第七十三話「電子戦勃発!」①
……アストラルネット空間自体は、私もすでに体験しているから、それがどんなものか良く理解できている。
実際私もアストラルネット空間で体感で年単位もの間、擬似的に再現された21世紀中期の日本での生活を追体験しているんだが……。
普通にアレが現実だと思いこんでたくらいだったからなぁ……まぁ、思い返すと不自然なところは、いっぱいあったんだがな。
特に、天霧……お前、どう考えても設定に無理があったし、かなーりボロ出してたからな?
それはさておき、あの空間を経由する情報伝達速度は、限りなく無限大速……そこもちゃんと理解している。
なんせ、時間の概念すらもないに等しいんだからなぁ……。
だからこそ、アストラルネット空間を経由する事で、銀河の果てだろうがマゼランだろうが、瞬時に情報のやり取りが可能となっている……実際、アストラル空間経由で、マゼランのアスカ陛下とも、神樹様経由ながらほぼリアルタイムで、連絡が取れていたのだからな。
現状、マゼラン遠征艦隊と銀河系の本国との通信は、アストラル通信ネットワークで行っており、それ故に第三航路でレーザー通信すらも時間単位のタイムラグが出るような距離まで出張ってても、ゼロ陛下がゼロタイムラグ通信を送ってきたり出来ている。
もちろん、今回の作戦でもこんな便利なものを使わない理由がないという事で、通信中継役としてスターシスターズ艦を各艦隊に付けていたし、もちろん、それだけでは間尺に合わないので、現在進行系で各艦隊もあちこちに超空間通信ノードを設置しながら進軍している。
通常の超空間通信……要するに、限定的に第三航路と通常空間を接続して、電波通信を可能とする……エーテル空間経由の超空間通信と同じ方法を使っているんだが……。
「……ふむ、となると超空間通信の方が安定しているのか。このパラメーターだと、多少減衰は受けているものの、完全途絶と言うほどでもないな……。だが、共鳴通信はかなり不安定だな……いかんせん、あいつらデータ圧縮も暗号化もしないで、雑に垂れ流ししてるらしいからなぁ……」
通信状態を見ると超空間通信は影響ゼロとは言わないが、エラー補正が効く程度の影響に留まっているんだが……。
共鳴通信はデータロスが頻繁に発生して、通信速度が酷く下がっている状態だった……原因は良く解らないが、通信時の出力波形を見る限りだと、小さな音に大きな音が重なって、かき消されているとか、それに近いように見える。
確かに、戦闘開始前にも大和ズから、現地とのアストラル空間経由の通信が出来ないと言ってたが。
てっきり、向こうと通信規格が合わないとか、本国側の情報漏洩対策が原因で、時間の問題で解決する……そんな風に思っていたんだが……。
まさか、こちらの通信方法を解析して、ピンポイントで妨害し始めているとでも言うのだろうか?
「各スターシスターズ艦の状況は? 連中の問題という可能性は考えられないか?」
いかんせん、その辺はあの連中のポンコツなところで、あいつら共鳴通信についても、なんとなく便利だから使ってるとか、そんな程度の認識で、自分達でも理屈を良く解ってない……。
ハードにしても、頭脳体経由なんてアナログな仕組みだから、効率も良くないし、共通暗号化規格にしてもあって無きが如しだ。
だから、ハード的な問題という可能性は十分に考えられた。
「いえ、現状、平均してどの頭脳体同士の通信もデータロス多発と言う状況で、艦同士の距離による偏りはありませんし、時間と共に加速度的に悪化している状況です。なので、ハードウェアの問題という可能性はむしろ、低いのではないかと」
なるほど、艦同士が近くても遠くてもお構い無しって事か。
まぁ、元々共鳴通信は距離は関係ないからなぁ。
ただ平均して悪化しているとなると……。
想像できる状況。
こちらの通信方法に感づいて、手探りで段階的に妨害を仕掛けている……そんなところか?
だが、電波通信はまだ解るが、共鳴通信だぞ? 一体どうなってるんだ?
「解った……まともに通信できるのはどの方法だ? レーザー通信ならどうだ? さすがに宇宙空間でレーザー通信を妨害するってのは至難の業のはずだ」
……原因も理由も現時点では解らん。
ならば、共鳴通信は使えないという前提とするべきだろう。
ったく、通信網を狙ってくるとは……なかなか的確な対応じゃないか。
「あ、はい。現在、最前線の艦隊内相互通信ネットワークは、レーザー通信が一番調子が良いとのことです。ですが、電波通信については、全帯域高出力ジャミングをかけられたような状況で極めて不安定、レーダーも当てにならず、観測手段も光学観測頼みと言う状況のようです」
「なるほど、そうなると超空間通信ノードと艦艇間の通信にも問題が起きているということか? むしろ、どの場合は問題ないんだ?」
さすがに、全面的にホワイトアウト状態にはなっていない。
となれば、駄目なケースと問題ないケースに分かれているはずだった。
「そうですね……。通信ノード付近の艦艇や、惑星軌道や小惑星の付近にいる艦隊では割と電波妨害が少ないようで、問題が起きていないみたいですね」
情報統合AIの見解だと、星域全体に強烈な同時多発超広域ジャミングをかけられている可能性ありとのこと。
もっとも、妨害波の発信源や具体的な手段については、一切不明。
最前線に配置された電子戦闘艦艇などが中心になって、ジャミングパターンを解析してECCMを行っているようなんだが、焼け石に水で、要は激しい電波ノイズに星系全域が埋め尽くされつつある……そんな状況のようだった。
本陣艦隊の通信システムは、割と安定してるみたいなんだが。
その辺は、ソレイル108改め「天霧」もだが、ジュノー自身も電子戦に覚えがあるから、割と頑張ってくれてるかららしい……。
調べてみると、どの艦艇も表面温度が上昇気味。
要は、強烈な電磁波の集中砲火を受けているような状況らしい。
もっとも、こんな盛大にジャミング食らってるような状況ともなるとレーザー通信が一番使えるのも納得だし、一度クリーンな第三航路経由で電波を飛ばす超空間通信が安定してるのももっともな話だった。
ちなみに、レーザー通信は低出力レーザーによる超遠距離狙撃に例えられるような代物で、受光部目掛けて低出力レーザーを何本も放って、着弾したレーザーの強弱で情報伝達する仕組みで、お互いの相対速度の差がありすぎたり、距離が遠すぎると不安定になりがち。
宇宙空間で使う場合は、密に中継衛星を配置して、リレー形式でやり取りをするんだが……距離が離れると通信ラグがバカにできなくなってくる。
なお、地上環境では大気減衰やら、水蒸気や砂塵などでの拡散で、あまり使えない。
もっとも、妨害や傍受に強いのが利点なので、最後の通信手段ということで、帝国の宇宙艦艇には標準装備となっており、距離が近い時はレーザー通信が一番転送容量も太くて、使い勝手は悪くない……。
なにぶん、21世紀の宇宙の戦場でも使われていたような枯れた技術なんでな。
私もレーザー通信に関しては、信頼性だけは抜群だと評価している。
となるとひとまず、近場はレーザー通信、遠距離は超空間通信ノードを設置して放置するのではなく、工作艦にでも曳航させて移動式通信中継ポイントとして、艦隊単位で使わせるのが良さそうだった。
幸い……超空間通信ノード設置上限制限条約なんぞ、300年前に破棄して久しいんだから、遠慮は要らない。
もっとも、この超広域電波ジャミングは確かに気になる……。
これを放置してるのは、良くないと私の歴戦の将帥としての直感が囁いていた。
もっとも、ジャミングパターンはホントに単なるノイズ……そうとしか見えない。
しかも、宙域によってジャミング電波の薄いところと濃いところがあるようなんだが、濃いところと言ってもその宙域に何かあるわけでもないし、掃討済みの宙域も含まれていて……要は発信源がまるで特定できない。
もっとも薄いところは、大型デブリや惑星、衛星の重力干渉圏内と言うのが共通しているようだった。
あんまり知られていないんだが、惑星の公転周回軌道上ってのは、惑星の公転に伴い公転軌道に沿って、重力波が発生し、それが結構長々と残り続ける……そう言うものなのだ。
わかりやすく言えば、水面を船が進むと岸の方では、船が作ったさざ波が押し寄せてくるだろ?
あんな感じで、惑星が通過したあとも重力の波が渦を巻いたように残ったり、航跡を残していくのだ。
その辺りは、小惑星や衛星なんかでも一緒。
それに、重力機関を複数搭載した大型宇宙艦艇の付近もジャミング電波は減衰して、甲板とブリッジ間や、艦内通信は全く問題ないらしい。
いずれにせよ、ここまでの情報で解ることは、重力干渉が強い場所では、ジャミングが弱化すること。
星系内で、随分とジャミング強度に落差があるのは、恐らくそう言うことだ。
だが、何故にジャミング強度に重力干渉が関係してくるのだろう?
そもそも、惑星公転軌道やら衛星程度の重力波干渉なんて、高感度重力センサーと高精度の計器を使ってようやっと測定できる程度のもので、チリ程度のデブリを動かしたり、長い目で見れば、小惑星の飛来コースが微妙に変わったり、小さなデブリが寄り集まって隕石になるとか、その程度の影響しかないはずだ。
だが、参ったな……アスカ星系の特有の問題なのか? これは……。
確かに、アスカ陛下も背景電波ノイズの観測データまでは送って来ていなかったので、こちらもそこまで重要視していなかったし、そもそも、こんな星域全域に濃密なジャミングがかかってるような星系……見たことも聞いたことも無い。
むしろ、至近距離に電波パルサーでもあるって言われた方がまだ説得力があるんだが……。
現着した艦隊がこれまで観測した周辺の天体情報……マゼランの恒星配置データは、後方の永友提督の支援艦隊に送られており、なかなかの急ピッチでマゼラン3D恒星マップが作成されている……。
なお、近隣の電波パルサーのような目立つ天体の報告は上がってきていない。
なんせ電波パルサーってのは、宇宙の主要電波ノイズの代表格なんだからなぁ……。
一応、AIにも確認を取ってるんだが、星系外天体由来の電波ノイズの可能性は考えにくいとの回答。
それに、ノイズパターンについても天体由来の電波ノイズとはかなり異なっている。
頻繁に使用されている周波数にダイレクトに被せてくる人為的なノイズジャミングの手法に似ている……だとすれば、これは意図があって、仕掛けられている。
つまり、敵の攻撃だと断ずるべきなんだが。
案外、これは別の主目的があって、ジャミング自体が副産物……と言う可能性もある。
そもそも、アストラルネットのジャミングにしても、明らかにおかしい……波形自体は、小さな波が大きな波にかき消される……ありがちなジャミング手法ではあるんだが。
なんと言うか……雑すぎる。
むしろ、結果的にこうなっているだけと言う可能性の方が高い……。




