声なき声
村に伝わる伝承、「五体様」。
100年周期に村の子供を神隠しで攫っては体の一部に特殊な力を持つ呪いをかけ、呪われた者は一生の不幸が訪れると言われてきた。
村では100年周期に合わせ、村の神社に代々伝わる、魔除けの儀式を受ける必要があった。
しかし少年名取は流行病によってその儀式には出ず、もう一人村の子供が儀式に出なかった。
その結果2人は五体様によって神隠しに遭い、呪いをかけられそうな所で少年名取は子供を逃がし、2人分の呪いを一身に受け、少年名取の両眼は呪われた眼へと変貌を遂げてしまったのであった。
――君はもう、死ぬしかない。
神主が告げられた言葉。
まるで時が止まった様だった。
隣で話を聞く母親は堪えきれず咽び泣いている。
静けさが流れる神社内の一室、五体様によって邪眼が埋め込まれた少年名取は神主から発せられた一言が受け入れられず、ただ呆然としていた。
当然だ。中学生の少年が唐突に死ぬしか無いなどと告げられてどう受け止めろと言うのだ。しかもたった1日の出来事だ。あまりにも唐突過ぎる。
暫くの沈黙の後、神主が2人の表情をそれぞれチラチラと確認しため息を吐いた後、残念そうな面持ちで口を開いた。
「落ち着いて聞いてくれ。五体様の呪いを受けた人間は呪いを受けた部位に特殊な力が宿る。もし君に子孫が生まれた時、その子孫へと呪いが継承され、自身の呪いを受けた部位はその機能を失う。呪いの持ち主が死なない限り、呪いの連鎖が途切れることは無い。つまり君が死なない限り後世に呪いのが受け継がれていくんだ。100年周期であと4回呪いを受けた者が現れ、呪われし者が5人そろった時、五体様はこの世界に顕現し世界に終焉をもたらすだろう」
神主は呪いについて語り、神棚の奥から小太刀を取り出し少年名取の前に差し出した。
「君が呪われてしまった以上、次の神子が現れる前に、つまり100年以内に一人目の神子を屠らなければならない。人々を安心させる為にもいち早く死ぬというのが賢明だろう。もし自分で出来ないというのならば、私が介錯を務めよう」
少年名取は手渡された小太刀を握り鞘から刀を抜くと、窓から差し込む日光が刀身を照らし自分の顔を鏡のように映し出す。
刀身に映る自分の顔は、酷く生気を失い、目にそれぞれ3つずつ収まる3色の瞳は自身が人ならざる「化け物」であると示しているようにも見えた。
(もう……俺は死ぬしかないのか?)
神主の話を受けながら少年名取の本心は明白で死にたくなかった。
だが命乞いをしようにもどうにもならない。どの様な悪影響を及ぼすかも分からない呪われた目と死ぬまで付き合わなければならないのだ。
この期に及んでどうにかして生きられないか探している自分がいる。
そこでふと少年名取は神主に1つ提案した。
「正直、まだ死にたく無いです。ですから無害である間はなんとか生かしてはくれませんか?」
神主は少し困った様な表情になり、少し考え込むように背を向けると、再び向き直った。
「本当ならその条件で君を生かそうとは思っていたんだけどね。実際、何か起こってからでは《《遅い》》んだよ。君が人に悪影響を及ぼす規模も何も分からない現状、未然に防ぐというのが賢明だとは思わないかい?」
神主の主張は最もであり、何も言い返せない。「やはりダメなのか」と俯いていると母親が神主の前で手を床について頭を下げる。
「久代は私が大事に育ててきたたった一人の息子なんです! 幼くして父親を亡くし、寂しい思いも沢山して来たはずなのにワガママ一つも言わず、今まで一度も手のかからなかった子なんです! 他の家の畑仕事を手伝う事もよくあるし村の子供達の面倒見も良くて村の子達にとっても『優しいお兄ちゃん』なんです! だからお願いします! 久代を殺さないで下さい! 村での信頼の厚い自慢の息子を信用してあげて下さい!」
ボロボロと泣きながら神主に息子の命乞いをする母親の姿は痛々しく、とても見ていられるものではなかった。だが息子の命の為に必死になる母親の姿を見て、少年名取の胸の奥には申し訳ない気持ちが溢れ出てきて、思わず下唇を噛み締め、正座する膝の上て両拳をギュッと強く握り締めていた。
(母ちゃん、ゴメンな。俺の為にここまでさせちまって……そうだよな、自分の責任は自分で持つべきなんだ。親とはいえ母ちゃんに背負わせるわけにはいかねぇよ)
少年名取も両手を床につき、床につくまで頭を下げ、神主に対して少年名取の《《誠心誠意》》をその身を持って表した。
「自分の責任は自分でしっかりと持ち、もしもがあった時はきっちり落とし前はつけます。それでも不可能な場合は問答無用で殺してくれて構いません。神主さんの言う事は最もです、がそれでも俺は《《人間として》》生きる事を諦めたくありません。お願いします、どうか俺にチャンスを下さい」
それを見た神主は優しく微笑み母親と少年名取の前で正座し頭を上げさせた。
2人は神主の優しい表情を目の当たりにしてどういう感情か分からないと言わんばかりの呆然とした顔をしている。
「私も君を殺したいと思っている訳ではない。私だってもし可能ならばそうしたいと思っているさ。わかった、君を信じよう。その小太刀は自分の為に持っていてくれ。もしもの事があればそれで自分の責任を果たすんだ。だがそれも出来ないとなれば、容赦なく私は君の首を落とす。いいね?」
その言葉を聞き母親はただひたすらに頭を下げ感謝を述べる。
少年名取の顔にも希望の色が湧き出てきた。
その後、神主に暫く待つように言われ、言われた通り待っていると、札を持った神主が奥から出てきた。
「外部からの君の目の認識を阻害する札だ。これを持っている間は周りから君の目は普通の目に映るようになっている。人前に立つ時は必ず肌身離さず持つことと3ヶ月ごとに定期的に新しい札を受け取りに神社を訪れることは守って欲しい」
少年名取は札を受け取ると母親ともう一度頭を下げて感謝し、神社を出た。
家の前まで帰ってきた時、少年名取は母親に溢れ出す申し訳ない気持ちが抑えきれず思わずぽつりと呟いた。
「母ちゃんゴメンな。こんな事になっちまってさ、色々迷惑かけちまうし将来孫の顔だって見せてやれそうにねぇや……」
少年名取がそう言うと突然母親に抱き着かれた。わけも分からず呆然としていると母親の抱き着く力は徐々に強まっていく。
「母ちゃん? ちょっと……苦しいって」
「バカ野郎! 何が迷惑だよ! そんな訳ないじゃないか! アンタは私の大切な息子なんだ。生きてくれるだけで嬉しいモンなんだよ。呪われたって人間じゃなくなったって、アンタは私の息子だよ……」
強く抱きしめながらも震える母親を抱きしめ返し、少年名取の目には自然と涙が溢れ出した。制御が効かない邪眼のせいなのか涙で目が潤んでいるのか分からないが霞む視界の中、静かに母親と抱き合い泣き続けた。
〜それから数日後〜
少年名取は定期的に神社に出向き、札を交換しながら日常生活に溶け込んでいた。
時に悪夢にうなされる事こそあるものの、それ以外には特に悪影響というものは見受けられず、人を脅かすようなことも無さそうであった。
更に少年名取は少しずつ邪眼を意のままに操れるようにもなって発現当初は、3つの瞳が同時に現れていた目が、今となっては1つずつ切り替えて使う事が出来るようになった。
五体様によって少年名取に宿った2つの邪眼、「千里眼」と「先見眼」。
視力強化や透視の力を持つ千里眼と数秒先の未来が視える先見眼の力を少年名取は上手く使いこなし、それの力を人に役立たせ厄災とは程遠いものとなっていた。
そんなある日、村に滅多に来ることのない他所からの人間が村へと迷い込んできた。
その者は黒いジャケットに身を包み、山吹色の髪にクルクルのパーマの男で、左胸にはタコのような不思議な紋章と「GREETER」の文字が入っているという。
その者が言うには「オカルトライター」だそうでこの村に伝わる「伝承」を追ってきたのだという。
その者は村人に取材をして回り、勿論名取の家にもやってきた。
「スイヤセーン、私オカルトライターをやっております咎敷といいますー。ここの村の伝承について取材をさせて頂きたく参りましたー」
咎敷という男は玄関先でメモとペンを持ち立っている。
母親は仕事で出ており自分が出る事になり、取材応じようとする。その瞬間、玄関先で不意に先見眼によって未来のビジョンが映し出される。
そこら中に転がる死体、血塗れで何かを訴える母親、血塗れたナイフを持つ笑顔の男の姿。
それらが先見眼を通して少年名取の目に映しだされ、玄関先の名取の足を止める。
「なんだ……? 今の?」
ゴクリと固唾をのみ、緊張の面持ちでドアを開ける。その先では未来視で見たままの男が笑顔で立っていた。
「すいやせんね〜自分、私こういう者でして、ここの村人の皆様に取材をして回っておりまして〜もしよろしければご協力お願い出来ますかね?」
そう話す咎敷という男は笑顔でペコペコ頭を下げながらメモとペンを持って挨拶をする。
咎敷からは他愛ない世間話から村の伝承について、少年名取は未来視を通じて得た情報を元に自分が五体様の神子である事を悟られないよう最大限注意を払い取材を終えた。
「んじゃま、取材はこれにて終了です。ご協力ありがとうございやした!」
咎敷は笑顔のままメモを閉じ、ペコリとお辞儀をして立ち去っていく。
それを見送る少年名取はどうしても咎敷が不審に思い、神社へと急ぐ。
神社に着くと神主が何やらイソイソと何かの準備をしているようであった。
その腰には刀を携え、手には拳銃を持っていた。その様子を見てただ事では無い事を実感する。
「神主さん、一体何を?」
その声を聞いてハッと振り返る神主はこれ以上無い程に焦りを感じさせる表情であった。
神主は鬼気迫る勢いで少年名取の両肩に手を置き少年名取へ告げた。
「急いでこの村を離れろ! まもなくここの村人は皆殺しにされる! 冷静に聞け、ヤツの狙いは神子の命、つまり君だ。君が神子だと分かれば奴は躊躇いなく君を殺す。神子の存在が確証に至れば最後だ、その瞬間村人の惨殺が始まってしまう。しかしそれも時間の問題だろう」
神主の言葉に少年名取の表情が一気に強張る。先見眼の未来視で見た出来事が現実になろうとしているのだ。少年名取は村人を自分の命と引き換えに村人達の命を見捨てる決断を突如として迫られ動揺していた。
すると神社入り口の階段から一人の村人が大慌てで走ってきた。村人は息を荒げ、少年名取を見つけると上がっている息を必死で落ち着かせ話し始める。
「ゼェ……ハァ……く、久代だな? 早く逃げろ。どういう訳か余所者は村の人間を殺して回ってる。誰かが儀式に出なかった人間がいるって教えた瞬間あの野郎躊躇なく人を切りやがった! 奴は村の人間を皆殺しにする気だ、お前も殺される前に逃げろ! 神主さんも逃げ……」
村人が言い終わる前に村人は倒れ、その首元から遅れて血が流れ出しその場に血溜まりを作っていく。
遅れて階段をゆっくりと上がってきたのはタクティカルナイフを片手に返り血を全身に浴びた咎敷が現れた。
「おんやぁ? 君はさっきの……酷いなぁ? あの時、儀式に出なかった人間がいる? って聞いた時「いない」って嘘ついちゃうなんてさ? ちゃんと正直に言ってくれれば……何も分からないまま痛みも感じずに死ねたのに」
咎敷は手元でクルクルとペン回しのようにナイフを回した後、刃先の血を舐めながら言う。
神主は拳銃を咎敷に向けて構え、少年名取の前に立つ。
「走れ、神社の裏から抜けてとにかく遠くへ逃げろ。コイツは私が食い止める。君の事は私が命に代えても守る」
神主はゆっくりと前に歩み寄ろうとする咎敷の足下に発砲し「動くな!」と叫ぶ咎敷「おお〜怖い怖い」とわざとらしいリアクションをとる。
「さぁ行け! 君だけでも生き残るんだ!」
神主の勢いに押され、少年名取は後ろを振り返ることなく走った。
ただひたすらに前だけを見て、遠くを目指して走った。
背後で発砲音と金属音、そして雄叫びの様な声が響き渡る。
それでも少年名取は決して振り返らなかった。
(神主さん、ゴメン……! 俺、呪われてるのに! それでも俺を生かすために……!)
少年名取は涙いっぱいに走った。
やがて山道を抜けて村から出る峠道へと続く道路の入り口付近にまで到着する。
「母ちゃん、無事なのかな?」
ふとそう考えた時、手元の携帯から着信が入る。携帯の着信は母親からのものであり、少年名取はすぐに応答した。
「もしもし? 久代? 今村長さんから連絡があって村が大変なんだって? 母ちゃん仕事早退して車で迎えに行くから安全な所で待ってるんだよ!」
「分かった。でももう村には安全な所は無いよ。早く合流出来るように俺もそっちに向かう。合流したら一緒に逃げよう!」
そう言って通話を切り母親の職場の方向である隣町に向けた峠道を走っていくのであった。
◇ ◆ ◇ ◆
「こうなったのもぜぇ〜んぶヘマした君が悪いんだからね? 神子なんか出しちゃうから《《組織》》も動かざるを得なくなっちゃったじゃないか〜。それに誰が神子かも分からないから村の人間も一人残らず皆殺しにしなくちゃだしさ?」
床に仰向けで倒れる神主の上に座り込みナイフを回す咎敷は神主に向けて言う。
神主は全身に切り傷を負い、吐血しながら咎敷に問いかける。
「何故だ……? 何故神子が現れたのが分かった? それに皆殺しなど……いくらお前達が《《組織》》の人間だからといってこれだけの惨殺、世間に隠し通せる訳がない……」
神主の問いかけに「ああ〜ん?」というわざとらしい反応と共に神主の問いかけに答える。
「あのさぁ……特殊部隊《GREETER》が来といて特殊清掃班が来てないわけないでしょ? それにこんな人も人通りも少ない小さな村、後処理なんて楽な仕事でしょ?」
そうやって話していると咎敷の通信が入る。
「あぁ〜……」と面倒くさそうに通信を繋ぎ応答する。
「こちら本部通信。S.Voise、何をやっている? 遊んでないでさっさと目標を仕留めろ」
「ええ〜? でもぉ……ハイハイ、分かりましたよやりゃいいんでしょやりゃあ」
通信を終えスッと立ち上がる。
咎敷は神主を見下ろし拳銃を拾い上げてその銃口を神主の眉間に向ける。
「悪いけどもう行かなきゃ。五体様の神子は必ず殺す。決して逃しはしないよ? 特殊部隊《GREETER》、《《Silent Voice》》の名にかけてね」
死を目前にして最期の力を振り絞りか細い声で咎敷に聞き取れ無い程度に呟く。
「名取久代……生きろ……。君は……五体様の因子をその身に宿す民族。真実は……知らなくたっていい……この五御里村に《《人間がいた》》という証明にさえなれば……それで良いんだ……それだけで……世界は……」
発砲音と共に最後の言葉はかき消され、曇り空がかかり始めた空の下、人気も無く自然に囲まれたその村には渇いた音がよく響いた。
それは、峠道をひたすら徒歩で登る少年名取の耳に届くほどに……。
ミニコーナー企画!
第5回! 「気になる!? あの子のプロフィール!」
どうもー! 皆大好き! 幽世のアイドル葉月お姉さんだよー!
今回の企画はね! この世界の登場人物に関する情報を公開していっちゃうよ!
さぁ今回のゲストはコイツだ!!
File2 「Cradle of infection」から沢渡紫苑だ。ったく面倒くせぇ……。
今回は沢渡君だ! 沢渡君、君は少年とは結構仲良さそうだけどどうして君は少年に対してそんなにツンツンしてるんだい? そろそろデレないの?
冗談でも言うんじゃねぇ。
いいか? 俺はアイツの事を本気で嫌ってる。それ以上でもそれ以下でもねぇ。てかもういいだろこの話! さっさと終わらせるぞ。
素直じゃないな〜。まぁいいや、では本題に行こう! コレが沢渡君のプロフィールだ!
デデンッ!!
名前 沢渡紫苑 誕生日 2月14日
年齢 22歳(初登場時) 血液型 A型
身長 162cm 体重 58kg
好きな食べ物 魚介刺身
嫌いな食べ物 アボカド
親友 荒谷和真? 苦手な人 和泉心陽(食い気味)
異能力 簡易魔術、眷属使役・ティンダロスの猟犬
好きなこと 猫カフェ
嫌いなこと 和泉心陽と同行
ここだけの話
かなりの猫好きで休日は猫カフェに入り浸ったり猫のグッズを集めたりしている。本人は猫を飼いたいと思っているそうだが仕事柄生き物を飼うことは難しくヤキモキしている。
任務中も時偶野良猫に気を取られる事もあるそうで彼の失敗の全てに猫が関与している。
ちなみに本心では和泉心陽を嫌っていない。
……おい、これはどういうことだ?
君、意外と猫好きなんだね? 私生活でも猫尽くしってカワイイじゃん♪ でも猫好きなのに仕事では犬を飼ってるのってもどかしいんじゃない?
……それもそうだがそれじゃねぇ、最後の一文だ。
俺は和泉の野郎が大っ嫌いだっつってんだよ!
何が本心では嫌ってないだ? 適当なこと言ってんじゃねぇ!
いやでもこれは君のキャラ設定だし……
メタいんだよ! やめろ! ってかそれじゃ逃れられないみたいじゃねぇかよ!
まぁ実際そうなんだよ。
君がツンデレたる所以じゃない? とりあえず君がデレるところを楽しみに待ってるよ♪ じゃか今日はこのへんで!
あ! おい待て! 話はまだ終わってねぇぞ!
じゃあ皆! また次回!!




