第七十二話「そして、戦いは続く」①
そして……。
作戦開始から、早くも四日が経過した。
当初は、こちらも破竹の進軍だったんだが、さすがに作戦開始から七十二時間を超えたことで、兵の疲弊も隠せなくなってきたし、第一陣の連中も、新たにやってきた第二陣の艦隊と入れ違いになる形で続々と帰還中だった。
アスカ陛下が動いてからだと、すでに136時間ほどが経過しており、最初はてんでバラバラだった敵もじわじわと集結を始めているんだが、こっちもそうさせじと動いてるから、もう星系中の至る所が戦場となりつつあった。
もっとも、ここ本陣は至って平和なもの。
私もちょうど休憩明けで、お風呂行って、食事も済ませてきた。
これが陸の最前線とかだったら、そんな余裕なんてある理由がない。
食事は、携帯栄養スティック食をミネラルウォーターで流し込むとかなるし、着たきりスズメで、男女問わず異臭を漂わすとかそんなになる。
これでも、地球の地上で人類統合体の陸戦隊相手にヒマラヤ山脈の要塞戦で一ヶ月くらいの籠城戦を戦った経験者だからな……陸戦の過酷さに比べたら、衣食住完璧な宇宙戦艦での生活なんて天国みたいなもんだ。
当然ながら私も司令室に詰めているのは、12時間までとしていて、残り半分は好きにしてる。
なんせ、丸一日なんの進展もないなんてのも珍しくないんだからな。
ゲーニッツも、慣れてきたみたいで休んでくれるようになった……というか、風呂キャンセルとかやりだして、オペ子ちゃん達から苦情が来るようになったから、風呂行って部屋で寝てこい! って命令してやった。
ったく、休めって命令出さなきゃいかんとか、ブラック脳過ぎるだろ。
ひとまず、休憩中の進展確認……案の定、あんまり進展はないんだが。
思った以上に戦場のテンポが早い事に気づく。
私が知る宇宙の戦争や、過去のエスクロン防衛戦も、展開自体はもっとスローリーで、味方の動きは過去の事例とそう変わりないんだが……。
たったの100時間程度で、敵も混乱を収束しつつあり、秩序だった反撃体制を構築しつつあるのが見て取れる。
奇襲攻撃を受けた状態で、星系規模の軍勢をわずか100時間以内で混乱を収束する……。
端的に言って、出来るわけがない。
そもそも、星系の端から端まで情報が届いて、返信を送ってそれが届くまでで、それくらいの時間はかかるはずなんだが……。
敵の動きはカイパーベルトの正反対に至るまで秩序だっていて、すでに各所で迎撃体制を整えつつあった。
なんだこれ?
向こうの統制……どう考えてもチートレベルだろ……。
本来、光の速度でも、星系の端から端まで情報が届くのは軽く数十時間とかそんなもんなんで、星系規模であっちこっちに小規模艦隊を派遣して、縦横無尽に動かすとかやっても、中央集権体制では、統制が取れなくなるのが関の山。
だからこそ、思い切って現場判断に一任するか……手っ取り早く全戦力集結ってやる……これが定石と言える。
そうやって、敵対戦力が一塊になってしまうと対応する側も、小細工無用で全戦力をかき集めるしかなくなる。
数の暴力ってのはそんなもんで、結局、数には数で対抗する他ない。
昔やった実弾演習でも侵攻側の想定は、外宇宙から侵攻し、有人惑星の攻略を最優先目標とするパターンがほとんどだった。
これは、星系攻略を想定して、様々な方法をシミュレーションして、結局それが一番損害も少なく、手間も省けるって事でむしろ、他にやりようがないとの結論だったから。
もちろん、エーテル空間ゲートからの侵攻も想定しないこともなかったんだが……結局、ゲート経由だと大戦力の展開なんて無理筋なんだよな。
仮に宇宙戦艦をゲート通過させるまでに、一隻10分で通過出来るとする。
もちろん、これはエーテル空間のゲートサイズを考慮しないと仮定しており、この時点で非現実的なんだが……。
この場合、一時間で6隻……そうたった6隻。
丸一日かけても、144隻しか通せない計算だ。
実際は、ゲート経由だと一度完全に分解して、パーツ単位で運び込むことになるので、一日かけて10隻くらい送り込めれば御の字だろう。
なお、現状アスカ星系への戦力展開も似たような状況なんだが。
一応、これはゲートを太くして5本くらい用意することで、一日500隻くらいを展開できるようになってる。
もっとも、それでも全然間尺にあってなくて、第三航路のゲート前には順番待ちの艦艇が列をなしているんだがね。
いずれにせよ、ゲート通過は戦力展開に際しては完全にボトルネックになるってのが実情だ。
そんな事をするくらいなら、人知れずカイパーベルト宙域にでも秘密工廠を作って、こっそり宇宙艦隊を現地生産したほうが早いと言われており、実際過去にエスクロンは傘下星系のクオン星系で、惑星揚陸戦艦とその護衛艦艇、合わせて10隻あまりを現地の秘匿工廠で生産した上で、いきなりコロニーに送り込んで、現地軍を愕然とさせたとかやらかしてるからな。
いずれにせよ、侵攻側の基本は外宇宙からやってきて、一旦一箇所に固まって団子になって、長蛇の列を作りながら、有人惑星に向かってゾロゾロと進軍していく行く……そんな感じになると予想されていた。
そして、その間の数カ所程度のアステロイド帯だの、運悪く進行ルートに当たった惑星や、宇宙要塞と言った星系防衛拠点の攻略と、進軍すればするほど長くなっていく補給線の防衛の為に高速小型艦を中心とした小規模艦隊を無数に配置して防衛側の残置戦力の奇襲やゲリラ攻撃に備える……とまぁ、こんな感じだった。
ちなみに、星系規模の侵攻戦で複数の進行ルートを使うのは、はっきり言って意味がない。
なんせ、結局目的地は一緒だから、三本の侵攻ラインとか使っても、最終的に合流する上に、兵力分散の愚を犯したうえで、各個撃破とか笑い話にもならない事になりかねない。
なにせ防衛側はとにかく、有人惑星を守り切るべく、全戦力を惑星周辺にかき集める……もう、それが戦略目標と言っても過言ではないし、結局そうするのが一番効率もよく、勝ち目もある。
あれやこれや全部守ろうとした所で、宇宙のスケールでは結局、何も守れずに終わってしまう。
だからこそ、最優先の防衛目標を決めて、そこに全戦力をかき集めて、決戦を挑む……他の方法なんて、やりようがない。
それ故に、攻撃側も同様に全戦力をかき集めて、一本道で侵攻……となるわけだ。
防御側にしても、多段的な縦深防御陣とか、二手に分かれての挟撃とかそう言う手もなくもないのだが。
ゴリゴリ大兵力で押し寄せてくる敵に、縦深防御陣を敷いた所で後ろで遊んでる戦力が出来て、最前線はあっさり粉砕されて抜かれて……となって、むしろ敗北が早くなるだけ。
軍勢を二手に分けるのも論外で、そんなの片方に戦力を集中すれば、ランチェスターの法則で一方的に粉砕できるワケで……やっぱり意味がない。
なにせ、防御側は外宇宙から侵攻された時点で逃げ場もないんだから。
ゲートを守っても、増援に期待できない以上は一旦閉鎖して、放棄するしかないし、何よりも最重要戦略拠点たる有人惑星が攻撃を受けたり、占拠されたらもう負け確だから、どうやっても動かしようがない有人惑星の防衛に専念するしか無い……まさに背水の陣という事になる。
だからこそ、最終防衛線も惑星衛星軌道付近に薄く広く敷くことになるし、敵艦隊の方が数で優勢なら、少数艦隊による射程ギリギリのタッチアンドゴーアタックでの嫌がらせ攻撃やら、小規模艦隊を後方に回り込ませて、補給線の攻撃や擾乱攻撃などで足を引っ張るくらいはするんだが……。
基本は、宇宙要塞や超大型艦艇の防御力や長射程重兵器を頼みに火力の応酬による我慢比べ……とまぁ、こんな感じの戦いになる。
もっとも防御側の方が拠点が近いことでの手厚い後方支援を受けられたり、補給が楽な事で、攻撃側より有利なので、同数規模艦隊同士なら防御側が勝つ……と言うのが定説ではあるんだが。
防御側は、イニシアチブも戦略機動力も捨てた状況で戦うことになるので、かつての地上の戦争ほど防御側が有利とはならない。
実際、過去のエスクロン防衛戦もそんな感じで、第一次のAI戦争の時はカイパーベルトから湧き出した大艦隊にゲートが奇襲されて、割と早い段階でゲート閉鎖の上で総撤退。
次にアステロイドベルト帯に防衛ラインを敷いて迎え撃つも、あっさり抜かれて包囲殲滅の危機に陥りつつも撤退に成功。
もっとも、これは明らかに悪手でエスクロン側は、この戦いで防衛戦力の半数近くを失うと言う結果に終わった。
そして、いよいよわずか数万隻となった残存戦力で、10万隻にまで膨れ上がった敵の最大戦力と言えるAI主力艦隊を相手取っての惑星上空の攻防となった……。
本来、この時点で勝ち目もなかったはずなんだが、結果は逆転勝利で返り討ち。
そっから先は、敵の艦隊再編成の隙を与えずに、生き残った全艦隊をかき集めて、電撃速攻でガスジャイアント惑星の衛星軌道上に作られていた造反AIの生産拠点に集中攻撃を仕掛けて一気に攻略。
敵の本拠地カイパーベルトで、そこそこの規模の残存艦隊との戦いもあったようだが……。
その時点で、戦力比では完全に逆転してた上に、敵の首魁の超AIフォーチュンテラーについても、エスクロン上空攻防戦でエスクロン側が仕掛けた大規模ジャミングで崩れた統制を回復すべく、陣頭指揮みたいな事をやってたのが仇になって、割とまっさきに撃破されていた。
要は、統制を取れる個体が消えてしまった事で、割とあっさりと反乱AI艦隊は崩壊して、終わったらしいんだが。
そんなラスボスのフォーンチュンテラーが真っ先に沈んでたなんてことは、戦後の分析で解った事で、前線の将兵達はエスクロン上空攻防戦で、惑星守護戦艦の万古が抜かれて、いよいよ地上の惑星防空システムが仕事するような状況になって、もう駄目かって思っていたら、なんだかよく解らないうちに、敵艦隊が唐突に総崩れになったとか、そんな調子だったらしい。




