第七十二話「そして、戦いは続く」③
だが、これが果たして、吉兆なのか、凶兆なのかは解らないが、ひとまず悪い話じゃない。
何よりも、エーテル空間と通常空間の接続ゲートと比較すると、何も無い宇宙空間同士の接続なので、制約は格段に少ない。
まぁ、これが第三航路の最大の利点でもあるからな。
やっぱり、シームレスに宇宙艦艇を出入りさせることが出来るのは大きい。
と言うか、エーテル空間が微妙過ぎるんだよなぁ……。
なんで、あんな狭っ苦しい空間で空気と重力までセットにしたんだかなぁ……。
とりあえず、この超空間ゲートはこちらの命綱でもあるし、恒久拠点化の前提でゲートの外と中、両側で次々と連結式の基地設備を増設中で、本格的なkm級の巨大ゲートステーション施設が時間の問題で設営できそうだった。
ちなみに、惑星アスカからだと、Bigファイアまで10天文単位も離れていないのだが、こちらからの30天文単位はやはり、かなり遠い……10%亜光速で42時間ほど……光の速度でも4時間以上はかかる距離だった。
現状は、全艦艇が厳重警戒戦速……1%亜光速までに速度制限しているから、420時間……凡そ17日半ほどの日程だった。
実際は、テンプラーに近づくほどに敵の迎撃が激しくなるだろうから、その2-3倍の日数……一ヶ月か二ヶ月くらいはかかるだろう。
思い切って、亜光速ドライブで10%亜光速まで加速して一気に突撃すれば、それこそ2日程度でたどり着けるんだが……。
さすがに、いつどこからイフリートが現れるか解らない上に、空間デブリ情報もまるで無いので、帝国標準宇宙速度と呼ばれる10%亜光速ドライブはとても使えない。
まぁ、どっかのバカどもは5%亜光速まで出して、爆走してたみたいなんだが……代償にどの艦も小規模デブリに当たって、前面装甲がボッコボコで、中には正面からもろにヒットしたせいで、装甲は抜かれなかったものの、艦体が歪んでまっすぐ進まなくなったとかで戻ってきた艦もあって、そいつらは軒並み緊急ドック入り……。
……無茶しやがってって奴だった。
凡そ、一ヶ月……これがBigファイア攻略までの最短日数と言えるのだから、まだまだ全然序盤戦も序盤戦なんだが……。
敵の出方は未だ見えず……その手の内も見えない。
まったく、手探りの戦争だな。
あの惑星テンプラーのBigファイアから、たんまりレッドシップが湧いてくるとかそんな展開のほうがまだ解りやすいし、物量戦ともなれば、こちらの勝ち目も十分あるんだがな。
なにせ、物量面では本国から、10万隻の大艦隊が一ヶ月どころか半年くらいは軽く戦えるくらいの物資を送り込んでいる上に、後続艦隊も一万隻どころか2-30万隻くらいは集まりそうな勢い。
なんせ、旧第三帝国アルヴェール防衛艦隊は根こそぎ動員……と言うか、むしろ自主的に参戦しているし、他の帝国についても、首都星系防衛艦隊も物資ももう出せるだけ、出すとのことで足並みも揃ってる。
ちなみに、アルヴェール防衛艦隊もせめて2-3割は留守番に残そうと言う話になってたんだが。
選に漏れた連中が涙ながらに、私に直訴してきたので、根負けした。
その代わり無人駆逐艦やら、航続距離と索敵に全振りした巡察艦やらは、たんまり残してきたから、根こそぎ空っぽってほどでもないし、銀河守護艦隊戦で真っ先に負けて、帝国の守り手たる戦闘国家の役割を果たせなかった罪滅ぼしという事で、第一帝国から派遣された宇宙艦隊の乗員達が留守番役を買って出てくれて、モスボールされてた旧式宇宙戦艦でゲート周辺や本星の守りを固めてくれているので、ノーガードって訳でもない。
更に、帝国各地でも急ピッチで日間宇宙戦艦ってノリで大量増産してるそうなので、100万隻の宇宙艦隊とかギャグみたいな数もまんざらではないらしいんだが……。
もっとも、そんなに宇宙戦艦作っても、今度は乗せる兵隊が足りない! とかなりそうだったんだが……。
軍事国家の第一帝国とかは、国民皆兵制度の国なので、予備役が山盛り居て、続々と復役して送り込まれてきているし、第三帝国も志願兵が大量に応募してきてるとかで、人手不足の心配はなさそうだった。
まぁ、予備役上がりはともかく、民間人上がりの志願兵とか何か役に立つかと言えば、そこは微妙なんだが……。
皆、熱意はあるし、AIの最終承認者としてなら、それなりに役に立つし、輸送艦も不足気味で、前代未聞なほどの量の物資でアルヴェールの中継港が溢れかえっているらしく、もう現場は人出不足で、とにかく人をよこせ! って悲鳴が出てるそうだから、そう言う任務にでもあてがえばいいだろう。
ちなみに、1%亜光速とか、宇宙艦の速度としては鈍亀速度と言え、平時の民間輸送艦の方がよほど早かったりする……。
もっとも、あれはあくまで安全が保証されたミリサイズのデブリまで徹底的に除去したクリーンな決められた航路から外れなければ安全って前提で、目一杯飛ばせるってだけの話だからな。
もっとも、第三航路はデブリどころか、浮遊原子すらもほとんど無く、座標制定の標識衛星の設営も終わりつつあり、そろそろ亜光速ドライブ解禁って話も出てるようだった。
そうなれば、銀河系とマゼランの半年の道のりも大幅に短縮が可能となる。
ひとまず、急ぐ必要はない……内心では、妙な焦燥感にかられてるんだが、焦りは禁物だ。
もちろん、ここで麾下の全艦隊に亜光速ドライブによるテンプラーへの一斉突撃を命じると言う手もある。
志願者を募れば、我こそをって命知らずの猛者がいくらでも志願してくれると思うんだが……行かせた奴らが、総員殉職する未来しか見えないんだよなぁ……。
もちろん、そんな全艦隊突撃とか胸アツ展開……アニメや漫画だったら、普通に勝利フラグなんだが。
現実は、そんな甘くない……むしろ、全滅フラグだ。
さすがに、そこまでは無茶は出来ん。
そして、惑星アスカまでともなると、今度は片道40天文単位……。
解ってはいたが、やはり遠いな……アスカ陛下も当面は捨て置いてもらって、結構と言っていたのもよく解る。
ざっと計算した感じだと、ゲートからだと、560時間……23日後の到着だ。
今も拡大望遠映像では、惑星地上や上空で派手にドンパチやり合っている様子がおぼろげながら見えているんだが、これだってリアルタイムの映像じゃない。
およそ、6時間前の状況……安心材料としては、惑星破壊兵器や大規模殲滅兵器などが用いられた様子もなく、制宙権についてもマゼラン製大和が出撃のドサクサで惑星上空のレッドシップをまとめて全滅させていった上に……。
せっかく惑星アスカに集まりかけていたレッドシップも、惑星よりも宇宙戦艦をほっとく方がヤバいと判断したようで、もう惑星アスカそっちのけで追撃戦に参加してしまったようなのだ。
もちろん、20隻くらいが付近に留まってはいるようなんだが、下手に近づくと反物質レーザー狙撃を食らうので、100万キロくらいとめっちゃ遠巻きにしてるような調子で、明らかに及び腰……。
結果的に、地上のラース文明に属する側も、宇宙からの衛星軌道援護無しでの泥沼の塹壕戦を余儀なくされていて、順調に時間稼ぎが出来ているようだった。
なお、今……我々が見ているBigファイアは4時間半前の姿で、その4時間半前の時点では動きがない。
散発的にガチャガチャやってはいるようなんだが、どうも神樹様が定期的に超遠距離レーザー砲撃でもしているらしく、惑星テンプラーの大気圏内で派手な爆発も起きているようだった。
と言うか、10天文単位離れてても届くって、何事だよ?
もちろん、宇宙ってのは遮るものがないから、惑星みたいに一定速度で動いてる事実上の固定目標にレーザーを撃てば、当たることは当たるんだが……。
んな、ガスジャイアント惑星の大気が誘爆するくらいの高出力レーザーっていったい……。
あれだな……コロニーレーザーとかソーラ・レイとかそれ以上のバカ威力なんだろうな。
なんか、神樹様……むしろ、進化してるような。
間違いなくアスカ陛下……なんかやらかしてる。
ただし、リアルタイム……現時点で惑星テンプラーがどうなっているかは、惑星アスカ同様、残念ながら知るすべはない。
解っていることとしては、その炎の渦の回転速度が徐々に早まっている事……。
どう言う理屈かは解らないが、回転速度の上昇に伴いテンプラー自体が赤く染まり始め、周辺宙域も赤い霧のような物質が増えているようで、全体的に赤みがかかって見えるようになってきていた。
そして、それが何を意味しているのは、現時点では不明だった。
なお、こちらの制宙権確保領域は、ゲート周辺からの到達距離で言えば、10天文単位まで進出している艦隊はいるんだが、制宙権の確保となると1天文単位に届くかどうかで、まだまだ全然端っこしか制圧できていない。
索敵艦隊を送り込んでから、掃宙艦を送り込んで細かいデブリを念入りに焼き払うことでクリアにしたカイパーベルトラインのごく一部と、先陣艦隊が到達しつつある星系外周惑星群……アイスジャイアント惑星群までが、現時点の我軍の到達地点だった……。
なお、この数字はむしろ上出来と言える程には迅速な進軍速度で、なにげに事前のVR演習記録を更新するほどの迅速さで、今のところ……我が帝国軍に目立った落ち度はないと断言してもいい。
こちらの兵力もすでに、先発艦隊の2000隻に加えて、続々と後続が到着しつつあり、第三航路空間の野戦補給基地で、補給と休息……戦闘準備を済ませた艦から、順次突入……息着く間もなく、展開中の艦隊の増援として向かわせている。
……そろそろ、5000隻くらいは展開しているんだが、先陣艦隊の面々は戦い詰めで皆、力尽き始めているし、隊列もぐちゃぐちゃで、先へ行くほど艦隊の数がすっかすかな先細り状態の無様な陣形で、まるで秩序だってもいない。
まぁ、作戦開始から約100時間……未だ事故以外での損失が皆無と言う時点で、殊勲ものと言えるし、現時点では兵器性能で圧倒していて、ラース文明の宇宙戦艦も直接戦闘ではむしろ、まるで相手になっていない。
小型イフリートの精霊化についても、未だに脅威ではあるんだが……プラズマ兵器を用いた事で精霊化しても対処できており、致命的な状況にはなっていない。
いわば、楽勝ムードとも言えるのだが。
なんと言うか、酷く落ち着かない……戦場の嫌な予感とでも言うのだろうか。
或いは、元情報戦関係者だった頃の勘……か。
先程から、戦場の3Dマップや各地の観測情報をまとめながら、私なりに情報を精査してるんだが。
その嫌な予感の正体がどうにも知れない。
こう言うときは、AIや参謀に相談してみるべきなんだが……。
なんと言うか、漠然とし過ぎていて、言葉にできない。
さて、どうしたものか……。




