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厄災の姫と魔銃使いⅡ  作者: 星華 彩二魔
第三部 五章「最悪の怪物」
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「無限竜」

「――参る!」


 ルゥテシアの守りをエリーに任せ、前に集中する事が可能となった。足が地を強く踏みしめ、リキは一気に前にへと出る。

 リキにとって距離を取られたままでは不利でしかない。守備のみに徹していては敵わないと既に思い知らされている。前に出て、敵に接近し、自身の間合いで挑む他になかった。カルトの刃が再び飛ぶよりも早く。リキとカルトの間合いは一瞬にして無くなる。

 

「わおっ♪」


 虚を突かれたというよりは、歓喜の驚きと、純粋に見開いた目のカルト。キラキラと幼子の如き眼差し。されど鋭い蹴りを鼻先すれすれでかわし、追い打ちで来る踵堕としを一歩下がることのみで回避。小回りの利くリキは休むことなく続ける。地に足が付けば、素早くカルトの脚を狙う。それすらも予知していたのか、カルトは足を弾ませて避ける。

 素早くあるリキの攻撃は少しでも読み間違えれば直撃してしまうもの。素早い判断力、洞察力が求められる。現状それを難なく熟しているのがカルトだ。接近戦においても、彼にとっては抜かりないモノなのだろう。

 回避を続けていたカルトの片腕が動く。包帯に巻かれている右腕だ。それがリキにへと向こうとした時、リキはその腕を容赦なく蹴り飛ばす。直撃はするも、硬質な金属音に近い音と、その軌道をずらしカルトの体勢がわずかに力の方向にへと逸れるのみ。だが、それでも充分とリキは思えた。わずかなながらもカルトのバランスを崩すことで隙を生み出す。それさえできれば、回避にもほころびができるからだ。

 その一瞬をリキは逃さない。カルトの胴体目掛け、再度蹴りをぶつけようとした。

 弾かれた右腕よりも早く、カルトはもう片方の腕で対応。リキの蹴りを無防備な左腕で受ける。


「……おや?」


 直撃の刹那。カルトはふと呟いた後、リキの蹴りが曲線を描き振り落とされる。

 完全に入ったリキの一撃。そう後方で控える2人が思った。だが、そうではなかったとすぐに思い知らされる。

 リキの蹴りを受けたカルトは右腕どころか、その身を吹っ飛ばされてすらいなかったからだ。

 一度リキはカルトから距離を取り、その様子をうかがう。


「……敵ながら称賛しかありませんね。

 まさか受け流されるとは思っていませんでした」


「お褒めにあずかり光栄です。

 本当なら受けきりたかったのですが、思いのほか力が強い様でしたのでね。抵抗なく流させていただきました」


 力には流れがある。カルトは押し負けると瞬時に理解し、あえて抵抗をしなかった。力の流れるままに身を流し、攻撃を受け流した。そのためか抵抗しなかった左腕は健在。傷すらない様子でいた。

 原理は理解できるも、それを瞬時に判断し行動するということは簡単ではない。


「ああ~、っもう! ホントになんなのアイツ!!」


 直撃しても受け流されるなどかわされたも同然。まともに攻撃の当てられない相手にルゥテシアが苛立つ。エリーですらカルトが異常であることは容易に理解できた。

 これまで様々な者たちの戦いを見てきたが、カルトのそれは別物。クロトやニーズヘッグの様に炎蛇の皮衣があるわけでもない。ネアならどうにかして回避していたやもしれない。イロハは痛覚がないため避ける以前に蹴り飛ばされたいた可能性も。

 わざと受けている様にも見える。カルトはこの状況ですら、まるで相手を試している様だった。

 なら、彼の全力とは…………。


「それにしても、やはり話だけではなく実際に御相手した方が知れていいですねぇ♪

 あのまま受けてたら左腕もげてたかもしれませんので。

 歳もまだ御若いのに、とても動きが良いです。力も鬼と言われるだけはありますね」


「強くなければ、守りたいものを守れませんので。自分は鍛錬を重ねてきただけです」


「とっても素晴らしいかと♪」


「……そう言う貴方はどうなのですか?」


「はい……?」


「そちらは何故戦うのですか?」


「戦いの理由……ですか。

 聞かずともわかっておられると思ったのですがねぇ。

 単純ですよ。


 ――キミたちみたいなのを楽しく狩りたい。


 それだけです♪」


 単純。そして明確。

 ゾワリとした寒気に、不覚にもリキは息を呑む。

 聞く前からわかりきっていたことではないか。そう言い聞かせるように、カルトはロングマフラーを揺らしながら続ける。


「私はですね。人との関りがとても好きです。

 こうやって会話し、こうやって力を試し合う。そうしたコミュニケーションが何よりも好きなのですよ。

 だって、1人などつまらないじゃないですか。誰かと話す事もできず、触れ合う事も敵わない。

 それは実に退屈な事でしかありません。人生の多くを損してしまいます。

 だからこそ、人との関りほど良いものはありません。

 話に付き合っていただき、その命途絶えるまで付き合っていただく……。

 人の温もりは、正に血と共にあります。私はその温もりの中で実感するのです。

 ――命ほど尊く、素晴らしいものはないと。

 

 ……時にリキくん。私も一つ質問よろしいですか?」


 呼吸と共に、リキの肩はハッとして揺れる。

 カルトに警戒していたにも関わらず、彼は既にリキの間合いにまで来ていた。


「キミは、死の間際を経験したことがありますか……?」


「――ッ!?」


 ギラつく刃の一枚が躊躇なく振り落とされる。寸でかわしたリキの足場には、深い切れ込みが地に刻まれる。不意の一撃を避けるも、追い打ちに刃が何度でもリキにへと襲い掛かる。

 これまで一方的だった2人の動きは反転し、リキは回避にていいっぱいととなる。

 

「私はですねぇ、既にそういうのも経験済みなのですよ~。

 どういう時かって、それはもう人生で一番人を殺し続けたような日のことでした。

 なにも私は悪い事はしていません。なんせ殺すことを目的とした場にいたのですから。

 戦場という場では殺人も殺戮も褒められる行為でしたからね。そう、合法なのです!

 ですが残念なことに、私って当時はとーーーっても人に近かったもので。死の寸前など気付いたら訪れるものでした。

 あの時は呆気なかったです。とてもあっという間で、全てがどうにでもなれとすら思ってました。

 熱も冷気すらも感じられない。手足の感覚すらも失い、体の一部すら失う事態。

 こんな私でも、普通の人同様に死が当たり前にあるのだと思い知らされましたね。

 

 そんな時です。

 死の間際、風前の灯火である私を私が尊敬し敬愛する魔女様が拾ってくださったのは。


 どうでもいい思いが、その時晴れた気分でしたよ」


 楽しく。嬉しく。カルトは一方的に語りだすも、その内容はリキにはうまく入ってこない。

 その右腕にどれだけの刃を隠しているのか。一枚を弾くも次から次へと刃の群れは姿を現しリキを襲う。伸縮し、血肉を抉ろうとうごめき。生きているかの刃たちはカルトの恍惚とした笑みに合わせ、まるで興奮している様でもあった。

 彼にとって、命を刈り取る事は一種のコミュニケーションであり、そして生甲斐にも感じられる。

 それはもう人とは呼ぶに値しない。正に、――【怪物】そのものだ。

 

「自分はっ、そのような考えには賛同できませんねっ。

 私利私欲のために、いったいどれだけの命を無下にしてきたのかなどわかりませんが。尚更此処で止めさせていただきます。

 ルゥ殿やエリー殿に手を出させないためにもッ!」


 リキはその剛腕があっても人の命を奪うという事はしない。鬼という非情な肩書があっても、リキは自分の信念を通している。

 力は大切なものを守るためにあると。カルトの様に命を粗末にするためではないと。

 その意志の強さにカルトも感銘を受ける様でいた。


「いいですねぇ、いいですねぇ~~♪

 キミのような真っ直ぐで意志を貫く様な子はとーーっても好みです。

 そんなキミが憎悪や憎しみでどう変貌し、そんな楔などを捨てて復習に燃える姿を私は見てみたくなってしまいますっ。

 人の面白いところは、感情のままに己を偽ることなく突き進んだ先にこそ強さを見出すところですから。

 ……ああ~、滾ってしまいますねぇ。とてもズタズタにしてあげたくなります!!」


「……そうですかっ。

 どこまでも欲のままに進まれるのなら、こちらも容赦しなくて済みますッ」


 防戦一方だった戦況。リキはそれを覆そうと拳を握る。しかしその拳はカルトではなく、その足元にへと向けられた。

 地を砕き、地鳴りと共に亀裂を走らせ足場を崩す。


「おっとぉ……っ」


 忘れそうになってはいたが、今いるのは岩山の上。落ちれば下にへと真っ逆さまだ。 

 カルトは砕けた岩を足場に飛び、どうにか落下を回避する。

 ……が。突如カルトの右腕は強い力に引かれ動きを封じられる。

 視線を右腕に移せば、いつの間にかリキはカルトの右腕に取り付いていた。金属が曲げられるような軋む音が、鈍く夜の空間に響く。

 

「本当は遠慮したかったのですが、そちらの右腕を砕かせていただきます。

 右腕に武器を仕込んでいるのでしょうが、それごと破壊すれば戦えなくなるので」


 カルトは右腕に刃を幾つも仕込んでいる。それは右腕に武器を隠しているということ。その全ては未だ包帯の中だが、リキはそれごと右腕を力でねじ砕こうとしていた。

 それはルゥテシアたちにとっても勝利は目前とすら思わせる。


「やった! さすがリキくん!

 リキくんの力ならあんな奴の腕なんて楽勝だよ!」


 サイクロプスの力はルゥテシアだけでなくエリーもよく理解していた。

 重たいものを軽々と持ち上げるだけに留まらず、岩を容易く砕くほどの腕力。その身にかかれば、人の腕など簡単にへし折れるというもの。

 どんな人間であれ、それは痛々しい行為でしかないが、そうでもしなければ彼も止まる事はない。固唾を飲んで勝利を見守るのみ。


 ……だが、それはただの思い上がりでしかなかったと。後になって誰もが言葉を失ってしまう。


 数秒が経過するも、リキはカルトの腕から動く気配が見当たらなかった。

 未だに軋む音はするも、一向にカルトの右腕が砕ける様子が見受けられずにいた。

 


「……っ、眼帯殿。自分は、手を抜いてなどいません。

 それなのにっ、――この腕は……砕けませんッ!!」



 それは、目と耳を疑う光景。リキはその場で偽りを口にするような人物ではない。リキは正に、出せるだけの力でその腕を壊そうとしていた。にもかかわらず、剛腕の悪魔であるサイクロプスの力を有しても、カルトの右腕は砕けずにいた。

 動揺はリキだけでなく、周囲にも連鎖していく。

 

「な、なんで……!?

 そんなわけない! リキくんの力で砕けないなんて!!」


 頭が追いつかない。いったいなんのカラクリなのか。サイクロプスの力でも砕けないものがあるのかと、誰もが困惑する。

 唯一冷静としていたのはカルトだ。彼は悠々と驚く周囲に流されず、軽くほくそ笑んた。


「残念ですが、私の腕はそう簡単には折れませんよ?」


 そう言い、カルトは右腕をゆっくり天に向け、それを一気にリキごと地に叩きつける。


「……っ!」


「頑丈とは聞いてましたが~、本当にそうなんですね♪」


 次にカルトはリキの首を掴み上げる。当然それを引きはがそうとするも、リキの力にカルトの右腕はビクともしない。

 

「だって、そんな軟なものではありませんから、私のこの右腕は。

 何故なら…………」


 その時、夜風になびきながら、カルトの包帯が徐々に緩みだしほどけてゆく。

 露になった彼の包帯の中身。それを見た途端、誰もが呼吸を忘れてしまう。

 包帯から現れたのは、人の腕を形どったなにか。刃と同じ色。蒼玉の様に青く煌めく鱗を宿した異形の腕。鱗の一枚一枚。それは無数の刃であり、包帯の隙間から伸びていたのは鱗だった。

 人とは異なる腕に、3人は絶句。


「私の右腕。そのものが、魔女様から与えられたものなのですからね」


 魔女の与えしもの。魔銃や魔剣。その他の彼女の造り上げた物は、どれも強固な作りとなっている。決して壊れず、衰えず。そういったもので貫き通されてきた。

 それと同等なら、それはリキの力でも破壊する事はできない。

 だが、その形状はこれまでの魔武器などとは全く異なるものだ。

 

「悪いですが、私はキミたちのような魔武器でも、ましてや魔装具とも違います。

 皆さんが悪魔を内に宿している様に、私にもいるのですよ。悪魔が。

 違う点としては、一心同体、自我も何もかも私と同化したというモノですが」


「……っ、いったい、どういうッ!」


「そういえば、言っていませんでしたね。私と同化している悪魔の話。

 私が魔女様から与えられたのは、――【無限竜のウロボロス】。不滅にして無限の竜種。

 私の右腕は、そのウロボロスの腕になります。死の間際、失った右腕の代わりに与えられた腕。

 私は人間でもあり、ウロボロスでもあるのですよ

 残念なことに、魔女様は私を生涯最初の失敗作と言っていましたねぇ。この形はお気に召さなかったようで。

 私としては、と~~っても気に入っているのですがね。

 褒められた部分もあるんですよぉ~?

 あんな概念思想の悪魔と魂ごと一体になって塗り替えれるなんて、どういう体してんだ? って言われましたからね。


 ちなみに、魔女様から聞いた話ですと、皆さんの魔武器などはこのウロボロスの鱗の強度を元に作られているとか。

 ですからね~、壊れないんですよぉ。申し訳ないですけど。

 でも、そう落ち込まないでください。皆さんの必死とする姿と、愕然とした現状。

 私を楽しませてくださることに、深く感謝しています。

 

 ついでですが~、私ってウロボロスと一体となってるので~。実のとこ体の時間が止まっているのですよねぇ。

 意味わかりますぅ? 無限に生きるウロボロスと同様、私の肉体もまた不滅。不死なのですよ。

 年齢もお恥ずかしながら、100歳超えほどだったかと。


 ちなみに痛覚とか、邪魔な人間としての機能も幾つか排除してまして。

 よくヘイオスくんに疲れ知らずと文句を言われております。

 でもそういうのっていいじゃないですか。長時間でも楽しめる、という事なのですから♪」


 状況は、更に最悪にへと陥ってしまう。

 不死であり。消耗戦にも持ち込めない。それはもう生き物として終わっていた。

 どこまで【怪物】という異形であり続けてしまうというのか。

 

「さて。お話もそれなりに終わったことで、私は一つ試してみたい事があります♪」


 捕らえられたリキ。それを見上げカルトは不敵と笑みを浮かべる。

 

「先ほども確認しましたけど、リキくんの体は相当頑丈なご様子。

 さてさて。私のウロボロスの鱗と、キミの体。


 ――果たして、どちらが強いのでしょ~か~~♪」


「――ッ!?」


 その時、リキの中でサイクロプスが叫ぶ。『逃げろ』と。

 しかし、首を捕らえられ、それを剥がす事も出来ず。その必死の声はリキをその場から動かす事も出来ず。



 直後。鱗は細かにうごめき、その一枚一枚が鋭利な刃と化し。

 無慈悲に。躊躇なく。リキの身を幾つもの刃が貫き、鮮血を散らした。



「ぁ………………」


 想像ができなかった。リキが敗北する姿など。四肢や胴体を、幾つもの刃で貫かれている姿など。

 夜にも関わらず、鮮血は異常なほど鮮明に映ってしまう。見ているエリーですら血の気の引いてしまう光景に、言葉が出ない。

 ただ視界には血まみれのリキが映り込み、脳がそれを拒絶したくあっても、目が離れない。

 

「……リキ…………さん?」


 か細い声で尋ねてみるも、リキからの反応はない。生きているのかすらも確認できないほど、彼はただ貫かれたままだ。


「――あああああああああああああああああああああッ!!!!!!!」


 動揺しきって動けないエリー。その隣でルゥテシアが激高と叫び、【守星(かみぼし)】から飛び出す。


「ルゥさん!」


 エリーはどうにか彼女を止めたくあった。呼び声も、手を伸ばすも、何もかもが届かない。

 

「いいですねぇ~。お嬢さんは感情に素直な御方です」


「黙れええええッ!!! 

 リキくんを返せえええええええええええええええええええッッ!!!」


 声は咆哮となり、加減も知らずに放たれる。

 

「ええ。返して差し上げますよっと♪」


 ひらりと咆哮をかわし、右腕を振り払いリキを放り投げた。ルゥテシアは体でリキを受け止める。

 

「リキくん! リキくん!!」


 出血がひどい。至る所から熱い血が溢れ、抱く体から体温が徐々に失われていくのが全身で感じられた。

 微かな呼吸のみをリキは繰り返すが、それもいつまで続くかわからない。

 頭の中がぐちゃぐちゃになるルゥテシアは、ただただその悲惨状況を否定する言葉しか出せない。


「嫌ああ!! リキくん、死んじゃうッ。

 そんなの絶対にやだあああ!!! 

 止まって! 止まってよおおおお!!!!」


 傷口から血を止めたい。だが、その願いは虚しく。ルゥテシアの願いなど聞き入れてはもらえない。

 

「リキくん! リキく――――」


 ――……


 突如、ルゥテシアの呼び声が止む。

 気付けばルゥテシアの胴体は、リキ諸共刃で貫かれていた。


「……っ、……ぁっ」


「御2人は仲良しさんなので、一緒に送ってさしあげます。

 ――よかったですね♪」


 カルトの右腕から伸びた刃は、瞬時に彼の下にへと戻って行く。残された2人はその場に崩れ、互いが同じ様に血を流してゆく。

 血の流れに抗えず、冷めてゆく中でルゥテシアはリキを探す。手を伸ばし、わずかに残る手の温もりを大事に繋いだ。


「絶対……1人なんて……させないから……っ。

 ……ねぇ………………リキくん…………」


 最後の、彼女の【願い】だったのだろう。

 異国という地で1人。そんな彼を1人にさせまいという、ルゥテシアの細やかな【願い】。

 その後、2人からは微かな呼吸すら失われてゆく。


「……ルゥさん……? リキさん……?」


 ただその場に留まることしかエリーにはできなかった。

 呆然と、現実に圧倒され身動きできずにいたエリーなど、その場にはいないも同然だった。

 

「それなりに~、良い運動になったかと。

 魔女様もお気にとめた方々を失うのは心苦しいのですが、仕方ないということで♪」


 ――仕方ない……?


「それでは、御2人の魔装具を回収させていただきますか。

 死体あさりとか野蛮な盗賊のすることですが、元々そのつもりでしたからね」


 時間が無慈悲と流れてゆく。エリーの事など気にも留めず、カルトはただすべきことを進めていくのみ。

 それを眺めているエリーはどうすればよいかもわかたなくなっていた。

 だが、何処かから聞こえてくるのだ。必死と、まだ抗おうとする声が。


『――リキ! 死ぬの、ダメッ』


『やだああああっ!! ルゥルゥは死んじゃダメなのぉおお!!!

 リリンはルゥルゥとずっと、ずっと一緒じゃなきゃやだああああ!!!』


 その声は、決して無駄にしてはいけないものだ。

 認めるわけにはいかない。この状況を。



 ――――この惨状を――――否定してみせよう。


 


「……?」


 唐突に、空気が変わる。ざわつく大気。まるで人が恐怖を得ているかの感覚。それは周囲の自然が、世界は発しているかの様だった。

 カルトは周囲にへと視線を彷徨わせ、最後に一点にへと定めた。


「……お嬢さん、ひょっとして何かされました?」


 問いは1人の少女にへと向けられた。

 呼吸を乱し、溢れだしそうなものを堪える。それは抑えきれず、言葉をエリーは紡ぐ。



「こんなのは……、こんなのは、だめ……っ」


 

 目に映る光景。2人の死が近くにあるという現実。

 それはエリーにとって、否定以外なにもなかった。



「――こんなのッ! 絶対にダメええええええええええ!!!!」



 強く、エリーは願ってしまった。あふれ出てしまう、否定。それに応えるように、天は禍々しい黒の七つ星を呼び寄せる。

 【厄星】。それらは少女を見下ろし言葉を聞きとる。


「なんで……っ、なんで貴方は、平気でこんな酷いことができるんですか!?

 こんなの、ダメ……っ。ルゥさんも、リキさんも……悪くない……っ」


 2人はクロトとエリーのために協力してくれただけだ。快く受け入れてくれただけだ。

 その結果がこのようなものなど、認めるわけにはいかない。

 絶望が、否定と一緒に心を黒く塗りつぶしていく。

 

 ――敵を否定しよう。

 ――現実を否定しよう。

 ――全てを否定しよう。


 ――全ては、キミの望むがままに……。


 星はいつだってエリーを肯定する。

 否定も嫌悪も絶望も。そのためなら何でもしようと語り掛けてくる。 

 

 ――可哀想に。すべてが無かったことになればいいのに。

 ――全てなくして、目の前の脅威を排除する。

 ――それは望めば容易いこと。

 ――キミならできる。


 後押しする声は、鮮明に囁く。


 ――さぁ、【願い】を叶えよう。

 ――共に。全てに破壊の安息を。それこそ、キミのためにある世界だ。


 手を差し出すような声。救いの声。

 一見すると、そう捉えることもできるだろう。

 だが、その救いの声を前に、エリーは一つの間違いに気付く。

 

 現実を否定したい気持ちは同じだ。だが、感情任せにした末路の光景を、エリーは知っているのだから。

 

 違う。エリーはそう断言した。

 エリーは世界を壊したいわけじゃない。エリーが望むのはただ一つ。2人を助けたいという【願い】のみだ。

 

 ――だからこそ、脅威という不純物を排除しよう。

 ――キミにとって必要のないモノを、全て否定し無にしよう。


 全てを無にして残るものなど、なにもありはしない。

 紡いできた関りも。2人の気持ちも、出会いも、全てがなくなってしまう。

 だからこそ、【厄星】だけは使ってはいけない。


 ――なら聞こう。キミはこの星を止められるのかい?

 ――……彼もいないのに。


 エリーは、不安ながらも強く頷いた。

 止めてみせる。【厄星】は【呪い】であっても自身の力なのだと知っているのだから。

 クロトにばかり頼ってもいられない。魔法を扱うと決めた時から、エリーは彼の隣で歩みたいといたのだから。

 



「私はまだ、絶望だけで終わらせたくありません……!!」

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