こちら龍崎探偵事務所
人は、何をもって人たり得るのだろうか。
肉体か、記憶か、それとも魂か。
では、魂と記憶を宿した人形は、人と呼べるのだろうか。
これは、地方都市にひっそりと佇む探偵事務所を舞台に、探偵と一人の女子大生が、科学では説明できない不可思議な事件へと足を踏み入れていく物語。
初夏の気配が近づく5月の、とある探偵事務所。
開いた窓からは暖かな日光と心地よい風が事務所内へ入り込む。
「龍崎探偵事務所」
地方の都市に佇むこじんまりした事務所。依頼はほとんど来ず、探偵はいつも暇を持て余していた。
そして今日も事務所の椅子にもたれ掛かり、退屈そうにパソコンでネットニュースを読み漁っている。
その男こそがこの事務所の探偵である。
名は「龍崎 明」、24歳。龍崎探偵事務所の探偵を務め、街の事件を解決する……はずなのだが、実際には探し物や家出人の捜索など、小さな依頼が時々舞い込む程度だった。
そして今も依頼がなく暇な時間を過ごしている。
「仕事……来ねぇなぁ……」
龍崎はぼんやりと天井を見上げて呟く。
すると、事務所のドアが勢いよく開かれる。
「お! 依頼人か!?」
龍崎は依頼が来たと思い身を乗り出す。
事務所に入ってきたのは青髪の赤いキャスケットを被った女子大生だった。
「おはようございます! アキさん!」
女子大生は元気な声と満面の笑みで龍崎に挨拶をする。
龍崎はそんな女子大生を見て心底がっかりしたような顔をして再び椅子にもたれた。
「何だお前か……依頼者かと思ったじゃねぇか。変な期待させんなよ夏海」
「何だってなんですか!? この事務所の看板娘ですよ? 私がいないとココの依頼も来ないんですからねー!」
「今だって来てねぇじゃねぇか」
「んぐっ……そうじゃなくて! 今よりも来ないんですよ! フン!」
「夏海」と呼ばれる女子大生は鞄を壁に掛けてソファに寝転ぶ。
彼女の名は「網谷 夏海」、18歳。付近の大学に通い、「楽そうだから」という理由で龍崎探偵事務所にアルバイトとして雇用された。
天真爛漫な性格で活発な彼女は事務所を半ば自分の部屋のように扱っており、室内には夏海の私物が散らかっている。龍崎は「どうせ依頼が来ないから」と言いつつ、一応片付けるよう注意している。
「そろそろ机の上片付けろよー? ここはお前の部屋じゃねぇんだ。ここは仕事場だぞ? いつ依頼人が来るかも分からないんだからちゃんとやっとけよ?」
「ハイハイ分かってますってぇ」
夏海もそろそろちゃんと片付けようと思っていたのか机に散らかった物を片付け始め、龍崎も特にやることがないので片付けに参加する。
筆記用具や夏海の大学の授業資料、よく分からないぬいぐるみなど明らかに探偵事務所の仕事とは関係ないものがいくつか見られるものの、それらを収納し、事務所内を整えていく。
しばらく事務所内の掃除を進めて、ある程度事務所が綺麗になったところで、再び龍崎は椅子に座り、夏海はソファに寝転んだ。
「そういえば最後に来た依頼って何でしたっけ?」
「先々週の浮気調査だな。夫の浮気を調査してくれーって言われて結局夫の姉でしたって話」
「あーあれですか……。あれも大概変な依頼でしたよねー。女性って皆ああいう感じなんですか?」
「それを同じ女のお前が言うのかよ……」
そんな会話を交わしていると、事務所の扉が開かれる。
入ってきたのは20代ほどの若い女性。
女性は緊張感の欠けた事務所の様子を見て少し動揺するも、龍崎に恐る恐る問いかけた。
「あ、あの〜……ここって龍崎探偵事務所さんで合ってますか?」
依頼人が来るとも思っておらず油断していた龍崎は慌てて椅子から立ち上がる。
「は、はい! 龍崎探偵事務所で間違いないですよ。ご依頼でしょうか!? どうぞこちらにお掛けになってください! 夏海! 茶出せ! 茶!」
「え? あ、そだ! お茶だ! お客様だもんね? ええ〜っとお茶お茶……」
久々の依頼人に大慌てでもてなす2人に不安そうな表情の女性は龍崎に促されるままソファに座る。
龍崎は心の中で事務所を片付けておいて良かったと胸をなで下ろし女性の依頼内容を聞く。
「それで、本日は一体どのようなご用件で? どうぞ、遠慮なくお申し付け下さい」
「そうですよ! 私達、お客に飢えてるんで、何でもやりますよ! はい、お茶です!」
「コラ夏海! 余計な事は言うな!」
お茶を出しながら口を挟む夏海を叱りながら咳払いをして女性に向き直る。
女性は少し躊躇うような素振りを見せるが、恐る恐る口を開いた。
「それが……私、ここの近くの商店街付近にあるコンセプトカフェ、いわゆる『メイドカフェ』で働いているのですが、最近入ってきた子がなんだかおかしくて……」
「……といいますと?」
「信じられないかも知れませんが、その子、人間とは思えないんです。やけに丈夫ですし力もあります。それに……あの子が宙に浮くところを見てしまったんです」
にわかに信じがたい内容に龍崎と夏海は目を丸くする。
その様子に気づいた女性は諦めたように俯く。
「信じ……られませんよね。こんな話警察の前で話したらおかしな人だと思われると思って探偵さんに頼ろうと思ったのですが、やっぱり私がおかしいだけかもしれませんね。失礼しました。今の話は忘れてください」
「待ってください!」
そう言って立ち上がろうとした女性を龍崎は引き止める。
龍崎自身も半信半疑ではあるが、貴重な依頼案件を逃すわけにはいかなかった。
「私は信じますよ。ぜひこの件、探偵である私、龍崎 明にお任せ下さい!」
女性は信じられないものを見るような目で驚いた顔を見せたが、すぐに安心したように微笑んだ。
女性は依頼の契約書類にサインすると正式に依頼が決まった。
依頼者は荒井 幸那。
調査対象は同じメイドカフェで働く新人アルバイト仮留 愛羽という女性。自称19歳の学生だそうだがどこの大学に在籍しているかも不明らしい。
「さて、早速調査に向かうか。行くぞ、夏海!」
「はい! やってやりましょう!」
「メイドカフェまでは案内します。今日は出勤ではないですが、あの子は出勤しているはずなので」
そして龍崎と夏海は荒井に連れられメイドカフェ前まで移動する。
商店街近くに位置する一際目立つ、キラキラした乙女チックな外観のお店の前にたどり着いた。
メイドカフェ「ホームメイド」
もはや場違いなほどに目立つそのお店の中は沢山の男性客で賑わっている。
物珍しさと独特の雰囲気に引き寄せられているのだろう。
二人はいざメイドカフェを目の前にして圧倒されていた。
「お、おう……これがメイドカフェか」
「なんか凄いキラキラしてますね」
「では、私は今日出勤予定はないので、怪しくならないようにこの辺りで失礼します。調査よろしくお願いしますね。探偵さん」
荒井はそう言い残し去っていった。
ここからは二人で調査を進めていく。
「とりあえず、入らんことには始まらん。コレは潜入だ。まず客として入って店内の様子と、話に出ていた従業員を探る」
「そうですね! 楽しみですね!」
「お前、完全に楽しみに来てないか?」
二人は緊張の面持ちでドアを開ける。
「「「お帰りなさいませ! ご主人様!!」」」
一面をピンク色で彩られた、眩しいほど華やかな空間に響くお決まりのセリフ。
入り口の二人を出迎えてくれたのは黒髪のツーサイドアップが魅力な童顔の女の子だった。
「2名様ですね! こちらの席にご案内いたします!」
「わぁー! メイドさん可愛いですね! ねぇアキさん!」
夏海は初めてのメイドカフェに興奮して龍崎の方に視線を移すと、龍崎は固まっていた。
「かわいい……」
龍崎がポツリと呟く。
夏海はニヤリと笑った。
「へぇ~? アキさんってこういう子が好みなんですかぁ?」
「は? バカ! そんなんじゃねぇよ!」
図星なのか狼狽える龍崎をからかいながら二人は席につく。
「当店のご利用は初めてですか? アイのオススメは〜? このメイド特製萌え全開オムライスです!」
「アイ」と名乗る黒髪のメイドはメニュー表を広げる。
メニュー表には一々長ったらしい名前のメニューがずらりと並んでいた。
「じゃあ、それで」
「私もそれお願いしまーす!」
とりあえず二人はアイのオススメである「メイド特製萌え全開オムライス」を頼むことにした。
暫くして何の変哲もないオムライスが2皿、目の前に並べられた。
二人とも心の中で「ただのオムライスじゃん」と思ったものの、口には出さず飲み込んだ。
するとアイはケチャップを取り出し、メイドカフェといえばお決まりのアレの準備に入った。
アイは満面の笑みで手際よくオムライスに「Love♡」の文字を書く。
「それでは、オムライスがとびきり美味しくなるおまじないをかけますよ〜♡ ご主人様お二人も、ご一緒に『美味しくな〜れ、萌え萌えキュン♡』って唱えてください! いきますよ? せ〜の!」
唐突に始まるおまじないに二人は戸惑いながらも羞恥心と葛藤する間もなくアイの勢いに押され、二人も思わず唱えてしまう。
「「「美味しくな〜れ、萌え萌えキュン♡」」」
店内に3人の掛け声が響き渡った。
「な、何なんだこれは?」
「少し恥ずかしいですけど、でもちょっと楽しいですね」
羞恥心に困惑を隠せない龍崎と楽しさを覚える夏海。
そしてアイはもう一つの皿にも同じようにおまじないをかける。
「こちらのお皿にもいきますよ! せ〜の!」
「「「美味しくな〜れ、萌え萌えキュン♡」」」
おまじないを施されたオムライスが二人の前に出される。
恐る恐るオムライスを口に運ぶ。
「美味い」
「美味しいですね〜! これもおまじないの効果でしょうか〜?」
もちろん何の変化もない普通のオムライスだった。しかし思い込み効果は凄いもので可愛いメイドにおまじないをかけてもらったという特別感が、オムライスの味をより引き立てているように感じさせた。
アイは二人の反応を見て嬉しそうにしている。
「でしょでしょ? アイがおまじないをかけたオムライスは皆『美味しい』って喜んでくれるんだよ? アイはご主人様が喜んでくれるお顔見るのが大好きでここで働いてるの♪ えへっ☆」
「「可愛い……」」
アイのあざとい笑顔に二人は癒される。
その後もアイとミニゲームをしたりチェキ撮ったり余すことなく初めてのメイドカフェを堪能した。
「いってらっしゃいませ! ご主人様!」
二人はメイド達に見送られ店を後にする。
満足したように店を出た二人は冷静になって考え直す。ここに来た本来の目的を。
「「ふ、普通に客として満喫してしまったァァ!」」
当初の目的を忘れ、ただ遊んだだけで店を出てしまった二人は頭を抱えた。
「なるほど……中々に恐ろしい場所だなメイドカフェとやらは」
「全くですよアキさん……。あんなに楽しい場所だとは思いませんでした」
二人でメイドカフェの恐ろしさを痛感し、互いに気づいた事を共有し合う。
「多分調査対象の新人の『愛羽』って子は恐らく俺達の接客を担当していた『アイ』ちゃんで間違いないかもな。他の子には『愛羽』と関連するような名前の子はいなかったし、店内にいた他のメイド達より明らかに若く見えた」
「そうですね。私と大差ないくらいだと思います。あとあの子がおまじないをかけたオムライス、めちゃくちゃ美味しかったんですよ。あの子が『愛羽』だとしたら、本当に魔法をかけられる魔法使いなのかもしれません」
「あーそれは多分違うと思う」
「なんでですかー!? せっかく名推理だと思ったのにぃ!!」
渾身の推理を即座に否定され怒る夏海をよそに冷静に分析する。
「それにしても本当に怪しいところのない普通の楽しい店だったな……。アイちゃんも丈夫だとか宙に浮いたりとか見てないしな……。なら彼女の退勤に張り込むか……」
「裏路地とか入ったら警戒した方が良さそうですね!」
当たり前のことしか言わない助手の事は放っておいて、メイドカフェの入り口から少し離れた角から様子を窺う。
暫くすると、メイドカフェのドアが開き、一人の女性が出てくる。
「お疲れ様で〜す」
何処か幼さも感じる声で挨拶をしながら出てきたのは黒い髪をツーサイドアップに赤いリボンで結んだ童顔の女性、アイだった。
「きた。尾行するぞ」
「はい!」
龍崎と夏海の尾行に気づく素振りも見せず、歩道を歩くアイ。
龍崎と夏海は慎重に一定以上の距離を開け、周囲の物陰を利用しながら、アイの動向を探っていた。
アイを尾行する事十数分。
とうとうアイに動きが見える。
アイが突如裏路地に消えた。
二人は裏路地に入る瞬間を見逃さなかった。
即座に裏路地の入り口へ急ぐ。
龍崎は裏路地の中を慎重に覗く。
そこにはアイの姿がある。
アイは周りを気にするようにキョロキョロとしている。
龍崎と夏海は物陰から警戒しながら様子を窺う。
すると二人はありえないものを見た。
なんとアイはふわりと足元から浮き上がり宙に浮き始めた。
「な!?」
「え!?」
アイは建物の屋根まで浮上し消えていった。
二人はアイの飛んでいった方向を向いて呆然と立ち尽くした。
事務所に来た謎の依頼。
メイドカフェで働く謎の新人アイ。
アイの持つ空中浮遊する謎の力。
龍崎探偵事務所の新たな依頼は超常現象との遭遇から幕を開けた。
ミニコーナー企画!
新コーナー!!「たまにはいいじゃない♪ ゆるゆる座談会☆」
え〜どうも、和泉心陽です。
やほ♪ 葉月お姉さんだよ♪
葉月さん、今回は座談会とは聞いてるけど何について話すんだ?
今回はね〜? 「自分のご褒美飯」だよ!
ご褒美飯?
そう! 今回はご褒美飯について話すよ! 少年のご褒美飯って何かな?
ご褒美飯かぁ〜。そういえば近くに新しい焼肉屋が出来たの知ってる? 俺この前行ったんだよ。そこが結構美味しくってさ。丁度頑張った日とか良いことがあった日にお祝いとかご褒美飯として通おうかなって思ってたところなんだよ。
え? なにそれ? お姉さん知らないんだけど? 何? もしかして少年、お姉さんに内緒で行ったの?
そんな怒んないでよ。今度また連れてってあげるからさ。それで? 葉月さんのご褒美飯はなんなの?
そうだねぇ……お姉さん、死神になってからは外食なんて行けてないからね〜。怪奇現象起こすわけにもいかないし少年の買ってくるものかお家で作る手料理しか食べられないんだよね〜。
あっそっか。じゃあご褒美飯っていうご褒美飯はないんだな。
そうだね〜あっそうだ! この前、コンビニで買ってきたラーメン、二郎系? ってやつ! あれ美味しかったよ! あれご褒美飯にする! あの悪い事してる感じが堪んないんだよね〜! 深夜に食べたら最高なんだよ! 霊体だから体重気にしなくていいし、無敵状態で二郎系の美味しさだけを楽しめるって最強じゃない? でも毎日はちょっとキツイかも……だから私のご褒美飯はコンビニの二郎系ラーメン!
本当にそれでいいのか……? まぁ葉月が気に入ってるならそれでいいんだけど……。
うんうん♪ あっ! でも少年の言ってた焼肉屋、私気になるからまた今度連れてって!
葉月さん連れてったら怪奇現象になるって言ってたじゃんか……。
そこをなんとか! 皿二つとかだったら不自然だから皿一つ二人で使ったりとかさ?
んん〜まぁ工夫のやり方次第か……。まぁいいよ、また今度連れてってあげる。
やった〜! ありがとう少年!
まぁそういうことで俺のご褒美飯は近所にできた焼肉、葉月さんはコンビニの二郎系ラーメン。皆はご褒美飯は一体なにかな? では今日はここまで! また次回!




