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二対の熾天使

 ついに地上への脱出を目前に闇の住人、コンフュージョンから明かされるルシェルとの関係性やナイトから授けられた「再生の血」。

 名取は新たな邪眼を、ルシェルは自身と同化した母親が持つ異能力、「母なる天使(mother angel)」を手にし、一行はついにジョン神父との決戦に向け地上へと足を踏み出す。

 空間の裂け目に足を踏み入れた途端、空間の流れに乗って体が奥へと吸い込まれていく。


 赤や青、緑や黄色など目まぐるしく色が変わるトンネルのような空間の流れの中では体の制御は効かず、まるで空中に投げ出されたように運ばれていく。


「「わあぁぁぁ!!」」


 ギルとデスはぐるぐると回りながらジタバタしている。名取や新橋もなんとか態勢を整えようとするとなかなか上手くいかない。


 そのまましばらく流されていると、やがて空間の裂け目の出口が見えてくる。

 名取達は出口に向けて投げ出されるように出口から飛び出す。


「いてっ」


「うぐっ」


「あぅっ」


「「フギャっ」」


 ゴミ捨て場に捨てられるゴミ袋のように放り出された名取達は空間の裂け目から抜け出し、山積みになって地上に出る。


 名取は周りを見渡すと、そこはどこかの廊下のような場所であった。壁には窓が張られており、外から月の光が廊下を照らしていた。


「俺達、やっと地上に出たのか」


「それもそうだが早くどいてくれ」


 一番下で下敷きになっている新橋がそう言う。

 名取の上のルシェルが体を揺らし、目を回してぐったりしているギルとデスを下ろして立ち上がる。名取もすぐに起き上がり、やっと新橋が体を起こす。


 改めて出てきた先を確認してみると、どうやら教会のどこかの廊下にいるようで様々な部屋に続くドアがいくつか見られた。


「どうやら俺達は教会に戻ってきたみたいだな」


「うん、そうだね。まずは探索から始めようと思う。何か使えそうなものが無いか探したいの。教会ならある程度覚えてる。任せて」


「細かいところはギルも知ってるよ! お姉ちゃんよりも教会にいた時間は長いからねー」


「デスもなのー」


 ルシェルは廊下から現在地の特定、そしてジョン神父との決戦の準備に教会内の探索を提案する。

 教会内の知識にはギルとデスも自信があるようで、教会内の探索のサポートをしてくれるようだ。

 名取もジョン神父との決戦前に備えは必要だと賛同し教会内の探索から始めることにした。



 ◇ ◆ ◇ ◆



「ルシェルとネズミ達が地下から出てきたか……全く、しぶとい連中だ」


 教会の礼拝堂ではジョン神父が月明かりが差し込む窓を見上げていた。

 ジョン神父はパタンと教典を閉じ、振り返る。

 振り返った先には天使のような翼が生えた2人の男女が跪き、頭を垂れていた。


 1人は青い髪で両目が隠れるほどの前髪の長さが特徴の男性。

 もう1人は桃色の長髪で後ろ髪の毛先を一つにまとめた女性。


 2人の男女は神父の立つ礼拝堂の祭壇の前で跪いて静かに神父の言葉に耳を傾けていた。


「神からの寵愛を受けし神聖なる"熾天使"たちよ。深淵より反逆せし我が"天使"とそれに取り巻き悪をそそのかす"悪魔"共を楽園ちじょうから追放するのだ。悪魔どもは殺してしまって構わん。まんまとそそのかされた愚妹共も同罪だ。お前達の力を持って断罪せよ」


「は! 寵愛を授けし我が父の仰せのままに」


 跪く2人の男女はゆっくりと立ち上がる。

 そして手を胸に当てて神父へ向けて宣言した。


「この熾天使セラフィム、ミカエル」


「同じく熾天使セラフィム、ガブリエル」


「「親愛なる"我が父"の命に従い、必ずしも悪を断罪いたします」」


 そう言って2人の熾天使は振り返って歩き出し、礼拝堂をあとにした。



 ◇ ◆ ◇ ◆



 ルシェル達が先導して教会内を進んでいく。

 探索も兼ねて様々な部屋の内部を見ていくも、客間や休憩室などがほとんどで、廊下には階段が続くホールあり、大きな広間など探し回ったが、役に立ちそうな武器や道具などは見つからなかった。


 ひとしきり探索を終えたところでルシェルは現在地が教会の3階であることに気付いた。ルシェルによれば教会は3階構造になっており、同じような構造のフロアが下の階にも存在し、1階には3フロア分の高さに及ぶ大きな礼拝堂の入り口があるようだ。


 名取達は3階の探索を終え、2階へと続く階段のあるホールに向かう。


 ホールに着くと、2階へと続く階段があり、難なく下の階に降りることができそうだった。


「どうする? このまま2階すっ飛ばして礼拝堂まで一直線ってのもアリだと思うが」


「そうですね、ですが何か役に立つものが見つかるかもしれません。こちらは特に急ぎでもありませんし、万全を期して臨みましょう」


 名取の迷いのない決断にどこか嬉しそうに新橋は頷き、方針を決めた名取達は階段を下りて2階に辿り着く。しかしそこで最後尾にいたデスがあることに気がついた。


「あれ? この階段、1階への道が無いなの」


 デスの声に振り返ると、確かに1階へと続くはずの階段はその先が無かった。

 まるで切り落とされたかのように階段が無くなっており、下には瓦礫の山が出来上がっていた。

 飛び降りるには高さがあり、無事に着地できる保証はなかった。


「どの道別のルートを探すしか無いのか…仕方ない、2階の探索も兼ねて別のルートを探そう」


「それならギル知ってるよ! たしか非常階段がどこかにあるはず!」


 名取はやむを得ず別のルートを探す提案をすると、ギルが非常階段の存在を名取に教える。

 非常階段の存在を知った名取は手分けして2階の探索をする事にした。


 名取とルシェルはホールから右側へと続くルートの探索へ、新橋とギル&デスは正面のルートを探索することにした。



 ◇ ◆ ◇ ◆



 名取とルシェルは客室と大広間に続く廊下を進み、客室を調べる。

 きれいな椅子と机、ソファが並べられた客室はホコリ1つない清潔な部屋で手入れが行き届いた雰囲気が感じ取れる。


 そこで名取は棚やらを物色しながら名取はふと本来の目的を思い出し、ルシェルに問いかけた。


「そういえばこの教会には『柄がトキの頭のような形の短剣』があるらしいんだがルシェルは何か知らないか?」


「柄がトキの頭のような形の短剣? それが名取がここに来た目的なの?」


「そうだ、俺達は元々それを探しにここに来たんだ。ここまで色々ありすぎて忘れかけていたよ」


 するとルシェルはう〜んと何か思い出せないか考え込む。

 すると何か思い出したのか「そういえば」と顔を上げた。


「ルシェルが地下に閉じ込められる前、パパが『絶対に入るなって言われてた部屋が一つだけあるの。でも場所までは思い出せない……隠し部屋みたいな感じで普通じゃ見つからない造りになってるはずだから」


 ルシェルはそう言って探索を続ける。

 それ以上の情報は思い出せないようで結局のところ探索して見つけるしかないようだ。


 客室を一通り探索した後、大広間に入ろうとドアを空けた時、名取達はあるものを目にした。


 大広間には中央にソファが置かれ、一人の女性がソファで体を横にし、端に肘を置いてこちらを見ていた。

 その女性には天使のような翼が生えており、ルシェルとは対照的に白く、神聖さを纏っていた。


「あら? お客さん? 意外と早かったのね。でも私5人組って聞いてたんだけど……お仲間さん達はどこへ行ったのかしら?」


 妖艶な姿見の女性は翼をユサユサと揺らしながら2人を見つめている。

 名取はその女性が人外であり敵対存在であること、そして2人を虫ケラ同然の目で見ていることが一目見て分かった。


「さぁ……よく分からないな。こちらには敵対するつもりはない。ここは一つ、見逃してくれないか?」


「それは聞けないお願いね。私は貴方達を殺して"天使"ちゃんを連れ戻さなきゃいけないの」


 そう言うと女性はゆっくりと体を起こし立ち上がる。すると何もない場所から光が現れ、棒のような形状を形作ったと思えばそれは一本の槍となった。


「冥土の土産に教えてあげる。私の名はガブリエル。神父様によって人を超越した力を手に入れ、この教会を守護する"熾天使セラフィム"となった私に殺してもらえるんだから光栄に思いなさい?」


 槍先を向けながら舌舐めずりをするガブリエルは華麗な槍さばきでぐるぐると槍を回転させて再び構えると、大きな翼を羽ばたかせる勢いで飛びかかり名取とルシェルに襲い掛かった。



 ◇ ◆ ◇ ◆



 一方、新橋とギル&デスは名取とは別ルートで探索を続けていた。部屋の探索よりも先に非常階段を見つけることを優先し、フロア内の探索を始める。


「記憶が正しければこっちに非常階段があるはずなんだけどなー? デスー? なんかわかるー?」


「地上に出たの久しぶりだし非常階段なんか使わないから分かんないなのー」


 正面ルートを進み始めた新橋達はぐだぐだと話しながらマイペースに進んでいく。


「非常階段ってのは大体フロアの端っこにあるものじゃないのか?」


 新橋の素朴なツッコミにギルとデスは「それはそう」と納得する。

 ならば先に端まで行ってしまおうと方針が決まったところで新橋達は2階フロアのトイレの前を通り過ぎようとする。


 新橋はそのまま通り過ぎるが後方から「待って!」という声に足を止め、振り返る。

 振り返るとギルが脚を内股にして股の間に手を挟み震えている。

 ギルは青ざめた顔と震える声で新橋に告げた。


「お、おトイレ……」


 か細い声で告げられるくだらない一言に新橋の顔も思わず呆れる。

 ため息と額に手を当て、やれやれという様子の新橋は「行ってこい」と壁にもたれかかって腕を組む。


 ギルは小走りでトイレに駆け込み、その様子を見たデスもつられて「デスもー」とトイレへと入っていく。


 ギルとデスを待っている間、一息をつく新橋は懐から1つの瓶を取り出す。それはナイトの血が入った「再生の血」であった。


「コイツを持つべきは……もう少し考えるか」


 新橋は再生の血の入った瓶を見ながらぽつりと呟く。そしてしばらく経った頃、ギルとデスがトイレから出てくる。


「スッキリした〜」と満足気な表情の2人とは裏腹に真剣な表情で2人を見つめる新橋に2人の顔に緊張が走った。


「な、何かあった……なの?」


 新橋はギルとデスの2人の顔を見て1つ質問した。


「なぁギル、デス。お前達はどっちが姉なんだ?」


 新橋の質問の意図が理解できないのかキョトンとするギルとデス。ハッとしたようにギルはその質問に答える。


「ギル達は知ってる通り双子だけどギルの方がお姉ちゃんなんだ。おじさん、それがどうかしたの?」


 おずおずと答えるギルに「そうか」と一言漏らす新橋は、ギルの手を引いてその手にある物を握らせる。


 ギルはその手に握っているものを見ると、それは再生の血であった。


「おじさん、どうしてこれをギルに?」


 ギルの質問に新橋はギルの肩に手を置いて答えた。


「この先、もし何かと戦うようなことがあれば真っ先に前で戦うのは間違いなく俺だ。だが激しい戦闘になれば俺がコレを失くさず持っている保証などどこにもない。それなら持つべき人間は俺以外の誰かでなるべく持っていることがバレにくい人間がいい。だとすればお前達だ。その中でもお前はお姉ちゃんなんだろ? 末っ子のデスよりも頼りがいのあるお前しかいない。よく聞け、これは1回しか使えない。使い方はお前が決めろ。後悔しないようによく考えてお前が『ここだ!』と思ったタイミングで使うんだ。分かったな?」


 再生の血を託されたギルは動揺を隠しきれず、わたわたしている。

 そんなギルの目を真っ直ぐに見つめて「お前しかいない」と言う新橋に調子がついたのかコホンっと咳払いすると堂々と胸を張った。


「しょ、しょうがないにゃあ〜? そんなに言うならお姉ちゃんのギルが持ってもいいよ? ギルに任せれば間違いないんだから!」


 そう言ってギル袖の中から蛇を呼び出し蛇の口の中に瓶を入れた。瓶を口に含んだ蛇は再びギルの袖の中へと消えていく。


「これなら絶対に分からないよ! ギルって天才♪」


「お前のそれはどうなってるんだ……」


 フフン♪ と得意気なギルは完全に調子に乗ってどんどんと先を進んでいく。

 それをデスと共にやれやれと後をついて行った。


 名取サイドとは違い、客室などの探索はせず真っ直ぐに突き当たりまで進む新橋達は、あるものを目にする。


「あっ見つけた!」


 ギルの指差す先には目的の非常階段が見えた。

 ギルとデスは手を繋いで喜びを分かち合い、新橋もひとまず安堵の息を漏らす。


「よし、さっさと名取達を呼んで1階に行くぞ」


 新橋がそう言って来た道を引き返そうとした途端、背後の客間の扉が開く音がした。

 すかさず新橋は振り返り小太刀を構え臨戦態勢に入る。デスも慌てて槍を構え、ギルは袖口から蛇を呼び出す。


「おや? 天使エンジェルが見当たらないね? 彼女は一体どこにいるのかな?」


 新橋達が警戒する中、客間から現れたのは、前髪で両目が隠れるほどの青髪で天使のような白く大きな翼が生えた男性だった。


「誰だお前は」


「失礼、申し遅れた。僕の名はミカエル、神父より人類を超越した力を授かりし"熾天使セラフィム"だ」


 男は行く手を阻むように廊下の真ん中に立つと手を横にかざす。すると光が手に集まり、やがて一本の剣を形成していく。

 光から生まれた白銀の剣を携えた男は剣を構え、ニヤリと笑った。


「天使を連れ戻す前に、まずは醜い悪魔どもを消し去ることにしよう。この僕の前と遭遇したことを存分に悔いて死ぬといい」


 ミカエルは新橋達に向けて突進し白銀の剣を振り下ろした。




ミニコーナー企画!


第3回! 「パラアカ本音トーーク!」


2020年 10月31日から4日間にわたる東京都渋谷区の歴史上最大のテロ事件「渋谷ゾンビテロ事件」を解決した特異現象捜査部捜査員の和泉心陽いずみしんよう沢渡紫苑さわたりしおんは病院にて妹から散々暴行を受けた兄、荒谷和真あらたにかずまと合流し、3人で銀座の寿司屋で食事をしていた。


これはそんな中で語られる本音のお話……


和真大丈夫か? 見るからに痛々しいんだけど……


正直めっちゃ痛ぇ……。確かに俺も悪かったけどよ……あそこまで殴らなくてもいいじゃねぇか?


アイツもそれなりに必死だったんだろうがよ。今回の件だけなら分かるがお前、妹の奴にずっと連絡寄越さなかったんだろ? お前の今までの行いが悪かったな。


そう言うオメーはどうなんだよ? 家族に連絡とか入れてんのか?


うぐっ……。それは……別にいいだろ俺のことなんざ……。


やっぱり沢渡も同じじゃねぇか! なんだよ人のこと言っといてお前もやってないんじゃねぇか。


俺は……いいんだよ。家族とは縁を切ったようなモンだ。


どういうことだ?


俺は昔、海外で弟と一緒に誘拐に遭っちまったんだ。ソイツらはカルト宗教の連中で子供を誘拐して生贄に捧げようとしていたそうだ。連中は武装もしていて子供2人でどうにかできる相手ではなかった。俺は弟を守ろうと必死だった。だがそんな時、側で泣き叫ぶ弟を黙らせようと連中の一人が銃口を弟に向けたんだ。


その時、頭の中でなにかが切れる音がした。


そこからは一瞬だった。どうやったかは覚えていない。衝動に任せて身体が勝手に動いたんだ。俺は奴らの銃を奪い取り、連中に向けてぶっ放した。「弟に手は出させない」その一心だった。

気がつけば連中だけでなく地元警察でさえ見境なく撃ち殺していた。


人殺しになった俺は弟の側にいてやれないと弟の前から姿を消そうとした時、ニア本部長と出会って俺はこの組織に拾われた。

それ以降、俺の中の信念は「弟に平穏な人生を送ってほしい」ただそれだけの為に銃を握って特異現象と戦ってるんだ。


沢渡お前……カッコイイ兄貴じゃねぇか! 弟の為に戦う兄貴なんてよぉ! まるで漫画の主人公じゃねぇか!


家族に人殺しがいるって知られたくないから家族の前から姿を消しているのか……。なんだか寂しいな。


いいんだよ。それで弟が平穏な人生を過ごせるなら俺はよ。


くぅ~! お前の生き様にシビれるぜ! 同じ兄貴としてその気持ち、死ぬほどわかるぜ! こうしちゃいられねぇ! 俺ももっと修行をい゛て゛っ゛!!


お前妹に散々殴られた後だろ……無理すんな。俺もお前の気持ちは分からなくもねぇ。お前が京都で修行とやらをしてる内は俺が守ってやっからお前は安心して強くなって戻ってこい。


「俺」じゃなくて「俺達」な? 俺も忘れてもらっちゃ困るな沢渡


うっせ……お前とは組んでやんねぇよ。


……心陽、沢渡。ありがとうな! 俺、お前らと肩を並べて立てるようにぜってぇ強くなってやるから。お互い頑張ろうぜ! 


あぁ、そうだな。和真、待ってるぜ。


……あまり無茶しすぎんなよ。


……ということで今回は俺の奢りだ。沢渡、和真、今日はたんまり食えよ!


3人はそうして過去に沢渡の過去や和真と兄としての想いを語り合い、豪華な夕食と共に充実した一時を過ごすのであった。




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