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境界異常観測録《Re:Genesis》  作者: マチフクとーる
File3 失楽園の少女

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重ね繋ぐ手

 ついに繰り出される双子の奥義、絆の力引き起こす奇跡は神の加護を受ける熾天使の奇跡を上回るのか?

 黒と黄金。拮抗する力の押し合いを制するのは? 双子の絆は神の力をも封じ込め、深淵から反逆の証明となるのか? それとも滅びの運命を覆し自らが勝利の女神となるのか?

 互いに最後の力を振り絞る最終局面の結末とは?

 重ねた手と手、互いの鼓動。震えるほどの恐怖も、燃え尽きそうな疲労も、その全てが混ざり合い、一つになっていく。


 床を覆う影は底なし沼のように広がり続け、対するガブリエルの神光はそれを焼き払うように膨張する。


 黄金の光が脈打つ。

 砕けかけた光輪が再び輝きを取り戻し、全身を巡る神気が膨れ上がっていく。


 黒と黄金。


 相反する二つの力が真正面から衝突し、大広間全体が激しく震動する。


 互いに一歩も譲らない最後の力のぶつかり合いが繰り広げられていた。


 「「うおぉぉぉぉ!!」」


 二人の力が合わさり放たれる絆の結晶。ガブリエルの四肢に纏わりつく大蛇は黒く染まり、影と一体化し締めつける力を強める。身体に突き刺さる無数の黒杭ははりつけにするようにガブリエルを釘付けにする。床の影は異様に広がり、沼のようにその身体を引きずり込む。

 幻覚のように巨大な蛇の縦長い瞳孔がガブリエルを睨むように視界を支配すると、身体は捕食者に捕捉された獲物のように身体の自由が思うように利かなくなる。


 神でさえも飲み込まんとする禍々しく強大な力――だがそこには双子の美しき結束の力が映し出されていた。


 「あぁ、美しい! 人間の狡猾さや互いを想う力、人間の善も悪も双方を映し出しているわ! 二人の絆が互いの相乗によって本来の力量を遥かに凌駕する出力を生み出すなんて!? こんなの初めてだわ!」


 だがガブリエルもこのままでは終わらない。既に半身が沈みつつあるガブリエルの光輪が光り輝き、翼を大きくひろげる。

全身が輝きを帯びていき、再び拘束を振りほどこうと抵抗力を上げていく。


 二人掛かりで死力を尽くして抑えつける力に対し、たった一人で尚も拮抗する熾天使の力。ガブリエルの力もまた、散り際の美しさのようにこの瞬間、限界を超え、神域に達したとも言える運命を捻じ伏せる力が溢れ出していた。


 大広間に響く互いの咆哮、魂のぶつかり合いが激しく火花を散らす。しのぎを削る両者の戦いの拮抗を破るのは――


 ギルとデスであった。


 二人の結束の力がガブリエルの力を僅かに上回った。

 全身を拘束する黒鎖は既に半ばほど肉へ食い込み、熾天使の光すら軋ませ、身体はゆっくりと影の中へと沈んでいく。


 「ぐっ……うぅ……!!」


 ガブリエルが歯を食いしばる。

 しかしガブリエルの抵抗も虚しく全身が影の中へと沈み、影の中の深淵へと堕ちていく。


 「「これで……最後だぁぁぁぁ!!」」


 深淵の世界より現れる一本の巨大な黒杭。

先端は鋭く尖り、深淵そのものを削り出したような禍々しい輝きを放っている。

 黒杭がガブリエルへと打ち込まれれば、全てが終わる。再生も、神の加護も。 通用しない。全てを貫く巨大な黒杭はゆっくりと降下を始める。

 まるで処刑台の刃のように、逃れられない終焉が、一秒ごとに近付いてくる。

それはまさしく、戦いの終幕を告げる審判の杭であった。


 「ぁ……ああぁぁぁぁぁぁッ!!」


 ガブリエルが咆哮する。

 全身を拘束する黒鎖が軋み、食い込んだ黒杭の周囲から黄金の火花が激しく散る。


 「私は……こんな場所で……終われないッ!!」


 光輪が明滅する。

 砕けかけた肉体から無理やり神気を捻り出すように、熾天使の全身が黄金に燃え上がる。


 黄金の光が爆発的に膨れ上がり、黒鎖を引き千切ろうと暴れ狂う。


 ――だが、双子の重ねた手は離れない。



 「「沈めぇぇぇぇぇ!!」」



 二人の叫びに呼応するように、巨大な黒杭はゆっくりとガブリエルへ迫っていく。

 それはまるで、世界そのものが下す“死刑宣告”だった。



 ――だがその時、全てが崩れ落ちる。



 黒杭がガブリエルの身体を貫く直前、黒杭は先端から崩壊を始める。やがて黒杭は消失し、ガブリエルを封じていた黒杭と大蛇は共に姿を消す。


 身体の自由を手に入れたガブリエルはそのままゆっくりと影の中の深淵から抜け出し地上に姿を現す。


 最後の一押し。

 それが出なかった。

 それまでは完璧だった。

 だが最後の最後が足りなかった。

 理由は明白だった。



 魔力切れ――たったそれだけだった。



 絶望する気力すらも残っておらず、力無く崩れ、その場にへたり込むデス。そのデスを包むように抱きしめ、全てを出し切った妹を慰めるように優しく頭を撫でるギル。


 全ての力を使い果たし、最期を受け入れるようにガブリエルに見向きもせず頬を寄せ合う双子の姿は儚く、そして美しかった。

 血と瓦礫に塗れたはずの戦場ですら、今この瞬間だけは儚い名画へと姿を変え、まるで、触れれば崩れてしまう幻想を切り取った絵画のようだった。


 そんな双子の前に静かに歩み寄る神聖なる翼と光り輝く光輪をその身に纏う熾天使。

 それは天へと昇る楽園へと双子を出迎えにきた天使のようでもあった。


 天使もまた神聖さを纏っていたが、その身には既に滅びへの刻限カウントダウンが始まっており、全身がひび割れた姿で二人を見下ろしている。


 熾天使は黙ったまま両手を組み、翼を広げて二人へ祈りを捧げる。


 決着はついた。


 ガブリエルは双子の姉妹にとどめを刺して、その後間もなくその身は終焉を迎える。


 ――しかしガブリエルのとった行動は違った。


 ガブリエルは二人を包むように抱きしめると、ギルとデスの身体にガブリエルの身体に流れていた光の筋が波打つように流れ始める。

ギルとデスの身体は光の筋が流れた場所から傷が癒え始め、すっかり使い果たした魔力も少しずつ回復していく。


 「……? あれ……? どうして?」


 いち早く異変に気付いたギルは顔を上げる。

 顔を上げた先では優しく微笑むガブリエルの姿があった。

 ガブリエルの身体は既に崩壊が始まっており、翼や足の爪先、光輪から少しずつ身体が崩れ落ちていく。


 「どうやら私には貴方達にとどめを刺す程の力は残っていなかったみたいだわ。誇りなさい。この勝負、貴方達の勝ちよ」


 「いや、でも……そうだとしても……どうして? ギル達はガブリエルの敵なんだよ?」


 ギルには敵であるはずのガブリエルが何故自分達の手当てをしているのか分からなかった。しかしガブリエルは静かに首を横に振った。


 「敵も味方も関係ないわ。貴方達には美しい絆があったのだもの。互いを想う優しい心、敵ながら賞賛に値するわ。ならば私は貴方達に最大限の敬意を表する必要がある。これは、貴方達への私からの祝福よ。受け取って頂戴」


 ガブリエルは抱きしめる力を更に強くする。


 「それに、私には分かるわ。貴方達は純粋な『悪』ではない。ただ純粋で『無垢』なだけなの。人間として善も悪も両方兼ね備えたありのままの姿。それが貴方達。そんな貴方達を裁く権利など私には勿論、神にだってありはしないわ」


 「ガブリエル……」


 ギルとデスはガブリエルにそっと手を伸ばす。ガブリエルはその手を取って2人の手を包み、そして祈るように目を閉じた。


 「貴方達の手……温かいわ。最期に貴方達と出会えて良かった。本当なら……互いに人間の時に出会いたかったものね……。私はもう時間が無い……ギル、デス。私と出会ってくれてありがとう。」


 途端にギルとデスの目に涙が溢れる。

 先程まで敵だった者が、最大限の賛辞を贈り、手当てまで施し心まで温めてくれる。敵から向けられた"敬意"と"愛情"にどうすればいいのか分からなかった。

 ただ涙を流し、ガブリエルの胸に顔を埋めることしかできなかった。


 ガブリエルは最後まで優しく微笑み、二人の頭を撫で続けた。

 やがて身体は徐々に光の粒子となって消えていく。

 最後の瞬間、ガブリエルは笑顔で二人へ言葉を残した。



 ――無垢で美しき双子に神の加護あれ



 そう言い残し、ガブリエルは光の粒子となって消えた。

 大広間に残ったのは双子の姉妹のみ。

 割れんばかりの轟音と甲高い金属音が響き渡っていた大広間には、先程までの戦いが嘘であったかのように、ひどく静かな空気が流れていた。


 「デス……行こう。お姉ちゃんの元へ」


 「うぅ……ひぐっ……うん、行こう」


 ギルとデスは涙を拭い立ち上がる。


 まだ終わっていない。


 最後の戦いがまだ残っている。


 二人は向かう。


 最終決戦を迎える姉の元へ。



 〜〜数分後、非常階段前〜〜



 ギルとデスは1階を目指し、非常階段前まで辿り着くと、廊下の真ん中で仰向けに倒れる一人の男を発見する。身に纏う忍装束を全身の傷で赤黒く染め、額に鉢金を巻いた男、新橋凪助しんばしなぎすけだった。


 「お、おじちゃん!? そんな!? やだ! 起きてよ!」


 目を閉じたまま動かない新橋を見てギルとデスは蒼白になり必死に体を揺する。

 だがそのような心配もすぐに不要であることを知る。


 「ん……んぅ? おぉ、お前らか。遅かったな」


 新橋は目を覚ましたかと思うと、目を擦りながら大きな欠伸をする。

 あまりにも元気そうで能天気な姿に拍子抜けしたギルとデスは思わず固まる。


 「無事に合流したってことはどんな手を使ったかは知らんがもう1人を倒してきたんだな。結構やるじゃないかお前達」


 眠そうな顔で頭を掻きながら二人の様子を確認する新橋はボロボロのローブの割には傷が見当たらない二人を見て違和感を感じながらも無事に合流した二人を褒め称える。


 「そうなの。デス達はサイキョーなの」


 「わ、私達に掛かれば楽勝なんだから! ……じゃなくって! おじちゃんはその傷で大丈夫なの!?」


 素直に胸を張るデスとは裏腹に新橋の心配をするギル。ギルの心配する声に対し新橋の回答も単純なものだった。


 「大丈夫な訳ねぇだろ。魔力も尽きたし動けねぇから寝てたんだろうが」


 「見りゃ分かるだろ」と言いたげな顔で全身の傷を見せる。紺色だった忍装束が真っ赤に染まっている様に痛々しく感じるもそれと裏腹に元気そうな様子の新橋にギルとデスは反応に困っていると、新橋はもう一度大きな欠伸をして起き上がる。よく寝たと言わんばかりに体を大きく伸ばし振り返った。


 「さて、俺はそろそろ行くぞ。お前達は疲れてるなら休んでから来てもいいんだぞ」


 新橋の言葉にギルとデスは首を横に振る。


 「ううん、私達まだまだ元気だよ! 早くお姉ちゃんと名取お兄ちゃんのところに行こう!」


 「なのー!」


 ギルとデスは拳を高く振り上げ余裕のアピールをする。それを見て新橋は頷くと、三人は1階を目指し非常階段を下りた。



 ◇ ◆ ◇ ◆



 ――少し時を遡り新橋達が熾天使達と交戦している頃――


 名取とルシェルは1階フロアに到着していた。


 「つい最近の出来事なのにやけに懐かしく感じるな」


 名取は1階フロアを見渡し最初に教会にきた時を思い出す。ジョン神父の案内のもと色々見て回った記憶を掘り起こす。


 1階フロアには客間と礼拝堂(祈祷室)がいくつかあり、中心には3フロア分の高さを誇る大礼拝堂(本堂)がある。

 恐らくジョン神父がいるのは中心の本堂だろう。


 名取はルシェルと共に迷わず本堂の入り口へと向かう。

 本堂の入り口の扉を前にした時、ルシェルの足が止まる。


 「ねぇ、本当にこの先にパパがいて……これが最後なんだよね?」


 ルシェルは俯いたまま不安なのか自身の手をもじもじとさせている。

 名取はその手を自分の右手でぎゅっと握った。

ハッと顔を上げるルシェルを真っ直ぐな瞳で見つめ、名取は優しく微笑む。


 「ああ、これが最後だ。ルシェルは自分に正直になればいい。大丈夫、俺がついてる」


 「……うん……そう……だね」


 ルシェルは少し顔を赤らめながら頷く。

 名取が握る手をルシェルは握り返し、二人で手を繋いだ状態で、互いにもう片方の手で扉のノブに手を掛ける。


 「さぁ、行こう」


 「……うん」


 二人は手を繋ぎながら本堂のドアを開いた。


 忌まわれし邪眼をその身に宿す若者と地下に幽閉されし"天使"と謳われた"堕天の少女"は、先に待ち受ける少女の父、ジョン神父との最後の戦いの舞台へ歩みを進めるのだった。





ミニコーナー企画!


「あのコをどう思ってる? 直接聞いてみた!」


はいは〜い司会・進行を務めるよ、特異現象捜査部本部長 這月ニアだよ〜。


今回はね、登場人物であるあのコはあのコの事をどう思っているのか、お題に沿って直接聞いてみる企画だよ。


今回のゲストはこの子!


File3 「失楽園の少女」より新橋しんばし摘岐つみきです。本日はよろしくお願いします。


今回は現在進行中シナリオから新橋摘岐ちゃんに来てもらったよ。


摘岐ちゃんは凪助くんの妹さんなんだっけ?


はい、そうです。兄様がお世話になっております。ところで這月様、兄様は元気にしておられますでしょうか?


彼はいつも無気力な感じだけど多分元気……なんじゃないかな? あまり彼も笑わないからねぇ……休日とかも何してるか分かんないや。


兄様もあまり素性を人様に明かされるようなお方ではありませんから。ですがお話を伺う限りだけでも兄様は元気そうだと分かり安心しております。


そうなのかな? まぁ今回の本題もちょうどその「新橋凪助をどう思っているか?」だからもっと凪助くんのこと聞かせてほしいな。


はい。それでは、恐縮ながら兄様のお話を少々……。


まず、摘岐は今でも兄様のことはお慕いしております。兄様は類稀なる才能を持ちながら決して驕ることはなく、どなたにも対等に接してくださるお方でした。


あまり表情には出ないのですがああ見えて情に厚いお方なのですよ? 摘岐が怪我をした時は必ず手当てをして下さりますし、病に侵された日には付きっきりになって看病して下さりました。


他にも忘れ物をした時は必ず届けに来て下さりますし、忍術の指南もお父様よりも丁寧に教えて下さるのですよ。

それだけでなく摘岐の苦手とするたけのこを誰にも見抜かれることなく食べてくださるのです……ですが……。


ですが?


我が里の頭首たるもの里の娘達には頭首を悦ばせる必要があり……その……よ、夜伽を致すこともあるのですが……。


その際、他の娘達には激しく接していらしておられるのに摘岐には頭を撫でたり優しく抱擁するのみで終わってしまうのです……。摘岐には……異性としての魅力はないのでしょうか……?


あぁ~……これは世に言う"シスコン"ってヤツなのでは……? 誰とでも対等に……とは言ってるけど明らかに身内……いや、摘岐ちゃんへの愛情は特別な気がするね?


どうかされました?


あぁ! いや、何でもないよ! いや〜その〜……なんというか、凄く妹思いのいいお兄さんだね! 摘岐ちゃんは女性としてすごく魅力的だと思うけど、お兄さんはだからこそ君の身を案じているんじゃにいかな? それに身内内でとなると……色々と……ね?


そうですか……。ふふっ♪ やはりお兄様はお優しいのですね。


そうだね! 彼はとっても優しいんだね! 摘岐ちゃんもそんなお兄さんが大好きだということもよくわかったよ! 


っとこの辺りで今日はおしまいかな? ではまた会おう! 

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