「星の魔女」
「――どうか私を楽しませてください。魔女様に選ばれたみなさん」
カルトは退く事なく、この闘争の続行を宣言した。むき出しになった刃の数々。姿を現した凶器はカルトがまだかまだかと、争いの再会を待ち望んでいる心情を表現すらしていた。
よどみもなく、悪意もない。単純に戦いを楽しみたい。歪んでいるのではなく、ただそうしたいなだけの共感できない純粋な闘争心。それこそが、カルトという【怪物】を形作っている。
本人の言った通り、彼の姿は人というよりは異形、【怪物】【化物】というのが相応しい。
状況がどれだけ変化しようと、カルトの目的は一切変わりはしない。再び視線が契約者である2人に向く。
……と。
「本当は嫌なのですが……わかりました。
私は、貴方を攻撃しますっ」
間に入り、エリーは宣言。幼く、未だに戦うというものに嫌悪感があるにも関わらず、エリーはカルトの前に立ちはだかる。杖を強く握りしめ、息を呑む。恐怖もあるが、それよりもエリーには怖いものがある。
それこそ、知り合った者たちに危害が及ぶことだ。明らかにカルトはそれ以外を選ぼうとしない。見過ごす事ができず、自分に少しでも力があるのならと、エリーはその意志を支えに立っていた。
「構いませんが、お嬢さんは平気ですか?
以前よりは勇ましくなられた様ですが、とても私を止められるようには見えません。
でもでも、私はそんな魔女であるお嬢さんのお力も見てみたいと思っております。
魔女様とは違う魔女の力を拝見できるなど、滅多にないことです。そうやって敵にまで優しくする魔女さんも。
……いや、魔女様もとても面白いお方でした。そしてお嬢さんは不思議と似てらっしゃる。
なのでお嬢さんに大サービスです♪
――どうぞお好きに力を使ってください。
――それまで、私は此処を動きませんので♪」
一旦。カルトは刃をしまい、両腕を広げてそれを待つ。堂々とその場に居座り、更には動かないとまで言い切った。その様子にエリーは戸惑い、思わず杖を下ろしそうになってしまう。だが、状況が変わってない以上、この場から退いてしまえばカルトの行動を許す事となってしまう。
再度、杖を握り直し、悩んだ末軽く深呼吸。気持ちを整える。
しかし、それでも不安になるのはリキとルゥテシアだ。
彼らはエリーが人に戦いを挑むような人物など、考えた事もなかったからだ。
「どうしようリキくん。エリちゃん危ないよぉ……」
「そうですね。隙を見て連れて逃げる事が得策かと……」
「魔女だけど戦えるのかな……。さっきは助かったけど」
「それがですね。一応魔法というものは使えるようです……。
ミヤビで滞在している際、少しですが練習をされてましたので」
リキはミヤビでの出来事を語りつつ、思い返す。
◆
まだミヤビで時間を過ごしている間のことだ。静闇 の間を体験した後、クロトがふとリキにへと問いかけた事があった。
「この辺である程度騒動があっても問題ない場所ってあるか?」
「具体的には、どういったものでしょうか?」
小さな島国であるミヤビ。その領域は大国に比べとても小さなものだ。その中でクロトは何かしらの場所を探している。
具体的な内容を問われ、クロトは少し発言に悩んでから応えた。
「そうだな。デカい岩石が吹っ飛んでも問題ない場所…………か」
ある程度の連想できる発言。もちろんそれは危ない様子しか思い浮かばず、傍から見ていたルキが「どういう状況だよ!?」と、すかさずツッコミを入れた。
「うるせーなぁ……。コイツの練習場所探してるだけだ。
一応口うるさい奴もいるし、確認だっての」
示す様に、クロトはエリーの頭をポンポンと軽く叩く。
理由を告げられるも、ルキやリキも理解が追いつかず、首を傾けてしまったものだ。なんせ、物騒な内容に練習として挙げられたのがエリーなのだから、無理もなく疑う様子でしかない。
「……いや、わけわかんねー」
「一応そういう場所はあります。最初の砂浜から少し離れた場所で、舟を出さない場所なので特になにもありません」
「お前もお前でなんで教えてんだよ!?
だいたいそんな話にそのままのるなよ!!」
「……いえ、クロト殿たちがお探しなら、提示するのは当然かと?」
「どんだけこいつらに無駄な信頼寄せてんだよ!?」
「よーし、とりあえずそこ行くぞー」
「勝手に話を進めるなーー!!!」
ルキが流されまいと必死になるも、クロトたちはそんなもの無視として歩みを止める事はなかった。
そんなこんなで。リキに案内された砂浜は、確かに風車一つない静かな場所だった。
この場に来たのはエリーの魔法練習をするためだ。クロトはエリーの練習に時折付き合う約束をしている。待つという時間の中では暇つぶしの一環にもなる。
そこでリキとルキが目撃したのは、言葉を失う光景でしかなかった。
始まって直後、少女が行ったとは思えない騒音が響く。さざ波の音をかき消すかの如くだ。
どういうものだったかと言えば。それはもう、当初の話の例え通りとしか言いようがない。巨大な岩石の様な光の球体が一直線に飛び、的となっていた岩を粉砕した。
「どうでしたかクロトさーん」
「おー。あと少しずれてたら俺に当たってたぞー」
とても緊張感のない返し。言葉の通りなら、岩を砕く一撃を最悪受けていたというものではないか。これにはルキも顔色を青くさせ言葉を詰まらせてしまったとか……。
◆
と。いうのがリキの体験談だ。
さすがはあの魔女の娘とは納得いくも、やはり対象がエリーであればどうしても引き下がらせたくもなる。いくら強力な魔法が使えるとはいえ、まだ幼い少女に任せてはおけず。
「話通りなら、あちらもエリー殿には手を出せない……はずですが」
「胡散臭さ半端ないんだけど!? アイツの事はどれも信用できないって!」
「胡散臭いとは酷いですねー。私これでも紳士なので、特に女性の扱いは気にかけるよう心掛けてます♪」
「ほらまた心にもない事言ってるよアイツ!!!」
これでもかと自身気に胸をはるカルト。実際殺されかけたと思わされたルゥテシアにとって、その言葉すら虚言にしか聞こえない。
間に挟まれエリーは次にどうすべきかと、あたふたしながら前後に視界を彷徨わせる。
「あ、あのっ。私、頑張ります!
まだ練習中ですけど。最初は十回に一回でしたけど、この前は五回中一回は的に当てる事ができました」
誇らし気だ。エリーは練習の成果を語り、とても誇らし気にいる。
ひたむきな姿には称賛の意を示すべきなのだが、状況が状況でしかない。
「どうしようリキくん! 褒めた方がいいのか、それでもダメって言うべきかなコレ!?」
「そうですねぇ……。
進歩されているのは褒めるべきですが、鍛錬の厳しさから言うにまだまだ実戦向けではないかと……」
「う゛……っ」
エリーから、苦虫を噛みしめたような鈍い声が漏れる。
そう。エリーはまだ実戦できるほど経験を詰めてない。それはクロトからも指摘されているものだった。
あくまで練習。そしてまだまだ未熟。一つ一つの魔法は攻守共に優れていたとしても、実戦でとなれば話が違ってくる。リキはそれを現実目線で真っ当な意見を述べたにすぎない。当然、クロトがこの場にいたなら頷くことだろう。
これは退場すべき流れにあると、心の底で諦めが出てしまった。
そして更に追い打ちをかけるのがもう1人。
「そうしょげないでくださいよお嬢さん。
常々頑張っておられるのですね~。それはとても偉いことですよ。ええ、本当に。
ですが、あれですね。そうですね。まだまだ人前で披露できるほどでないのなら、残念ですが私も諦めますよ。
お嬢さんの魔法はもっと見てみたいのですが、弱いならまた今度出直してきてくださいな。
私はいつでも歓迎しますので、もっと練習重ねてから存分にお付き合いください。
何が言いたいかといいますとー……。
――ぶっちゃけ論外です。弱い人に興味ないので。どうぞお帰りください♪」
…………。
ついにはカルトにまでも言われてしまう始末。最初に励ましたかと思えば、後からは明らかな侮辱でしかない。声量も気遣いで衰えることなく、言いたい事を言い切った。
確かに正論ではあるが、「そこまで言わなくても……」とリキやルゥテシアは何も言えなくなってしまう。それはエリーも同じで、しばし思考が真っ白になってしまった。普段ならその正論は重く受け止めて引き下がるのだが、それよりもエリーの中では別のものが湧き上がっていた。
「…………っと、……しましたもん。
頑張って……クロトさんと一緒に、練習してますもん……っ」
「エ……エリちゃん……?」
小刻みに身を震わせるエリー。涙ぐんだ声であり、これは酷く痛感させられた様子。
自分でも理解はしているのだろう。だが、それでも引き下がれない思いもあり……。落ちそうになった涙を拭ってから、エリーは星の瞳をカルトにへと向ける。
「私だって、ちゃんとできます!
まだまだ弱いかもですけど、頑張って練習もしたんですからぁあああ!!!」
半泣き状態で、杖の先端が天にへと向く。杖に組み込まれた水晶に、頭上の白星一つが一体となり、エリーは力強くそれを振り下ろす。
「――撃てッ! 【攻星】ッ!!」
叫び唱えた直後、先端が地にへとぶつかる。その瞬間、強い光が弾けると同時に、巨大な光の球体が砲撃の様に放たれる。地を抉り一直線に駆ける閃光は問答無用でカルトを襲う。
この時の【攻星】に躊躇いというモノは一切なかった。エリーが感情任せに放ってしまった一撃。正論とはいえ、クロトとの練習を馬鹿にされた発言の数々。それにエリーは普段あまり抱かない怒りを乗せてしまう。その威力は感情の分跳ね上がり、通常の【攻星】よりも巨大なものにへと変貌してしまっていた。
その後、閃光の先にあった岩山を粉砕。荒れた突風と光、そして騒音が周囲を支配した。
好機と感じたのか。リキはその隙にルゥテシア、そしてエリーを抱えその場から離脱。粉塵を突破して素早く岩山を駆け上がり一気に距離を取る。
「ああ~んっ、ごめんなさーーい!!
【攻星】は当たると危ないってわかってたのにーーー!!
……ふぅ、またクロトさんに怒られちゃう」
視界が高い位置にあり、エリーは遅れて自分のやってしまった光景を目の当たりにする。
これまで何度か使ってきた【攻星】だが、今までにないほどの惨状。岩山の柱が何本も崩れて、それは更に隣にへと被害が拡大しなかなか治まる様子がない。エリーは思わず目を背けてしまう。何度もクロトに魔法の扱いには注意を言われてきたというのに。
脳裏ではクロトに御仕置きされる様子が浮かび上がる。
「でもすごかったよエリちゃん!
おかげでアイツから離れれたし、このまま逃げちゃお」
ルゥテシアは結果オーライとエリーを剥げます。
最も難しいと思えた道をエリーが作ったのだ。予想外だったとしても責める事などできず、むしろ感謝すらしたくもなる。
「そうですね。……アレでなんとかなればよいのですが」
一難去ったのも束の間と思わせる発言。リキはまだ不安と警戒しつつ岩山を飛び越える。
確かにエリーの魔法は予想外に大きく周囲を巻き込んだ。だが、それでもカルトがやられているとは思えずにいた。未だに払い切れていない不穏な空気。
大気の乱れがわずかに晴れ始めた時。刹那リキは背に剣を突きつけられたかのような視線を感じ取る。
息が詰まるも、足は更にその場から遠ざかろうと岩山の間を飛ぶ。
その時。遠くにあった気配はすぐ後ろにまで迫っていた。
「驚きましたよ。……ですが、絶対に逃がしはしませんので」
撃たれたはずのカルトは、跳躍しそこにいた。右腕の包帯からはあの刃がずらりと幾つも突き出し、月明りでギラつく。
両腕の塞がっているリキ。宙にある身では背後からの攻撃に対抗などできず、エリーを盾にするほど非道でもない。あと少しで足が付くというのに、その数秒ですら長く感じるほどじれったくもある。
反撃も対抗もできないリキの両耳を、ルゥテシアが塞ぎ叫ぶ。
「エリちゃん! ――耳塞いでッ!!」
突然に頭が追いつかずにいるも、エリーは言われた通りに耳を塞ぐ。
同時に、ルゥテシアは肺いっぱいに空気を吸い、次に出せるだけの声量を一気に解き放つ。カルトに目掛け放たれた大声の波。至近距離で放たれた音にカルトは思わず左手で片耳を塞ぐも、右手は遅れてしまい攻撃の手を止めてしまう。
そのわずかな抗いのおかげで、リキは無事着地し相手から一気に距離を取る。だが、それ以上離れる事はしなかった。簡単にカルトから逃げきれないと察し、このまま逃亡する事は不可能と判断したからだ。
次にカルトも地に足を付けるも頭を揺らす。
「……あ~、そちらのお嬢さんの声は直接脳に響くので厄介ですねぇ。
手を止めるつもりはなかったのですが…………。とりあえず加点しておきますね♪」
直撃した音波により脳に害を与えたのだろうが、すぐにカルトはけろっとして無傷だ。改めてこの自称【怪物】をどうやったら傷つけられるのかもわからなくなる。見た様子では、【攻星】の影響すらない。
「嘘でしょ……。なんなのよ、アイツ!
エリちゃんのあの攻撃をかわしたっての!?」
「そんなぁ……。あの【攻星】をどうやって……」
その場の感情任せで放った意図しない一撃だったというのに。言葉通り、カルトはその一撃が放たれ直撃する寸前まで動く気配などなかった。それをどうに回避したとしても、なんの傷も得ていないなど考えられない。
「素晴らしい魔法でしたよお嬢さん。予想以上で高得点です♪
あのまま当たっていればただじゃすまなかったでしょうねぇ~。
……まあ、当たる気なんてこれっぽっちもありませんけどね。あくまでお嬢さんが撃つまで動かないという言い分でしたし。
そこから避けないなんて一言も言ってませんので。悪く思わないでください」
軽く振るった腕から、一枚の刃が剣の様に伸び、刃先が3人にへと向く。
「さ~て、どうなさいますぅ?
私は獲物を逃がすほど馬鹿ではありませんのでね。
できればヘイオスくんが来る前に事を終わらせて言い訳沢山考えたいところです、はい♪」
変わらず3対1の構図。だがルゥテシアは肝心の楽器を失っており力は激減。エリーはまだ体力もあるため、再び2人の前に立とうと杖を構える。
だが、更に間に割ってリキが前にへと出る。
「自分が御相手します。
……これ以上、御二人に危害を加えようとするなら、まずは自分を負かしてからにしてください」
「リキさんっ。……私も一緒に」
「できればエリー殿はルゥ殿を守っていただけると幸いです。先ほどの様に、攻撃を防いでくだされば安全ですので。
その方が、気にせず戦えます。勝てるかどうかはわかりませんが、クロト殿を待つ時間稼ぎでもできれば……」
「…………わかりました。気を付けてください」
エリーは頼まれると後ろに下がり、【守星】を展開。その中で2人はこの状況を見守る事とした。
「あはは。勇敢ですね♪
いいですよぉ~。私を楽しませてください」
「自分は戦いに楽しさを求める人間ではないので、できれば殺さずに終わらせたいと思っております。
申し訳ないのですが、四肢が無事でいられるは思わないでください」
拳を強く握りしめ、リキは身構える。




