第七十一話「束の間の勝利」①
「たった一回の局地的勝利に過ぎないのに、さすがに大げさすぎやしないか?」
思わぬ、熱狂ぶりにむしろ、こっちは冷静になってしまう。
「ははっ、考えても見てくだせぇよ……。これまでラースシンドロームは未知の脅威で、犠牲者も数多く出ています……その元凶の炎の精霊にしても、初の本格交戦という事で、俺も含めて皆、そもそも勝ち目があるのかって、気が気ではなかったんですよ……」
「おいおい、大げさだな……。いくらなんでも、勝ち目がないなんてありえんだろ……こちとら銀河最強、帝国宇宙艦隊なんだぞ?」
「ロズウェル司令……。普通に考えて、レーザーもレールガンも効かない上に真空中で燃え盛る炎なんて、もはや科学も物理も超越した存在……。そんなもの本当に倒せるのかと誰もが思いますよ。かくいう俺もこんなのどうやって倒せって言うんだって、思ってましたからね」
「……ですよね? 俺も内心では無茶振りキターッ! って思ってましたからねぇ……」
マイゼンが苦笑しながら答える……。
確かにぶっつけ本番、資料ブン投げて、それで殺れるか試して来いとか、限りなく鉄砲玉だ。
私がコイツの立場だったら、たぶん泣いてたと思う。
「……じ、実際、ちゃんと倒せたじゃないか。まぁ、私には確実に倒せるって確信があったからな……。何故ならば、アスカ様が精霊は殺せるっておっしゃっていた! 理由なんてそれで十分だろ。だが何よりも……これはマイゼン達、現場の頑張りの勝利だろ!」
うん。
根拠としては、十分だと思う。
開発部は、試してみないと解んないとかヌカしてたが、情報はきっちり揃ってたと思う。
「あのですねぇ……。普通は、いくら殺せるって言われても、あんなの途方に暮れるしか無いですよ……。マイゼン達も確かに頑張ってましたが、あれを現場レベルでどうにか出来るわけがないですよ」
「まぁ、確かに……現場に丸投げとか……そんなの駄目な指揮官の見本みたいなもんだからな。だが、そもそも、あれは絶対に勝てる戦い。私はそう信じてたし、想定の範囲内だった……そんなビビるような相手じゃないだろ」
「ええ、だからこそ俺達は、ロズウェル中将を称賛してるんですよ! 中将はあらかじめエネルギー生命体に対抗出来る装備を現場に支給してくれていた上に、未知の敵への恐怖に屈することなく、冷静に現場指揮を行い、ワケの解らん超兵器ではなく、そこら中にあるような通常兵器で、いとも簡単に炎の精霊を殺す筋道を示して、勝利に導いた! ……これを称賛しない方がおかしいでしょう」
「そうですよ! ロズウェル中将……これは中将の功績です! 閣下が居なかったら、マイゼン中尉達もどうなっていたやら……」
「ええ、俺らも中将の指揮だったからこそ、安心して戦えたんですよ。……前も言いましたけど、兵隊ってのは自分らを死なせずに生かして帰してくれる指揮官こそ、最高って思ってるんですよ。そう言う意味では、中将こそ最高の指揮官ってやつですよ!」
「ええ、ええ、ハルカ様……じゃなかった! ロズウェル様は、いつだって最高ですからね! 皆さん、この人……褒められ慣れてないから、ツンケンしてるように見えますけど。言ってみれば、単なる照れ隠し、ツンデレなんですよ……。ハルカ様、少しは素直になりましょう!」
天霧……お前、しれっとハルカ様とか言うなよ。
だが、ここに来てようやっと、ロズウェルではなく、天風遙として皆に認められた。
それもまた事実かもしれない……。
「誰がツンデレだよ……。天霧っ!」
私の天霧への返しに皆もわっと湧く。
だが……誰もが私を称賛し、拍手と共に勝利を祝っていた。
まるで、この戦争自体に勝利したかのような騒ぎっぷりだった。
素直になりましょう……か。
なるほど、私もそんな大それた事をしたという意識は無かったんだが、未知の敵との交戦に際し、冷静に現場の支援と指揮を行い速やかに完全勝利に導いた。
……まぁ、客観的に見ても、この指揮官すげぇ! 大金星! ってヤツだよなぁ……。
今の今まで、自分がそんな大それたことをやったって気がしなかったんだが。
十分、大それたこと……だよな?
未知の敵に対して、最前線で臆することなく立ち向かった現場のマイゼン達こそ、称賛されるべきって思ってたんだが。
確かに、兵隊ってのは戦場でどう生き残るかってのが最優先で、生き残らせてくれる指揮官こそ、最後までついていく価値がある。
……そんな調子ではあるんだよな。
未知の状況に臆することなく、後方から冷静に最適解を出して、現場に指示を出し、勝利に導く……か。
確かに、前線指揮官としてはこの上なくパーフェクトな仕事か。
この指揮官すげぇ! って、そうもなるか。
でも、なんなんだ……この居心地の悪さは……。
ロズウェル「素直に喜んどけばいい」
ハルカ・アマカゼ「私も日陰者ではなく、こんな風に心からの称賛を受けたかった……」
……お前のせいかよ! このややこしい気分はっ!
あー、もうっ!
アタシだって、こんなMPVコールみたいなのは、慣れてない。
ネットゲームのレイド戦でMVP取って、歓声受けるのとかはワケが違う……なんか、無性に下向きたくなってくる。
でも、客観的に見てそれは駄目。
将帥たるもの……戦場において、決して俯いてはならないのだから!
ここは、ロズウェル……アンタに任せる!
「貴様ら……浮かれるのも解るが、勝って兜の緒を締めろって言葉を忘れてはならんぞ! まずは静粛に……何よりも、この私を褒め称えるには、少々気が早いというものだ……。なにせ、戦いはこれからなんだからな!」
ロズウェルモード。
独特の威圧感ある言葉に、熱狂そのものだったブリッジがたちまち静寂に包まれる。
「マイゼン中尉……貴様もご苦労だった。ソレイル108は、スターシスターズの天霧を送り込んだから、問題はないと思うが……。予備人員を送るので、速やかに機能回復に努めるようにしてくれ……。それに敵も今の一戦でいくらか戦訓を得たはずだ。こうなってくると、現場即興での対抗装備の現地生産も考えないといけないし、敵がどうやって索敵網をくぐり抜けてきたか……。この謎が解けぬ限りは、この星系で安全な場所など無いということなる。気を引き締めろ!」
さすが、ロズウェルだ。
一瞬で、熱狂気味だった皆を鎮めて、今後の課題もさらっとまとめてくれた。
確かに、解決すべき問題が増えてしまった……。
けど、エネルギー生命体に通常兵器……プラズマグレードのような面制圧電磁兵器が有効と実証出来たのは、確かに大きい。
なんせ、プラズマグレネードなんて、陸戦歩兵の標準装備だからな。
昔の陸戦で言うところの手榴弾の進化代替兵器と言った位置づけだから、それこそいくらでもある。
原理的には、プラズマ化した金属粒子を強力な電磁場と強固な外殻で閉じ込めておいて、それを一気に解放する事で、有効範囲内にあるものを丸ごとゴッソリ削り取るくらいの破壊力を生む……原理自体は瓶詰めの炭酸飲料をかち割るようなもの……などと例えられるような兵器だ。
割とお手軽で低コストな上に、プラズマ粒子を励起活性化させるのも投擲直前で良く、輸送中の事故や携帯時の誤爆なども原理上起き得ないとか、いいとこだらけ。
……カートリッジ式のプラズマ・キャノンの弾丸も似たようなもんだけど。
あれはあくまで指向性エネルギー兵器なので、どっちかと言うとレーザー兵器などに近い。
いずれにせよ……プラズマグレネードのような面制圧エネルギー兵器ならば、エネルギー生命体相手でも十分効く……もちろん、限度ってもんがあるだろうが……俄然、勝ちの目が見えてきたのも事実だった。
一応、こっちにも波動粒子兵器と言うエネルギー生命体の特攻兵器もあるんだが……。
あれは、はっきり言ってヤバ過ぎる。
制御に失敗すると、空間そのものが崩壊していくってどんだけなんだよ。
そもそも、相転移兵器? 知ってるぞ……それ。
確か20世紀の頃の古いアニメに出てきてて、空間を沸騰させるようなものとか表現してたな。
同じものかは知らんけど、どう考えても、オーバー・テクノロジー……今の我々が軽々しく扱っていいものじゃない。
実際、こっちには究極兵器と言われた重力兵器だって、あるにはあるんだが……。
アレ使うと、マイクロブラックホールの残り滓の異常重力場が発生して、おまけに付近に重力断層と呼ばれる局所的重力異常地帯やらも発生して、最悪……爆心地から半天文単位くらいが数十年単位で危険地帯となりうるような代物で、自国恒星系……特に内惑星領域で使うなんて狂気の沙汰だと言われている。
ならば、一体何処で使うのかと言うと……基本的に、使い物にならない兵器だと断言してもいい。
なんせ、アレって、惑星重力圏内での重力制御装置の暴走でマイクロブラックホールの発生事故が起きて、惑星一個が消し飛ぶって大事故がきっかけで生まれた兵器なんだ。
そして、その事故を再現することで、誕生した兵器。
それが重力爆弾の開発秘話と言える。
ちなみに、意外なことに、この兵器は今はなき銀河連合のシリウス連合が作り出した兵器だったりする……。
ハルカ・アマカゼは、まがりなりにも銀河連合関係者だった関係で、この話をよく知っていた。
シリウス連合は、怪我の功名みたいな形で完成した超兵器を大々的に喧伝することで、抑止兵器として使いたかったようで……そりゃあもう、がっつり情報公開してくれた。
確かに、攻め込んできて、形勢不利になったら重力爆弾で自爆する! ってのは、ある意味抑止力と言えるんだが……。
なんと言うか斜め上の発想……だよな。
もっとも、原理自体は割と簡単な兵器で、エスクロンもシリウスが公開していた情報を入手しただけで、あっさりリバース・エンジニアリングに成功しており……その上で「使えない兵器」と言う結論を出していた。
要するに、二十一世紀前半の頃の核兵器と一緒でなぁ……。
使ったら最後、使った方も死ぬ……だからこそ、使えない兵器。
帝国もエスクロン星系の攻防戦ですら、結局一度も使わなかったって時点で、ヤバさは良く解ってたって事。
実際、人類史上でこの重力兵器が使われたのは、三回だけ。
一回目は、三百年前の黒船襲来の際に、エーテルロードの大規模侵食を防ぐために、例の大佐殿の要請で使用されていて……。
二回目は、第二世界の軍勢との最終決戦。
向こうのヘマで重力爆弾を搭載した爆撃機が、爆縮一歩手前の状況で墜落しかけたとか……。
後日検証の結果、無制限開放が起きて、エーテル空間がまとめて消し飛ぶところだったらしい。
マジでシャレになってない。
三回目はロズウェルの自爆の際……なお、その結果、エーテルロードの一角が崩壊して、近辺は未だに封鎖区画になってる。
さすがに、いずれのケースも惑星一個を犠牲にして、星系規模の被害を出す初期型の重力爆弾ほどの無茶な代物ではなく、複数の小規模マイクロブラックホールを同時発生させることで、マイクロブラックホール同士で相殺し、重力崩壊の範囲を大幅に狭める収束型と呼ばれるタイプだったんで、影響は比較的少ないほうだったんだが……。
それでも、無制限解放で起爆するだけで、エーテル空間を丸ごと消し飛ばす程度の威力はあったってんだから、洒落にならん。
第二世界とすんなり和解できたのも、向こうのやらかしが酷すぎたのが、大きな理由だったし、その時マジで世界を救ったのが、あの永友提督と配下のスターシスターズ初霜の活躍と……。
第二世界のスターシスターズ雪風の自己犠牲……。
ハルカ・アマカゼはあの騒ぎでは、割と蚊帳の外だったんだか、えらいことになってたんだよなぁ……。
だから、そんなモンを熱心に小型化改良して帝国のエーテル空間ゲートに仕掛けてたとかハルカ・アマカゼもどっちも頭オカシイし、ロズウェルもそこは一緒……同罪だ。
特に、ロズウェル……そんなもんを左足に仕込んで自爆用に持ち歩くとか、狂気の沙汰だ。
確かに、ロズウェルは指揮官としては立派なヤツだったが、そこだけはいただけない。
いいから、反省しろ! 反省っ!
んっと、大佐殿は……。
あの人は、存在自体がヤバいんだから、もう仕方ない。
『大佐だから仕方ない!』
あの当時、再現体提督の間で流行ってた合言葉だった。
もっとも、その辺りの事情を考えると、コスパ抜群なプラズマグレネードが効くってのは、実にいい情報だよな。
アスカ様情報も、反物質レーザー当てたら蒸発したから殺せるぞとか、そんな調子であんまり参考にならなかったんだが。
収束プラズマグレネードで吹っ飛んだって事実はマジでデカい。
さすがに、今やすっかり過去の兵器となっているんだが、かつては、プラズマグレネードの大型ミサイル版……プラズマ亜光速魚雷なんて兵器もあったくらいで、プラズマ兵器ってのは割と枯れた技術であり、コスパも悪くない。
ちなみに、プラズマ・キャノンもプラズマ亜光速魚雷も、過去にエスクロン宇宙軍が身内で戦争シミュレーションを繰り返すうちに、宇宙戦闘で使うには、威力はそこそこあって、防御しにくいと言う利点は確かに認められてたんだが……今となっては、宇宙戦闘用ではオワコン化してる……。
なんせ、全てにおいて中途半端……コレがプラズマキャノンの実戦での評価。
なお、今のトレンドは、一周回って実体兵器こそ最強って感じになってるんだよなぁ。
プラズマ・キャノンは確かに同口径のレーザーと比較すると一発一発の威力はあるんだが……。
射程も短く、弾速も半端、何よりも連射性能がレーザー兵器に大きく劣り、プラズマ魚雷にしても、亜光速機動爆雷の登場で300年前の時点で、すでに使われることもなくなっていたんだが……。
プラズマ・キャノンについては、大気中では、レーザーよりも減衰距離が長い上に、回避不能な程には弾速も早いと言う利点から、エーテル空間戦闘でスターシスターズ艦に応用したら、思った以上に凶悪な兵器となって猛威を奮って、現代まで存続されたと言う経緯があるから、あの辺の設計データを流用すれば、復活は容易だ。
それに、宇宙空間で亜光速を出す際に、微細デブリを焼き払う為に展開するプラズマフィールドは、亜光速宇宙船なら標準装備だからなぁ……。
そうなると、小型艦でプラズマフィールド出力最大にして、ドーンと体当たり……ってのも効きそうだな。
正直、ラース汚染のリスクを考えると、有人艦にはやらせたくないんだが……。
真正面から立ちはだかれたら、それも手だろう。
よし! 決まりだ!
この際だから、対ラース文明兵器として、プラズマ兵器の復権で行こうっ!
早速、前線及び後方に情報共有……永友提督にも工廠艦でプラズマ面制圧兵器を思いっきり増産して、山盛り前線に送るように連絡しておこう。




