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厄災の姫と魔銃使いⅡ  作者: 星華 彩二魔
第三部 二章「底の闇」
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「守り星」

 突然の衝撃に胸をおさえ、エリーがうずくまる。


「あ……っ!? くぅっ!」


「おい、どうしたエリー!!」


 苦しみを堪えるエリーの背を撫でてやる。しかし、落ち着く気配はまったくない。

 顔を覗き込めば、クロトは驚愕と目を見開く。浅い呼吸と青ざめた顔色。そして、星の瞳は徐々に色を変え赤く染まり始めていた。

 

 ――魔女化!?


 エリーの瞳の変化には二種類ある。星を黒く染める【厄星】の前兆。そして、赤く染まった魔女の瞳。

 赤く染まり始めたという事は、エリーの中でまた魔女の力が暴走し始めたという事だ。


「……どう、して……っ。私……なにも」


 エリーとしても疑問でしかない。この傾向は自身が何かしら力を求めた時に起こりうることだ。しかし、エリーはそれを望んでなどいない。【願い】を告げたわけでもない。何が自身の奥の【呪い】を呼んだのか。


『やべーぞクロト! このままじゃ、また姫君が魔女になる!』


 暴走したエリーの力はまだ未知の領域にある。当時もどうやって止めれたのか、いまいちわかってはいない。

 不穏は周囲に広がり、誰しもが不安を抱える。これに目を覚ましたのか、リキのサイクロプスがふと呟く。


『……リキ』


「眼帯殿? 申し訳ありません、今は取り込み中で……」


『変な気配感じる。数が多い。……何か、変なのが彼女の中で暴れている』


「……わかるのですか!?」


『なんとなく。でも、このままはよくない。他を安全な場所に移動させた方が、いい』


 サイクロプスの警告は当たっていた。


「クロトさん……、私から、離れてください……。私は…………誰も……、傷つけたく…………ないっ」


「わかってる。……リキ。お前らは此処から出ろっ」


 事情を知っているのはクロトとエリーのみ。リキは危険であることから速やかに行動を起こした。

 

「ルキ。巫女様を外へお願いします。……それと、自分たちが出るまでは、けして入らないように」


「なっ!? 俺に命令するなよ!!」


「お願いしますっ。……今の自分には、巫女様を守る資格がない」


「……っ、訳も話さず、勝手なことをっ。あの時だって……っ」


「……」


「絶対、出て来いよ!? でないと、一生恨むからな!?」


 悪態も他に言いたい事も、全て呑み込み。ルキは巫女を連れて外にへと向かった。

 リキはそれを見送り、2人の傍にへと戻る。


「あちらはルキに任せれば大丈夫です。クロト殿。自分にできる事があるならいつでも言ってください」


「……とは言うが、どうするべきだ」


「眼帯殿の話では、何かしらがエリー殿の中で暴れているようです。ですが、それ以外はなにも……っ」


「……【呪い】……か」


 そう原因を突き止めるも、途端に「本当にそうなのか?」と疑問すらあった。

 巫女の証言。【呪い】以外のなにか。エリーの中には、【呪い】と、魔女の力と、まだ何かが潜んでいる。


「クロトさん……、私……っ」


「置いて行くわけねぇだろっ。当たり前のこと言わすな!!」


「……でも、……もう……っ」


 それが、エリー自身の最後の言葉だったろう。

 瞳は星を失い、赤く染まり切っている。それを合図にか、エリーの頭上には黒い七つの星が軋む音を響かせて出現した。

 エリーが魔法を扱う時、彼女の頭上には白い七つの星が浮かぶも、これはやはり【厄星】を彷彿とさせてしまう。

 苦しみから解放されたエリーは、その魔女の瞳でゆっくりと2人を見る。

 

「……エリー殿、なのですか? とても気配が違いすぎます」


「一応はな……」


 問題は、此処からどう動くかだ。

 以前は敵対行動をとってしまったヘイオスとオリガが酷く痛い目を見ている。逃亡するほどのだ。

 今エリーが静かにいるのは、こちらが敵かどうかを判別している可能性もある。ならば、どうにかしてエリーの意識を呼び戻す、それに限った。


「……エリー。此処に敵はいない」


「……」


「だから、その力は必要ない」


 手をとってやる。

 自分は敵でないと行動で示し続ける。

 落ち着いて、その脅威を鎮めさせようとし、リキもそれを見守るのみ。

 だが、未だにエリーの中の気配が治まる気配はない。

 



 ――ああ……なるほど、()()にあったのか……。




 突如、クロトの脳に届いた声。声はエリーの方から聞こえ、思わず手を離してしまいそうにもなる。

 その声を、クロトは知っている。いつだったか。そう、あれは初めて【厄星】をその目で見た時。絶望の淵、精神の奥へエリーを呼びもどしに行った時のこと。怨嗟の渦の、更に奥。声は、そこから聞こえてきたものだ。

 否。それだけではないはずだ。別の時のも聞いた。そして、会ってすらもいた……はず。

 脳が知らぬ記憶を掘りおこし、混乱した隙。突然周囲の空気が冷め始める。

 エリーを中心に、大気のマナと魔素を結合させた結晶が急成長し、室内全てを氷の様に覆い始めた。

 

「……っ!?」


 ――……そういえば、キミは()()()()の存在だったか。

 ――あの時、……あの選択を選ばなかった事。……後悔は今でもしてないかい?


「……お前は……いったいっ」


 ――それは以前言っておいた。覚えてはいないだろうけどね。

 ――それよりも、渡してもらおうか。…………**を。……二つ。


 聞き取れない言葉。聞き直そうとするも、クロトの意識は一瞬で閉じてしまう。入れ替わる様に、ニーズヘッグの姿がその場にはあった。

 

「……なっ!?」


 突拍子もなく呼び出された炎蛇。繋がれた手は離すまいと力が加わり、魔女はうっすらと、笑みを浮かべて炎蛇を見上げた。

 頭上の星が稲光を走らせ、一室の空気を重圧で支配する。圧に押し潰され這いつくばるニーズヘッグ。そして、リキもいつの間にかサイクロプスと入れ替わっていた。

 

「どうなってんだっ!? ――姫君!!」


「……~っ!!」


 抗おうとする2体の悪魔。それを阻むように水晶が身を拘束してゆく。

 酷い寒気を得た。まるで体から何かが抜き取られていく感覚。自身の存在に致命的な損害を与えていくとすら思えるもの。


「まさか、……俺らの魔力を吸ってんのか、その星!!」


 魔力の流れ。それは頭上に漂う七つの黒星にへと向かっていた。

 魔力は魔族にとって欠かせない生命の源でもある。どこまで奪おうとしているのか、それによっては大悪魔であろうと命の危機にも繋がる。

 水晶を砕く音が聞こえた。重圧に身を起こし、阻む水晶を力で破壊したのはサイクロプスだ。そして、次にサイクロプスの拳はエリーにへと向けられた。

 原因はエリーにある。エリーが。魔女である彼女が起こしている現象。それを止めようとしているのだが、その拳を落とさせるわけにはいかない。水晶ではなく、炎蛇の皮衣がサイクロプスの身を縛り止める。

 しかし、さすがの剛腕かその戒めにすら振りほどく勢いだ。


「やめろサイクロプス!! 姫君に怪我させてみろっ。俺がお前そ殺すからな!?」


 警告をする。言葉を離せないサイクロプスは何かを訴えたい思いでいる。

 

「わかってるよ! ……お前がそうしたくないのはっ。ちゃんとわかってるから!」


 本当は、拳を振り下ろしたくないはずだ。

 サイクロプスと会って、それをニーズヘッグは理解している。だからこそ、止めねばならない。サイクロプスも、そしてエリーも。

 だが、動きを止めてしまえば悪魔たちの肉体は徐々に水晶にへと呑まれてゆく。それでもニーズヘッグは離すべきと思われるエリーの手を逆に握り返す。

 

「姫君っ。頼む……、戻ってきてくれ! 

 このままじゃ、本当に取り返しがつかないことになる! 

 一番傷つくのは……姫君なんだよ!!

 ……それだけは…………っ」






 




『――ああ~……、まったく。……仕方のない子ね』


 途端に、赤き瞳が目を丸くさせる。

 

『私がいない間に、アレにちょっかいだす人物がいるなんて……。

 おかげで、アレらに外への道を繋げてしまったじゃない。

 姑息にも厄介な奴らよ本当に。そういうのは先に相談ぐらいしてほしいものだわ』


 呆れ口調が脳内に響いてくる。

 鮮明に。引き付けられる声にエリーの意識が反応した。

 

『ほら。貴方はどうしたいのかしら? なんだったら、星に語りかけてみなさい。……貴方の星にね』


「…………ほ……し……?」


 今がどういう状況なのか。どうなってしまっているのか。自分が何をしているのか。

 急速に流れ込んできた現状。事実を前に、どうすればよいのか。それを声が導いてくれた。


『そう。――貴方は、どうしたい?』


「…………壊したく、……ない」


『じゃあどうするべきかしら?』


「……っ、……守り……たい。……傷つけたく…………ない」


 見えてしまった。自分が今、2体の悪魔に害を与えている姿を。

 このままではいけない。今の状況を覆したい。



『――なら、しっかり意識をたもちなさい。貴方の星も、今の状況も、貴方が止めなさい。

 そのための力の使い方を、私はちゃんと教えたはずよ』



 わずかな意識が呼び戻される。何をすべきか、声はしっかり後押ししてくれた。

 望むのは守るための力。今必要なのは、それだけ。

 必死に星に思いを訴え続ける。

 すると、すぐ目の前まで黒星の一つが降りてきていた。まるで、此処にいるとでも言っている様に。

 エリーはそれに手を伸ばし、触れる。黒い星は闇を払いのけ、色を白く変色させた。


 少女は力の限り叫んだ。その星の名を。



「――払えっ。――【守星(かみぼし)】!!」



 呼び声と共に。少女を中心とし広がった光は室内を支配していた重圧と水晶を一掃する。

 その正体は、光によって構築された障壁だ。まるでこの場にいる者を外敵から守る、守護の障壁。

 辺りが元通りになり、しんと静まり返った。


「……姫君?」


「……はぁ……、大丈夫……ですか?」


 不安と、心配そうに悪魔を見る少女の瞳は、ちゃんといつもの星の瞳にへと戻っていた。

 それを見て、応答よりもニーズヘッグは安堵のため息しか出てこない。


「…………魔女さん」


『お疲れ様。心配したわよ、愛おしい子。もう大丈夫。

 貴方が自分の意志で星を使ったことで、アレらはまた奥に引っ込んだわ』


「……よかったぁ……」


 気が抜けてか。エリーの身が崩れ落ちる。それを即受け止めたのはニーズヘッグだった。

 この場を治めたのはエリーである。褒める様に、ニーズヘッグはエリーの頭を撫でてからクロトにその身を返す。もちろん、サイクロプスもだ。

 体を取り戻したクロトとリキ。2人はいったい何があったのだと、困惑しつつ状況を確認する。


「……どう、なったんだ?」


『あ~、なんつーか。急に俺とサイクロプスが表に引きずり出されたって感じだ。

 ……やったのは、魔女になった姫君、ってことで……いいのか?

 俺もよくわかってねーが、姫君がどうにか踏ん張ったって止めた感じ』


「……そうか」


『気になるといえば、姫君の黒星。あれが急に俺やサイクロプスの魔力を吸い上げてたって事だが、なんもわかんねーな。

 ……これも魔女が知ってる事なら、ちゃんと問いただすときにまとめて聞きたいもんだ』


 【呪い】の仕組み。それを知りにミヤビに着た。

 しかし、欲しい情報は手に入らず、新たな謎が増える一方でしかない。

 そして、今でも頭に残るあの声。


 星の少女の中には、いったい何が潜んでいるというのか……。

『やくまがⅡ 次回予告』


ルキ

「ようやくあの余所者たちが帰るのか。まったく、毎度疲れるんだよアイツら」


アヤメ

「あら。とても楽しい方々だったと思うわよ。エリーさんは可愛らしいですし、クロトさん凛々しいところがありますよね。御二人は御兄妹……ではないみたい。とても気になってしまうわ」


ルキ

「巫女様。あまり余所者に関わりすぎるのもよくないかと……」


アヤメ

「だって、ルキはこういう場でも私のことを「姉上」って呼んでくれないのだもの」


ルキ

「そ、それは……っ。というか、それ今関係ありますか?」


アヤメ

「あるわよぉ!」


ルキ

「断言!?」


アヤメ

「私、姉様なのにぃ……」


ルキ

「ですが……その……っ。やっぱり慣れないと言いますか……」


アヤメ

「私姉様なのに!?」


ルキ

「いえ、決して巫女様が悪いわけではなくてですね……そ、そのぉ…………」


アヤメ

「リキもなかなか私の事を「姉上」って呼んでくれなくて。どうしてみんなそうかしこまってしまうのかしら。2人っきりの時くらい、本音で語り合いたいじゃない。家族なのにぃ……」


ルキ

「わ、わかりました! リキの奴……たまには呼んであげればいいのに……」


アヤメ

「それ、今のルキが言えることかしら……? でも、ルキは昔はよく人前で呼んでくれてたわよね。その度に怒られてたけど……。リキにも言われてたわよね。「人前ではちゃんと巫女様って言わないと」……って」


ルキ

「昔のことを言わないでくださいぃ!! ……あ、…………姉、上」


アヤメ

「姉様嬉しいわ。それじゃあ、ちゃんと次回予告をしないとね」


ルキ

「か、軽く流された気がする……」


アヤメ

「次回。【厄災の姫と魔銃使いⅡ】第三部 三章「異端の0」。そういえば、リキが夜話してくれたんだけど、異国でとても良い人と出会えたそうよ。素敵な女性だとか」


ルキ

「は? リキが? どういうことです巫女様!?」


アヤメ

「会える日があるといいわね」

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