第七十二話「そして、戦いは続く」②
第二次エスクロン防衛戦は、実は割と楽な展開だったみたいなんだよなぁ。
まず、エーテル空間での帝国エーテル空間艦隊の大敗……。
これはもうどうしょうもなかった。
あの時、エスクロンも辺境銀河連合艦隊は、可能な限りの戦力と備えを用意して帰還者を迎え撃ったんだが……。
結果的に、それが届かなかった上に、エスクロンが侵攻ルートの直撃をもらうと言う不運。
エスクロン防衛艦隊の壊滅、要塞中継港の陥落、ゲートの占拠。
まぁ、途中でゼロ皇帝の撤退中に大逆走の上で、占拠されかけてたエスクロンゲートへ強行突入とかそんなのもありながら、続いてエスクロン星系での決戦が始まったんだが。
第一次エスクロン防衛戦の戦訓ってのがあったから、ゲート陥落後は本星以外の全宙域から全戦力総撤退の上で、惑星エスクロンに防衛リソースを全集中とした。
コレ自体はかなり思い切った策で当然のように反対意見もあったんだが……ゼロ皇帝の強権発動で、全軍惑星エスクロンに集結ってなった。
結果的に、エスクロン防衛艦隊は、宇宙戦力の大半を維持したままで、エスクロン周辺への大規模戦力の展開に成功した。
それでも、帰還者の勢いは凄まじく、エスクロン周辺の制宙権も敵の大気圏内突入を許して、地上戦が発生するほどに追い込まれていたんだが……。
総大将がゼロ皇帝という事で、宇宙軍とエスクロン市民の士気も旺盛で、何と言っても地上戦のどさくさであのユーリィが復活して、参戦してきたってのがデカかった。
惑星攻略戦の陣頭指揮を執るべく、ノコノコ最前線に出張ってきていた帰還者の統制個体をユーリィが単騎駆の末、粉砕してからは、敵も総崩れとなって、あっさりゲートの奪還に成功してるし、残存戦力も物のついでみたいな感じで壊滅させている。
要するに、過去の戦訓としては、宇宙の戦場での勝利の秘訣って、その広大な戦域で如何に自軍の統制を維持して、極力戦力を一箇所に集中できるかって事なんだよなぁ……。
そして、どんな大軍勢も統制艦なり、統制個体を潰せば総崩れになる。
奇しくも過去の二度に渡るエスクロン攻防戦では、どちらも敵の総大将が最前線に出てきていて、それが討ち取られたことで総崩れになったってのは、同じような展開と言えるんだが。
逆を言えば、攻勢側も広がりすぎた戦域の統制が維持できなくなって、総大将が前に出て陣頭指揮を取らないといけなくなっていた……と言う事でもあるのだ。
……そこはよく解るなぁ。
私も、地球連合軍の残存艦隊を率いて、木星の人類統合体の宇宙艦隊を相手取った電撃攻略戦の指揮を取ったことがあるから解るんだが……。
攻勢の際の統制の維持ってのは、マジでキツい。
総合指揮なんて、後方から前線を管制してあれこれ指示してればいいって思うかもしれんが。
宇宙の戦場じゃ、戦域の広大化に伴い前線と後方の司令部との通信タイムラグが加速度的にどんどん大きくなっていくし、後方から見えてる状況が何時間も前とかなってくると、後方の司令部は正しい判断を下せなくなってしまう。
だからこそ、前線指揮官ってもんが必須となっているんだが。
今度は、その前線指揮官同士であーでもない、こーでもないとわちゃわちゃやりだして、グダグダになりがちなのだ。
そうなってくると、階級が高いヤツが私自ら最前線に出て仕切るから、文句あるかっ!
とまぁ、そうもなるんだわ……。
で、最悪なのがその総大将が討ち死にとかするパターン。
そうなると、後方の指示を仰ごうにも連絡に時間がかかって、最前線の指揮官同士でごちゃごちゃとやりあって、訳わかんなくなる……。
そして、そんなウダウダやってる隙に、敵の反抗の前にあっさり総崩れになる……。
実際、帰還者なんて、総大将が落とされたら、いきなり一斉敵前Uターンとかアホな事やらかして、ユーリィを援護すべく追いかけてきてた艦隊の全火力集中砲火を横っ腹からまともに食らって、壊滅してるんだからな。
……なお、これ負けパターンの典型。
木星の人類統合体の艦隊も木星側の指導者にして、最高指揮官が陣頭指揮取ってて討ち死にしたせいで、それまで圧倒的に優勢だったのに総崩れになったからなぁ……。
だからこそ、こちらも艦隊の統制が取れる範囲で、割とジワジワと制宙権を確保していっているし、相互通信にしても無理くりな形ながらも、第三航路経由の超空間通信を使って確保している。
対する敵は、いいところリレー方式での光通信くらいで、タイムラグも大きいことで、この時点でこちらがあらゆる面で戦略的にも優位に立てるだろうってのが、事前の想定だったんだが。
明らかに、敵の動きは光の速度を超える情報伝達を実現していないと出来ない程には秩序だっている。
それこそ、こちらと遜色ないレベルで……。
ちなみに、敵の本丸……Bigファイアから、こちらのゲートまでの距離は凡そ30天文単位。
公転軌道の関係で、ほぼ正反対の位置になっているゲートからの距離はかなり遠いんだが、Bigファイアの陣取る第六惑星のお隣の第七惑星を攻略すべく主力を投入中で、ゲートと第七惑星の直線ルート間が現状最大の激戦区となっている。
他でも散発的にやりあってはいるんだが、基本的に敵はこちらが押すと押し返して来るってのが基本戦略のようで、あまり大勢に影響しそうもない方面では、敵も及び腰で……なんと言うか暖簾に腕押しって感じでいまいちパッとしない。
せめて、ゲートの座標がBigファイアに近い場所なら、もう少しやりやすかったんだが。
いかんせん、ゲートの最適要件としては、恒星重力圏内でかつ、恒星重力の影響が最低限で、その上でデブリや氷塊やらの密度が薄い所……となると、今の場所……カイパーベルトと最外周惑星軌道間の微妙に開けた何も無い隙間が最適ではあるのだ。
ゲート設営ポイントについては、ひかりの民に任せたんだが、彼らがそこが重力的に一番安定してると判断した宙域なので、我々には理解できないような様々な要因を加味して、選んでくれたのは間違いないだろう。
実際、このゲート……めちゃくちゃ安定してる。
ゲート設営維持部隊もゲートシップの出力をアイドルにして、そのままほっといてもゲートを維持できそうとかそんな報告をしているほどだった。
実際のエーテル空間ゲートも、大型のガスジャイアント惑星の公転軌道の正反対側……重力均衡点に設置されていた例もあり、そう言うポイントも悪くはないようなんだが……。
いかんせん、これまで人類独自のゲートがちゃんと作れた試しなんて一度もなく、実は地味に今回のマゼラン遠征で純正の人類製超空間ゲートの設置に、史上初めて成功している……。
要は、理屈は合ってたんだが、何かが足りてなかった……どうも、そう言うことだったようで、ひかりの民はその何かを無造作に足すことで、この超空間転移ゲートを万全なものに仕上げてくれた。
……まったく、異星人におんぶに抱っことはみっともない話ではあるんだが。
アスカ陛下は、それも含めて我々の実力だと評していたそうなので、胸を張るべきだろう。
とは言え、途中の遊星星系で中継拠点星系の確保のついでに試しに設置してみたって程度なんで、果たして長期的にどうなるかとか、その辺もなんとも言えないし、エネルギー効率については、割と絶望的に悪いとのことで、中継星系でも採掘した水素燃料の大半をゲート維持の為の発電に使っているとか、本末転倒なことになっているとの報告が来ていた。
もっとも、このアスカ星系に設営したゲートは、それら実験的に設営したゲートと比較しても、桁違いの安定性を発揮している。
使ってる機材は、全く同じものなので、明らかに環境要因だと思われるのだが……なんで、こうなるのかが解らない。
電力効率については、それまでと比較しても1/10程度の消費電力で済んでいると言うのだから、驚きだった。
この星系は全体的に空間干渉力が低いから、ゲートを閉じようとする力が弱いとか、そんな説明をジュノアから受けたんだが……そもそも、空間干渉力ってなんだ? ってそこからなので、こちらも全然話になっていない。
まぁ、ざっと説明すると、まず万物には空間干渉力というものが存在し、それらが相互作用を起こして、均等化することで空間というものは安定するらしい……どうも、重力と似たようなものらしいんだが、重力とは別物らしい。
おう、もうワケがわからんね。
そして、それは真空の宇宙でも同様で、空間干渉力の高い真空と低い真空があって、空間干渉力の低い真空の方が容易に別の空間と繋げることが出来る。
な? 解ったような解らないような……。
なるほど! と言ってしまえば、そこまでなんだが。
空間干渉力の高い真空と低い真空って概念がそもそも良く解らない。
宇宙の真空ってのはどこも一緒じゃないのか?
どうも、重力と関係があるようなんだが、そこら辺は偉い学者様が頑張って、何言ってるか解らない状態から、何となく解るような気がする状態に持っていこうと頑張ってくれているらしい。
いずれにせよ……要するに、この超空間ゲートについては、こちらも情報がまるで足りてない。
だからこそ、安全策と言うことで、ひかりの民のおすすめスポット……無難な場所に設置したんだが……。
さすがに、ここまで安定するのは想定外だったらしい。
な? 第一人者が想定外に安定してるとか言ってんだぜ? お前らが解んないことが私らにわかるかって話だ。




