「苦への道」
エリーは負担もあってかしばらくは起きないだろう。そのため、クロトが抱えてやる。
本堂の外に出てみれば、霧はすっかり晴れていた。外では巫女とルキが待っており、こちらの姿を見かければ巫女が血相を変えて駆け寄ってきた。
「皆さんっ。それにリキも、ご無事でしたか……」
「巫女様。ご迷惑をお掛けしました。クロト殿もエリー殿も無事です」
「いいのよリキ。皆さんの無事が何よりだもの。……それと、私の方からも謝罪をさせてください。
エリーさんの不調は、もしかしたら私に原因があるかもしれません。
彼女の中を覗いた時に、おそらく私が【呪い】の均衡を乱してしまった。
私を利用して、外への道を繋げたのかもしれません。
お役に立てないどころか、この様な事態になってしまい、本当に申し訳ありませんっ」
巫女はまた深く頭をさげる。
予期せぬことはよくあること。【呪い】が危険なことも理解はしていた。それに、巫女に頼ったのもこちらだ。咎めることはできない。
クロトはこうやって誠心誠意謝罪されるのは苦手であり、すぐに謝罪を打ち切らせた。
「……もういい。こいつの【呪い】は別格だからな」
「……お急ぎのご様子ですが、できれば今回のお話で幾つかよろしいでしょうか?」
元々、巫女との要件後はすぐにアイルカーヌに戻る事となっていた。
クロトは少しでも情報があればと、巫女の話にのる。
「正直、エリーさんは見た目とは違い、とても器の大きな方です。
あのようなモノをその身に宿し、尚且つ普段は外に出さないようにしておられるのですから。
ですが、少しのことで不安定にもなってしまう。とても危うい身でもあられます。
今後も、クロトさんが良き支えになっていただける事を願います」
【呪い】。【厄星】などはエリーの感情に大きく作用するものだ。負の感情は【厄星】を呼び、望まぬ形で【願い】を叶えようとする。エリーもそれを理解し、当初よりもその心構えが強くなっている。とはいえ、感情というものは自身の意に反して働いてしまうこともある。だからこそ、支えてやる者が必要になる。
また、【厄星】や魔女の力の暴走が起きないようにする。それがクロトがなすべき事であると、本人も再度胸に強く言い聞かせる。
暴走の末路。それを一番痛感するのはエリーなのだから。
「エリーさんには、できれば感謝もしたいところだったのですが」
「……?」
「いえ。【呪い】の影から私を救ってくださった方がいらっしゃって。
でなければ、私の意識は戻ってくる事はできなかったので。
……あれは、エリーさんではなかったのでしょうか?」
窮地を救われたと巫女は言う。
エリー以外にそんなことができた者がいるとすれば……。
頭の片隅で1人の姿がよぎる。今もエリーと同化し、必要に応じて語り掛ける存在。
「……まさか、魔女の奴か?」
『どーだかなー。姫君が正気を取り戻した時にはいたみてーだぜ?
にしても、魔女が他人を救うとはとても思えねーがな』
魔女の目的が未だに理解できない。
【呪い】の解除を拒み、それでもエリーには助力し続ける。これもその一環なのか、本人に確認できなければ真相はただ闇に沈んでしまうのみ。
「とりあえず、コイツが起きたら伝えといてやる」
「ありがとうございます。
それとですね。最後に、今後の占いの結果をお知らせしておきます」
先ほどまでの一件で忘れかけていた。巫女は最初に過去と現在を占い、見通した後に未来の占い結果を告げるもの。
巫女は最後にめくられるはずの紙を持ち出していたらしく、それをクロトたちにへと見せた。
紙に浮かんでいたのは、天と地、そしてそこにたたずむ禍々しい人影は死神の様にも見えた。
「……凶兆です。今後、苦難が待ち受けていると思われます。
私がこの占いで読み取れるのは、大きな苦難や終焉といったものです
よくない事が起こるという予兆となります」
「……終焉……か」
占い事は信じないものだが、これには他人事にも思えないものがある。
エリーの【呪い】は終焉を引き起こす可能性もあるのだから、これがそれを予兆しているのかもしれない。
「こんなことになって、更にこのような結果までも出てしまい、とても申し訳ないと思っております。
ですが、苦難を乗り越えることで、凶兆を終わらせ、新たな道を進む事もあります。
……私が皆さんにお伝えできるのは、これで以上となります」
不安もあるが、クロトにとってエリーの凶兆と思わしき道はこれまでにも多くあった。何度その命が危機にさらされてきたことか。今更一つや二つの苦難があろうと、それで引き下がるような心構えはしていない。
もしも、どうしようもない事態が起きたとしても。最後までクロトはエリーを見捨てないと決めていた。
「……わかった。だが、こっちは死と隣り合わせの日々なんざ日常茶飯事なもんでな。その程度で怖気づくほどじゃない」
「とても心強いです。それでは、お気を付けてお帰りくださいませ」
巫女は日出に向かう道を開け、今後行くべき道を示した。
この先にまだ希望があると信じ、クロトたちは前に進みだす。
「悪かったな。余計な事に首つっこませて」
「いえ。これが巫女として勤めなので」
「巫女様、それにルキも、ありがとうございました。自分は、またあちらに戻ります」
本来ならこの場まで足を踏み入れる事はなかっただろう。少しでも故郷の地で過去の様に過ごせたのは、巫女のおかげでもある。渋々とはいえ、ルキも受け入れてはいる様子もあった。
それにリキは感謝の意を伝える。
「また会える日を待っているわ。いつでも文を送ってきてちょうだいね、リキ」
「はい。時折送らせていただきます」
「あちらの事も教えてもらえると助かるわ。ルキにも少しは外の世界に目を向けてほしいから」
「……巫女様っ」
照れくさそうにルキが怒鳴らずにいた。
やはり巫女相手には噛みつく発言はしない様子。
「それでは行ってきます。ルキ、巫女様のことをよろしくお願いしますね」
「わかってるから、とっとと行けよ!」
「あら? それだけでいいのかしら?」
「~っ。……べつに、いつでも戻ってきても……いいんだからなっ。里の住人も、次は立ち寄ってほしいって、……言ってたし。団小屋の婆さんとか、甘味処の店主とか……」
「……」
「だからっ、色々お前は気にしすぎなんだよ!!」
「どちらかと言えば、ルキの方が気にしすぎているような気もしますが……」
「――とっとと行けぇ!!」
顔面真っ赤にして、ルキはリキの背を強く叩いて前にへと押す。
待っているクロトもいる。リキはルキの言葉通りに前にへと向かう。
これ以上の言葉はいらない。その背を見送る姉と弟の姿は、目が見えずとも感じられたのだから。




