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8話。考える侯爵

文章修正の可能性あり


レビューじゃ! レ・ビューがきたぞぉ! 

神城のレベリングに同行したマルレーンが、屋敷に帰宅したあとでルイーザに対してその際の神城の言動を報告した後のことである。


当の神城が自分に与えられたチート具合に、内心でかなり驚愕しながらも必死でなんでもない顔をしてその場を誤魔化し、帰宅後に自室に直行して共にダンジョンに赴いたエレンと共に寝具の使い心地を試しつつ感想戦を交えた夜戦を行なっていた頃。


報告を纏めたルイーザから、ダンジョン内での神城の様子を聞かされていたラインハルトは、神城が無事に帰還したことにホッと胸をなで下ろした後、ルイーザと共に報告の内容についての考察を行なっていた。


「では、神城は元からそれなりの戦闘をこなすことができた。ということだな?」


神城と相対した際、彼から武の匂いを感じたことがなかったラインハルトにしてみたら、これは予想外の報告であった。しかし実際にダンジョンに潜った際にモンスター相手に戦闘ができているのだから、その報告に疑う余地はない。


それに、フェイル=アスト王国に限ったことではないが、親しい相手であっても己の奥の手を隠すのは戦士の常識だし、神城は寄子であると同時に客人である。よってラインハルトも、現時点で神城が侯爵である自分に対して隠し事をすることを無礼とは思っていなかった。


むしろその隠していた能力に興味があった。と言っても良いだろう。


『そのようですね。少なくともゴブリンやコボルトに苦戦せず、5階のオークも単独で撃破。それも全て一撃で爆発? させるくらいには余裕があったそうです』


ラインハルトの気持ちを知ってか知らでか、ルイーザは淡々と報告をあげる。彼女にすれば『戦闘なんかどうでもいいから、より良い素材を見つけてより良い秘薬を作れ』と言ったところなのだろう。


そんなルイーザの内心を慮りながらも、ラインハルトは自身に上げられた報告から神城の能力を推察していく。


「ふむ。爆発、か。彼の職業が【薬師】であることを考えれば、火薬かそれに準じたなんらかの薬と、火の魔法を併用したと見るのが妥当か?」


『なるほど。その可能性はありますね』


別に剣士の職業でなくとも剣が使えるように、魔法師の職業に無くとも魔法を使用することは可能である。しかしながら、魔法だけで相手を爆発させるとなるとそれなりの魔力と技量が必要となるものだ。


……一応、上位の戦闘職のスキルの中には、相手の体内に魔力を打ち込んで内部から敵を爆発させるという、どこぞの暗殺拳のようなスキルもあるが、神城から武人としての匂いを感じ取ることができなかったという事実を踏まえれば、それは選択肢から外しても良い。


更に言えば、神城の職業は【薬師】だ。これらの前提から神城の戦闘方法は『魔法と薬の併用』と考えるのが妥当なところであろう。


そうあたりを付けたところで、次の疑問が頭に浮かぶ。それは神城のレベルだ。


「しかし、彼は個人レベルも職業レベルも1のはずだが……いや、職業レベルに関しては違うか」


『えぇ。ここ最近準男爵殿は常時各種秘薬の製造を行なっておりますので、職業レベルはそれなりに上がっているものと思われます』


「……だろうな」


ラインハルトは通信機越しに聞こえてきた『もっとだ。もっと作れ』と言うルイーザの心の声が聞こえた気になってしまい、なんとも言えない顔になる。


そもそも彼女から上げられる報告によれば、神城という男は何か用事がない限りは普段からずっと研究室として使っている部屋に入り浸って、黙々と秘薬を製造しているとのことであったはずだ。


その報告を思い出したラインハルトは「それで職業レベルが上がらないはずが無いだろう」と思いつつも「これではとても『客人扱いしている』とは言えんな」と自嘲の笑みを浮かべるしかなかった。


まぁそもそもの話であるが、神城が研究室に篭って延々と研究を続けているのは、ラインハルトからの要望がどうこうというよりも『することがない』ということに加え『自身のスキルを検証し新たな薬を開発することでこの国での自分の立場を安定させる』という、生存戦略的な打算の上に成り立った行動であるので、ラインハルトが気にする必要はあまりない。


しかしそんな神城の内心を知らないラインハルトからすれば、以前神城に対して『納める量は無理をしない程度の量で構わん』と言っておきながら『できたらこれくらい欲しい』といった感じの要望を出しているという負い目がある。


更に一般常識として言えば、新興の準男爵にとって侯爵家からの『要望』は『命令』に他ならない。


だからこそラインハルトの視点から見れば、神城は自分たちから『お願い』されたからこそ必死で薬を作り続け、結果として神城の職業レベルが上がることになった。としか思えなかったのだ。


その因果関係を思うと、元々客人として神城を迎え入れたはずのラインハルトとしては、少しばかり後ろめたい気分になるのも仕方のないことであろう。


実際、これまで神城が作り、納めてくれた薬の量は、一人の【薬師】が生産するには過分にすぎるのも確かだ。神城がこちらに義理立てしてくれる心遣いは嬉しいが、あくまで彼は侯爵家の『客人』なのだ。


これ以上の酷使はお互いに良くないと考えているラインハルトは、神城に対し「もう少しゆっくりしていいんだぞ?」と言ってやりたいところであった。


……それを言えば女性陣 (特に姉)によって「余計なことを抜かすな」と物理的に吊るし上げられることが確定しているので面と向かっては言えないが、少なくとも今後神城が製造し納品してくる薬の量が減ったとしても、ラインハルトには彼を叱るような真似をするつもりはないのは確かなことである。


そんなラインハルトからの神城への気遣いはともかくとして。現状の問題は神城の戦闘力について、だ。もっと言えば『なぜ隠していたはずの実力を今、このタイミングで見せたのか?』ということである。


「そもそも彼が護衛を欲した理由は『自衛のため』であったはずだな?」


そしてそれを聞いて侯爵家に護衛の派遣を求めたのは他ならぬルイーザである。


『はい。私もそう聞いておりましたが、『自衛』という言葉だけを聞いてその詳細を聞いていなかったのは間違いなく私の失態と言えましょう……それで、マルレーンが準男爵殿の言葉の意図を確認したところ『常識を知らぬ身ではどのような諍いを起こすかわからない。故にそれを学びたい』とのことだったそうです。これだけ聞けば確かにそれも『自衛』と言えますね」


「ふむ。()()()()その通りだな」


『……えぇ。()()()()そうです』


確かに神城が言うように無用な諍いを避けるのも立派な『自衛行為』と言える。


と言うか、貴族としてはそれこそが正しい『自衛行為』だ。実際マルレーンはそれに納得したし、ラインハルトとて何も知らなければ神城の言に頷いていたかもしれない。


しかし、だ。ラインハルトやルイーザは、神城が異世界から召喚された人間であることを知っている。


ならば彼の言葉はその場に居たマルレーン(詳細を知らない護衛)を納得させるための言い訳ではなく、その報告を受ける自分たちに対しても何か別の意図が込められていると見るべきだろう。


そこまで考えたところで、ラインハルトは神城がこのタイミングで自身の戦闘技能を明かしてきた理由の一つに当たりを付けることができた。


「……戦える力はあるが、戦場に出る気はない。さらに我らや王家の命であっても無条件に従う気はない。そういうことか?」


ラインハルトがこのような考えに行き着いたのは、【勇者】が召喚されてから一ヶ月以上が経過している現在、王城では彼らに対する扱いを『教育』から『派遣』に舵を切ろうとしているという事実があるからだ。


これまで王城にて訓練と教育を受けてきたものの、未だ自身で身を立てることを知らない子供たちは、自分たちが()()()()()()()()()()()()()は王家の命令に従わざるを得ないということを自覚しているだろう。


翻って神城大輔という男の現状はどうか。


まず彼は公的には王国に所属する貴族であり、外交官としての立場を有する身である。


これだけなら彼とて王家の命令に従う必要があるのだろうが、彼は王家と侯爵が認めた『客人』でもあるのだ。そのため、強制的に何かを命令をするにしても、それなりの理由が必要になるのは想像に難くない。


あとは【勇者】たちのように『貸し』によって行動を縛ることくらいになるのだが、現在神城と王家の間に貸し借りは、無い。


否、どちらかといえば、召喚という誘拐行為を働いた王家の方が神城に借りを作っていると言っても良いだろう。


また侯爵家として考えた場合はどうか、現在の侯爵家が神城に対して貸しているモノとしては、護衛としてマルレーンらを派遣していることくらい(神城は屋敷を貰ったことや賃金に対して借りだと思っているが)である。 


しかし、それすらも神城が自身で戦えるとなれば、戦闘の面で神城が侯爵家に依存することはなくなってしまう。常識の教授? 流石にそれを貸しだと言い張るほど侯爵家は落ちぶれていない。


つまり『神城のために護衛を派遣している』という貸しが、軽くなってしまったということだ。


また神城が借りだと思っている経済的な支援に関しても問題だ。


当初は侯爵家と王家から通常よりも多めの賃金を支給される予定であったので、これを貸しと言えなくもないのだが、元々これは賠償と口止め料を含むものだし、置き薬システムが軌道に乗ればそれどころではない利益が見込まれているので、一概に貸しとも言えないところがある。


さらに現在の神城は、自身で薬を製造し、それを侯爵家の女性陣が購入するという形の契約が出来上がっているので、そちらの面でも依存は無い。


ならば現状では王国としても侯爵家としても、神城に対して戦闘への参加を無理強いする理由が無いということになってしまう。


この事実をこちらに教える為に、敢えてこれまで秘匿していた自身の戦闘技能を晒した(明かした)のではないか? それがラインハルトの考察であった。


『まずはそれもあるでしょう』


神城という人間を知るルイーザとて、元々戦に駆り出されるために召喚されたことを知っている神城が、それを厭うのも無理はないと思うし、彼が普段から他者と無用な諍いを作らぬようにして、自身が戦場に送られるような口実を与えないように、と『自衛』を考えて動くのは理解できることであった。


誰だって自分に利益のない手伝い戦などしたくはないのだから。


「とりあえず、神城の要求に応える形で『戦場には出さぬ』と告知するべきか?」


『えぇ。それがよろしいかと。決まりきっていることではありますが、今の時点で準男爵殿はそのことを知りませんからね、今なら『坊ちゃんのおかげで戦場にでなくて良くなった』と、それなりに恩を感じてくださるかもしれません』


「そうか、そうかもな」


実際に神城は与り知らぬことだが、現時点で神城を他の【勇者】一行と共に戦場に出そうとする者はこの国には存在しない。


それは元々神城の存在が秘匿されていることもあるのだが、一番大きな理由は、


『もしもどこぞの貴族の方となんらかの軋轢が生まれてしまい、その貴族の方が準男爵殿を戦場に送り出そうとしても……』


「……姉上が止めるからなぁ」


『はい』


そういうことだ。


ラインハルトとしてもそんなことになりそうなら間違いなく止めるだろうが、ラインハルト以上に神城という男に価値を見出しているアンネが、生産性の欠片もない戦場に生産職である神城を出すような真似を認めるはずが無いのだ。


軍政を司る軍務大臣であるラインハルトと、現場に対する多大な影響力を持つアンネがそれを認めない以上、神城が戦場に出ることは無い、と断言できる。


一応、そう、一応可能性としてあるとすれば、そのアンネ自身が戦場に赴くことになった際『戦場にいる間に自分用の秘薬がなくなったら困る!』と言って暴走するパターンなのだが、そもそも戦場で化粧などに気を使うような姉ではないし、万が一そんなことを言い出したらフリーデリンデやヒルダが止めるだろうから、そこに関しては問題ない。


で、あれば、今自分が優先してすべきことは何か?


ラインハルトがそう自問すれば、彼の明晰な頭脳は即座に『神城が言い出す前にこちらから動くことだ』という答えを返す。


「わかった。明日にでも神城に連絡を入れるとしよう。あぁ、言うまでも無いと思うが」


『はい。私からは何も伝えず、坊ちゃんからの連絡を取り次ぐことにいたします』


「うむ。それで良い」


サプライズは事前に伝えては意味がない。所詮は神城に対して恩を着せるための小細工でしかないが、この程度で効果が有るなら、いくらでもやってやる。


通信を切った時のラインハルトの表情は、紛れもなく国家の重鎮にふさわしい貌であった。



勘違いとも言い切れない!(マツイ=サン?!)

いや、買いかぶりからの勘違いなんですけどね。


戦闘能力を隠すならまだしも、あえて晒す理由がわからず困惑している侯爵と侍女長の図ってお話。


―――


タグに不定期更新と打っておきながら、月水金と更新を予告する作者がいるらしい……。

どこのどいつかわからねぇが、とにかく太てぇ野郎だ! (迫真)


作者のモチベの維持の為に、本文の下にある★評価をよろしくお願いしやす!



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