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人の持ちうる心

村に現れた特殊部隊、GREETERのコードネーム「S.Voice」の襲撃によって始まった村人達の虐殺。


身を挺して少年名取を逃がすためにS.Voiceの足止めに徹する神主の奮闘も虚しく敗北を喫し、とどめを刺そうと銃口が神主へと向く。


村人達によって紡がれる命のリレー、村の少年にして五体様の神子となった悲劇の少年名取を生き延びさせる為に少年名取が村を出るその時までそれは続いていく。

 村中に響く銃声、それは突如として村人へ襲い掛かってきた咎敷という男から少年名取を逃がす為に身を挺して足止めをしてくれた神主の命が咎敷の手によって奪われた事を意味していた。


 それは村の外へと続く峠道を進む少年名取の耳にも届いていた。


(神主さん……)


 少年名取は神社の方角を振り向き、神主の最期を惜しみ、そんな事をしている場合ではないと両手でパチンと頬を叩き気持ちを切り替える。


 千里眼を使って咎敷の位置を確認すると、まだ神社から出ていない様子であった。

 今のうちにと再び峠道を登ろうとしていると、前方からよく知る車両が近づいてきて、目の前で停車する。運転席には母親が乗っていた。


 母親は安心した様子で窓を開け、車に乗るよう促し、少年名取は助手席に乗り車はUターンして発進する。


「久代が無事でよかった。村長さんから電話が来たから驚いたよ。『村の皆が殺される!』て言われた時はさ……で? 村では何があったんだい?」


「いきなり変な奴が取材に来たと思ったら村の人間を刃物で切りつけ始めたんだ。今頃村の人間を手当たり次第に殺してる。神主さんも俺を逃がすために……」


 少年名取から語られるにわかに信じがたい話に唖然としながら車を走らせる母親、少年名取は振り返って千里眼を使い、咎敷の位置を確認する。


 神社の方角を探すも移動を始めたのか見当たらない。

 目を凝らし村の方角をくまなく捜索する。しかし咎敷の姿が見当たらない。


(どこだ? どこにいる?)


 どこまで探しても見つからない事に焦りを覚えているとドンっと車が縦に揺れる。

 まるで何かが乗っかったように揺れる車内、即座に体を奔る悪寒に顔が青褪める。


 それは千里眼を発動している少年名取にはハッキリと見えた。車の後部座席の天井部分、車上に何者かが乗っている――いや、何者かは明らかだった。


「見つけた〜よ!!」


 バッと上からフロントガラスを覗き込み咎敷の顔が目の前に現れ、驚いた母親が急ハンドルを切った事で制御を失った車はガードレールに突っ込み停車する。勢いで強い衝撃に体を打ちつけ、全身を痛めながらもかろうじて車を脱出した。


 ガードレールの向こうでは崖から咎敷が這い上がり、「あっぶね〜」と砂埃を払い、コホンっと咳払いをしてニッコリ笑った。


「お迎えに参りました〜♪ 私、S.Voice《サイレント・ヴォイス》と申します〜。五体様の神子様が現れたと言うことでお命頂戴しに参りました☆」


 キャピっとピースしながらウインクを見せる咎敷は、全身に返り血を浴び、黒いジャケットが赤く染まっている。

 右手に拳銃、左手にタクティカルナイフを携える彼はゆっくりと歩み寄ってくる。


 母親は少年名取を庇う様に咎敷の前に立ち塞がる。


「久代! アンタは逃げな! コイツは母ちゃんが止める! 絶対に通しゃしないよ!」


「母ちゃんやめろ! アイツに敵う訳がない! 無駄死にだ!」


 少年名取は母親の言う事が聞けなかった。それもそのはず少年名取の先見眼には母親が拳銃で何発も撃たれ倒れ伏す姿が鮮明に映っていた。母親がいくら頑張った所で時間稼ぎにもならない事が少年名取には分かっていた。


 だが母親も引き下がらなかった。


「うるさいね! いいから黙って行きな! 母ちゃんの《《最期》》の言う事も聞けないのかい!? 最後の最後で反抗してくるんじゃないよ!」


「母ちゃん、最期って……」


「アタシがアイツに敵わないことなんて分かってるんだ……でもね、我が子の為に命張るってのは親の務めなのさ」


「母ちゃん……」


「わかったら行きな! 久代は村の最後の希望なんだ! 絶対に生き延びるんだよ!」


 神主の時のように母親の勢いに押されて再び少年名取は走り出す。

 目の前で繰り広げられる親子愛にも興味なさそうにしている咎敷は頭を掻いて欠伸をしていた。


「ねぇ、もういい?」


「ここから先は行かせない」


 重心を低く下ろし勢いよく走り出す母親は咎敷の体を取り押さえようと拳銃を握る右手に狙いを定め、右手を掴もうと手を伸ばす。


 その瞬間、銃声と共に母親の腹部に銃弾が命中する。そして立て続けに引き金が引かれ、何発もの銃弾が体の至る所に撃ち込まれる。


「がはっ」


 母親は動きが止まり、その場に倒れ伏す。

 十数箇所の銃創じゅうそうから血が溢れ出て止まらず倒れたまま動くことが出来ない。


「まぁ、これだけ撃てば死ぬでしょ? 時間稼ぎにもならなかったね? お疲れ様」


 そう言って母親を通り過ぎようとした途端、母親は力を振り絞り起き上がって咎敷に飛びつき抱きついた。


「げぇ!? まだ生きてんの? しぶといねぇ。ホラ、早くくたばんなって!」


 咎敷はナイフでザクザクと母親の脇腹を刺す。だが母親の力は弱まるどころか力を増していく。

 あまりのしぶとさに咎敷のイライラも募っていく。

 母親は歯を食いしばり放すまいとガッシリしがみつく。細身の身体からは想像できない人間の本能的な力で咎敷を押さえ込む。


「行かせない! 絶対に! アンタなんかに久代を殺されてたまるか!! あの子はアタシの息子なだけじゃない! アンタが奪っていった村の人間達の希望なんだ!!」


 咎敷は力ずくで起き上がり名取の母親を抱き着かせたまま引き摺り歩く。歩く先には抱き着かれた際に落とした拳銃が崖際のガードレールの下に転がっている。


「いくら馬鹿力が働いていようと、頭打ち抜けば人間は死ぬんだ。あまり時間をかけてる暇はないんだよ!」


 ズルズルと引き摺り歩き、崖際の拳銃の側まで進み、拳銃に向かい手を伸ばそうとした瞬間――


「うおぉぉぉぉぉ!!」


 母親は逆に崖へと押し出し、自身ごと咎敷と共にガードレールを越え宙へ身を投げ出した。

「は?」と咎敷は理解できない表情で母親を見る。母親はしてやったりという表情でニヤリと笑った。


(久代、アンタはこれから自由に生きな。呪われてたっていい、子供も欲しけりゃ作ればいいさ。五体様の事なんかどうだっていい、アンタの好きに生きるんだよ。アタシは、久代が幸せならそれでいいんだ。きっと村の人達もそう思ってくれる筈さ……。アンタは、アタシの……《《村》》の大切な息子なんだから……)


 大慌てで母親を剥がそうとする咎敷に抱きついたまま、満足した様な表情で母親は崖の下へと落ちていった。


 隣町へと続く峠道を下り麓付近まで下りて、すっかり日も暮れてきた頃、脚も限界を越え歩く事すら辛く感じてきた中、少年名取は目の前に人影を発見する。


 その者は男性物の着物を着た深緑色でボサボサの長髪を後ろに束ねた20代前半程の中性的な若々しい男性がそこに立っていた。


「大丈夫かい? こんな峠道を歩いて下りてくるなんてさ? お家は? もしかして家出かな?」


 男性は少年名取に近づくと少年名取は足の力が尽きたのかその場に崩れ落ちそうになるも、男性に支えられる。今にも消えそうな意識の中、少年名取は力を振り絞り男性に助けを求めた。


「お願いです、助けてください。僕の故郷が……殺人鬼に……」


 それだけ伝え力尽き意識を手放す。

 男性はその少年を背負い、街へと消えていった。



 ◇ ◆ ◇ ◆



「その後は東京の病院で目が覚めて結果的に本部長と出会って拾われる形で俺は東京で生きる事になったんです」


 名取は邪眼を手にするきっかけともなった自身の生い立ちについて語り、少々心を痛めるような様子で胸をぎゅっと握っていた。


「……下らんな」


 前を歩きながら話を聞いていたコンフュージョンは同情する事も無く一蹴する。

 人の心を持ち合わせないコンフュージョンには人間の心情に触れたとて理解できないとただの長ったらしい退屈な話に過ぎなかったようで失望したような表情で振り返った。


「人間はよく分からんな。科学など下らんものに支配され、神の存在すら忘れるとは愚かとしか言いようがないな。それになぜ貴様を生かす為に必死になったのかもよく分からん。忌み嫌われる者なのならば葬ってしまえば良いものを」


「それが人の持ちうる《《人情》》というものです。不思議なものですよね」


 フンっと理解出来ないと言わんばかりに歩く速度を速める。名取達も置いていかれない様に速度を上げて付いて行く。


 すると新橋があることに気づく。


「なんか……空の色が変わってないか?」


 上を見上げて新橋が呟く。

 つられて上を見上げると確かに暗い緑色に染まっていた上部が暗みを増し、もはや黒に一色になろうとしていた。


 ディスコードやコンフュージョンのように闇の住人の周りでは頭上の色が変化している。

 今回も色が変わってきているということは、闇の住人がまた一人、近づいてきている事を意味していた。


 思わず表情が強張る面々、それはコンフュージョンも同じであった。

 歩みを止めることこそは無いがハルバードを握るその手には力が籠っていた。


「君達見ない顔だねぇ、どこから来たんだい?」


 ルシェルの横から聞こえてくる声にルシェルは驚き飛び退く。

 先程まで一切の気配も感じさせなかったが突如として現れた闇の住人に名取と新橋も思わず身構える。


 英国紳士と言うような西洋的な紳士服に身を包み、吸血鬼の様に犬歯を尖らせ頭部には羊の様な角を持つコンフュージョンの同様人間に近い容姿をしている。


 闇の住人は「まぁまぁ」と敵意が無い事を教えると腰に手を当てもう一度問いかける。


「驚かせちゃったかな? まぁ落ち着いて。ところで君達は一体何処から来たのかな? でも蛇の小……はややこしいか……灰の少女は見たことある気がするけど」


 闇の住人は名取と新橋を見て問いかけ、名取はその質問に答えようとした途端、目の前を目にも留まらぬ速さでコンフュージョンが過ぎ去りコンフュージョンのハルバードが闇の住人に向けて振られる。


 闇の住人は難なくそれを躱し「ヒィ〜怖い怖い」とわざとらしく笑う。

 コンフュージョンは闇の住人を睨みつけハルバードの刃先を向ける。


「ナイト、何をしに来た」


 "ナイト"と呼ばれる闇の住人は両手を広げて明るい笑顔で話し始める。


「コンフュージョンの気配が"カオス"の方角へ向かっているのを感じてね? 一体何事かと気になって見に来たんだよ。そしたらなんと灰の少女とその眷属、更には外界の人間まで連れて歩いてるんだからそりゃ興味も湧くでしょ? 君は一体何故この者達を"カオス"の元へ?」


「知らん、ただの気まぐれだ」


「アハハ、君はいつもそうだね。気分屋なのに表に出ないから察するのも難しい」


 そう言うと両手を頭の後ろに組み、"ナイト"と呼ばれる者は名取達に向け自己紹介をした。


「自己紹介がまだだったね? 僕は《《夜》》を司る闇の住人、ナイト。君たちに危害を加えるつもりは無いよ。何だか君達は面白いことを仕出しでかす気がして興味が湧いているんだ」


 ナイトはニヒヒと無邪気な笑みを浮かべ、その眼は青色に怪しく輝いていた。

ミニコーナー企画!


新企画! 「休日の1ページ」


休日……それは人の安らぎの1日。日常の中で最も心の緊張が解れ、心も身体も休まる1日の中でこそ見られる登場人物達のプライベートな瞬間。


これはとある人物の休日の何気ない一時のお話……


渋谷のゾンビパニック事件後、本部長から告げられる「半年間の長期休暇」。始めの方はゆっくりと布団の中で過ごしたり久々にテレビゲームをしたりなど、普段できなかった過ごし方をして楽しんでいたがそれも数日も続けば飽きてくるものだ。

精神はともあれ体は休まってきた中、暇を持て余し始めると、和泉心陽は同居人? である死神葉月にとある提案をする。



せっかく長い休日だしどこか行こうか?


え? それってデートってこと!?


デート? よく分からないけど暫く家で体を休めてきたけどそろそろ暇を持て余してきたしどこか外出しようかなって。一人も味気ないしさ?


やっぱりデートじゃないか〜少年も積極的なんだから♪ 何? お姉さんのことやっぱり好きになっちゃった?


やっぱり一人で行こうかな……


待って待って! 冗談だから! 楽しみだなー!

行こう! すぐ行こう! 他意は無いから!


すぐって……そんな急がなくてもいいでしょ。せっかく長い休日だし旅行でも行こうかなって思ってたんだけど、行きたい所とかある?


う〜んそうだな〜……そだ! 九州なんか行ってみたいかも! お姉さん死神になってから何度か行った事あるんだけどちゃんと観光した事は無いんだよね。だから九州に行こう!


良いね、九州。九州なら福岡に俺の先祖の人が居たらしいし、俺の霊感のルーツもそこにあるって聞いたこともあったな。たしか……"裏S区"だったっけかな? 実際に訪れたことは無いんだけどこの際に訪れてみるのもありだな。


へぇ~君の霊感は遺伝なんだね? 面白いなぁ。勿論お休み長いんでしょ? いっそ九州一周なんかしたりして? せっかくだからウンと遊んじゃおうよ!


そうだね。でも葉月さんは死神の仕事はしなくて良いのかな?


勿論やらなきゃだけど結局死者の魂は幽世に行けば一箇所に集まるからそんなに大変ってわけでもないから大丈夫だよ♪ 日中は少年とデー……遊べたらお姉さんは満足だよ。


そうか、じゃあ詳細の予定はこれから決めるとして行きたいところとか今のうちに調べておこうか。


うん! 少年とのデート楽しみ! お姉さんもうワクワクして来ちゃったウフフ♡


はぁ……まぁいいか。


こうして二人きりで九州一周旅行の計画を立て始めた心陽と葉月。

長期休暇を持て余した心陽の心のリフレッシュと霊感のルーツを辿る旅、そして葉月のイチャイチャデート大作戦は無事、成功となるのか?

二人の今後や如何に……。

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