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厄災の姫と魔銃使いⅡ  作者: 星華 彩二魔
第三部 六章「星の聖杯」
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「遺産編:ショートストーリー集1」

★1「ただいま説教中」


『さて。貴方たちに残ってもらったのは言うまでもないわね?』


 必要な話を終え、しばしは宿舎で休息や今後の予定などをとることに。

 だが、未だ魔女は引っ込まずにとある人物を大広間に残し、姿見の前に留める。

 大広間に残っているのはエリーとクロト。そして、鏡の前にはヘイオスとカルトが呼び出されていた。

 魔女の様子は姿を見せた時に逆戻り。とても不機嫌といた。


「お、おっしゃりたいことはわかっております。

 全て私の不手際なので……。

 本当に申し訳ありません」


 ヘイオスは鏡の前で正座。深く頭を下げてもいた。

 あの石頭と思えたヘイオスも、やはり魔女には頭が上がらないのだろう。


『そうね。貴方が私のためと思って色々してくれたのよね。

 それはいいの。そういう行き違いもあるからいいわ。


 でもね。そこの馬鹿を解放した事は一番の間違いよ』


「魔女様に馬鹿と呼ばれるのも久しぶりですねぇ。

 いつものようにバカルトと呼んでいただいても構わないのですよ魔女様♪」


『ウザいっ』


 魔女は椅子に腰かけたまま、勢いよく手前のテーブルを蹴り飛ばす。

 それに対し、ビクリとヘイオスが肩を跳ね上がらせ背筋を伸ばしてしまった。


『反省の色もなにもないわね。相変わらずそういうところは嫌いよカルト。

 できることならもう一度仮死状態で封じ込めておきたい気分だわッ』


「それはつまり私と遊んでいただけるという事ですか魔女様。

 ですがどうみてもそれはできそうにありませんねぇ~。とても残念です。

 あとでヘイオスくん、もう一度お付き合いいただけます?」


「お前はまず反省をしろっ」


『ヘイオスもカルトの扱いには気を付けなさいと忠告はしたはずよ?

 これが野放しになるのは一番危険なんだから』


「……申し訳ありません。

 焦っていたとはいえ、この馬鹿を信用しすぎていたようで」


『信用する相手を間違えないことね。

 とりあえずカルト。これ以上私の愛おしい子たちに手を出すんじゃないわよ。

 ただでさえ嫌いなのに、それを通り越して二度と会話しないし、貴方に対して無関心になるんだから』


「そんな事で魔女様が私を気にかけないなんてあんまりですよ!」


『私は貴方の理解のなさにガッカリよ……』


 どうも普段の魔女とは違う会話だ。

 話ではカルトも契約者の一員のようなもので魔女側の関係者。にも関わらず、カルトに対する魔女の反応はとても冷めている。

 鏡の映る範囲。後方で彼女の説教が終わるのを待つエリーとクロトはその様子を眺めるのみ。時折動けないエリーのために水を持ってくるなり、こちらはこちらで暇をつぶす事とした。


「なんつーか。眼鏡が魔女に説教されてるのはマジでざまーなんだが」


「なんと言いますか、不思議な感じですね。

 ヘイオスさんって、ああいう姿もあるんですね」


 普段は冷静としているヘイオスだが、魔女の前ではどうもたじたじで、説教の場となれば石頭も容易く頭を下げる。確かに予想もしていなかった姿だ。上から目線をくらっていたクロトもこれには鼻で笑ってしまう。

 

「あれか。犬みてーなもんか。

 主人の前ではへこへこしてる感じ」


「あんまりそういう事言うのもどうかと……」


『とにかく。次私の意に反することをしたらわかってるわねカルト?』


「わかってますとも魔女様。

 魔女様のお言葉は本当に絶対ですので、ヘイオスくんと違って~♪」


「その不在の間は私の言う事を聞けと言われているだろうが貴様っ」


「しょうがないですね~。

 せめて6割は聞いてあげますよ~。魔女様のお言葉もありますし、今後はひかえます」


「全部聞け!!」


 乱暴にヘイオスはカルトの胸倉を掴み揺さぶる。その間もカルトはとても楽しそうに笑っていた。

 あれだ。典型的な構ってもらおうとする性格がカルトからは嫌というほど伝わってくる。そのせいでヘイオスが胃を痛めている様も含め。

 できるだけカルトとは関わらないようにしよう。そうクロトもエリーもこの時身を遠ざける事を心掛けた。





★2「仲直りの印に……」


「そういえばルゥ殿。仕事の方は大丈夫なのでしょうか?

 あまり長居もできないかと……」


「う~ん、とりあえずマネちゃんにはヘイちゃんたちが来たあと少しお休みするーって伝えたし。

 3日くらいは平気かな。その後は溜まった分忙しいと思うけど~、ははは……」


 念には念を。ルゥテシアもある程度の準備をしてから飛び出しては来ている。あと1日ほど余裕はあると、しばし離れ離れになっていたリキにルゥテシアはべったりだ。

 ゆったりとくつろげる宿舎。その中をリキと探索しつつ、ミヤビでの出来事などを話し歩いてた。

 ……が。


「あっ。御二人さんみーっけ♪」


 と。通路の突き当りの角から顔を出し2人を指差すカルトが現れる。

 それを目の当たりにした途端、ルゥテシアはリキの手を掴み全速力で逆走を開始。カルトから遠ざかって行った。

 理由は単純。2人にとってカルトは苦手と恐怖の対象であるからだ。

 顔を見るなり、カルトの事が脳裏をよぎるたびに死の恐怖が蘇ってくる思い。ルゥテシアが逃げ出すのも無理はなかった。


「マジでムカつく! なんであんな普通に話しかけてくるかな!?」


「ルゥ殿、いつもよりも反応速度が速いですね」


「え、えーっと、うん! ありがと!!」


「そんな逃げないでくださいよ、つれませんね~」


「ギャアアアアアアアアアアアアア!!!?」


 一直線に逃げ、次の突き当りには既にカルトがいた。ルゥテシアは急ブレーキをかけ、バッと後退。ある一定の距離をとりカルトに警戒心を向けた。

 

「なな、なによ!? なんか用でもあるわけコンチクショー!?」


「ルゥ殿、落ち着きましょう。

 自分もカルト殿からは距離を置きたい気持ちなので、用があるなら手短にお願いしたいです」


 逃げるのは不可能。ならせめて要件を終えてとっとと何処かへ行っていただきたい。と、穏便な方法でこの場を治めようとする。


「いやですね。先ほど魔女様にさんざんありがたな御叱りをいただきまして。

 この期に御二人ともちゃんと仲良くなっておこうと思いまして」


「……それってギャグかなんか?」

 

 殺されかけた2人にとって、それはどうしても受け入れにくいものだ。カルトがよくても2人は違う。

 

「こっちは殺されかけたんだけどー!?

 よくそんな簡単に切り替えられるね、あり得ないんだけどー!?」


「……自分も。傷が蘇ってくる気分です」


「リキくん超可哀想!! とにかく、そんな簡単には無理なんだからね!」


 当然の反応だ。

 だがカルトは2人の言葉など聞く耳もたずの様子。


「というわけで、色々考えたんですけどー」


「話を聞けって言ってんだけど!?」


「とりあえず、こういうのはいかがでしょうかー?」


 カルトが何かを取り出した。それに2人は目を見開き身構える。

 何を取り出したのか。また武器か、それとも別の何かか。

 ……が。突如嗅覚が反応し、甘い香りが漂ってきたことに、両者の思考は停止してしまう。


 カルトが取り出したのは、皿に乗せられたエッグタルトだ。


 いったい何処から取り出したのか。そんな事は頭になかった。

 香ばしく焼き上げられたタルト生地と、中の甘い卵とクリームが絶妙に合わさった香り。まるでこの場がスイーツ店と勘違いさせるかの様だ。思わず口内が潤ってしまう。それは本能的に、脳が刺激され、食欲がそそられたという証拠。

 直後。2人はハッ! として正気を取り戻す。


「な、なによそれ!?」


「おそらく甘い菓子の類だと思うのですが……」


「そのまさかですよ~。厨房もあったので簡単なものですが作ってきました♪」


 意外な言葉。思わず食欲をそそられたそのスイーツ。それを目の前の人物が作ったという事実。

 何度もタルトとカルト交互に見てしまう。


「う……嘘でしょ!?

 どう考えたって職人のそれじゃん!」


「毎回なんで皆さんは私が作ったと知るたびにそんな疑いの目で見ちゃうんでしょうね~。

 魔女様もヘイオスくんもですけど……」


 一歩。カルトが前へ出るたびに、ルゥテシアとリキは二歩下がる。それが何度も続いた。

 にじり寄るカルトから逃げる様にする2人。


「……おや? ひょっとしてお好みではありませんか?」


「いや、怖い怖い!!

 例え本人が作ってもそれで、はいいただきます、ってならないから!!」


「自分は特に甘味に関して文句を言う訳ではありませんが。

 この場合、提供者に問題があると言うのが筋かと」


「といいますと?」


「美味しそうだけどいらない!!」

「大変申し訳ありません」


 2人は誘惑を堪えつつ、それでもわずかに申し訳なさもあり、断りを入れてからまた一気に逃げ出していった。

 



「と。いう事がありまして。ダメでした~」


「……だろうな」

 

「もー。ヘイオスくんが特技を活かせと言ったのに~。

 全然ダメですね」


「ああ。お前だからだろうな……」


 カルトがルゥテシアたちに接近したのには理由があった。それはカルトが2人に危害を加えたからだ。そのため何かしらする必要があるのでは、という話題が持ち上がった。

 当然2人はカルトを見れば警戒一択。どうにか打解けないかと悩んだ末、ヘイオスが提案したのはカルトの特技の一つだ。それは平然と殺戮をするカルトからは想像もつかないものであり、料理というものだ。ヘイオスの経験上、その幅は広く、例え山籠もりだろうとカルトがいれば野宿の食事も一変してしまうというもの。最悪極寒の地でも問題ないとすら印象を抱かせている。

 そこだけは本当にヘイオスからも疑問を抱きたくなるほどの褒めれる部分である。魔女からも不快ながら認められている長所だ。

 しかし、カルトとしては特技というより、ただできるというだけのものだけらしく。長所とも思ってはいない。

 結果、それは受け入れられなかった。

 ヘイオスの提案ミスではない。カルトがするからダメだったのだ。


「というわけでヘイオスくん。

 こちらいります? わりとヘイオスくん好みの甘さでもあります」


「……食べ物に罪はないからな」


 仕方ない。と、ヘイオスはまだ温もりのあるタルトを受け取る。

 

「美味しいですか?」


「……いつも思うが。どうしてお前みたいなのがこんな美味いのをつくれるんだか」


 それはもう。世界の謎にも近いものだった。




★3「呼び方」


「うーーん。角の……人? 歌の人。水の人。そんで、眼鏡の人?」


 時折、特に同じ話題をするわけもなくとも、数人が同じ場所に集う事はある。その際、イロハは1人1人を遠目で指差しつつ、顔を覚えていく。

 

「何やってんだお前は……」

 

 ポスッ。と、イロハの頭にクロトの手刀が落ちる。

 

「んー? 色々人が増えたから、覚えてる途中?」


「毎回思うが、名前で呼ぼうとはいないよな……お前」


 イロハは人を呼びやすいように別名で覚える。

 クロトは「先輩」。エリーは「姫ちゃん」。ネアは「お姉さん」。魔女は「マスター」。

 まともに名を呼ぶなど、契約しているフレズベルグくらいだ。それ以外でイロハが他者の名を正確に呼んだことは、一度だってないと断言できる。

 これは近々教育もせねばならない。そうクロトはどうしたもんかとしかめっ面で考えてしまう。

 イロハは教育というモノが一般からかけ離れている。

 字が読めない。簡単な物言いでないと通じない。物事を知らなさすぎる。一般常識がなっていない。

 これだけで人の世にいさせるのは困難だ。それが今回増えた者たちに知られでもすれば、「先輩」という呼び名であるクロト自身に責任の目が向く事となる。それは避けたい。絶対に自分のせいではないからだ。そこは強く抗議したくもなる。

 

「……イロハ。お前せめてまともな知識はつけろ。

 俺にいろんなものが被弾しそうだ」


「ん? 何言ってるの先輩?」


「俺の沽券に関わることだ」


 言葉の意味がわからず、イロハはきょとんとして首を傾ける。


「なになにクロちゃん。なんか楽しいお話~?」

 

 寄って来たのはルゥテシアだ。ついでにリキも付き添っている。


「べつになんでもねーよ」


「あ。歌の人だー。それと、この前の角の人」


 イロハと初対面なルゥテシアは首を傾げる。隣のリキも以前面識はあるが、変わった呼び名に同じ動きをとる。

 それもそうだろう。いきなりそんな呼ばれ方されれば誰もが戸惑う。


「変わった呼び方するね。確か……え~っと?」


「イロハ」


「じゃあイロちゃんだ~♪ 

 アタシはルゥテシア。気軽にルゥって呼んでもいいんだよ」


 普段は他者を気安く寄せ付けないルゥテシアだが、やはりこちらの知人となってくると話は変わってくる。友好的に接する彼女はとても積極的な一面もあった。

 イロハも初対面なりだと人馴れしてないこともあり、いつもよりはテンションも低め。だが特にルゥテシアやリキに悪い印象はなく、普通に話せてはいる。


「うーん、歌の人じゃだめぇ?

 姫ちゃんが言ってた。歌う? のが上手な……人?」


「べつに間違ってないけど……。

 変わった子だねクロちゃん」


「それに関しては俺に言うな、あとちゃん付けをやめろ」


 視線を向けられても困る。


「そっちの角の人……子? は知ってる。

 前に襲ってきた子だ」


「確かに、そうですね。以前は申し訳ありませんでした」


「お前も一々謝る必要ねーぞ。

 なんだよイロハ。珍しく根に持ってるのか?」


「ううん。それくらいしか知らないだけ」


「印象の浅さがもうすれ違った程度だな……」


 元々イロハは多くの他者と関わってこなかった人間だ。覚えが悪いのもそのせいだろう。

 

「相変わらず覚えが悪いな……」


「うーん。……あ! そうだ先輩!!

 ボクお姉さんと一緒に街にいたんだけどね。色々手伝いしてたんだよ。偉い?」


 ――あーそうかそうか。えらいえらい。


 と。クロトは心の中で適当に褒めておく。

 予想として、その間にネアにいいように扱われていたのだろう。言われてやる作業だ。ネアの言う事に逆らえないため、色々押し付けられていたに違いない。余裕でそういう光景は想像できた。


「それとねー。本のお姉さんとね、一緒に勉強もしてるんだよ。

 この前は字を読む練習もしたー!」


「……は? お前が?」


「うん!」


 イロハは懐から少し傷んでいるメモ帳を取り出す。

 そこには簡単な文字の羅列があり、イロハはそれを不器用な発音で呼んでいく。


「これはー、「いえ」。それに「とり」、「ねこ」「いぬ」……」


 あってる。発音は間違っていようが、確かにイロハが文字を読めていた。

 まずはよく見慣れた物や生き物。そこから徐々に覚えていくというものだ。こういった教えは、確かに効率的でもある。教える者は上手いものだ。

 メモ帳はまだ最近のものだろうが、綻びが早めにでているのは、それだけイロハがそれを頻繁に使っている事となる。

 イロハが自分から教えに向き合って取り組んでいる姿は、また意外なものだ。

 少し、感心していたが、クロトはハッ我に帰る。

 この場にいたのはクロトだけではない。ルゥテシアにリキもその様子を見ていた。

 イロハの知能の無さが露呈してしまった。呆然とする2人も、この時点でイロハは字も読めない人間なのだと知ってしまう。

 ……が。ルゥテシアはそんなイロハの頭を撫でてやる。


「そっかー。イロちゃん偉いね~」


「覚えようとするのはとても良いことです。

 自分もこちらの文化では知らない事がありますので、尊敬します」


 次にこちらに目線が傾くかと思いきや、何かしらを察した様子でルゥテシアとリキはイロハを褒める。

 これはあれだ。おそらくイロハは過去に深い事情があるのだろうと、それを察してあえて口に出さずにいたのだ。今思えば、魔女に選ばれた契約者はどれも過去に何かしらを抱えている。同族に近いなにかだ。イロハは特に社会に馴染めていないことから、「優しくしないといけない」という精神が刺激でもされたらしく。

 クロトとしては、イロハの周囲に新たな過保護な者が増えたという結果に終わる。

 そんな時、集団を見かけるなりオリガが寄って来た。


「あ! 不死身くんと不死身くん2号だ~」


 ――あー、そうだ。コイツもイロハと同じタイプだった……。


 イロハほどではないが、オリガもまた呼び方に特徴がある。その中で悪い意味に群を抜いているのが、クロトとイロハの呼び方だ。露骨に不死であることを平然と公言し、更には2人いることに対してイロハに2号と付け加えてくる。

 イロハの幅少ない名称と良い勝負だ。褒められた部分ではない。こちらも訂正を求めたい。

 途端にイロハなど、あからさまに不機嫌な表情である。


「もー、番号で呼ぶのやだって言ってるのにー!

 ボクそれ嫌いー!」


 ――俺も不愉快だもっと言ってやれ。


「え~、そうかなぁ?

 お揃いでいいじゃん」


「うーん、でもやだー」


 ――一瞬なんで躊躇ったんだよ。全力で拒否しろよ。


「お前も俺を「不死身」と気安く呼ぶな。

 そういえばあのヘラヘラした奴も不死だったな。

 なんだアイツは3号か? アッ?」


 クロト、イロハ。そしてカルトも不死であるためその名は確かに通ってしまう。

 だが……。


「え? カルちーはカルちーだけど?」


 ――…………ちー?????


 何故そうなったと、不快を通り越して疑問でしかない。

 

「不死身くん。不死身くん2号。ルゥちん、リキぽん、エリたん…………そんで、カルちー」


「……」


「そこまで言うなら~、う~~~ん。

 ――「クロとん」っていうのが合うかな? どう?」


「………………いや、今まで通りが……一番マシだな」


 先に妥協したのはクロトだった。本人的に「不死身くん」か「クロとん」。選ぶなら前者だったからだ。

 イロハはその後も反発し続けていたが、クロトは今後この話題に触れないようにした。


 

 

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