「遺産編:ショートストーリー集4」
★8「湯煙雑談:女性側」
賑わっていたはずの女風呂。しかし、とあることが切っ掛けでその場は静まり返っていた。
話題で地雷を踏んだか。気まずい状況に陥ったのか。否。そもそも状況の全てが一変してしまっていたせいだ。
湯に浸っているのは人に似た形をした者たち。獣の様で、精霊の様で、更には淫魔の様で。
いや、正にその通りだった。その場には3体の悪魔がいた。
メフィストフェレス。ルサルカ。リリン。彼女たちはそれぞれ距離をとり、そのまま静かに居座っていた。
「……なんだ。先ほどと違い花がない様子よのぉ」
最初に口を開いたのはメフィストフェレスだ。この領域は彼女のもの。彼女が望めば熱燗も置かれ、当たり前の様に堪能している。
文句を言われるも、会話を楽しむ形になれないのはリリンとルサルカだ。メフィストフェレスの前ではリリンもおとなしくしてしまい、会話というモノが楽しめずにいる。そしてルサルカも。人見知りな彼女が会話など上手くできるわけもなく、1人水風呂にへと逃げ込み警戒の目で顔をひょっこりと出していた。
この場にエリーがいれば、まだ会話を繋ぐことができただろう。だが、エリーはのぼせ寸前だったため先に温泉を出て涼んでいた。そのため、今女湯にいるのはこの悪魔たちだけとなる。
気まずさもある。まるで苦手な動物としばらく檻の中で過ごす気分だ。だが、そう感じているのはリリンとルサルカのみである。メフィストフェレスは普段通り、そして彼女から話を持ちかけ始めた。
「リリン」
「ヒピッ!? な、何かな~、メフィ姉~?」
ビクリ、と肩を跳ね上がらせてから、リリンは青ざめた顔で苦笑をどうにか保ちつつ応答。
「何故いつまでもらしくなく黙っている?
暇なら酌でもしないか」
お猪口を指先でつまみ、強調するように揺らす。その時、リリンは本音か不満に「ええ!?」声をあげてしまう。
「なんだ、嫌か……?」
当然だが聞こえてしまったことに、リリンは口を手で塞ぎ「やば……っ」と反省。
「い……嫌……というか。リリンはそういうの慣れてないな~と思って。
ほら! 初体験とかって自身失くしちゃうのとかあるじゃん。
そんな感じだから。べつにメフィ姉の近くが怖いとかじゃないからっ」
リリンは少し前にメフィストフェレスに怒られたばかりだ。そのため、すぐにはなかなか近づけない。
まだ怒っているのでは。そう思うだけど温泉から飛び出して逃げてしまいそうだ。
しかし、リリンの言い訳もむなしく。
「何を言う? 相手に奉仕し惑わすのも淫魔の所業であろうに。
酒を注ぐなど初歩的なものだろう? なんなら飼い猫の様に可愛がって傍にいさせてやろうかぁ?」
これは淫魔も顔負けな妖艶の笑み。リリンが色気で圧倒されてしまい言い逃れもできそうにない。
確かに、そういった行動で対象を惑わすのは淫魔の行動としては常識の範囲内。しかし、だからと言って誰彼構わずやることでもなく、今はその時ではないというだけ。
それでも機嫌を損ねるのは後が怖い。
結局、リリンは諦めてメフィストフェレスにへと酌を入れる。
「うむ。相変わらず憂い奴よのぉ。下劣な言動がなければ。
淫魔とはいえ声も容姿も良いのだから、こういった身分でなければ妾の屋敷で飼いたいのになぁ」
「ぴぇ~~……。
さすがにそれはリリンも怒られるから困るぅ……」
リリンもまた、メフィストフェレスの欲対象にある。だが、それが簡単に許されないのもある。
物ではなく本人対象というのは、種族にも関与してくるからだ。
リリンは五番席魔王ことロードの属だ。夜の王の配下は王に集めた精気を届ける役目があり、リリンも一応その役割がある。大悪魔ということから多めには見られているのか、彼女は自由奔放といる。だが、誰かのものになるという事は王の配下を外れる事となるため、容易にそういった関係にはなれない。
更に現状は魔装具の一部となっているため、ずっと表に出る事もできない。
メフィストフェレスは残念と呟くも、リリンはこういった現状があるだけで気を許せずにいる。
「ところで。何故ルサルカはこちらに来ぬのだ?
同じ悪魔。少しは語り合わんか」
遅れてルサルカを手招きで呼ぶ。が、ルサルカはぷいっとそっぽを向いて断る。
「つれないのぉ。何がそこまで不満というのか……?」
「ぷい……。ルサは熱いのよりも、ひんやりした方が好きなのデス。
それに…………」
蒼い瞳が、じーーーーっと2人を凝視する。
「無駄に色々デカい奴らからは距離を置きたい……デス」
ルサルカが敵視しているかのように、水面に浮かぶたわわなものを睨む。柔らかそうで湯に浮かんでいる実り。対してルサルカにはそういったものがない。子供の見た目なルサルカにとって、その柔らかなものはどうやら嫌悪対象になっている様子。
視線に気付けば、メフィストフェレスは鼻で笑い、腕を寄せてそれを持ち上げる。
「愉快よのぉ。そんなに羨ましく映るとは」
「う、羨ましく、ねー、デス!
流すデスよ!!」
「ほほっ。此処は妾の空間という事を忘れてもらっては困る。
童の意志と妾の意志。どちらが優先されるかなど明白であろうにのぉ。
なんなら力試しでもするかのぉ? その程度なら付き合うぞ?」
「ぐぬぅ……っ。この獣女も嫌い、デスッ」
「それに、胸など肩がこって仕方のないもの。
分けれるなら分け与えたいものよ。ほほっ」
「んぎぃ~~っ」
ルサルカは顔を水風呂の中に引っ込め、それ以降は顔を出さなくなった。よほどメフィストフェレスの挑発が効いたのだろう。暴れない分懸命ではあるが、かわいそうにとリリンは同情してしまう。
「相変わらずやる事も言葉も強いね……メフィ姉」
「そんなつもりはないのだがなぁ。
契約とはいえ、しばしの退屈しのぎ。楽しまずしてなんとする」
「……それ言っていいなら、リリンもニーくんたちと楽しみたいんだけど」
「ならん♪」
「ですよね~……」
★9「湯煙雑談:男性側」
「なんつーか。時々思う事があるんだよな。
男女の壁ってなんであんだろうな?」
ふと。ニーズヘッグが男湯と女湯を遮る壁を見て呟く。
すかさず答えたのはフレズベルグだ。
「お前のような奴がいるからではないか……」
「ウチの友人Aは何を根拠にそんなことを言うのやら」
「普段のお前を見て言っているのだがな……」
「だって地元の火山風呂は特にそういうのなかったからな~。
常時混浴状態。まあ、一緒になりたくねーのはいるけど」
「そこまで言って選り好みするのだからたちが悪いな、愚か者」
悪気があるわけでもない。やましい気持ちがあるわけでもない。ただニーズヘッグは思った事を言っているだけであり、嘘を言っていない。普通に疑問を抱いているだけにすぎない。
だが、そこは一応大人なのだからといさめておきたいのがフレズベルグだ。
単純な疑問よりも、少しは自分の頭で考えて物事を発してほしい。異性の壁など、どうしてあるのかなど。一般的に予想がつくというのに。
フレズベルグの言い分にニーズヘッグもようやく話題を変える。
「にしても、フレちゃん似合ってる~。
か~わい♪」
「可愛い言うな……」
ニーズヘッグが指摘したのはフレズベルグの髪型だ。挑発を一つにまとめ、普段とはまた違う印象を与えている。際立つ白い肌と、女性顔負けな美しい顔。普段隠れている首筋など。本人はそんな気はないのに男でありながら女性並みの色気が出てしまう。これも美しさを象徴する七番席の属だからこそである。傍から見れば、此処に1人女性が紛れているような構図だ。
「フレちゃん昔っから可愛いからさ~。
一緒に風呂入るの何年ぶりだ? 最初は俺らまだガキだったからさ~。
大人になってからあんま一緒に入らなくもなったし、俺寂しかったー」
「未だにそんな事を言うとは、本当に中身がガキのままだな。
……まあ、今回はこの湯の居心地の良さに免じて許すがな」
「うわ~、心広ーい……。
……でも、明らかに非対称的なのは、やっぱ目立つよな~」
金の瞳が、徐々にフレズベルグから逸れ、周辺にへと向く。
ニーズヘッグ、フレズベルグがいるのだ。当然他の悪魔たちもいる。
だが、カルトに関しては現在その場にはいなかった。交代前にネアがカルトにヘイオスと暴れた部屋の片づけを押し付けたからだ。その事に関しては、この時だけネアに感謝したくもなった。この大悪魔たちの場でアレがどんな茶々を入れてくるか。考えただけで後先が不安になる。
ニーズヘッグが友人の次に見たのが、美しい彼とは正反対なみすぼらしい山羊の骨である。パッと見て、何か汚いものが浮いている。というのが第一印象にある。あちらは普段と変わらず、黒い布切れを纏ったままだ。
「ニーズヘッグ。なんだあの汚らわしい物体は……」
「そういえば、リリンから逃げててちゃんと会ってなかったな。
アレが【冥界使者のバフォメット】だ。
気を付けろぉ、なぶられる事を喜ぶ変態野郎だ」
「お前に言われるのだから相当なのだな……」
「それはもうひっでードM山羊でさ~。
……あと俺を比較に出すのやめてもらえますー?
泣きますよー??」
話題がバフォメットにへと向かうと、のほほんと湯に浸っていた本人がこちらにへと振り向く。
「おや。ニーズヘッグ殿にフレズベルグ殿。なにか我に用ですかな?」
「ねーよ。お前のことフレズベルグが知らねーから説明してただけだ。
小汚いドM山羊だってな……」
「なんと!? ニーズヘッグ殿は我をそんな目で見ておられたのですか!?
……~っ。できればもっと酷く言ってもらってもよいのですぞ!」
フレズベルグの隣に寄り添い、「な?」と言ってやる。これは紛れもないと、フレズベルグがバフォメットを見る目が更に悪化してしまった。
その視線は汚れた物体に留まらず、正にゴミでも見るかのような目だ。そんな痛い視線に、バフォメットは「はわわ」と興奮気味でもある。
「魔女も物好きだな。あんな悪魔を選ぶのだから……」
「俺もそう思ったよ。でもつえーなら、……なあ」
実力はあるのだろう。実際、彼の空間を操作する能力にはニーズヘッグもてこずっていた。それを考えれば見た目や思考などは二の次でしかない。第一に求められたのは、その強さや能力なのだから。
そういえば。と、ニーズヘッグは思い出したようにもう1体を探す。
「あ。そうだフレズベルグ。そこの山羊と違って後はマシな奴だから心配すんな!
【粉砕鬼のサイクロプス】で、結構面白い奴でさ~……。
えーーーっと……?」
ニーズヘッグはサイクロプスの姿を探す。しかし、同じ湯にいるはずなのにその姿が見当たらない。広くはあるが、図体の大きさから早々見失うはずはない。視界を彷徨わせていると、ようやくその姿を見つける。
ただし、もはや顔のほとんどが湯に沈んでいる状態でだ。
「おいーーー!?
そのまんま寝たら息できなくなって死ぬぞ!
起きろサイちゃーーーーん!!!」
ガタイの良い身を必死に揺さぶり、ニーズヘッグがサイクロプスを起こそうとした。それでも中々目を覚まそうとしないのがサイクロプスだ。彼の就寝時間は長く、起きているのも少しの間。ニーズヘッグの呼び声で、渋々目をこすりながら起きては執筆での会話をゆったりと行う。
『……眠い;つД`)』
「あー、うん。起こして悪かったな。
でもあのままだと溺れちまうぞ。さすがにそれは危ない……」
「……ニーズヘッグが常識的に心配しているとはな」
「それ貶してるよなフレちゃん。
とりあえず、コイツがサイクロプスだ。声だせねーからこういう喋り方だが、俺は面白れぇと思う!」
『初めまして、サイクロプスです。
よろしく( `・∀・´)ノ』
顔は未だに眠気を帯び起きているかも危うい。
だが言葉はとても親密的である。
「……まあ、変わった奴……ではあるか。
やけに親しそうだなニーズヘッグ」
「いや~、この前ミヤビで色々あってな~。
仲良くなった!」
それはもう、新しい友人を見つけたと言わんばかりの、純粋な子供の眼差しだった。
その間。フレズベルグは沈黙してしまう。変わった接し方ではあるが、とても仲の良い様子を見せるニーズヘッグ。その様子に、フレズベルグは自分からニーズヘッグに身を寄せ、纏う皮衣を摘まんだ。
「ん? どったのフレちゃん」
「……なんでも、ない」
「え~、ひょっとしてフレちゃん焼きもち焼いちゃった~?
なんだよ可愛いな~ウチの友人Aはぁ、あだだだだだだッ!!!!」
その時、フレズベルグがニーズヘッグの顔面を握りだす。
聞こえてくる不快音。それは頭部を潰す勢いにまであり、ニーズヘッグの悲鳴がこだまする。
「フ、フレズベルグ殿! 次は我にもお願いします!!」
「うるせードM山羊!!
サイちゃん、フレズベルグを止めてくれないか!?」
『むにゃむにゃ(˘ω˘)』
「おいーーーーー!!!?」
そうしてしばらくの間、フレズベルグの機嫌が直るまで時間がかかった。
『やくまがⅡ 次回予告』
エリー
「ついに2期も3部終了ですね。皆さん仲良くなれてよかったです」
クロト
「まあ、これ以上無駄なことに時間を使わなくてよくなったが、仲良くは余計だな。
俺はあの戦犯眼鏡を一生許さねー」
エリー
「確かにヘイオスさんは色々間違えちゃいましたが、もうしないのでいいと思います。
でも色々また考え直さないとですね。
【聖杯】は私の中にあるとのことで、それも探さなくてよくなりましたし。
また別の方法で【呪い】をうまく解除できるようにしないといけませんし。
これからどうしましょうかね?」
クロト
「簡単に言えばそうだな。確かに、また一から出直しか。
どう動くべきか……」
エリー
「ウィルさんなら何か知ってられますかね?
一応長生きさんなので、なにか知っておられるかもしれません」
クロト
「またあそこに戻るのか。言葉の通り一から出直しだな。
最初に【呪い】解除の手掛かりがあったのもあそこだったか」
エリー
「そうですね。ユーロさんに場所を教えてもらったんですよね」
クロト
「もうアイツいなくても行けれるがな」
エリー
「何はともあれ、無事に皆さんとの問題も解決できましたし、これで安心して探す事ができますね」
クロト
「他に邪魔が入らなければいいがな」
エリー
「一難去ってまた一難ってありますもんね」
クロト
「やめろ。フラグでしかない」
エリー
「次回。【厄災の姫と魔銃使いⅡ】第四部 一章「悪魔狩り」。
新章開幕早々不安なタイトルです……」
クロト
「面倒になりそうなのは確かか……」
エリー
「とりあえず新章もがんばりましょう!」




