表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/130

第百四話:天使国脱出計画

「ま、まあ。皆さん、怒らんと、な? ちゃんと、薬を作れる人のあてはあるさかい。な?」


全員の殺気が一点に集中する中、ケルちゃんは綿の詰まった短い手をわなわなと振るわせ、懸命に弁明を始めた。


「うふふ。別に怒ってなんか、いませんわ? ねえ、皆さん」


墨花が首を傾げ、慈母のような微笑みを浮かべる。だが、その瞳の奥は全く笑っていない。


(こ、怖ぁ……。これ、絶対、怒らせちゃダメなやつじゃーん……)


棺の中で、はじめはガクガクと震えながら、女たちの静かな怒りをその身に感じていた。


「魔人国に、天才やけど、変人の錬金術師が居るっちゅう話や。そいつなら、調合できると思うねん」


「思う?」


ベアトが鋭く問い返す。


「それって、出来ないかもってこと?」


アイが追い打ちをかけるように詰め寄ると、その横でりりが静かに頷いた。


「やっぱり、糸で縛って……」


「待て待て、待ってぇな! 『思う』いうたけど、ほぼ間違いなく、多分出来る。……しらんけど!」


レイラは、無言で、剣に手を掛けた。


「それって、なぁに?」


琥珀が無邪気な瞳で首をかしげる。その無垢な問いが、逆にケルちゃんを追い詰めていく。


「つまり、その人しか出来ない。と、おっしゃりたいのですわね?」


墨花が扇子を閉じて断言した。


「そ、そういうこっちゃ。さすがやなぁ、墨花は話がわかるわ」


冷汗を拭いながら、ケルちゃんは墨花の慧眼に縋りついた。墨花は満足そうに頷くと、一同を見渡して告げる。


「では、身支度して、魔人国に行きましょう。はじめ様、起こしたばかりで悪いのですが……また、人形になってくださいね」


「喜んで!」


はじめは迷うことなく、自ら棺の底へと横たわった。外の修羅場に付き合うよりは、再び意識を失う方がよほど安全だと確信したようだった。


「……さて、。……魔人国へ入るための作戦を練り直しましょう」


墨花が冷静に告げ、はじめの横たわる棺を見下ろした。

今のまま棺を運ぶのは目立ちすぎる。そこで全員が一致したのは、売れない人形一座の再現だった。


「ではまず、はじめ様には、看板人形になってもらいます。変に隠すより、どうどうと見せる方が、疑われません」


墨花はそういうと、棺を「豪華な美術品の輸送箱」へと偽装し、その上に「動かぬ看板人形」としてのはじめを据えることを提案した。


「なるほど。これなら、ばれるなら、即。ばれないなら、通過できる。ってことですわね。シンプルイズベストですわ」


ベアトが感心する。


「お前達、見ない間に変わったな……阿吽の呼吸。みたいなの感じるぞ」


レイラが感心と不安が入り混じった表情をする。


(だ、大丈夫なのかな?疑われて、即、破壊……なんて、ないよねぇ?)


はじめの心配をよそに、計画は進む。


墨花の号令で、一座の配役が次々と決まっていく。

団長は墨花。看板女優はアイ。看板娘のベアトに、子役のりりと琥珀。

そして、ケルちゃんは「ただのぬいぐるみ」という、はじめの横に鎮座する、彼にとって最も屈辱的(?)な役回りに徹することになった。


「ま、まて。私の役は?」


レイラが不安げな表情を見せる。墨花は、冷酷に告げる。


「あなたには、見習い荷物持ち。を、して頂きます」


「なっ」


レイラは不満げだが、墨花から、理由を聞くと満面の笑みを浮かべた。


「レイラさん。この中であなたが一番戦闘力がある。だから、出来るだけ、自由な状態を作る為です。いざという時は、御願い致します」


(「それ、詭弁やん……」)


ケルちゃんは、誰にも聞こえない声で、つっこみを入れた。


「では、はじめ様。……申し訳ありませんが、また意識を落として、『人形』になっていただきます」


アイが優しくに告げ、はじめを人形に変えていく。


「次は、人形になったはじめ様を、台座の上に座らせて。揺れるから、固定も忘れずに」


墨花の指示で、華麗に人形一座に変化を遂げた・


「劇団『メサニフタサーカス』……魔人国ツアーの始まりね」

「はい!」


全員の気合と共に、劇団は魔人国へ向けて、出発する。まずは、天使国を脱出。


「西の街道が固められているなら、東へ。……そう簡単にはいかないわね」


墨花が遠くに見える巨大な検問所を見据えて、扇子を握りしめた。

そこには、通常時の数倍の守備兵と、魔力を感知する水晶が並べられている。


「では、皆さん。作戦開始です」


そういうと、墨花は、検問所の男に声を掛けた。


「私たちは、『メサニフタサーカス』という、旅人形一座なのですが、魔人国にいきたいの。通れますか?」


「わかった。なら、荷物全て、出して、開けろ」


男の指示で、荷物検査が行われる。


「特に、異常はなさそうだな。……おい!その人形……」


全員に緊張が走る。


「ぶははは。そんな不細工な人形が、看板人形なのか?お前達、売れてないだろ?」


男の軽蔑とも、本心ともとれる言葉に、墨花は軽快に返事を返した。


「そうなんですの。資金もぎりぎりで。……ですので、魔人国なら、もう少しいい暮らしが出来るかと……」


「まあ、この天使国は、国民全員が、優秀だからな。お前達では、ここは暮らしにくかろう。通っていいぞ」


「ご親切に、ありがとうございます。さあ、みんな、荷物をかたずづけて。出発するわよ」


そう墨花が指示し、全員が荷物をかたずけ、丁寧にお礼をしたのち、天使国国境を越えたのであった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ