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厄災の姫と魔銃使いⅡ  作者: 星華 彩二魔
第三部 五章「最悪の怪物」
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「ハズレの魔剣士」

 リキとエリー。2人が別行動を取ってから、クロトとヘイオスは互いに睨み合う。

 クロトとしてはヘイオスとオリガには敗北の烙印を刻まれ、それ以降からは互いが警戒し続けてきた。その一番の理由であるのはエリーという、未知数のある魔女の存在だ。それが取り払われれ、ヘイオスもクロトたちを野放しにし続けておけず。リキやルゥテシアの勝手な行動も相俟ってか、2人はここぞとばかりに待っていた様子で武器を相手にへと向けていた。

 いつかは再びこうなると、クロトもわかっていた。その際にどうやって勝つかよりも、あの時の屈辱を晴らしてやろうという気でいた。

 当時負けた理由としては、ニーズヘッグの力を事前にルサルカで激減させられていたこと。それは大きな敗因でもある。この場にオリガとルサルカはいない。万全の状態でヘイオスに挑めるという事だ。

 それでも、ヘイオスの力が厄介な事に変わりはない。

 剣でありながら鞭のように伸びる蛇腹剣。銃ほどではないが、軌道もバフォメットの空間操作を使う事で変化し、動きが読みづらい。これを踏まえ、何度もどう対処しようかと暇があっては考えていた。

 結果、想像よりも実戦で見つける事で落ち付いてしまい、どうしたものかという思考が脳裏を何度かよぎってします。

 今も尚、それは起きていた。

 そんな事などお構いなしに、ヘイオスは剣を振るう。

 大地を抉り、金属音を響かせながら曲線を描き迫ってくる。クロトは地を駆け、銃口をヘイオスに向け何度も発砲を繰り返す。しかし、剣のは先はクロトを追いつつ、その中間ではヘイオスを銃弾から守る盾としてあった。刃であろうと、それを繋ぐ鎖だろうと、魔剣はその全てが魔女によって作られた魔武器だ。容易く銃弾を受け止める。

 防御しつつ、刃はクロト追い、時には不規則な動きまでもする。クロトがそれらを必死にかわすのは刻まれる痛みだけでなく、断続的な傷という、傷を癒す不死の能力を低下させることだ。既にそれを経験したクロトにとって、それはただの負傷ではない。自身を劣勢に追い込むものだ。


「くっそ……っ。相変わらず面倒な武器だなっ」


 クロトはただ逃げるだけではいられず、炎蛇の皮衣を顕現。襲う刃を退ける。

 弾かれた刃は一度ヘイオスの下にへと戻る。


「……なるほど。確かに厄介なものだな。オリガが適任なのも頷ける」


 ヘイオスも、炎蛇の皮衣という変幻自在なものを相手にせねばならん、とため息が出た。

 しかし、それは少しの間だけだ。

 

「――【抉れ。バフォメット】」


 声に応え、クロトの周辺空間が歪む。虚空には幾つもの穴が展開さ囲う。

 魔剣は伸び、一つの空間に入り込む。思わずクロトから汗が滲み出た。幾つもある空間の穴。それらに警戒の視線をちらつかせるも、どこからまた刃が出現するかはわからずにいた。

 クロトが最もヘイオスを厄介と見ているのはこれが原因だ。

 最初に出現したのは右。そして上。背後。

 魔銃や炎蛇の皮衣で応戦するも、次の瞬間、新たに空間の穴が出現。それはクロトと、それを守る皮衣の間。懐に入り込み、出現した刃はクロトの左肩をかすめた。

 

「……ッ!?」


「お前は私には勝てない。バフォメットにかかれば、そんな守りの隙間にも入り込む。

 今度こそ、その心臓を抉りだしてやる」


 次から次へと、穴は炎蛇の皮衣の盾を突破し、羽衣もクロトと穴の間に幾度も割って入るが、それもすぐには追いつかない。

 どれだけ守りを固めるも、その隙間に入り込まれれば盾は無意味となってしまう。加え、ニーズヘッグにはどの空間から刃が出てくるのかがわからずにいた。隙間なくすれば、それはクロトにとって逃げ場のない場所となり、それすら突破されれば袋の鼠だ。当てずっぽうだけでは、ただクロトの体力を消耗するのみ。

 

「マジでウザい! クソ蛇、怠けてんじゃねーぞ!!」


『こっちだって真面目にやってるっての!

 マジでイラついてるんで集中してもらえますか我が主ぃ!!』


「仲間割れとは滑稽だな魔銃使い。

 その程度でよく魔女様が認められたものだ……。

 認めたくはないが、魔女様の買い被りでしかない」


『マー―ージで眼鏡燃やすぞテメェ!!』


「うるさい!!」


 直後、ニーズヘッグは苛立ちながら歯ぎしりして堪える。焦燥に駆られているのはニーズヘッグだけではない。クロトも同様だった。

 だが、それで何かが解決できるとはとても思えない。

 冷静に頭を落ち着かせようと必死になる。


 ――落ち着け……。防戦一方だと負ける……っ。

 ――こういう時、短気なのも面倒だな。

 

 自身の短気にすら嫌悪を向ける。それとは無縁な者がいれば、そうなれればどれだけ楽に落ち着けるものか。

 結局逃げに徹してしまうクロトは、そんな敵わぬものを愚痴として呟く。

 そんな時、脳裏に浮かんだのは、正に短気とは無縁な存在だった。






『……お前、本当に怒らないよな……』


 クロトがそう言葉を向けた相手はリキだった。

 

『そうですね。よほどのことがなければ、怒るという事はありません』


 リキは気性は至って穏やかなものでしかない。怒号もなく、苛立つ様子すらも見受けられない。ミヤビにいる間は、何度もルキがリキに突っかかっては真逆に叫び散らかしていた。 

 それに対してリキは穏やかなまま。双子であるため慣れてもいるのだろうが、やり返したりすることもない。

 クロトから見て、リキは異常なまでの冷静で怒り知らずだ。

 

『それに、あまり感情的になりすぎては見失うものもありますからね。

 周囲がおろそかになると言いますか……。自分は目が見えない分、そこは乱さぬ様にしています』


『そう簡単にできるものか?』


『自分は慣れてますからね。頭の中を一時的に無にすると、嘘のように周りが澄んで感じられます』


 当時は首を傾げたものだ。

 人間にとって、一時的とはいえ頭の中を無にするというのは困難でしかない。

 リキは例えとして静闇 (せいあん)の間を出す。自身すら無に感じられる場所を。

 

『慣れればきっと何かしらで役立つかと……。

 そして、次に必要なものを選別し、自身を中心に物の気配を辿るのです』






 クロトの脚が、その時地を強く踏みしめ止まる。

 大きく息を吸い、それを吐き捨て、クロトは目をと出す。それは無防備を言われてもおかしくないほどだ。目で追う事もできない攻撃の中、クロトは視界を閉ざしその場に立ち尽くす。

 

「ようやく観念したか、魔銃使いっ」


『ええ!? ちょっとちょっと我が主ぃー!?

 案山子になるなんて聞いてませんけどーーー!?』


「黙ってろクソ蛇!

 次なんか言ったらぶっ殺す!!」


 ニーズヘッグは口に手を当て言いたい事をグッと堪える。脅されてと言うよりは、クロトがなんの考えもなく無防備でいるはずがないと、炎蛇も悟ったからだ。

 何か秘策がある。そう信じてニーズヘッグはもしものために周囲を警戒。守備にへと意識を集中させた。

 再度クロトは深呼吸を、苛立つ感情を少しでも落ち着かせる。

 

 ――焦るな。チャンスは一回だ。失敗は許されない……。


 焦燥。苛立ち。失敗への不安。それらがクロトの頭の中で渦巻く。クロトはついにそんな言い聞かせる心の声すらを薄め、徐々に無にへと意識を鎮めてゆく。

 これはクロトが静闇 (せいあん)の間を経験し、自身で瞑想する時と同じものだ。自身で精神を安定させる。

 それができたら、自身の周囲を無と捉える。音も気配も、五感が捉えるそれらを一時的に排除。


『――そして、次に必要なものを選別し、自身を中心に物の気配を辿るのです。

 クロト殿なら、できると思います』

 

 クロトは次に選別にへと切り替わる。

 必要なのは、何処から刃が襲ってくるか。

 視界に映る空間に捕らわれていてはその影を見失う。焦燥に駆られても見失う。

 一点にのみ集中。自身を中心に、一時の間に生み出した無の空間。そこに飛び込んでくる刃を探す。

 刃がどういうものか思い出す。形。速度。そして、視界を閉ざしている中で一番に存在を際立出せているのは、その音だ。伸ばす刃から発せられる鎖の音。無の境地に、その音は鮮明にクロトの耳に届く。

 

「――そこかぁッ!!!」


 クロトの目が、カッと見開く。咄嗟にクロトは身を捻り手を伸ばす。目の前には空間の穴。そこにへと手を伸ばし、腕を突っ込む。


「――ッ!?」


『はへっ!?』


 ヘイオスだけでなく、バフォメットも意外と驚きの声をあげる。

 クロトは徐々に腕を引き空間から何かを引きずりだした。傷だらけの手がそれでも離さずにいるのは、ヘイオスの魔剣。その刃だ。

 抵抗する様に、クロトの血肉を引きずりながら刃は退き戻ろうとするも、それを逃がすクロトではない。血を幾ら滴らせても強くそれを一気に引きずり出す。


「逃げんじゃ、ねぇええええッ!!!!」


 ずるり、と。引きずり出された長い刃。それをクロトは地に叩きつけ、踏みつける。

 これには炎蛇も思わず感動してしまう勢いで言葉がでない。


「馬鹿なっ。どうやって軌道を読んだ!?」


「やっと捕まえたぞ眼鏡野郎ッ。さて……」


 夜闇にクロトの眼光がぎらつく。さんざんヘイオスの魔剣には屈辱を味合わされてきた。それを晴らすなら今この時だと魔銃の銃口をヘイオスに向ける。


「こんな穴に通しまんまの剣なんだ、動きを止めてしまえばガラクタだよなぁ!!

 その眼鏡ぶち抜く!!」


「く……っ」


 確かに、ヘイオスの剣と空間操作による攻撃は脅威だ。しかし、今ヘイオスは剣を空間に通したままの状態。そのまま動きを止められてしまっている。空間一つ一つが別の次元を通っており、そのまま引き抜く事もできない。

 当然、これを好機と言わずしてなんと言おうか。

 クロトはトリガーを遠慮なく引き、ヘイオスにむけ発砲。それでもヘイオスは魔剣を振るう。剣の長さに余裕がまだあるのか、ヘイオスはうねる蛇腹の剣で重撃を何度も防ぐ。

 形勢は逆転。ヘイオスは防戦一方に徹し銃弾を弾き消す。

 徐々にヘイオスの表情から余裕が失われてゆく。眼鏡をつい上げ直してしまう癖すら忘れてしまうほどにだ。

 この状況も長くは続かない。そう見据えたが……。


「止むを得んッ。――バフォメット!」


 その言葉の後。突如蛇腹剣は刃同士を繋ぐ接続部を解除。バラバラになった刃は地に落ちると同時、周囲の空間の歪みを一時的に解除。次に落下した刃を全て回収する様に空間の歪が開き、そして閉じてゆく。当然、クロトの足元にあった刃も回収されてしまった。

 再度振るわれた剣には刃は全てあり、せっかく捕まえたものは完全に手持ちにへと戻ってしまっている。


「分解までしやがるのかよっ。面倒だな!」


『めんどくせーーー!! あの武器マジでめんどくさすぎだろ!!

 あの魔女の性悪な性格が滲み出てるってのーー!!!』


 結局攻撃は一度もヘイオスに直撃していないまま。好機の瞬間が終わりを告げてしまう。

 だが、なんの効果もなかったわけではない。焦った呼吸をヘイオスはどうにか整えている。人間である以上、ヘイオスにも体力と言うものが存在している。それを大きく消耗できたと考えれば、先ほどの好機も無意味ではない。

 

「一発も当たんなかったのは残念だが、ずいぶんな様子だな、おいっ」


「はぁ……。私はお前のような不死身ではないからな。

 簡単に当たってやるつもりは毛頭ないっ」


「お前がその面倒な悪魔に何願ったかなんて知らねぇが、契約している以上、お前も何かしら体質が変化しているはずだ。

 出し惜しみするほど余裕なのか?」


 未だ、クロトはヘイオスのそういった所を知らない。

 付き添っていたオリガは水になる事のできる体をしていた。リキにも硬化する肉体がある。ネアにも、そしてイロハにもそれは例外なく存在している。ならば、ヘイオスにもそれがあるはずだ。

 そして、まだその片鱗すら見受けられない。

 途端に、ヘイオスは苦い表情を浮かべ、唇を噛みしめる。

 

「…………そんなものは、私にはない」


 唐突に放たれた返答。それにクロトは首を傾けた。


「はあ? ないって、そんなわけ――」


「――ないのだよっ。

 私は確かにバフォメットと契約した。お前たちと同じように、【願い】を告げて……。

 だが、……私の体にはなにも変化がなかった」


「だからっ。そんなわけねーだろうが!!

 あの魔女の作った魔武器だぞ! 契約したなら、()()()()で何かしらの変化が……ッ」


 その時。クロトはあり得るかもしれない可能性に行きつく。

 どういった体質変化が起こるかなど、作った魔女にも想像がつかない。不死身にも、人外にも。それこそ魔法に近しい変化すらある。同じ症状もあれば違うものも存在する。

 だが、もしも。もしもその中に、その当たり前を覆す枠が存在していたとなれば、ヘイオスの言葉も真実となる。


 なにも変化しない。得るもののない、――ハズレという枠の存在。


「まさか……そんなものがあったのかよ……」


 魔女の遺産。それを所持し契約した者に与えられるメリットの一つ。それをヘイオスは得る事なく、今に至っていた。


「そのまさかだ。……私はなにも変化などしなかった。

 最悪な、【何も変わらない】というハズレの的を、私は当ててしまったのだッ」

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