第七十話「襲来! イフリート!」⑦
さすが天霧、やるねぇ……以心伝心。
自らをスタンドアロンの電子存在化出来るようになったってのも大したもんだが、仕事の早さも相変わらず……実に頼もしい。
続いて、艦内の弾薬移送システムを使って、弾薬庫からありったけのプラズマグレネードの移送を開始。
索敵専門と言っても、艦載機の着艦デッキの上でのホットアイドル弾薬補給くらいは想定しているので、甲板デッキの下には縦横無尽に、補給物資や燃料搬送用のチューブが張り巡らされている。
ぶっちゃけ、艦載機をごっそり戦闘機とかに変えても、普通に運用できるようになってるんだよなぁ……。
現場でも、新品のプラズマグレネードが床からケースごと次々と湧いてくるのを兵士たちが呆然と見ていたようだったが、慌てたようにケースに取り付き、そそくさと手際良く束ねて収束プラズマグレネードに改造していく。
精霊アタックを食らったのが、今もそこにデーンと鎮座してる重戦艦……アルデバランあたりだったら、容赦なく自爆させるんだがなぁ……。
こいつ、あんまりにも人気なさすぎて、誰も乗りたがらなくて、現状限りなく無人艦状態。
結局、ハッタリの効く砲台として、ゲート前に鎮座させてるような有り様だったりする。
永友提督が頑張って、第一陣に間に合わせてくれたようなんだが……今のところ、文鎮状態の砲台程度の扱い。
すまない……本当にスマン。
反面、今の状況では、この索敵空母の存在はかなり重要だった。
アスカ陛下も索敵専門の宇宙空母という名目で、いささか旧態依然ながらも索敵空母という艦種をしっかり残していたし、後方の艦隊でも絶対使えるという事で、最優先で最前線に送り込んでくれたんだが……。
やっぱ、宇宙空母ってのはロマン! アスカ陛下も解ってらっしゃる。
「さて、戦場デリバリー完了だ。お膳立てはしてやったが、こっから先はお前達に全て任せる! もう泣き言は聞かんからな! GOGOGO!!」
「……ええ、ここまでしていただいたからには、我ら一同……この命に替えても任務完遂いたしますよ! 野郎ども、準備はいいかっ! とりあえず、あの巨大キャンドルファイヤーにありたっけ収束プラズマグレネードを叩き込んで吹っ飛ばす! ただし、ECM対策としてタイマーは機械式を使うぞっ!」
さすが、解ってる!
ラースシンドローム対策の現場では、電子機器の故障率がやたら高いって事で、電子機器を一切使わないアナログ兵器も多用されていたんだよな。
機械式タイマー、要するに……ゼンマイ式タイマーだ。
機械式腕時計が生き残ってるくらいなんだから、それくらいは今の時代でも用意できる。
と言うか、陸戦兵支給品のひとつとして、機械式腕時計があるんで、実は誰でも持ってるお手軽時限装置だったりする。
おまけにプラズマグレネードはモノがモノだけに、対電磁シールドも完璧だ。
これなら、確実に狙ったところで起爆する……実戦で磨かれた安定の信頼性って奴だな。
「まったく、教え子どもが優秀だと、出す命令が少なくていいな。いいか? くれぐれも引き際を間違えるなよ……自分達で作ったプラズマの奔流に巻き込まれて、こんがりローストされるとか、間抜けな死に様を晒すんじゃないぞ!」
「ははっ! 善処します! お前ら……ロズウェル総隊長がご覧になられているぞ! いいか、俺らは総隊長が死ねと命じない限り、勝手に死ぬことは許されない! 下手こきやがったら承知しねぇぞ! 総員……突貫ッ!」
「「「「「Sir!! Yes.Ser!!」」」」」
まったく、気分がいいねぇ……。
厳密には、そこは「Yes.Mam!!」なんだが……まぁ、いいや。
一定間隔を置いて、一斉に突撃を開始するマイゼン達。
第一陣として、素早く5人ほどの兵が抜け出して、スプレー缶と同じ原理のエアスラスターを駆使して、空中に浮かび上がると三次元機動で一気に間合いを詰める。
初撃……手投げの単発プラズマグレネードが次々と炎の精霊に直撃、起爆する!
お、効いてるな……当たったとこがごっそりと、削れてるじゃないか!
時折、炎が兵の身体を掠めていくが、炎上することもなく、ワイヤーケーブル機動であっという間に回避する。
……よし! 戦えてる! アレ、真っ当な人間なら一発で加速Gでブラックアウトを起こすほどの超加速なんだが……。
帝国宇宙軍の最高精鋭とも言える元特殊陸戦隊のマイゼンに散々っぱら鍛えられていたようで、容易に超加速機動をこなしている。
コイツら、なかなかやるじゃないか……!
「……ロズウェル中将! 効いてる! 効いてますよ! 今の単発グレネードだけで推定体積の3%を削りましたよ! 皆さん、勝てますよ! がんばってーっ!」
このメガネオペ子ちゃん、上級オペ子さん共々流れでサポートに入ってくれてるんだが、割と騒々しいな。
なお、名前はよく覚えてない……ごめん、人の名前と顔、覚えるの苦手なんだわ。
でも、他でも似たような感じであちこちで、戦況を見ながらワイワイキャッキャやったり、抱き合って声援を上げてたりする……ったく、女子ってのはこれだから……。
と言うか、この子たち割とエリートだったんじゃないのかね?
なんか、女子校みたいな雰囲気になってるんだが、それでいいのか?
でも、思った以上に効いてるようだ……もっとも、楽観は禁物ッ!
「さすが、信頼と実績のプラグレだな……精霊様にもガッツリ効くとはねぇ。だが、この程度じゃやはり、牽制にしかなってないな。天霧……仕上げは任せたぞ!」
続いて、後方に待機していた対電磁シールドを持った陸戦歩兵が一斉に目一杯接近して、揃ったタイミングでバカでかい収束プラズマグレネードを次々と投擲……もといブン投げて、速やかに足元に開いたハッチから艦内へと退避する。
敢えて至近距離で動き回って、牽制していた兵たちも同様に甲板上に着地すると速やかに退避。
どうやら、天霧も兵士達に退避方法を通達してくれたようだった……さすがに、私も兵を使い捨てにするほど鬼じゃない。
帰りの切符の手配だって、万全……それでなくちゃな!
炎の精霊も違和感を感じたのか、収束プラズマグレネードに炎を浴びせてるんだが……プラズマグレネードは、その時が来るまで、絶対に割れない仕組みになっているし、その特殊防磁セラミック合金製の外殻は一万度の高熱にすら耐えられるようになっている。
やがて、次元装置付きの収束プラズマグレネードがいい感じの間隔で炎の精霊の内部まで届いた段階で、艦載型の高出力EMCをピンポイント照射……付近に待機させていた複数の索敵機からもECMジャマーを一斉に放出させて一帯を濃密な電磁場の嵐に包み込む!
同時に、揺らめいていた炎がまるで、動画の一時停止でもしたみたいにピタッと動かなくなる。
そして、その隙に人力で投げられたまま、待機状態で漂っていたプラズマグレネードが一斉に起爆!
都合250発分ものプラズマグレネードのプラズマの暴風が吹き荒れ、ソレイル108の艦外監視モニターも一瞬で砂嵐になるんだが……。
即座に遠くに配置されていた偵察機からの現場映像がズームされて表示される。
「……炎の精霊の消滅を確認! すごい、ついにやりましたねっ!」
一瞬の沈黙のあと、オペレーターから報告。
司令室でもあちこちから歓声が上がる。
周辺及び、ソレイル108の各種観測機器からのデータを照合。
近隣で監視中だった無人護衛艦の操艦AIからも、炎の精霊の完全消滅を確認したとの追認報告が来る。
ただし、ソレイル108の艦体は、プラズマの余波で、甲板装甲が虫食いみたいな穴だらけになった上に派手に帯電しており、電子系統にも大ダメージ……。
もっとも、すぐさま予備系統に自動で切り代わり、ダメージ・コントロールが起動する。
天霧からも艦のダメージ許容範囲……機能復旧中との報告が来てる……さすが、ダメコン名人だけに、上手くやってくれたようだった。
ひとまず、応急修理程度とはなるが、半日くらいで機能の8割は復旧の見込みとのこと。
それくらいのダメージなら、許容範囲内だろう。
そして、ついでのように「ラースエネルギー体の消滅を確認。リアクター経路の汚染の形跡もなし」とコメントがある。
最前線にいる天霧の分析結果で消滅判定って事なら、まず外していないだろうから、一安心ってとこだ。
「マイゼン中尉! 生きてるか? よくやった! 我が方完全勝利だぞ!」
マイゼン達もバイタルは無事を示してるんだが、さっきから沈黙中。
多分、弾薬移送チューブの中で、明かりの一つもない中、大人しくしてる……そう言うことなんだろう。
「お、おお、仕留めましたかっ! 部下共々、片道切符覚悟の特攻だったんですが、ちゃんと帰りの切符も手配してくれたなんて、感謝感激って奴ですよ! さすが、部下思いの鬼教官殿! でも、こりゃ流石に窮屈ですなぁ……おまけに真っ暗で明かりの一つもありゃしない……」
「はっ! 言っただろ……私は部下を無駄使いしない主義なんだ。貴様くらい優秀なヤツ……徹底的に使い倒すつもりだから、簡単に死ねると思うなよ! まぁ……お前らがいるのは、弾薬移送用のチューブラインだからなぁ……。住心地が悪いのも致し方なしだ。ラース除染もしなきゃならんから、ひとまずそこで大人しくしてろ。だが、改めて……よくやってくれた!」
「了解……お褒めいただき光栄です。しっかし、思った以上に厄介な相手でした……。ですが、今の戦闘データが役に立ちますかねぇ……こっちはわぁッと突撃、グレネード投げ込んで、さっさと甲板に空いた穴に飛び込んで逃げ帰っただけだったんですが……」
「ははっ! プラズマグレネードやECMジャマーが効くって解ったのなら、御の字だろう……。おまけにAEDS装備の実戦テストも出来た。この勝利の価値はデカいぞ! すまんが、現在……ソレイル108の乗員は全員緊急ラース・シンドローム処置を行っているので、しばらく戻せん。お前達もそこから出次第、当面ブリッジを任せる……安心しろ。すでにスターシスターズの天霧が乗り込んでるから、操艦や索敵機の指揮管制やらダメコンは丸投げでいいぞ」
天霧からも、すでに観測体制の再構築完了の報告が入り、支援AIについても次々とソレイル108へデータ転送で展開されており、着々と無人運用体制が組み上げられていっていた。
何せ……この分だと、索敵空母は敵の最優先目標となっている可能性が高いからな。
ちなみに、天霧も無人状態を良いことに艦を完全に統制下において、艦艇識別タグの名称もすでに「天霧」になってる。
おいおい、勝手に船を乗っ取るなよ。
まぁ、虎の子の索敵空母だし、ヘタな人間の指揮官に任せるよりも余程安心だからな。
もっとも、盛大に光学観測ポッドをばら撒いてあっちこっちに飛ばしてるのは、向こうも見てただろうし、あちこちに観測用の高出力電波を照射してたはずなので、奴らも目障りだったんだろう……。
出来れば、もう少し後方に下げたいところだったが、索敵空母の高精度光学観測機器は最前線にこそ欲しいし、そもそもここは本来、最後方のはずだったんだがな……。
まぁ、とりあえず、天霧と要所要所でマイゼン達に頑張ってもらって、第三索敵艦隊にも増援入れてガンガン索敵情報を充実させるとしよう。
「……否応ありませんよ。まったく、一息つく暇もくれないとは、相変わらず人使いが荒いですなぁ……。まぁ、今に始まったこっちゃないですがね」
「前にも言っただろ? お前たちが楽が出来るのは、戦場でくたばってからだってな……。なぁ、天霧?」
『そうですね……。私なんて300年間お休み無しですからね。究極レベルのブラックじゃないですか? これって……』
天霧がそんな風に答えると、マイゼンとゲーニッツに腹を抱えて爆笑される。
まぁ、確かに……すまん、天霧。
ちなみに、司令部の他部署の面々も固唾をのんでこの状況を見守ってようなんだが、我が方勝利の知らせに一斉に沸き立っていた。
「……なんだか、皆すっごい盛り上がってるけど、そんな騒ぐようなことなのかね?」
なにせ、いつの間にか艦内の全員がモニターに釘付けになってたみたいで、未だに司令室内は喧騒みたいになってるし、あちこちの部署からも勝利を祝うメッセージが届いていた。
なんかもう、我軍完全勝利! って感じで、今にもMVPの胴上げでも始まりそうな勢いだった。




