」


はじめの、一言をきっかけに。停滞していた作戦会議は一気に加速し始めた。


「門を抜けた後、どこに身を隠すか。それが問題ですわね」


墨花の言葉に、はじめがパンをモグモグさせながら手を挙げた。


「あの。……また地下通路に戻る、というのはどうでしょう? あそこなら構造は分かっていますし、追っ手も入ってきづらいですし」


「却下だね」


まおが即座に切り捨てた。


「一度使った隠れ場所は、定石通りなら封鎖されているはずだよ。もっと大胆なところがいい。……灯台下暗し的なね」


「灯台下暗し、ですか?」


ベアトが考え込むように腕を組む。


「教皇庁の中そのものに、隠れられる場所なんてあるのかしら」


「ありますわ♪」


墨花が不敵に指を鳴らした。


「私にお任せくださいませ」


一行は、墨花の案に期待をよせ、唾を飲み込むのであった。


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